身内が盗撮!逮捕後の流れ・家族の不利益・対処法を弁護士が解説
近年、盗撮事件の発生件数が増えており、社会的にも大きな問題となっています。
なかには、身内の盗撮が発覚して、今後どのような処分を受けるのか、どう対応するのがよいのか、不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、盗撮のデメリットや身内の方が被るおそれのある不利益、身内の盗撮に対する対処法について、弁護士が解説していきます。
盗撮は犯罪
盗撮をすると、犯罪として処罰される可能性があります。
盗撮については、撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)と各都道府県が定めている条例(迷惑防止条例)に該当するかを検討する必要があります。
どのような行為が処罰される?
撮影罪について
撮影罪が成立するための構成要件(犯罪が成立するための条件)は、大きく分けると以下のとおりです。
引用元:性的姿態等撮影処罰法2条1項1号から4号|e-GOV法令検索
- ① 人の性的姿態を
- ② 禁止された方法により撮影すること
- ③ 撮影行為を行う「正当な理由」がないこと
①性的姿態とは?
性的姿態とは、具体的には次のものをいいます。
- 性的な部位、すなわち、性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部
- 人が身に着けている下着のうち現に性的な部位を覆っている部分
- わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
②禁止された方法により撮影すること
具体的には次の方法です。
- 正当な理由がないのに、ひそかに撮影する行為
典型的なものとしては、スカートの中にスマートフォンを差し向けたり、隠しカメラを使って撮影したりなど、撮影の対象者に気づかれないようひそかに撮影する盗撮行為が挙げられます。 - 同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせ、又はその状態にあることを利用して撮影する行為
- 誤信をさせ、又は誤信をしていることを利用して撮影する行為
- 正当な理由がないのに、16歳未満の者を撮影する行為(13歳以上16歳未満の場合、行為者が5歳以上年長の者であるとき。)
③撮影行為を行う「正当な理由」がないこと
ひそかに撮影する行為と16歳未満の者に対する撮影行為は、正当な理由がないことが要件となります。
【ひそかに撮影する行為の「正当な理由」の例】
・医師が、救急搬送された意識不明の患者をルールに従って撮影する
【16歳未満の者に対する撮影行為の「正当な理由」の例】
- 親が子どもの成長の記録として水遊びをしている子どもの姿を撮影する
- 地域の行事として開催される子ども相撲の大会において撮影する場合
撮影罪について詳しい解説はこちらをご覧ください。
迷惑防止条例違反について
迷惑防止条例の内容は各都道府県によって微妙に異なります。
したがって、実際にある行為が盗撮に当たるかは、犯行地の条例を確認しなければ判断できませんが、全国的に見ても標準的な考え方を要約しますので、参考にしていただければと思います。
場所 | 対象 | 行為 |
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撮影罪に該当する場合
撮影罪については、法定刑が「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」となっています。
迷惑防止条例違反の場合
盗撮の刑罰は、各自治体ごとに異なります。
例えば、東京都の例では、「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」(ただし、常習性がある場合は「二年以下の懲役又は百万円以下の罰金」)と定められています。
盗撮のデメリット
盗撮は犯罪ですので、さまざまなデメリットが伴います。
盗撮のデメリットには、逮捕や刑罰といった刑事上のものだけでなく、社会生活上のデメリットもあります。
刑事手続上のデメリット
盗撮は条例によって刑罰が法定されている犯罪であり、刑事事件として処理されることになります。
刑事手続きが進行するに伴い、以下のようなデメリットが発生してきます。
- 逮捕・勾留される可能性
- 起訴される可能性
逮捕・勾留される可能性
盗撮が発覚した場合、逮捕される可能性があります。
犯行の瞬間に逮捕される現行犯逮捕のほか、後日逮捕状により通常逮捕されることもあります。
逮捕されると、最大で72時間にわたり身柄が拘束されることになります。
また、逮捕につづいて勾留という手続きがとられると10日間の拘束、勾留が延長されると、さらに最大で10日間の拘束がつづきます。
すべての刑事事件で逮捕・勾留されるわけではなく、身柄を拘束されない「在宅事件」として捜査が進むケースもあります。
逮捕・勾留により10日や20日といった期間にわたり身体拘束がつづくことは、生活に与える影響も看過できず、大きなデメリットといえます。
盗撮により逮捕されるケースについて、くわしい解説はこちらをご覧ください。
起訴される可能性
起訴とは、刑事事件の容疑者として刑事裁判にかけられることをいいます。
不起訴処分といって、刑事裁判にならずに事件が終結することもありますが、盗撮が犯罪である以上、起訴、すなわち刑事裁判にかけられるおそれがあることは否定できません。
起訴されると、統計上は99.9パーセントの確率で有罪判決を受けることになります。
さらに、有罪判決を受けること以外にも、起訴されること固有のデメリットとして、勾留されている状態で起訴された場合、保釈されない限り、判決が出るまで勾留されつづける点が挙げられます。
起訴前の勾留が延長を含めても最長でも20日間であったのに対し、起訴後の勾留にそのような制限はなく、判決が出るまで、短くても2か月程度は勾留がつづくことになるのです。
有罪判決を受ける可能性
起訴された場合、無罪判決を得るのは非常に難しく、有罪判決を覚悟しなければなりません。
盗撮はそこまで重い刑罰が定められているわけではありませんが、それでも、上限で100万円の罰金や2年の懲役といった判決が出るおそれがあります。
また、執行猶予付きの判決が出た場合は、直ちに服役することは避けられるものの、前科がつくことには変わりありません。
社会生活上のデメリット
盗撮のデメリットは以上のような刑事手続き上のものにとどまらず、事実上の不利益として、さまざまな社会生活上の不利益を被る可能性があります。
- 会社を解雇される可能性(会社員の場合)
- 退学処分の可能性(学生の場合)
- 損害賠償の支払い
会社を解雇される可能性(会社員の場合)
会社勤めの方が盗撮をした場合、盗撮の発覚により、会社を解雇されるおそれというデメリットがあります。
業務外での非行については、これを理由とする懲戒処分はできないのが原則とされていますが、例外もあります。
たとえ業務外の非行であっても、会社の名誉や信用の失墜につながるような非行については、会社にとっても不利益なものであり、もはや会社と無関係とはいえませんので、懲戒事由となり得ます。
特に、社内で盗撮を行ったような場合には、職場の秩序を維持する観点からも厳しい処分を下す必要があり、解雇の可能性がより高まるといえます。
退学処分の可能性(学生の場合)
一方、盗撮をしたのが学生である場合は、停学や退学のような処分を学校から受けるおそれがあります。
多くの学校は、学生に対する懲戒事由として、学則で「性行不良」や「学生の本分に反した」などを定めています。
盗撮は犯罪ですので、基本的になんらかの懲戒事由に該当することは避けられないでしょう。
仮に退学処分であれば、最終学歴も変わってきますので、就職活動などにも影響が波及してきます。
また、退学に至らないとしても、停学処分や逮捕・勾留などにより出席日数が不足し留年となる、といったデメリットが発生することもあります。
損害賠償の支払い
盗撮は法律に刑罰が定められている刑事事件であると同時に、被害者に対し精神的苦痛という損害を与えてもいるため、民事事件としての側面も有しています。
不当に他人の権利を侵害する行為を民法上「不法行為」といい、加害者はその損害を賠償しなければなりません。
賠償額は事案にもよるため一概にはいえませんが、刑事の方で罰金刑の判決を受ける可能性も考えると、罰金と合わせて100万円近い額になることもないとはいえません。
このように、盗撮は金銭面でも大きなデメリットをもたらすことになるのです。
家族が被る不利益とは
以上のように、盗撮には刑事手続き上だけでなく、それ以外の面でも多くのデメリットがありますが、これらに加えて、家族も不利益を被ることがあります。
家族が被り得る不利益としては、以下のようなものが考えられます。
①ニュース報道により世間体が悪くなる可能性
近年は盗撮事件が特に多く発生するようになり、盗撮により容疑者が逮捕されたとの報道を目にすることも稀ではなくなりました。
事件が報道されるか、報道されるとして実名報道となるかは、それぞれの報道機関の自主判断となるため、実際に事件が起きてみるまでわかりません。
しかし実名報道となると、ケースによっては、実名だけでなく勤務先や住所の町名・番地まで報道されることもあり、そうなると周囲の人に特定されてしまうことは必至です。
ましてや盗撮は、性的好奇心を満たすために女性をひそかに撮影するという卑劣かつ身勝手な犯罪であり、罪名の印象もきわめて悪いと言わざるを得ません。
親戚や友人など、周囲の人に犯行を知られてしまうと、厳しい目を向けられることになり、その後の関係にも悪影響を及ぼしかねない点で重大な不利益といえるでしょう。
②弁護士費用を支払う可能性がある
罰金や損害賠償が発生するおそれのあることはすでにご説明しましたが、それにとどまらず、弁護士費用の負担が発生する可能性もあります。
起訴前であれば示談をまとめ不起訴処分の獲得を目指し、起訴された場合は執行猶予などの寛大な判決を得るといった弁護活動を適切に遂行するためには、弁護士に事件の処理を依頼することが必須となってきます。
弁護士費用は法律事務所ごとに考え方が異なりますし、依頼の時期や内容、事件の難易度によっても変わってくるため一概にはいえませんが、刑事事件の依頼であれば、数十万円単位の費用が発生することもあります。
弁護士費用の相場について詳しくお知りになりたい方は、こちらをご覧ください。
身内が盗撮で逮捕された場合の流れ
身内が盗撮で逮捕された場合の手続には、2つの重要なポイントがあります。
それは逮捕されるかと、起訴されるかという点です。
逮捕は、容疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがあるときに取られる手続きです。
これに対して起訴は、刑事裁判で容疑者に刑罰を与えるべきと判断したときに行われる手続きです。
逮捕は捜査を進めていく上での判断であるのに対し、起訴は捜査が終結した段階での判断であり、逮捕と起訴の判断は必ずしも一対一で対応するものではありません。
逮捕されても起訴されるとは限りませんし、その逆に逮捕されずに在宅事件として捜査を進めた場合でも、在宅のまま起訴されることもあり得ます。
逮捕について
逮捕は容疑者の身柄を拘束する処分であり、その効力は最大で72時間です。
逮捕の効力は最大でも3日間ですが、その後に勾留が認められれば、引き続き10日間の身柄拘束となります。
勾留は延長されることもあり、延長は最長で10日間です。
つまり当初の勾留と延長をあわせると、20日間を上限として勾留がつづく可能性があることになります。
もっとも、逮捕は容疑者の身体を強制的に拘束して自由を奪う強力な手続きであるため、容疑者に逃亡や証拠隠滅などのおそれがある場合に限り認められます。
そのようなおそれがないと認められる場合は「任意捜査」といって、容疑者の身体を拘束せずに、取り調べの都度呼び出すことで捜査を進めなければなりません。
逮捕された後のさらに詳しい流れについては、こちらをご覧ください。
起訴について
容疑者に刑罰を科すために刑事裁判にかけることを、起訴といいます
容疑者を起訴すべきか否かは、捜査を終えた段階で検察官が判断します。
捜査が完了しても必ず起訴されるとは限らず、証拠不十分で起訴を断念せざるをえない場合や、被害者と示談が成立しているなどの理由で刑罰を科す必要性がないと判断された場合など、起訴されないこともあります。
不起訴処分といって、刑事裁判をすることなく事件を終了させるのです。
不起訴となった場合、事件はそこで終了します。
裁判を行っていないので刑罰を科されることは当然ありませんし、それ以外になにか不利益を受けるということもありません。
身内の盗撮への対処法
以上のように、盗撮事件の流れにおいては、初期段階では逮捕されるか在宅事件となるか、最終段階では起訴されるか不起訴となるかという、2つの大きな分岐点があります。
逮捕を回避して任意捜査に応じつつ、最終的に不起訴処分を獲得できればそれが最善といえます。
起訴された場合、事実無根であれば無罪判決の獲得を目指すことになりますが、統計的には起訴されると99.9パーセントの確率で有罪判決となりますので、実際には厳しい戦いを覚悟する必要があります。
現実的なのは、懲役刑よりも罰金刑、また仮に懲役となるとしても刑期を短くかつ執行猶予付きの判決というように、判決を軽くする方向での対応です。
事件の対応は弁護士が必要となってくる場面も多いですが、身内の方による対処法としては、次のようなものが考えられます。
自首を促す
逮捕を回避するためには、警察に自首して犯行を申告することが大きな意味を持ちます。
自らすすんで自首しておいて逃亡するとは考えがたいことから、逮捕せずに在宅での捜査で足りるという判断になりやすいのです。
もし身内の方が自首をためらっているようであれば、自首するように説得することをおすすめします。
その際、身内として一緒に出頭し、身元引受人となることを申し出るのも効果的と思われます。
身元引受人が存在し容疑者を監督するのであれば、逃亡のおそれがさらにいっそう低下すると考えられるからです。
身元引受人となる場合、実務上は身元引受人となって容疑者を監督する旨の誓約書を差し入れる形で申し入れるのが通例です。
一般の方が作成することはあまりない書面かと思いますので、書面の作成も含めて、弁護士に事件処理を依頼されるとよいでしょう。
被害者との示談交渉など、今後の事件対応を考えると、いずれ弁護士に依頼する段階がくると思われます。
できるだけ事件の初期段階から対応をまかせておくことで、弁護士の側でもさまざまな選択肢を視野に入れた余裕のある対応が可能となってきますので、早期のご相談をおすすめします。
被害者との示談交渉
逮捕及び起訴のいずれを回避する観点からも、被害者との間で示談を成立させることは重要です。
示談とは、被害者に対し謝罪を申し入れて許しを得る、一種の和解手続きです。
示談が成立しているということは、当事者間では紛争は解決しており、被害者から許しを得られている状態ということができます。
せっかく示談まで成立したにもかかわらず逃亡してそれを無駄にすることは考えられないため、逃亡のおそれなしとして逮捕を回避できる見通しが高まります。
また、刑罰を与える必要がないとして不起訴判断となることも期待できますし、仮に起訴されたとしても示談成立は判決に有利な影響を与えるのが通常です。
示談交渉は、法的には和解契約の締結に向けた契約交渉ということができ、以上のような有利な効果を得るためには、合意が成立した証として、法的に有効な示談書を適切に作成する必要があります。
身内を含め加害者側の人間と接触することを嫌う被害者も少なくないことなども考慮すると、身内の方による示談交渉は非常にハードルが高いといえ、弁護士に依頼すべきものといえます。
刑事事件の処理を得意とする弁護士に依頼することで、法的な面での処理は安心して任せておくことができますので、身内の方にはそれ以外のサポートに集中していただくことが可能となります。
なお、示談の際には、示談金として金銭を交付するのが一般的です。
示談金の相場について詳しくは、こちらをご覧ください。
情状証人として出廷する(起訴された場合)
起訴された場合、弁護活動は弁護士が行いますが、弁護側の立証活動の一環として、身内の方を「情状証人」として申請することがあります。
情状証人とは、判決を決めるに当たって被告人に有利となる事情を証言する証人のことです。
身内の方が情状証人となる場合、今後の監督を誓って被告人の更生に協力するといった内容を証言するのが通常です。
事案によっては、捜査段階の身元引受人のように書面の提出で済ませることもありますが、証人として実際に出廷していただくことで、監督者の存在を裁判官にアピールすることにもなります。
まとめ
この記事では、盗撮のデメリットや身内の方が被るおそれのある不利益、身内の盗撮に対する対処法について解説しました。
最後に記事の要点をまとめると、次のとおりです。
- 盗撮をすると、逮捕や刑罰のような刑事上の不利益のほか、解雇や退学などの社会的な不利益が生じることもある。
- 身内の方には、報道等による世間体の悪化や、弁護士費用等の経済的負担などを被るおそれがある。
- 身内が盗撮をしたときは、自首や示談交渉などに協力することが重要であり、刑事事件に精通している弁護士に依頼することが望ましい。
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なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか