社内で盗撮したらどうなる?事例・罰則を弁護士が解説
近年、盗撮被害が跡を絶たず、連日のように事件の報道を目にするようになりました。
盗撮は従来、駅や商業施設などの公共の場所で行われるのが典型的な犯罪でした。
一方、盗撮事件の発生件数の増加に伴い、単に件数が増えているのみならず、盗撮の発生場所についても、学校や会社など多様な場所で発生するようになっています。
この記事では、会社内での盗撮事件について、どのような場合に違法となるのかや、逮捕される事例、罰則などについて解説しています。
目次
会社内での盗撮は犯罪となる?
盗撮をした場合、犯罪として処罰される可能性があります。
盗撮については、撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)又は各都道府県が定めている条例(迷惑防止条例)に該当するかを検討する必要があります。
撮影罪が成立する場合
撮影罪とは、他人のスカート内の下着や性的な部位などをひそかに盗撮したり、相手の意思に反して性的な部位などを撮影したりした場合に成立する罪※のことを指します。
※撮影罪は通称「性的姿態撮影等処罰法」という法律に規定されています。
この性的姿態撮影等処罰法は、2023年7月13日に施行されています。
撮影罪の構成要件
撮影罪が成立するための構成要件(犯罪が成立するための条件)は、大きく分けると以下のとおりです。
引用元:性的姿態等撮影処罰法2条1項1号から4号|e-GOV法令検索
- ① 人の性的姿態を
- ② 禁止された方法により撮影すること
- ③ 撮影行為を行う「正当な理由」がないこと
性的姿態とは、具体的には次のものをいいます。
- 性的な部位、すなわち、性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部
- 人が身に着けている下着のうち現に性的な部位を覆っている部分
- わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
具体的には次の方法です。
- 正当な理由がないのに、ひそかに撮影する行為
典型的なものとしては、スカートの中にスマートフォンを差し向けたり、隠しカメラを使って撮影したりなど、撮影の対象者に気づかれないようひそかに撮影する盗撮行為が挙げられます。 - 同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせ、又はその状態にあることを利用して撮影する行為
- 誤信をさせ、又は誤信をしていることを利用して撮影する行為
- 正当な理由がないのに、16歳未満の者を撮影する行為(13歳以上16歳未満の場合、行為者が5歳以上年長の者であるとき。)
ひそかに撮影する行為と16歳未満の者に対する撮影行為は、正当な理由がないことが要件となります。
【 ひそかに撮影する行為の「正当な理由」の例 】
・医師が、救急搬送された意識不明の患者をルールに従って撮影する
【16歳未満の者に対する撮影行為の「正当な理由」の例】
- 親が子どもの成長の記録として水遊びをしている子どもの姿を撮影する
- 地域の行事として開催される子ども相撲の大会において撮影する場合
撮影罪について詳しい解説はこちらをご覧ください。
迷惑防止条例違反が成立する場合
盗撮を規制する条例は一般に「迷惑防止条例」と呼ばれており、47ある全ての都道府県が、条例で盗撮を規制しています。
刑事罰が定められている規定に違反すれば犯罪であり、法律ではなく条例であっても異なることはありません。
条例が処罰対象としている盗撮行為
盗撮とは一般に、相手の承諾を得ることなく無断で他人の容姿などを撮影することをいいます。
もっとも、条例が処罰対象としているのは盗撮行為のうちの一部ですので、このような無断撮影行為が常に条例で規制されている盗撮に当たるわけではありません。
無断撮影のなかにも、犯罪としての盗撮にあたるものとそうでないものがあるということですので、犯罪としての盗撮の要件を正しく理解しておく必要があります。
条例はそれぞれの自治体が独自に制定するものであるため、その内容は統一されているわけではなく、自治体ごとにまちまちとなっているのが原則です。
ただし、迷惑防止条例に関してはどの県でも比較的似たような規定となっているため、標準的な条例をひとつ理解しておけば、他の県の条例についてもおおまかな概要をつかむことができます。
そこでこの記事では、代表例として東京都の迷惑防止条例を参照しながら解説していきます。
第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
一 (略)
二 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
三 (略)
引用元:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例|東京都ホームページ
ふだん法令を参照する機会の少ない方にとっては、読みにくい部分もあるかと思います。
簡単に言うと、この東京都の条例は、一定の場所において、人の衣服で隠されている部分を撮影し又は撮影しようとすることを禁止しているといえます。
規制対象の行為を整理すると、次のようになります。
場所 |
|
対象 |
|
行為 |
|
場所
迷惑防止条例はもともと「公共の場所」での盗撮行為を規制するものでしたが、近年では、盗撮被害の発生場所の多様化に対応するため、規制対象を拡大する自治体が相次いでいます。
具体的には、東京都をはじめ「学校」や「事務所」といった不特定ではないが多数の者が出入りする場所についても盗撮の規制対象とするように条例を改正する自治体が散見されます。
少数ながら、「公共の場所」での盗撮のみを規制している県も見られますが、その場合でも、盗撮目的で立ち入った点を捉えて不法侵入などで処罰されるケースが多いと思われます。
結論としては、条例上で「事務所」などを明示していない場合も含めて、会社内での盗撮は犯罪になるということです。
対象
盗撮の対象は「通常衣服で隠されている下着又は身体」です。
衣服で隠されている部分を撮影してはじめて盗撮となるため、手やカバンなどに忍ばせた撮影機器で撮影する場合では、スカート内の盗撮であることが多いです。
一方、トイレや更衣室などに撮影機器を設置する手法では、場所の特性上脱衣を伴うため、必然的に「通常衣服で隠されている下着又は身体」を撮影することになります。
行為
迷惑防止条例では、前記の対象を「撮影」する行為のみならず、撮影する目的でカメラなどの撮影機器を「差し向け」たり「設置」したりする行為も処罰対象とされています。
カメラを向けたり設置したりすることは撮影そのものではなくその「準備行為」ではありますが、たとえ撮影に至らなくとも、このような準備行為に及んだ段階ですでに犯罪としては成立していることになります。
盗撮についてさらに詳しくお知りになりたい方は、以下も合わせてご覧ください。
不法侵入となることも
通常、盗撮は迷惑防止条例により処罰されますが、盗撮の場所が「公共の場所」に限定されており、事務所などが含まれていない自治体では、会社内での盗撮を処罰対象とすることができません。
会社の事務所は従業員等の特定の人しか出入りしないため、「公共の場所」とはいえないからです。
もっとも、盗撮目的でトイレや更衣室に立ち入った場合、不法侵入罪になると考えられます。
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法|電子政府の総合窓口
盗撮目的での立ち入りは当然「正当な理由」とはいえませんので、建造物侵入罪が成立することになるのです。
盗撮の罰則
撮影罪に該当する場合
撮影罪については、法定刑が「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」となっています。
迷惑防止条例違反の場合
盗撮の刑罰は、各自治体ごとに異なります。
例えば、東京都の例では、「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」と定められています。
ただし、犯行に常習性が認められるときは、「二年以下の懲役又は百万円以下の罰金」となり懲役の上限が引き上がります。
罰則についても条例ごとに若干の差異があるものの、東京都の定めは平均的なものといえますので、このあたりを標準と考えていただければ良いと思います。
第八条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 (略)
二 第五条第一項又は第二項の規定に違反した者(次項に該当する者を除く。)
2 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第五条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定に違反して撮影した者
二 (略)
3~6 (略)
7 常習として第二項の違反行為をした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
8 常習として第一項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
9・10 (略)
引用元:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例|東京都ホームページ
実際に撮影した場合の罰則は撮影準備行為よりも重くなっており、非常習よりも常習の犯行がより重い罰則となっています。
また、建造物侵入に問われた場合、罰金は低額ですが、懲役の上限としてはむしろ重くなります。
常習 | 非常習 | |
---|---|---|
撮影 | 二年以下の懲役又は百万円以下の罰金 | 一年以下の懲役又は百万円以下の罰金 |
撮影準備 | 一年以下の懲役又は百万円以下の罰金 | 六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金 |
建造物侵入 | 三年以下の懲役又は十万円以下の罰金 |
なぜ社内での盗撮が発生するのか?
盗撮は一般に、駅や商業施設などのように不特定多数の人が行き交う場所で多く発生する犯罪です。
しかし近年は必ずしもこれらの場所に限定されず、盗撮の発生場所も多様化しており、様々な場所で盗撮被害が発生するようになりました。
会社の事務所なども、そのひとつです。
公共の場所でないにもかかわらず会社内で盗撮が起きる背景には、以下のような理由があると思われます。
- 女性社員はスカートを履いていることも多く、また会社内で盗撮にあうという意識が希薄であり、警戒していない場合も多いため標的にされやすい
- 更衣室やトイレなどの、脱衣を伴い盗撮しやすい場所がある
- 業務時間後などの人の少ない時間帯を狙えば、カメラを仕掛けることも難しくない
- スマートフォンやタブレット端末などの普及のほか、カメラの小型化など、会社事務所での盗撮が技術的にも容易になっている
どのような行為が盗撮となる?~代表的な3つの事例~
盗撮は、法的には加害者・被害者の性別を問わず成立する犯罪ですが、実情としては、男性の加害者が女性の被害者を撮影するケースが多数となっています。
会社内での盗撮については、男性社員が女性社員を盗撮するという事案が多いと思われます。
職場での盗撮は駅などの場所に比べれば発生件数は少ないものの、近年では実際に事件が発生し、報道も目にするようになりました。
以下では、実際に起こった事件をいくつかご紹介します。
事務所での盗撮
実例① 職場で同僚のスカートの中を盗撮 出水総合医療センター男性職員(50代)書類送検
出水総合医療センターの50代の男性事務職員が、同僚の女性職員のスカートの中を盗撮したとして書類送検されました。
不安防止条例違反の疑いで書類送検されたのは、出水総合医療センターの主幹兼係長で50代の男性事務職員です。
センターによりますと男性職員はことし9月、事務室内で小型カメラのようなものを使って同僚の女性職員のスカート内を撮影していたところを別の職員に見つかり、容疑を認めたということです。
センターからの通報を受けた警察が任意で捜査し、先月30日に男性職員を鹿児島地検に書類送検しました。
出水市総合医療センターは、男性職員の処分については今後、厳正に対処するとしていて、「大変遺憾で心からお詫び申し上げます。2度とこのようなことが起きないよう綱紀粛正を徹底します」とコメントしています。
トイレの盗撮
実例② 職場のトイレに2cmの黒い物体 逮捕の50歳「盗撮に興味があった」 女性8人被害
職場のトイレに2cmの黒い物体 逮捕の50歳「盗撮に興味があった」 女性8人被害
沖縄県警豊見城署は20日、職場の事業所の女性用トイレにカメラを設置し盗撮したとして、那覇市の会社員の男(50)を県迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕した。
調べに対し「盗撮に興味があった」と容疑を認めているという。
逮捕容疑は4月24日から5月29日までの間、豊見城市内の事業所の女性用トイレに約2センチ角の小型カメラを設置し、女性計8人を盗撮した疑い。
同署によると、普段は別の店舗で働いている同僚がトイレ内のベビーチェアに設置されていたカメラに気付いて発覚した。
更衣室の盗撮
実例③ 同僚の更衣室盗撮、平塚市消防士長が停職 「ストレスで」
平塚市は16日、庁舎内で盗撮をしたとして、市消防本部の男性消防士長(37)を停職6カ月の懲戒処分とした。
消防士長は同日付で依願退職した。
市消防本部によると、消防士長は昨年11月3日午前8時ごろ、消防庁舎内の女性用更衣室兼仮眠室に侵入。
ハンガーに掛けてあった救急用作業着のポケットにスマートフォンを仕掛け盗撮したという。同8時半ごろ、当直勤務を終えた女性職員が発見し発覚した。
消防士長は救急隊所属で、市の聞き取りに「仕事の緊張感からストレスがたまっていて発散する目的だった」と説明しているという。
更衣室は通常施錠されており鍵は女性職員らが管理していたが、当日は施錠されていなかった。
平塚署は県迷惑防止条例違反(盗撮)の疑いで調べている。
引用元:2020年1月16日 神奈川新聞
会社内の盗撮で逮捕される場合
逮捕の種類には、犯行後直ちに逮捕される現行犯逮捕や、逮捕状の発付手続きを経て行う通常逮捕などがあります。
現行犯
盗撮で現行犯逮捕されるケースとしては、撮影行為の瞬間を発見されてそのまま逮捕されるのが典型的な例となっています。
ただし、会社内での盗撮については、直接撮影するのではなく、撮影機器を設置する手法も多いと思われます。
設置型の犯行で現行犯となるのは、設置の瞬間だけではありません。
現行犯とは、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」のことをいうとされていますので(刑事訴訟法212条1項)、機器が設置され続けている限りは、ずっと現行犯状態が継続していることになります。
後日
設置型の場合、カメラが発見された後に、設置者が特定されて逮捕に至るという流れが多いと考えられます。
このような場合では、カメラが発見されてから行為者が特定されるまでに時間を要するため、現行犯ではなく通常逮捕により逮捕されるのが一般的と考えられます。
なお、現行犯以外で盗撮が発覚する経緯としては、社内に設置された防犯カメラの録画や目撃証言などが挙げられます。
会社内の盗撮で逮捕されない場合
盗撮事件の報道では「容疑者が逮捕された」という形のものが多く見られますが、それは事件全体のごく一部に過ぎず、実際には逮捕されないケースも多数あります。
通常逮捕では、容疑者に嫌疑がかかっていることのほかに、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるといった事情が要件として求められるのです。
逃亡も証拠隠滅のおそれもないのであれば、容疑者を逮捕せずとも、取り調べのたびに容疑者を呼び出す、いわゆる「在宅捜査」によって捜査を進めることができます。
このため、任意の出頭が期待できず在宅での捜査に困難があると認められる場合に限り、逮捕が許されるのです。
特に、次のような事情がある場合には、逃亡・証拠隠滅のおそれがないとして、在宅捜査の方向に傾くと考えられます。
逮捕されることの不利益は大きく、できれば回避したいものですので、逮捕されることを回避したい場合は、ぜひご検討いただきたいと思います。
自首をした場合
自首とは、犯行発覚前に自ら捜査機関に出頭し、犯罪事実を申し出ることをいいます。
容疑者が自首したケースでは、そうでない場合に比べて、一般的には逮捕を免れやすい傾向があります。
通常逮捕をするにあたっては、さきほどご説明した逃亡や証拠隠滅のおそれが要件となっていますが、自首することによって、逃亡も証拠隠滅もするつもりがないことを身をもって示すことになるからです。
「逃亡の意思があるのであれば、わざわざ自分から警察に出向くはずがない」という理屈にはそれなりの説得力がありますので、自首によって逮捕の回避が期待できるというわけです。
もっとも、社内での盗撮の場合、被害者は同僚などの顔見知りの関係にある人の場合も多いと考えられ、「被害者に接触するおそれがある」として、(証言の変更を迫るという意味での)証拠隠滅のおそれが認定される可能性はあります。
自首することのみによって逮捕の要件を完全に解消できるとはいえませんが、逮捕の可否を判断するに当たっての有力な事情であることには違いありませんので、逮捕を避けたい場合の有効な手段といえるでしょう。
「自首したい気持ちはあるが、その後どうなるのかがわからず不安だ」という方もいらっしゃるかもしれません。
そのような場合は、刑事事件の経験が豊富な弁護士にご相談されるとよいでしょう。
刑事事件の取り扱い経験を多数もつ弁護士であれば、事件の見通しを的確に説明できますので不安の解消にもつながりますし、自首に同行するという形の依頼を受けている弁護士もいます。
社会生活への影響を可能な限りおさえつつ、いい形で罪を償って更生を目指すためにも、刑事事件に精通した弁護士にご相談されることをおすすめします。
被害者との間で示談が成立している場合
示談を成功させた場合盗撮のような被害者のいる犯罪では、被害者との間で示談が成立することにより、逮捕の確率が低くなる傾向にあります。
せっかく示談交渉が成功し示談が成立したにもかかわらず逃走したのでは、なんのために示談をしたのかわかりません。
すなわちここでも、「示談が成立しているのだから逃亡することはないだろう」という推測が成り立つ結果、逮捕の要件である逃亡のおそれが後退したと判断されることが期待できるのです。
ただし、盗撮被害にあうということは、被害者にとって大変ショッキングな出来事であり、示談成立のハードルはきわめて高いといえます。
ましてや、会社内という盗撮されることをおよそ想定していない場所で被害にあったとなれば、被害者の処罰感情は相当峻烈なものであると予想されるでしょう。
このような困難事例で示談を成立させるためには、熟練の弁護士による丁寧な交渉が必須となってきますので、被害者との示談を希望されるのであれば、できるだけ早期に弁護士にご相談されるとよいでしょう。
示談交渉を多数成功させてきた弁護士であれば、盗撮事件における示談交渉の困難さをじゅうぶん理解していますので、そのような弁護士にできる限り早期に依頼することで、円滑な交渉が期待できるでしょう。
会社内の盗撮で逮捕、その後の流れ
盗撮で逮捕された場合、事件は次のように進行します。
-
- 1
- 逮捕
-
- 2
- 送検
-
- 3
- 勾留
-
- 4
- 起訴
-
- 5
- 判決
逮捕
警察は容疑者を逮捕すると、逮捕の時点から48時間以内に容疑者を検察官に送致(そうち)しなければなりません。
容疑者の送致を受けた検察官は、送致から24時間以内に容疑者の勾留を請求するかを判断します。
すなわち、逮捕されると最大で72時間にわたって身柄拘束が続くということです。
送検
通常、逮捕から48時間以内に事件と身柄が検察に送られます。
この手続きを、「送検」と呼びます。
送検を受けた検察官は、容疑者を勾留すべきか判断するため、弁解録取という聴取手続を行います。
弁解録取とは、容疑者に弁解の機会を与えて言い分を聞き取る簡易な聴取手続きであり、取り調べとは異なります。
もっとも、このときに作成された書面(弁解録取書)は、裁判の際に証拠として採用されることもありますので、実質的には取調べに準ずるものと考えて慎重に対応しなければなりません。
弁解録取手続きを終えた結果、検察官が容疑者を勾留するのが相当であると判断した場合、裁判官に対して容疑者の勾留を請求することになります。
勾留
勾留の請求を受けた裁判官は、勾留の要件を満たしているかを審査し、勾留を認めるべきか否かの判断をします。
勾留の要件は、次のとおりです。
容疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があって、かつ、次の①から③のいずれか1つに該当すること
- ① 定まった住居を有しないとき
- ② 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- ③ 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
引用元:刑事訴訟法|e−GOV法令検索
逮捕による身体拘束は最大で72時間でしたが、勾留されるとさらに身体拘束が継続することになります。
具体的には、勾留の期間は10日間とされています。
また、勾留は延長されることもあり、延長の上限は10日間となっています。
すなわち、当初の勾留が10日間続き、延長されるとさらに最大で10日間の身体拘束が続くということになります。
起訴
起訴とは、検察官が容疑者の処罰を求めて刑事裁判を起こすことを意味します。
起訴前段階での勾留は、延長を含めても最長で20日間でしたが、起訴された場合、保釈される場合を除いては、判決が出るまで勾留が続くことになります。
判決が出るまでの期間は、容疑を認めている簡易な事案であっても、2ヶ月程度要するのが一般的です。
判決
判決の種類としては、執行猶予付きの判決、実刑判決、無罪判決などがあります。
犯行を否認するのであれば、無罪判決の獲得を目指して戦いますが、実際に無罪判決を得られる確率は、極めて低いのが現状です。
日本の刑事裁判では、統計上起訴されると99%以上の割合で有罪判決が出ているため、刑事事件では、起訴を回避して裁判に持ち込ませないことが最大の弁護活動となります。
会社から解雇される可能性は?
社内で盗撮をした場合、会社から解雇を含めた懲戒処分を受ける可能性があります。
懲戒処分とは、企業の秩序を乱したことへのペナルティとして与えられるものです。
労働者は力関係の点で会社より弱い立場に置かれがちなことから、法律上手厚く保護されており、懲戒処分には厳格な制約が課されています。
会社が従業員を懲戒するには、就業規則に懲戒事由を定めていなければなりませんし、また処分としての合理性・相当性がなければ、処分は無効とされます。
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
引用元:労働契約法|電子政府の総合窓口
もっとも、社内での盗撮の場合、盗撮行為が勤務時間中に行われていることも多いでしょうし、また場所も社内で行われているわけですから、職場の風紀・秩序を乱したという点で、なんらかの懲戒処分の対象になってくると思われます。
懲戒解雇とは
懲戒解雇とは、懲戒処分として労働者を解雇することであり、懲戒処分のなかで最も重い処分となります。
従業員を解雇する場合、通常は解雇予告又は解雇予告手当の支払いが必要ですが、懲戒解雇については、「労働者の責に帰すべき事由」に基づく解雇といえます。
よって通常の解雇とは異なって解雇予告はなく、即日の解雇となります。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2・3 (略)
引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口
また、懲戒解雇の場合は退職金についても不支給ないし減額等の措置が取られるのが通常です。
離職票上の離職理由も「重責解雇」となることから、再就職への影響も懸念されます。
このように、懲戒解雇は労働者に重大な不利益を与えるものであることから、懲戒解雇が認められるためには、それに値するだけの重大な非行があることを要します。
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法|電子政府の総合窓口
懲戒解雇は、事案との均衡を欠いた場合、のちの裁判で覆されるおそれがあるため、会社としてもその発動の際には特に慎重に検討せざるをえません。
にもかかわらず懲戒解雇が選択された場合は、会社としては事案をそれだけ重く捉えているということができるでしょう。
普通解雇とは
普通解雇も、会社の一方的な判断で従業員としての身分を失わせるものではあります。
ただし、普通解雇は労働契約違反を理由に雇用関係を終了させるものであり、懲戒(ペナルティ)としての性質を有していません。
懲戒ではなく単なる労働契約の終了ですので、解雇予告や退職金の支払いなどは通常の解雇と同様に必要となってきます。
盗撮は、被害者のプライバシーを侵害する点で決して軽いとはいえない犯罪ですが、他方であくまで条例違反であり、罰則としても、犯罪全体から見れば比較的軽微な部類に属するという面もあります。
このため、懲戒解雇が正当化できるだけの非行といえるか難しい事案もあると想定され、慎重を期した結果、懲戒解雇を避け普通解雇を選択するという判断に至ることもあり得ると思われます。
ただし、上記の労働契約法16条は懲戒解雇と普通解雇を区別しておらず、普通解雇であっても、合理性・相当性がなければならない点は変わりません。
したがって、有効性の判断は懲戒解雇ほど厳しくはないものの、普通解雇だからといって安易に選択できるわけではなく、慎重な検討が求められるといえるでしょう。
退職勧奨とは
懲戒解雇と普通解雇がいずれも会社による一方的な解雇であったのに対し、退職勧奨はあくまで「勧奨」です。
「もう雇ってはおけないので辞めてくれないか」、という趣旨で自主的な退職を促されているにすぎません。
「辞職してほしい」ということを打診されているにすぎませんので、従業員の側としては必ずしもこれに応じる義務はありません。
会社が解雇したわけではなく、本人が自らの意思で進退を決した形になりますので、法的には解雇のような厳しい規制はありません。
そのため、会社としても解雇に比べて選択しやすい対応ではあります。
その反面、本人に選択をゆだねている以上、会社の意向どおりに退職するとは限らない点で。限界のある手段といえます。
退職に応じるよう執拗な説得が続くことも考えられますが、仮に退職に応じないことを理由に会社が不当な不利益を課した場合、「退職強要」として違法性を帯びてきます。
自主退職である以上、解雇のように有効性が問題となることはないのが原則ですが、実質的に退職を強要されたに等しいような場合には、退職の効力を争う余地があるほか、損害賠償を請求できる可能性もあります。
自主的な退職であるため退職金の支払いはありますが、自らの意思で退職しているため、解雇予告手当が支払われることはありません。
社内で盗撮をしたとなると周囲の目も相当厳しいものになりますし、実質的には勧奨をはねのけて会社に在籍をつづけることには困難が伴うとも予想されますが、退職勧奨の場合には、一応そのような選択も残されていることになります。
性質 | 主体 | 時期 | 退職金 | |
---|---|---|---|---|
懲戒解雇 | 制裁 | 会社の意思 | 即時 | 不支給又は減額 |
普通解雇 | 契約解除 | 会社の意思 | 解雇予告から30日後(解雇予告手当の支払いがある場合は即時) | あり |
退職勧奨 | 退職の推奨 | 本人の意思 | 本人が決定 | あり |
解雇されたくない場合の対処法
盗撮自体不名誉な犯罪ですが、それが社内で行われたとなると、会社としても相応の態度で臨まざるを得ません。
他方で加害者の側も、引き続きその会社で勤務を続けることは精神的につらいものがありますが、再就職の目処が立たないなどの理由で、どうしても解雇だけは回避したいという場合もあるかと思います。
解雇は厳格な手段であり、会社は覆されるリスクを抱えることになります。
そのため、加害者にとって有利な事情があることをわかってもらえれば、解雇を回避できることもあります。
示談を成功させる
解雇を回避するにあたって最も重要になってくるのが、被害者との示談です。
示談が成立しているということは、当事者間では紛争が解決していることを意味します。
特に、「厳罰は望まない」という趣旨の示談書を交わすことができれば、被害者本人がそういっている以上、会社としてもその点を考慮せざるを得なくなってきます。
盗撮された被害者としては当然厳しい処分を希望しますので、このような寛大な内容の示談を成立させるためにも、交渉に長けた弁護士に依頼することが重要と言えます。
また、解雇された後になってから、不当解雇としてその有効性を裁判で争うという方法もあります。
その際にも、被害者と示談が成立していると、「示談が成立しているにもかかわらず解雇するのは合理性を欠く」という主張が可能となってきます。
解雇の有効性を裁判で争うには、刑事事件だけでなく労働事件にも精通している弁護士に依頼する必要があります。
弁護士をお探しの際は、その事務所の重点取り扱い分野を意識して探されるとよいでしょう。
反省文の提出
反省文などで犯行の動機や経緯を説明したうえで反省の態度を示し、二度と再犯がありえないことを説得力をもって説明できれば、再起のチャンスを与えるという意味で、解雇を回避してもらえる可能性があります。
すでにご説明したとおり、会社にとって解雇とは選択がためらわれる手段という側面がありますので、心から反省していることが理解されれば、解雇相当の事案ではないという結論に傾くこともあるでしょう。
その際、転勤や降格など、いかなる不利益に対してもいっさい異議を申し立てないといった一文を入れておくのも、効果的と思われます。
そのように書いたからといって、実際にあらゆる不利益を甘受しなければならないわけではなく、法的な意味での拘束力は限定的ではあります。
ですが、「それくらいの気持ちでいる」という表明としてより反省の気持ちがつたわるでしょうし、会社としても、今後の処遇を柔軟に検討しやすくなるため、解雇の必要まではないとの結論もとりやすくなると期待できます。
まとめ
このページでは、社内での盗撮について、犯罪として成立する要件や逮捕されるか否かといった点について解説しました。
最後に改めて、記事の要点を整理します。
- 盗撮は、撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)又は都道府県の迷惑防止条例によって規制されている。
- 盗撮の対象は「通常衣服で隠されている人の下着又は身体」なので、スカート内の盗撮のほか、トイレや更衣室などの脱衣を伴う場所での盗撮が処罰対象となる。
- 撮影機器の普及や警戒心の薄さなどから、しばしば従業員を標的にした盗撮が会社内で発生する。
- 会社を退職するケースとしては、懲戒解雇、普通解雇、退職勧奨があり、それぞれに不利益の度合いや要件が異なっている。
- 自首や示談により逮捕や解雇を回避できることもあるため、刑事事件を得意とする弁護士に依頼することが望ましい。
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なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか