盗撮の手口とは?機材別の逮捕例や盗撮のデメリットを解説
近年、盗撮被害が多発するとともに、その手口も複雑かつ巧妙になっています。
もはや誰にとっても盗撮は他人事とはいえず、正しい知識を持っておかねばなりません。
このページでは、盗撮の手口や実際の事例、盗撮のデメリットなどについて弁護士が解説します。
盗撮の手口をあらかじめ知っておくことで、盗撮被害から身を守ることに繋げていただきたいと思います。
盗撮とは
盗撮とは一般に、承諾を得ることなく他人の容姿を無断で撮影することをいいます。
もっとも、了承を得ずに撮影する行為のすべてが違法となるわけではありません。
盗撮行為を規制しているのは、性的姿態撮影等処罰法(撮影罪)及び各都道府県が定めている条例(迷惑防止条例)となります。
したがって、盗撮行為が犯罪となるかについては、撮影罪および迷惑防止条例のそれぞれについて、確認する必要があります。
撮影罪について
撮影罪は、人の性的姿態をひそかに撮影する行為等を処罰の対象としています。
性的姿態とは、具体的には次のものをいいます。
- 性的な部位、すなわち、性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部
- 人が身に着けている下着のうち現に性的な部位を覆っている部分
- わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
また、ひそかに撮影する行為としては、スカートの中にスマートフォンを差し向けたり、隠しカメラを使って撮影したりなど、撮影の対象者に気づかれないようひそかに撮影する盗撮行為が挙げられます。
撮影罪について詳しい解説はこちらをご覧ください。
迷惑防止条例違反について
条例は自治体ごとに定めるものですので、実際に犯罪としての盗撮にあたるのかは、都道府県ごとの条例を確認しなければ判断できません。
そこでここでは、東京都の迷惑防止条例を例にとって解説します。
あくまで1つの例ではありますが、他の県の条例も大きく内容が異なるわけではないため、参考にしていただければと思います。
第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
一 (略)
二 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
三 前二号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
引用元:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例|東京都ホームページ
法的に厳密な定義となると非常に複雑な説明となりますので、ここでは盗撮となるポイントをしぼってご紹介します。
- 違法となるのは、通常衣服で隠されている下着や身体に対する撮影
- 撮影行為のみならず、撮影の目的でカメラを向けたり設置したりすること(撮影準備行為)も違法
- 近年は、後ろ姿等の撮影であっても、盗撮ではなく「卑わいな言動」として処罰されている
盗撮についてさらに詳しくお知りになりたい方は、こちらもご覧ください。
盗撮の罰則
撮影罪に該当する場合
撮影罪については、法定刑が「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」となっています。
引用元:性的姿態等撮影処罰法2条1項1号
迷惑防止条例違反の場合
盗撮の刑罰は、各自治体ごとに異なります。
例えば、東京都の例では、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(ただし、常習性がある場合は「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」)と定められています。
引用元:東京都迷惑防止条例
盗撮のよくある手口
盗撮は被害者に気づかれることなく相手を撮影する犯罪ですので、犯人は機器や撮影方法を工夫することによって、発覚を避けようとします。
その手法は年々巧妙化しており、具体的には次のような多彩な手口で行われます。
スマホによる盗撮
近年、最も多く発生しているといっても過言でないのが、スマートフォンによる盗撮です。
スマホでの盗撮がこれほどまでに多発するようになった背景には、スマートフォンの普及率の急上昇や、カメラ性能の向上があると考えられます。
従来であれば、盗撮用の小型カメラなどを入手する必要があったのが、今や「盗撮可能な機器を万人が常時持ち歩いている」ともいうべき社会状況にあるのです。
このため、従前では盗撮に手を出すことが考えられなかったような普通のサラリーマンなどが、魔が差して犯行に及ぶというケースが急激に増えています。
スマートフォンによる盗撮は、特に次のような点が特徴です。
- 撮影音を発生させないため、無音のカメラアプリや動画撮影モードを利用する
- 女性に対して低い位置にいて不自然でないことから、駅や商業施設内のエスカレーターでの犯行が多い
- 小型カメラ型カメラによる盗撮
カメラの性能向上により、小型のカメラであっても十分鮮明な画像を撮影することができるようになりました。
このため、小型カメラによる盗撮も多く発生しています。
手口としては、カバンにカメラを潜ませた状態で女性の足元に置くようなやり方や、小さな穴を開けた靴にカメラを仕込んで撮影するといった方法があります。 - 偽装カメラによる盗撮
カメラの小型化は、カメラ自体を小さくすることのほかに、メガネや腕時計、ペンといった身の回りのものに偽装することも可能としました。
これらのものは一見してカメラと分からないほど精巧にできており、また普通に所持していて違和感のないものばかりですから、学校や会社といった日常的な場面での盗撮によく用いられます。
ペン型カメラで女子高校生のスカート内を盗撮したとして、成田署は21日、県迷惑防止条例違反(盗撮)の疑いで県市町村総合事務組合(千葉市中央区)の職員、X容疑者(41)=成田市宝田=を現行犯逮捕した。逮捕容疑は同日午前7時5分ごろ、成田市馬橋のJR成田駅西口エスカレーターで、県内の女子高生(17)の背後から動画撮影機能付きのペン型カメラをスカート内に差し向け、盗撮した疑い。同署によると、容疑者は通勤途中だったといい「間違いない」と容疑を認めている。目撃した男性が容疑者を取り押さえた。
引用元:2022年4月21日 千葉日報
隠しカメラを設置した盗撮
盗撮は、カメラを所持して撮影するだけでなく、トイレや更衣室などにカメラを設置する形で行われることもあります。
機器を設置するタイプの犯行についても、カメラの小型化により、見つかりづらい形での設置が容易となっています。
実例2 経営する歯科医院内に小型カメラ設置 女性従業員を盗撮疑いで歯科医の男逮捕 伊丹
経営する歯科医院内に盗撮目的で小型カメラを設置したとして、兵庫県警伊丹署は12日、県迷惑防止条例違反の疑いで、同県三田市の歯科医師の男(47)を逮捕した。
逮捕容疑は11日午後8時ごろ、伊丹市の歯科医院の着替えなどをする部屋に、ペン形カメラを置いた疑い。
「女性従業員が着替える状況を盗撮していたことに間違いない」と容疑を認めている。
同署によると、女性従業員が休憩や食事などをする場所で、ペン形カメラは冷蔵庫と側壁の隙間に挟まっていたという。
11日夜、着替えを終えた従業員の一人がペンに気付き、自宅に持ち帰って調べたところカメラと確認。
自身が着替える様子などが写っており、同署に通報した。
男は「今年の春ごろからやり出した」と供述しているといい、同署は余罪を調べる。
その他のカメラによる盗撮
盗撮の手口は多様化しており、以上のほかにも、想像もつかないような方法で盗撮されることがあります。
たとえば、望遠レンズを用いて遠く離れた地点から露天風呂を盗撮するといった事件が起こったこともあります。
24時間盗撮を警戒していたら気の休まる暇がありませんので、過剰に心配しすぎるのも考え物ですが、思いもよらない手口で盗撮されることがある点は頭の片隅に入れておいたほうがよいでしょう。
実例3 「盗撮のカリスマ」ら3人、望遠レンズで露天風呂のぞく…100m超離れて撮影・動画を売買
組織的に露天風呂を盗撮したとして、静岡県警は3日、茨城県行方市、無職の男(49)、鹿児島県鹿屋市、同県職員の男(40)、岡山市北区、無職の男(32)の3容疑者を兵庫県迷惑防止条例違反容疑で逮捕したと発表した。
発表によると、3人は共謀して9月下旬頃、兵庫県内で露天風呂に入浴中の女性を望遠レンズ付きのビデオカメラで盗撮した疑い。
認否は明らかにしていない。
茨城県の男は、インターネット上などで「盗撮のカリスマ」として知られ、盗撮グループのリーダーを務めていたという。
岡山市の男が10月、静岡県藤枝市内の駐車場で職務質問を受けた際、車内にあったのこぎりについて、「盗撮に邪魔な木を切っていた」と説明。
所持していたビデオカメラから盗撮とみられる動画が見つかり、県警が捜査していた。
動画は100メートル以上離れて撮影されたものもあり、仲間同士で売買していたという。
県警は他にもグループのメンバーがおり、全国で盗撮を繰り返していたとみて調べている。
盗撮はバレない?
このように、盗撮の手口は年々巧妙化しているのですが、バレないかというと、そんなことはありません。
現に、盗撮による逮捕の報道を連日のように目にすることも珍しくなくなりました。
なぜ盗撮がバレるのかを一言に要約すると、「バレるまで続けてしまうから」ということに尽きます。
たしかに、盗撮の手口が巧妙になればなるほど、1回あたりの発覚する確率は低下するかもしれません。
しかし、盗撮行為には一種の依存性があり、一度「成功体験」を覚えてしまうと、そこから深みにはまって抜け出せなくなるという例が非常に多いのです。
そうなってしまうと、後はもう「いつ捕まるか」という時期だけの問題となってしまいます。
盗撮の衝動が抑えられなくなるといった事態を招かないためにも、絶対に盗撮行為を行わないよう気をつけなければなりません。
盗撮で逮捕される可能性については、こちらをご覧ください。
盗撮のデメリット
盗撮は条例で規制された犯罪行為であり、多くのデメリットがあります。
逮捕や刑罰のような刑事上のデメリットはもちろん、社会生活を送る上のデメリットも多くあります。
刑事手続上のデメリット
盗撮は犯罪であり、刑事事件として処理されるため、手続きの進行に伴い、次のようなデメリットが発生します。
- 逮捕・勾留される可能性がある
- 起訴される可能性がある
- 有罪判決を受ける可能性がある
逮捕・勾留される可能性
盗撮が発覚すると、逮捕の可能性があります。
犯行の瞬間に現行犯逮捕されることもありますし、後日逮捕状により通常逮捕されることもあります。
逮捕されると、最大で72時間にわたり身柄が拘束されることになります。
また、逮捕につづいて勾留や勾留延長という手続きがとられると、最大で20日間の拘束がつづきます。
逮捕・勾留されるかは事件次第であり、身柄を拘束されない「在宅事件」として捜査が進むこともあります。
逮捕・勾留により何週間も身体拘束がつづくと、生活に与える影響も小さくなく、大きなデメリットといえるでしょう。
盗撮により逮捕されるケースについて、より詳しくはこちらをご覧ください。
起訴される可能性
起訴とは、刑罰を科すために容疑者を刑事裁判にかけることをいいます。
不起訴処分になることもあり得るものの、盗撮が犯罪である以上、起訴されるおそれがあることは否定できません。
起訴されると、統計上は99.9パーセントの確率で有罪判決となります。
さらに、起訴されること固有のデメリットとして、勾留されている状態で起訴された場合、保釈されない限り、判決が出るまで勾留されつづける点が挙げられます。
起訴前の勾留が延長を含めても最長で20日間であるのに対し、起訴後の勾留は判決が出るまで(短くても2か月程度)つづくことになるのです。
有罪判決を受ける可能性
起訴された場合、無罪判決を得るのは非常に困難です。
盗撮で有罪となると、上限で100万円の罰金や2年の懲役といった判決が出る可能性があります。
また、執行猶予付き判決の場合は、直ちに服役する必要はありませんが、前科がつくことには変わりありません。
社会生活上のデメリット
盗撮のデメリットは以上のような刑事手続き上のものだけでなく、さまざまな社会生活上の不利益が発生する可能性があります。
- 会社を解雇される可能性(会社員の場合)
- 退学処分の可能性(学生の場合)
- 損害賠償の支払い
会社を解雇される可能性(会社員の場合)
盗撮をしたのが会社員の方の場合、盗撮が発覚すると会社を解雇されるおそれがあります。
たとえ業務外の非行であっても、会社の名誉や信用を失墜させるような非行についてはもはや会社と無関係とはいえないため、懲戒事由となり得るのです。
特に、盗撮を行ったのが社内であれば、職場の秩序を維持する観点から解雇を含めた厳しい処分が出されることも覚悟しなければなりません。
退学処分の可能性(学生の場合)
盗撮をしたのが学生の場合は、学校から停学や退学といった処分を受けるおそれがあります。
多くの学校は、学則で「性行不良」や「学生の本分に反した」といった懲戒事由を定めています。
万が一退学処分となれば最終学歴も変わってきますので、就職活動などにも影響が及んできます。
また、停学処分や逮捕・勾留などにより出席日数が不足し留年となることも考えられます。
損害賠償の支払い
盗撮は刑事事件であると同時に、被害者に対して損害賠償責任を負う民事事件としての側面も有しています。
賠償額は事案により様々ですが、刑事の方で罰金刑の判決を受ける可能性も考えると、罰金と合わせて100万円近い額になることもあり得ます。
盗撮は、金銭的にも大きなデメリットをもたらすのです。
まとめ
以上、盗撮の手口について機材別に解説しましたがいかがだったでしょうか。
近年、盗撮はスマホのほか、小型カメラ、偽装カメラ等の様々な機材が用いられています。
これらの行為は犯罪行為として処罰されるだけでなく、社会生活上大きな不利益を受ける可能性があります。
したがって、安易な気持ちで盗撮をすることを絶対にやめてください。
また、すでに盗撮をしてしまった方は、更正のために自首、示談、謝罪などの方法を通じた弁護活動が重要となります。
そのため、早い段階で刑事事件に詳しい弁護士へのご相談をお勧めいたします。
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なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか