学校で盗撮したらどうなる?事例・罰則を弁護士が解説
近年、盗撮事件が連日のように相次いでおり、報道を目にすることも珍しくなくなってきました。
盗撮は主に公共の場で行われる犯罪であり、駅や電車、路上や商業施設などが典型的な犯行場所です。
一方、近年では、盗撮全体の発生増加に伴い、学校で盗撮被害が発生することも増えつつあります。
学校での盗撮ももちろん犯罪ですが、駅や路上のように不特定多数の者が行き交う公共の場所とはいえないことから、法律上の位置づけや問題点が、一般的な盗撮事件とは異なっています。
この記事では、学校での盗撮事件について、学校の特殊性をふまえながら、逮捕される事例や罰則について解説します。
目次
学校での盗撮は犯罪となる?
盗撮とは
盗撮とは一般に、承諾を得ることなく他人の容姿を無断で撮影することをいいます。
もっとも、了承を得ずに撮影する行為のすべてが違法となるわけではありません。
盗撮行為を規制しているのは、性的姿態撮影等処罰法(撮影罪)及び各都道府県が定めている条例(迷惑防止条例)となります。
したがって、撮影罪および迷惑防止条例のそれぞれについて、確認する必要があります。
撮影罪について
撮影罪は、人の性的姿態をひそかに撮影する行為等を処罰の対象としています。
引用元:性的姿態等撮影処罰法2条1項1号から4号|e-GOV法令検索
性的姿態とは、具体的には次のものをいいます。
- 性的な部位、すなわち、性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部
- 人が身に着けている下着のうち現に性的な部位を覆っている部分
- わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
また、ひそかに撮影する行為としては、スカートの中にスマートフォンを差し向けたり、隠しカメラを使って撮影したりなど、撮影の対象者に気づかれないようひそかに撮影する盗撮行為が挙げられます。
したがって、学校において、これらの行為をすると撮影罪として処罰されることとなります。
撮影罪について詳しい解説はこちらをご覧ください。
迷惑防止条例違反について
条例は自治体が独自に定めるものですが、迷惑防止条例関しては、どの地域でも比較的類似した規定となっています。
この記事では、東京都の迷惑防止条例を例にとって解説します。
第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
一 (略)
二 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
三 前二号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
引用元:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例|東京都ホーム
この条文を整理すると、次のようになります。
場所 | 対象 | 行為 |
---|---|---|
|
|
|
場所
盗撮は従来、「公共の場所」で行われる犯罪と位置づけられてきましたが、近年の盗撮被害の拡大に伴い、東京都のように「学校」や「事務所」などの多数の者が出入りする場所での盗撮をも規制対象とする自治体が増えています。
一部「公共の場所」とのみ定めている県もありますが、そのような場合でも、不法侵入や児童ポルノなど、別途なんらかの処罰規定に該当することがほとんどと思われます。
結論としては、条例上で「学校」を明示していない場合も含め、学校での盗撮は犯罪になるということです。
対象
盗撮の対象は「通常衣服で隠されている下着又は身体」です。
衣服で隠されている部分が対象となるため、撮影機器を所持して撮影する場合には、スカート内の撮影であることが多数です。
トイレや更衣室などにカメラを仕掛ける場合には、場所の性質上脱衣を伴うため、必然的に通常衣服で隠されている部分を撮影することになります。
一方、後ろ姿などを衣服の上から撮影するようなケースでは、「通常衣服で隠されている」部分を撮影したわけではないので、迷惑防止条例が規制する「盗撮」には該当しません。
ただし、胸や臀部など性的な部位をことさら強調して撮影したような場合には、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為」であるとして、同じ迷惑防止条例が規制する「卑わいな言動」として処罰される可能性があります。
また最近では、性的な部分を強調したわけではない、単なる後ろ姿などの撮影であっても、撮影の目的や手段といった事情を総合的に勘案して、卑わいな言動に当たるという判断も出てきています。
行為
撮影行為そのもののほか、盗撮目的で撮影機器を「差し向け」たり「設置」したりする行為も規制されています。
カメラを向けたり設置したりすることは撮影の「準備行為」であり、たとえ撮影に至っていなくても、これらの行為に及んだ時点で犯罪として成立することになります。
盗撮について詳しくお知りになりたい方は、こちらも合わせてご覧ください。
学校での盗撮は児童ポルノになることも
学校で盗撮が行われた場合、被害者が児童・生徒であることも多いと思われます。
撮影されたのが児童(18歳未満)である場合、児童ポルノ禁止法違反に当たる可能性もあります。
(定義)
第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 (略)
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一・二 (略)
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
引用元:児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律|電子政府の総合窓口
児童ポルノの定義を簡略化すると、衣服の全部又は一部を身に着けておらず、かつ性的な部位が露出・強調されている児童の映像等といえます。
トイレや更衣室で盗撮した場合、衣服の一部を身につけておらず、かつ臀部等が露出されているといえることが多いでしょうから、児童ポルノ禁止法に該当する可能性が高いと言えそうです。
盗撮の刑罰
撮影罪に該当する場合
撮影罪については、法定刑が「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」となっています。
引用元:性的姿態等撮影処罰法2条1項1号|e-GOV法令検索
迷惑防止条例違反の場合
盗撮の刑罰は、各自治体ごとに異なります。
例えば、東京都の例では、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(ただし、常習性がある場合は「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」)と定められています。
引用元:東京都迷惑防止条例
児童ポルノに該当する場合
盗撮が児童ポルノに該当する場合、罰則は「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」と定められています。
引用元:児童ポルノ法
なぜ学校での盗撮が発生するのか?
学校で盗撮が発生するのは、学校という環境の特殊性にあると思われます。
盗撮が起きやすい学校特有の理由としては、次のようなものが考えられます。
- 女子生徒の制服は多くの学校でスカートであるうえ、学校で盗撮被害にあうことを想定しておらず、警戒心が弱い場合も多い
- 体育などで更衣の機会もあり、盗撮が起きやすい環境にある
- 教員であれば校内を徘徊していても不自然でなく、放課後など人の少ない時間帯であれば比較的容易にカメラを設置できる
どのような行為が盗撮となる?~代表的な4つの事例~
盗撮は法律上、性別に関係なく成立する犯罪ですが、実態としては、加害者が男性で被害者が女性であるケースが多数を占めます。
学校での盗撮では、加害者の多くは男性教員ですが、学校医などの部外者による犯行もあります。
また最近では、スマートフォンや学習用タブレットなどの普及に伴い、男子生徒による盗撮事件も発生するようになりつつあります。
被害者は、女子生徒又は女性教員であることが大半と考えられます。
以下では、実際に起こった事件をいくつかご紹介します。
教員による犯行
熊本市教育委員会は6日、市立小の男性教員が、ボールペン型カメラで女子児童の更衣室などを盗撮していたと発表した。熊本県警は任意で事情を聞いている。発表によると、11月29日の放課後、着替えにも使っている部屋のロッカーの上からボールペン型カメラが落ちてきたのを女児が見つけ、学校に報告した。複数の画像や動画が保存されており、教員は聞き取りに対し、盗撮目的で仕掛けたと認めたという。プールの更衣室や教室などにも設置していたという。校長は発覚直後、教員に指示してデータを消去させていた。県警からは証拠の保全に問題があると指摘されており、校長は「子どもが写っていてショックだった。誤った判断だった」と釈明した。
実例2 段ボール箱にスマホ、着替え中の児童を盗撮 小学校教諭を懲戒免職
栃木県教委は4日、盗撮行為をしたとして県南部の公立小学校の男性教諭(31)を懲戒免職処分にしたと発表した。勤務先の小学校の教室にスマートフォンなどを置き、着替え中の女子児童の動画を盗撮したという。
県教委義務教育課によると、教諭は5~7月、小学校の教材準備室内で計5回にわたり、女子児童数人を盗撮した。
小さな穴を開けた段ボール箱のなかにスマートフォンやタブレット端末を置く方法だった。
体育の授業前の児童を呼び出し、生活相談をした後、着替えを促したという。
10月5日朝、同室とつながった隣の部屋から出てきた男性教諭を同僚がみかけ、不審に思って調べたところ、タブレット端末の入った箱を見つけ、盗撮が発覚した。
学校の調べに対し男性教諭は盗撮を認めたという。
動画は撮影するたびに本人が消去したといい、同課は「外部流出は確認できていない」と説明している。
学校医による犯行
実例3 学校の健康診断中、女子中高校生14人を盗撮容疑 34歳医師を逮捕
医師として派遣された学校の健康診断で、上半身裸の女子中高校生らを盗撮したとして、大阪府警は24日、兵庫県西宮市上鳴尾町の医師、X容疑者(34)を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで逮捕し、発表した。
「医師という立場を利用して盗撮していた」と容疑を認めているという。
生活安全特別捜査隊によると、逮捕容疑は3~4月、大阪府内と兵庫県内の中学校と高校計2校で、健康診断のため上半身の衣服を脱いだ女子中高校生計14人を携帯電話などで動画撮影したというもの。
X容疑者は6月、女性の下着を盗撮したとして、府迷惑防止条例違反容疑で府警に逮捕された。
押収したX容疑者の数台の携帯電話やSDカードなどから、複数の学校で撮影したとみられる女子生徒らの動画が見つかったという。
同隊はX容疑者が他校でも盗撮していたとみている。
生徒による犯行
実例4 他にも盗撮と話す…中学校の教室で男子が女子の着替えを学習用タブレットで盗撮 学校側が正しい使い方指導
愛知県の中学校で、1年生の男子生徒が学習用のタブレット端末を使い、女子生徒の着替えを盗撮していたことがわかった。
盗撮が発覚したのは、愛知県尾張地方にある中学校。
県の教育委員会によりますと11月中旬、教室で着替えをしていた中学1年の女子生徒たちが録画状態になった学習用タブレット端末を発見。
このタブレット端末は、同じクラスの男子生徒が事前に置いたものだったことが判明した。
担任の聞き取りに対し、男子生徒は「着替えに興味があって衝動を抑えられなかった」という主旨の説明をし、今回以外にも盗撮をしたと話しているという。
学校側は男子生徒に事の重大さを伝え、端末の正しい使い方を指導したとしている。
生徒による学校内での盗撮は全国で問題となっていて、名古屋市の中学校でもタブレット端末を使った盗撮が2022年は3件確認されている。
学校の盗撮で逮捕される場合
逮捕は、犯行の場で直ちに逮捕される現行犯逮捕と、逮捕状の発付を受けて行う通常逮捕があります。
現行犯
盗撮で現行犯逮捕される場合、撮影行為の瞬間を発見されてその場で逮捕されるのが典型的な例です。
ただし、学校での盗撮では、機器を設置する手法の方が多いと思われます。
設置型の犯行では、設置の瞬間だけでなく、機器の設置状態が継続する限り、現行犯逮捕の可能性がのこることになります。
後日
設置型の場合、カメラが発見されてから設置者が特定されて逮捕に至るという流れが多いと思われます。
そのような場合には、カメラの設置から行為者の特定に時間を要することから、現行犯ではなく通常逮捕になると考えられます。
学校の盗撮で逮捕されない場合
盗撮事件の報道では容疑者が逮捕されているものが多いですが、犯罪のすべてが逮捕されているわけではありません。
在宅捜査といって、容疑者を逮捕することなく、取り調べの際に呼び出すことでも捜査を進めることができるため、逮捕する必要のある場合に限り、逮捕が許されるのです。
自首
容疑者が逮捕前に自ら出頭することで、逮捕されないケースがあります。
通常逮捕をするには、容疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがあることが要件となりますが、自首することで、逃亡や証拠隠滅の意思がないことを主張するのです。
自首すれば確実に逮捕を回避できるわけではありませんが、ひとつの事情として考慮されることにはなりますので、有効な手段ということはできます。
刑事事件を扱っている弁護士には自首に同行するという依頼を受けている弁護士もいますので、自首したいが不安があるという場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
示談
被害者のいる犯罪は、被害者と示談が成立することで逮捕されにくくなる傾向にあります。
示談成立という有利な事情があるにもかかわらず、逃走してこれを無にすることはないだろうという推測が成り立つためです。
ただし、盗撮は被害者を大きく傷つける行為であり、示談を成立させるには相当の困難が伴います。
ましてや、犯行が学校という信頼していた空間で行われたとなれば、被害者が納得して示談に応じてくれるためには、経験豊富な弁護士による丁寧な交渉が欠かせません。
被害者と示談することを望まれるのであれば、速やかに弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
示談を多数成立させてきた弁護士であれば、盗撮事件での示談交渉の難しさを十分理解していますので、そのような弁護士に早い時期に依頼することで、スムーズな交渉が期待できるのです。
学校の盗撮で逮捕、その後の流れ
盗撮で逮捕された場合、事件は次のように進行します。
-
- 1
- 逮捕
-
- 2
- 送検
-
- 3
- 勾留
-
- 4
- 起訴
-
- 5
- 判決
逮捕
警察は容疑者を逮捕すると、48時間以内に容疑者を検察官に送致(そうち)しなければなりません。
検察官は容疑者の送致を受けてから、24時間以内に容疑者の勾留を請求するかを判断します。
すなわち、逮捕されると最大で72時間の身柄拘束が続くということです。
送検
通常、逮捕から48時間以内に事件と身柄が検察に送られます。
この手続きを、「送検」と呼びます。
送検を受けた検察官は、容疑者の勾留を請求するか判断するため、弁解録取という簡易的な聴取手続を行います。
このときに作成された書面(弁解録取書)は、裁判の際に証拠として採用されることもあるため、取調べに準ずるものと考えて慎重に対応する必要があります。
弁解録取をした結果、検察官が容疑者を勾留の必要があると判断した場合、裁判官に対して勾留を請求することになります。
勾留
勾留の請求を受けた裁判官は、勾留の要件を満たしているかという観点から、勾留を認めるべきかを判断します。
容疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があって、かつ、次の①から③のいずれか1つに該当すること
- ① 定まった住居を有しないとき
- ② 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- ③ 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
引用元:刑事訴訟法|e−GOV法令検索
勾留の期間は10日間ですので、その間身柄が拘束されることになります。
また、最長で10日間を上限として、勾留が延長されることもあります。
すなわち、当初の勾留で10日間、延長まで含めると最大で20日間にわたり身体拘束が続くということです。
起訴
起訴とは、刑事裁判にかけられることを意味します。
起訴前の勾留は最長でも20日間ですが、起訴された場合、保釈されない限り判決まで勾留が続くことになります。
判決
判決には、執行猶予付きの判決、実刑判決や無罪判決などの種類があります。
犯行を否認する場合は無罪判決の獲得を目指しますが、無罪判決を得られる確率は極めて低くなっているのが現状です。
日本の刑事裁判では、起訴されると99%以上の割合で有罪となるため、刑事事件では起訴を回避することが最大の弁護活動となってきます。
まとめ
このページでは、学校内での盗撮について、犯罪として成立する要件や逮捕されるか否かについて解説しました。
最後に改めて、記事の要点を整理します。
- 盗撮は犯罪行為であり、刑法ではなく都道府県の迷惑防止条例によって規制対象とされている。
- トイレや更衣室などの脱衣を伴う場所での盗撮は、児童ポルノ禁止法により特に重く処罰される可能性がある。
- 学校は生徒の警戒心が薄いこともあり、盗撮が起きやすい環境にある。
- 自首により逮捕の可能性が低下することもあるため、刑事事件の取り扱い経験が豊富な弁護士に依頼することが望ましい。
当事務所では、刑事事件に関するご相談の予約を24時間受け付けています。
LINEやZoomを利用したオンラインでの相談も可能ですので、お気軽にご相談ください。
ご相談の流れはこちらをご覧ください。
なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか