撮影罪とは?弁護士がわかりやすく解説
撮影罪とは、他人のスカート内の下着や性的な部位などをひそかに盗撮したり、相手の意思に反して性的な部位などを撮影したりした場合に成立する罪です。
令和5(2023)年7月13日に「性的姿態撮影等処罰法(略称)」が施行され、撮影罪が新たに定められました。
従来の迷惑行為防止条例などにおいては、いわゆる盗撮行為が処罰の対象となっていました。
しかし、処罰に値する撮影行為は、典型的な盗撮行為に限られるわけではありません。
「盗撮罪」ではなく、あえて「撮影罪」という名前が使われていることからもわかるように、性的姿態撮影等処罰法においては、盗撮に限らずさまざまな撮影行為が処罰の対象とされています。
撮影罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金刑」となっており、未遂に終わった場合も処罰の対象となります(法第2条2項)。
このページでは、どのような行為が撮影罪の処罰の対象となるか、撮影罪で処罰される場合の刑の重さ・時効、撮影罪と盗撮罪(従来の迷惑行為防止条例違反)との違いなど弁護士がわかりやすく解説します。
目次
撮影罪とは?
撮影罪とは、他人のスカート内の下着や性的な部位などをひそかに盗撮したり、相手の意思に反して性的な部位などを撮影したりした場合に成立する罪のことを指します。
撮影罪の正式名称
撮影罪については、令和5年7月13日に新たに施行された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」通称「性的姿態撮影等処罰法」に定められています。
なぜ撮影罪が制定されたのか
これまで、盗撮行為については都道府県ごとの迷惑行為防止条例によって処罰の対象とされていました(以下、盗撮行為を行ったことによる迷惑行為防止条例違反のことを、本記事では分かりやすくするため「盗撮罪」と呼びます。)
ですが、近年はスマートフォンや小型カメラの普及に伴い、盗撮事件が増加傾向にあります。
また、飛行機内で客室乗務員を盗撮したという被疑者について、高速で移動する飛行機内での行為であったため、どの県の条例を適用すべきか特定ができず、結果として嫌疑不十分で不起訴処分とせざるを得ないなど、従来の法律や条例では処罰できない抜け穴となるケースも見られるようになりました。
さらには、被害者に発覚しないようにこっそり撮影を行う、典型的な「盗撮」行為だけでなく、被害者が抵抗できない状態にして性的な部位を撮影したり、撮影された画像や動画を拡散されたりしてしまうケースもしばしば発生しており、これらについても処罰できるようにする必要がありました。
性的姿態撮影等処罰法は、これらの事情をきっかけとして定められた法律です。
性的姿態撮影等処罰法が定められたことにより、都道府県ごとに処罰の内容に差があった盗撮行為をはじめ、違法な撮影行為や撮影データの保管行為・提供行為・送信行為などについて、全国で一律に処罰の対象となりました。
撮影罪はいつから施行されるの?
上記のように、性的姿態撮影等処罰法は、令和5年7月13日に施行されています。
ですので、同日以降に行われた盗撮行為については、性的姿態撮影等処罰法に基づき、撮影罪として処罰される可能性があります。
他方で、同日より前に行われた盗撮行為については、行為時点で存在していた法律及び条例が適用されることになります。
そのため、過去の盗撮行為が7月13日以降に発覚した場合は、従来どおり都道府県ごとの迷惑行為防止条例による処罰の対象となります。
令和5年7月12日以前の盗撮等 | 令和5年7月13日以降の盗撮等 |
---|---|
7月13日以降に発覚した場合でも迷惑行為防止条例が適用され、盗撮罪により処罰 | 性的姿態撮影等処罰法が適用され、撮影罪により処罰 |
撮影罪が成立する場合とは?
性的姿態撮影等処罰法に違反する行為は、盗撮行為に限られるわけではありません。
被害者に発覚しないように撮影した場合だけではなく、暴行や脅迫などを用いて被害者の抵抗を抑えつけて撮影した場合など、被害者が自分の姿態を撮られていることを認識している場合でも、撮影罪として処罰される可能性があります。
また、撮影した画像や動画の扱い方に応じて、別の罪が成立する可能性もあります。
撮影罪
従来の迷惑行為防止条例などにおいては、いわゆる盗撮行為が処罰の対象となっていました。
しかし、処罰に値する撮影行為は、典型的な盗撮行為に限られるわけではありません。
「盗撮罪」ではなく、あえて「撮影罪」という名前が使われていることからもわかるように、性的姿態撮影等処罰法においては、盗撮に限らずさまざまな撮影行為が処罰の対象とされています。
撮影罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金刑」となっており、未遂に終わった場合も処罰の対象となります(法第2条2項)。
※なお、「拘禁刑」については、当面の間、「懲役刑」のことであるとお考えください。
従来の迷惑行為防止条例においては、懲役の期間は「6ヶ月以下」あるいは「1年以下」、罰金刑の範囲は「50万円以下」あるいは「100万円以下」と定められることがほとんどでした。
例を挙げますと、東京都の迷惑行為防止条例においては、盗撮行為を行った場合の罰則は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっています(条例5条1項2号、8条2項1号)。
そのため、性的姿態等撮影処罰法に定められた罰則は、従来の迷惑行為防止条例と比べてより重くなったことがわかります。
構成要件
撮影罪として処罰される行為については、性的姿態等撮影処罰法2条1項1号から4号において定められています。
撮影罪が成立するための構成要件(犯罪が成立するための条件)は、大きく分けると以下のとおりです。
このほか、対象者が拒否できないような状態にあることを利用して撮影した場合、性的な行為ではない・他に誰にも見られることはないなどと誤信させて撮影した場合、5歳以上歳が離れた16歳未満の子どもの性的姿態等を撮影した場合も、撮影罪が成立する可能性があります。
以上のように、撮影罪にはさまざまな行為の類型があり、それぞれに構成要件が異なります。
類型ごとの構成要件を表にまとめていますので、参考になさってください。
構成要件 | |
---|---|
1号 (典型的な盗撮) |
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2号 (拒否できない状態を利用して撮影) |
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3号 (被害者を誤信させて撮影) |
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4号 (16歳未満の子どもを撮影) |
【子どもの年齢が13歳未満の場合】
|
【子どもの年齢が13歳以上16歳未満の場合】
|
以下では、撮影行為の類型ごとに注意すべきポイントについてご説明いたします。
正当な理由なく、他人の性的姿態等をひそかに撮影した場合、「撮影罪」が成立します。
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(略)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(略)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(中略)がされている間における人の姿態
先ほどもご説明したとおり、スカートの中にスマートフォンを差し向けたり、隠しカメラを使って撮影したりなど、撮影の対象者に気づかれないようひそかに撮影するような行為がこの類型に該当します。
法務省の見解によれば、「正当な理由」が認められるケースとしては、「医師が、救急搬送された意識不明の患者の上半身裸の姿を医療行為上のルールに従って撮影する場合」などが考えられるとのことです(参照:法務省「性犯罪関係の法改正等Q&A」)。
ですが、一般の方がこうした状況に置かれることはほとんど想定できず、「正当な理由」が認められる可能性は相当低いと考えられます。
二 (中略)同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
上記の盗撮行為のように、「ひそかに」撮影した場合でなくとも、撮影罪が成立する場合があります。
すなわち、下記のいずれかを原因として、「撮影を拒否しよう」と考えたり、撮影されたくないということを撮影者に伝えたり、撮影行為を自ら止める・その場から逃げるなど、撮影を拒否するという意思を行動で示すことが困難な状態にさせ、又は相手がそのような状態にあることを利用して、性的姿態等を撮影した場合にも、撮影罪が成立することになります。
ア 暴行又は脅迫を加えること
イ 心身の障害に乗じること
ウ アルコール又は薬物を与え、抵抗できない状態にすること
エ 睡眠その他の原因により意識がはっきりしない状態にあることを利用すること
オ 不意打ちなどにより、撮影に同意しない意思を形成したり表明したりする時間を与えないこと
カ 予想外の事態に直面したことによる恐怖・驚きにより体が硬直するなどして抵抗できない状態にすること
キ 過去の虐待が原因で感じた無力感や恐怖心によって抵抗できない状態にすること
ク 上司と部下、教師と生徒などの経済的・社会的地位に基づく影響力により、撮影を拒むと今後嫌がらせをされたり無視されたりするのではないかなどといった不利益が生じることへの不安から抵抗できない状態にすること
性的な行為ではないと誤信させたり、特定の者以外がその画像を見ることはないと誤信させたりなどして性的姿態を撮影した場合にも、撮影罪が成立することになります。
三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
「芸術作品である」「誰にも見せることはない」などと嘘をついて対象者を信用させ、性的姿態等を撮影した場合がこの類型に該当します。
13歳以上16歳未満の子どもの性的姿態等を、その子どもからみて5歳以上年上の者が、正当な理由なく撮影した場合、その子どもが同意しているか否かに関わらず、撮影罪が成立することになります。
四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
なお、「5歳以上年上」という要件については、その子どもが生まれた日を基準として、その日から5年以上前に生まれているかどうかにより判断されることになります。
これは、学生同士で交際関係にある二人が同意のもとで撮影したという場合を除外するために設けられたものと考えられます。
また、13歳未満の子どもの性的姿態等を撮影した場合は、年齢差や同意の有無に関係なく撮影罪が成立する可能性があります。
この場合の「正当な理由」について、法務省の見解によれば、以下のような事案であれば正当な理由があるものと認められる可能性があるとのことです。
- 親が、自分の子どもの成長の記録として、自宅の庭で上半身裸で水遊びをしている子どもの姿を撮影する場合
- 地域の行事として開催される子ども相撲の大会において、上半身裸で行われる相撲の取組を撮影する場合
このように、子どもを撮影する「正当な理由」が認められるケースは、自分の子どもを撮影する場合など、かなり限定的であると言わざるを得ません。
基本的には、親子関係もしくは親戚関係にある者が、成長の過程を記録するという意味合いで撮影する場合を除き、子どもの裸が映り込む写真を撮影することにはリスクが伴うことになるといえるでしょう。
アスリートの盗撮に撮影罪は適用される?
近時、スポーツ大会の出場者の性的部位を撮影することが問題視されることも多くなってきています。
報道関係者が取材の一環で撮影すること自体は処罰の対象とはならないことはもちろんですが、一般の方がアスリート本人に許可を得ることなくその姿態を撮影した場合、撮影罪が適用される余地はあるのでしょうか。
一般に、観客を入れたり報道機関による取材を受け入れたりしているスポーツ大会に出場しているアスリートは、観客や報道関係者に見られることがいわば当然の前提となっているといえます。
競技中に着用するユニフォームの形状によっては、肌の露出が増える可能性もありますが、こうしたユニフォーム姿を撮影したとしても、性的な部位や着用している下着を直接に撮影したわけではなく、撮影罪が成立する前提を欠くことになると考えられます。
そのため、競技中のアスリートを本人の許可なく撮影したとしても、撮影罪は直ちには成立しないと考えられます。
ただし、スポーツ大会など特殊な状況下であったとしても、撮影対象者が不快に感じるような態様で安易に撮影を行ってしまうと、トラブルのもとになり得ます。
ですので、アスリートを撮影する場合も、モラルに反した行動を取ることのないよう、十分に注意を払うことが望ましいでしょう。
提供罪
上記のような撮影行為によって撮影された画像や動画(法律上、こうした画像や動画を「性的影像記録」と呼びます)を、特定の相手に送信したり、インターネット上にアップロードし、不特定多数の者が閲覧・ダウンロードなどできる状態においたりして第三者に提供した場合、「提供罪」が成立します。
第三条 性的影像記録(略)を提供した者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
2 性的影像記録を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
提供罪に関しては、提供した相手方が特定・少数の者か、不特定・多数の者かに応じて刑の重さが変わります。
特定・少数の者に対して盗撮画像等を提供した場合は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、不特定・多数の者に対して盗撮画像等を提供したり、インターネット上にアップロードするなどして公然と陳列した場合は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金が科される可能性があります。
盗撮画像等を不特定多数の者に提供したり、インターネットにアップロードしたりしてしまった場合、そこからさらにデータが拡散してしまい、被害者の被害回復が困難になってしまう可能性が高まります。
そのため、より悪質性の高い行為であるとして厳しく処罰されることになるのです。
保管罪
上記のような撮影行為によって撮影された画像・動画を、他人に提供したりインターネット上にアップロードしたりする目的で保管していた場合、「保管罪」が成立します。
第四条 前条の行為をする目的で、性的影像記録を保管した者は、二年以下の拘禁刑又は二百万円以下の罰金に処する。
保管罪の法定刑は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金となっています。
送信罪
上記のような撮影行為によって撮影された性的姿態等の画像や動画を、ライブストリーミングで不特定・多数の者に対して送信した場合、「送信罪」が成立します。
第五条 不特定又は多数の者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 正当な理由がないのに、送信されることの情を知らない者の対象性的姿態等の影像(略)の影像送信(電気通信回線を通じて、影像を送ることをいう。以下同じ。)をする行為
二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等の影像の影像送信をする行為
三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは不特定若しくは多数の者に送信されないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等の影像の影像送信をする行為
四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者の性的姿態等の影像(略)の影像送信をし、又は十三歳以上十六歳未満の者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、当該十三歳以上十六歳未満の者の性的姿態等の影像の影像送信をする行為
2 情を知って、不特定又は多数の者に対し、前項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像の影像送信をした者も、同項と同様とする。
(略)
誰でもアクセス可能な「生配信」において、盗撮した映像をそのまま流してしまうなどといった行為がこれに該当するとお考えください。
送信罪は、撮影罪の場合と同様、以下のような場合に成立することとなります。
- ひそかに配信を行った場合
- 拒否できない状態にさせ、又は相手が拒否できない状態にあることを利用して撮影した映像を配信した場合
- 他人には見られることはないなどと誤信させて配信を行った場合
- 正当な理由なく16歳未満の子どもの性的姿態を配信した場合
送信罪の法定刑は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金となっています。
記録罪
上記のような行為により他人が撮影した画像や動画を、盗撮行為によって撮影されたものであると知りながらダウンロードするなどして記録した場合、「記録罪」が成立します。
第六条 情を知って、前条第一項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像を記録した者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
これまでは、盗撮画像・動画であることを理解した上でダウンロードしたとしても処罰の対象にはなっていませんでしたが、今後は処罰の対象となります。
記録罪の法定刑は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金となっています。
コピーの没収、撮影データの消去・廃棄
撮影行為や記録行為により生じた画像や動画(盗撮画像等)のコピーデータの没収も可能になりました。
また、2024年6月までに、検察官が保管する押収物(撮影に使用したカメラやスマートフォンなど)に記録されている盗撮画像等を消去したり、押収した物を廃棄したりすることなども可能になる見込みです。
撮影罪の刑罰
性的姿態撮影等処罰法に違反する行為を行なった場合の法定刑については、以下の表をご参照ください。
罪名 | 処罰される行為 | 法定刑 |
---|---|---|
撮影罪 (2条1項各号) |
盗撮行為など、違法な撮影行為 | 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金 |
提供罪 (3条1項・2項) |
盗撮などにより得られた画像や動画を第三者に提供すること | 特定・少数の者に対する提供の場合 →3年以下の懲役又は300万円以下の罰金 |
不特定・多数の者に対する提供の場合 →5年以下の懲役又は500万円以下の罰金 |
||
保管罪 (4条) |
盗撮などにより得られた画像や動画を、他人に提供したりする目的で保管すること | 2年以下の懲役又は200万円以下の罰金 |
送信罪 (5条1項・2項) |
盗撮などにより得られた画像や動画を、ライブストリーミングなどの手段により不特定・多数の者に対して送信すること | 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金 |
記録罪 (6条1項) |
盗撮などにより得られた画像や動画を、違法に撮影されたものであると知りながら記録すること | 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金 |
撮影罪や特定少数の者への提供罪、記録罪についての法定刑は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金刑となっています。
最も軽い保管罪の場合でも、法定刑は2年以下の懲役又は200万円以下の罰金刑であり、最も重い不特定多数への提供罪・送信罪の場合は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金刑となっています。
このように、盗撮行為をはじめとする違法な態様での撮影行為について、従来よりも厳しく処罰されるようになっただけでなく、盗撮データの保管や提供についても処罰されるようになりました。
今回の法改正が実務にどれほどの影響を与えるかはこれからの動向を見守らなければなりませんが、法定刑が重くなったことで、初犯の場合でも従来よりも高額の罰金を科されるなど、より重く処罰される可能性も否定はできないといえます。
また、再犯に及んでしまった場合には、罰金ではなく懲役刑が科される可能性が上がっていくことも予想されます。
撮影罪の時効とは?
刑事事件の時効については、刑事訴訟法第250条に定められています。
② 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
(略)
五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
(略)
この規定によれば、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」との定めがある不特定多数の者への提供罪や送信罪の時効は5年、それ以外の撮影行為や特定少数への提供、保管・記録行為については、時効はいずれも3年ということになります。
時効が3年のもの | 時効が5年のもの |
---|---|
撮影罪 特定少数の者への提供罪 |
|
保管罪 記録罪 |
不特定多数の者への提供罪 送信罪 |
なお、従来の盗撮罪に関しては、時効は3年となっていました。
撮影罪と盗撮罪との違い
以上に見てきたように、撮影罪と盗撮罪には様々な点で違いがあります。
撮影罪と迷惑行為防止条例違反の罪との違いについて、以下の表にまとめましたので、ご覧ください。
撮影罪 | 盗撮罪(迷惑行為防止条例違反) | |
---|---|---|
適用のされ方 | 全国一律に適用される | 盗撮行為が行われた場所に応じて適用される条例が変わる |
処罰される行為 | 典型的な盗撮をはじめとする違法な撮影行為のほか、撮影したデータの提供や保管、送信等についても処罰される | 下着などの盗撮行為 (※全身像を撮影した場合でも、撮影の仕方によっては「卑わいな言動」として処罰される可能性あり) |
法定刑 | 最大5年以下の懲役 又は 最大500万円以下の罰金 |
6ヶ月〜1年以下の懲役 又は 50〜100万円以下の罰金 (条例によって異なる) |
時効 | 不特定多数への提供・送信:5年 それ以外:3年 (刑事訴訟法250条2項5号・6号) |
3年 (刑事訴訟法250条2項6号) |
撮影罪の刑事弁護のポイント
被害者と示談交渉を成功させる
撮影罪にあたる行為を行なってしまった場合においてもっとも効果がある弁護活動は、被害者との間で示談を成立させることでしょう。
弁護士を介して被害者に連絡を取り、誠意ある謝罪を伝え、必要な解決金を支払うなどして被害者が刑事処分を求めていないということを書面にて明らかにすることが重要です。
当事者間において示談により解決が図られたという事実は、捜査機関にとっても非常に大きな意味を持ちます。
すなわち、示談ができており、被害者も刑事処罰を望んでいないのであれば、捜査機関としても厳罰に処する必要性が低下したと受け止められますので、起訴猶予処分となる可能性を高めることにつながるのです。
示談交渉に関して、詳しくはこちらをご覧ください。
自首をする
撮影罪に該当する行為を行なってしまったものの、その場では直ちに発覚しなかったということもあるかもしれません。
しかし、自身の行為が誰かに目撃されている可能性も十分にあり得ますし、現在は街の至る所に防犯カメラが設置されていることもあり、思いもよらぬところで犯行の瞬間を撮影されているかもしれません。
また、撮影罪において新たに処罰の対象となった、提供罪や送信罪、記録罪などに該当する行為を行なってしまった場合、パソコンやスマートフォンのアクセスログなどから犯罪事実を容易に立証できるようになる可能性もあります。
撮影罪は総じてこれまでよりも重く処罰されることが見込まれますから、逮捕・勾留のリスクも従来より高まっていく可能性があります。
いつ発覚するか、明日にでも警察が自宅に来たらどうしようか等、不安に感じるのであれば、弁護士の付き添いのもと、盗撮行為などを行なった場所を管轄する警察署に自首することも選択肢の一つとなります。
捜査機関が犯人について認識する前に自首をすることができれば、どのような刑事処分を科すかという判断にあたり、こちらに有利な事情として考慮してもらえる可能性があります。
その結果、逮捕・勾留を回避できる可能性も高められますし、仮に処罰を受けるにしても、自首の事実を考慮して刑の減軽を受けられるかもしれません(刑法42条1項)。
また、いつ捕まるかわからないという状態から解放され、精神的な安定を取り戻すこともできるでしょう。
自首について、より詳しくはこちらをご覧ください。
刑事弁護に強い弁護士に相談する
撮影罪にあたる行為を行なってしまいどうしていいかわからないという方は、まずは刑事事件に強い弁護士に一刻も早く相談されることをお勧めします。
逮捕・勾留されない在宅事件の場合、国の費用で選任される「国選弁護人」はつけてもらえないため、弁護士のサポートを希望する場合は自ら費用を負担し、弁護士に依頼する必要があります。
ただ、弁護士の中には、刑事事件に力を入れている弁護士もいれば、どちらかというと他の分野を強みにしている弁護士もいます。
ですので、一口に弁護士といっても、刑事事件の経験には弁護士によって大きな差があるといえるでしょう。
特に、撮影罪など、被害者との示談交渉が大きな意味を持つ事案においては、刑事事件に精通しており、示談交渉の経験が豊富な弁護士に依頼することで、示談成立の可能性を高められるかもしれません。
刑事事件で弁護士を吟味することの重要性について、詳しくはこちらをご覧ください。
撮影罪についてのQ&A
勝手に写真を撮ったら罪になりますか?
撮影する部位などにもよりますが、トラブルの元になるので無断での撮影は避けた方が賢明です。
スカートの中を盗撮するような典型的な盗撮行為ではなく、街を歩いている人の全身が映るように撮影した場合は、対象者の「性的姿態」を撮影しているわけではないため、原則として罪には問われない可能性が高いといえます。
ですが、相手が嫌がっているにも関わらず、執拗にカメラを向けて撮影したりした場合は、全身像の撮影であったとしても、都道府県ごとの迷惑行為防止条例において定められている「卑わいな言動」に該当するとして、処罰の対象になる可能性があります。
街を歩いている女性やユニフォーム姿のアスリートの全身像を撮影し、胸や臀部を拡大した画像をインターネット上にアップロードした場合、提供罪に問われるのですか?
直ちに提供罪が成立するわけではないと考えられますが、内容によっては民事上の損害賠償請求の対象となる可能性があります。
既にご説明したとおり、全身像を写した写真などは撮影罪による処罰の対象となるわけではありません。
そのため、元の撮影データを拡大するなどして性的部位を強調した画像をインターネット上にアップロードした場合でも、元となったデータが違法な撮影行為によって得られたものではないことから、下着などが写り込んでいない場合は提供罪などには該当しないと判断される可能性が高いと考えられます。
しかし、自身の性的部位をことさらに強調した画像を世界中に公開されてしまうと、撮影対象者は少なからず精神的苦痛を受けることになります。
場合によっては、画像などを投稿した者が、撮影対象者から民事上の損害賠償請求を起こされてしまう可能性も全くないとはいえませんし、それでなくとも無許可で撮影した写真を悪用することはトラブルの元になる可能性が高いと考えられます。
ですので、こうした行為は避けた方が無難でしょう。
撮影罪は親告罪ですか?
いいえ。親告罪ではないため、被害届が出ていなくとも捜査の対象となる可能性があります。
親告罪とは、被害者による告訴がなければ起訴することができない犯罪のことを指します。
親告罪である犯罪に関しては、法律にその旨の規定がありますが、性的姿態撮影等処罰法には、親告罪に関する規定はありません。
そのため、撮影罪はいずれも親告罪ではないということになります。
盗撮罪はなくなるのですか?
条例が改正されない限り盗撮罪の規定は残り続けますが、適用される事案はほとんどなくなっていくことが予想されます。
性的姿態撮影等処罰法は、これまで盗撮罪(従来の迷惑行為防止条例違反)として処罰されていた行為を含めた、より広い範囲の行為に適用される法律です。
そのため、従来の盗撮行為に関しては、ほぼ全て撮影罪により処罰されることとなるでしょう。
ただ、先ほどご説明したように、令和5年7月13日以前に行なった盗撮行為がのちに発覚した場合は、従来の迷惑行為防止条例が適用されることになります。
また、仮に撮影罪には直ちに該当しない撮影行為であったとしても、撮影の態様によっては迷惑行為防止条例の「卑わいな言動」として処罰される可能性は残ります。
まとめ
以上、新たに制定された撮影罪について解説いたしましたが、いかがでしたでしょうか。
盗撮行為は、被害者に対し大きな恐怖や不快感を与える重大な犯罪行為です。
被害者・加害者としての立場を問わず、盗撮が絡む事件に巻き込まれたりすることのないよう、十分にお気をつけください。
万一、撮影罪に該当する行為を行ってしまった場合は、被害者との示談交渉を早期に行うことができるかどうかが、その後の処分結果を左右することにもつながります。
盗撮の加害者やその身内が直接被害者とやりとりをすることは捜査機関によって固く禁じられることになりますので、示談交渉を行うには弁護士に依頼することが必要不可欠です。
その際、刑事事件に強い弁護士に依頼をすることで、被害者の方にも配慮しつつ慎重に交渉を行い、示談成立の可能性を高めることができるといえるでしょう。
ご自身や身内の方、従業員の方が撮影罪の嫌疑をかけられている場合など、お困りの際は、ぜひ一度刑事事件に精通した弁護士にお早めにご相談されることをお勧めいたします。
なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか