電車で盗撮したらどうなる?事例・罰則・その後の流れを弁護士が解説

近年、スマートフォンのカメラ性能の向上なども相まって、盗撮での検挙が増えています。

盗撮はその性質上公共の場所で行われるケースが多いのですが、この記事ではその中でも特に被害の多発している電車での盗撮について、逮捕される事例や罰則などを解説します。

電車での盗撮は犯罪となる?

盗撮とは

盗撮とは一般に、承諾を得ることなく他人の容姿を無断で撮影することをいいます。

もっとも、了承を得ずに撮影する行為のすべてが違法となるわけではありません。

盗撮行為を規制しているのは、性的姿態撮影等処罰法(撮影罪)及び各都道府県が定めている条例(迷惑防止条例)となります。

したがって、盗撮行為が犯罪となるかについては、撮影罪および迷惑防止条例のそれぞれについて、確認する必要があります。

 

撮影罪について

撮影罪は、人の性的姿態をひそかに撮影する行為等を処罰の対象としています。

引用元:性的姿態等撮影処罰法2条1項1号から4号

性的姿態とは、具体的には次のものをいいます。

  • 性的な部位、すなわち、性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部
  • 人が身に着けている下着のうち現に性的な部位を覆っている部分
  • わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態

また、ひそかに撮影する行為としては、スカートの中にスマートフォンを差し向けたり、隠しカメラを使って撮影したりなど、撮影の対象者に気づかれないようひそかに撮影する盗撮行為が挙げられます。

したがって、電車において、これらの行為をすると撮影罪として処罰されることとなります

撮影罪について詳しい解説はこちらをご確認ください。

 

迷惑防止条例違反について

47都道府県のすべてが盗撮を規制する条例を制定しており、「迷惑防止条例」といった名称のものがこれに当たります。

条例ごとに微妙に定め方は異なりますが、ここでは東京都の条例を例にとってご説明します。

根拠条文

第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。

一 (略)

二 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。

イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所

ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)

三 前二号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

引用元:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例|東京都ホームページ

条例の原文ですので、読み慣れていないと複雑に見えるかもしれませんが、電車を含む公共の乗物において、「通常衣服で隠されている下着又は身体」を撮影し、又は撮影目的で撮影機器を差し向ける行為(撮影準備行為)が盗撮であるとされています。

後ろ姿など、衣服の上からの撮影するのは、「通常衣服で隠されている下着又は身体」を撮影したとはいえませんので、条例上の盗撮にはあたりません。

ただし、胸や臀部などをことさら強調して撮影するなど、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為」と認められるものについては、「卑わいな言動」として処罰される可能性があります。

また最近では、このような性的強調がなくても、撮影行動の全体を観察して卑わいな行為と判断する例も出てきています。

盗撮についてのさらに詳しい解説は、こちらをご覧ください。

 

 

盗撮の刑罰

撮影罪に該当する場合

撮影罪については、法定刑が「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」となっています。

引用元:性的姿態等撮影処罰法2条1項1号

 

 

迷惑防止条例違反の場合

盗撮の刑罰は、各自治体ごとに異なります。

例えば、東京都の例では、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(ただし、常習性がある場合は「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」)と定められています。

引用元:東京都迷惑防止条例

 

どのような行為が盗撮となる?~代表的な5つの事例~

近年の盗撮事案で特徴的なのは、スマートフォンによる犯行が増加傾向にあることです。

従来は小型の撮影機をあらかじめ用意しておく必要があったのに対し、スマートフォンは、今では万人が持っていると言っても過言でないほどに普及しています。

わざわざカメラを用意してまで盗撮しようと思わない人までもが、ついうっかりと「魔が差してしまう」ということがあり得る社会状況になっているのです。

撮影の規制対象が「通常衣服で隠されている下着又は身体」とされている関係上、多くの事例がスカート内の盗撮になっています。

ただしすでにご説明したとおり、近年は後ろ姿など衣服の上からの撮影であっても、性的な意図がうかがえる場合には「卑わいな言動」として摘発される事例が見られます。

以下では、実際に起こった事件をいくつかご紹介します。

 

スカート内の盗撮

実例1 機動隊巡査長、休日で酒に酔って…地下鉄で10代女性のスカート内を盗撮

電車内で女性のスカート内を盗撮したとして、警視庁第2機動隊に所属する20歳代の巡査長の男が、6日に東京都迷惑防止条例違反(盗撮)容疑で城東署に逮捕されていたことが同庁幹部への取材で分かった。7日に釈放され、警視庁が任意で捜査を続けている。同庁幹部によると、巡査長は5日午後11時頃、江東区を走行中の東京メトロ東西線下り電車内で、乗客の10歳代女性のスカートの中にスマートフォンを差し入れて盗撮した疑い。当日は休日で酒に酔っていたといい、「間違いない」と容疑を認めているという。

引用元:2022年3月8日付け 読売新聞オンライン

実例2 横浜市課長、電車内の盗撮で停職

横浜市は22日、市営地下鉄の電車内で女性を盗撮したとして、都市整備局総務課の担当課長(54)を停職1カ月の懲戒処分にした。神奈川県警に県迷惑行為防止条例違反の疑いで書類送検され、不起訴になったという。「女性を見て衝動的に撮ってしまった」と事実関係を認めている。市によると、課長は代休を取っていた昨年11月5日午後、向かいの席に座っていた女性の脚部を複数回スマートフォンで撮影した。女性とは示談が成立しているという。

引用元:2022年2月22日 中國新聞デジタル

実例3 保護観察所課長を逮捕、警視庁 電車内で盗撮疑い

電車内で女性を盗撮したとして、警視庁玉川署が東京都迷惑防止条例違反の疑いで、東京保護観察所の企画調整課長の男を現行犯逮捕していたことが25日、同署への取材で分かった。逮捕容疑は24日夜、東京都世田谷区を走行中の電車内で20代女性を盗撮した疑い。玉川署は「捜査に支障がある」として、認否や当時の詳しい状況を明らかにしていない。

引用元:2022年6月25日 共同通信社

実例4 検察事務官、電車内で女子高生のスカート内盗撮…乗客気づき110番

女子高校生のスカート内を盗撮したとして、茨城県警水戸署は24日、水戸地検検察事務官の男(42)(茨城県つくば市)を県迷惑防止条例違反容疑で逮捕した。発表によると、男は23日午前7時35分頃、JR常磐線友部駅(同県笠間市)に停車中の電車内などで、通学途中だった同県の女子高校生(17)のスカート内を盗撮した疑い。容疑を認めているという。同じ車両に乗っていた男性が男の不審な様子に気づき、110番した。同署は電車が走行中にも撮影していたとみて調べている。

引用元:2021年4月24日 読売新聞オンライン

 

衣服の上からの撮影

実例5 服の上から盗撮も「卑わいな言動」 被告側の上告棄却、有罪確定へ

小型カメラで女性の尻付近をスカートの上から動画撮影したとして、東京都迷惑防止条例違反に問われた男性被告(52)の上告審で、最高裁第1小法廷(安浪亮介裁判長)は5日付の決定で、被告側の上告を棄却した。

衣服の上からの撮影であっても条例が禁じる「卑わいな言動」に当たるとして、1審・東京地裁立川支部の無罪判決(2021年1月)を破棄して懲役8月の実刑とした2審・東京高裁判決(今年1月)が確定する。

小法廷は決定で「前かがみになった女性のスカートの裾と同程度の高さで至近距離からカメラを構えており、人を著しく羞恥させる行為だ」と指摘した。

裁判官4人全員一致の意見。

東京高検検事長として控訴審に関わった堺徹判事は審理から外れた。

2審判決によると、被告は20年5月、東京都町田市のアニメグッズ専門店で、女性の後方から約5秒間、スカートを着用した尻を撮影するなどした。

1審は「被告が女性を付け狙うなど執拗(しつよう)でなかった」などとして無罪とした。

これに対し2審は、被告がカメラを黒色のテープで覆った状態で女性を撮影するなど、周囲から見ても盗撮を疑われる状況だったため「人を著しく羞恥させる卑わいな言動」に当たると判断。

被告が過去に盗撮を繰り返していたことから、実刑が相当と結論付けた。

引用元:2022年12月6日 毎日新聞

 

 

電車の盗撮で逮捕される場合

逮捕には大きく分けて、犯行のその場で逮捕される現行犯逮捕と、逮捕状を取得してから行う通常逮捕があります。

現行犯

電車での盗撮は、公共の乗物において行われるという性質上、被害者や目撃者に盗撮行為を発見されての現行犯逮捕が多い印象があります。

駅員に引き渡された上、駆けつけた警察官に逮捕される場合のほか、現行犯人については捜査官でない私人でも逮捕できますので(刑事訴訟法213条)、被害者や目撃者に取り押さえられて逮捕されることもあり得ます。

引用元:刑事訴訟法|e-Gov法令検索

後日

現行犯で逮捕されなかった場合でも、後日逮捕状を取得して通常逮捕されることもあります。

電車での盗撮の場合、たとえその場を逃れたとしても、防犯カメラの映像や改札の入退場履歴が残りやすいことから、その後の捜査で犯人として特定されやすいといえるでしょう。

また、職務質問や別件の捜査でスマートフォンなどを確認された結果、画像が発見されて犯行が発覚し逮捕に至るというケースもあり得ます。

 

 

電車の盗撮で逮捕されない場合

犯罪と逮捕をイコールでお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、犯罪を犯したからといって、必ずしも逮捕されるとは限りません。

容疑者を逮捕せず、取り調べの都度呼び出すことで捜査を進める在宅捜査という方法もあり、容疑者を逮捕するのは、逮捕すべき必要のある場合に限られるのです。

現行犯の場合はその場で逮捕されてしまうため、逮捕されないのは、現行犯で逮捕されず、かつその後の通常逮捕も回避し在宅捜査が選択された場合ということができます。

自首

通常逮捕される可能性を下げる方法のひとつとして、逮捕される前に自ら警察に出頭して自首することが考えられます。

通常逮捕をする際には、容疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがあることを要するのですが、自首することで、これらの行動に出る意思がないことを先に明らかにしてしまうのです。

自首したとしてもなお逃亡のおそれがあると判断されることもあるため、自首すれば逮捕されないというものではありませんが、逮捕されることの不利益を考えれば、積極的に検討すべきといえるでしょう。

刑事事件を多く取り扱っている弁護士であれば、自首に同行するといった形の依頼を受けることもできます。

自首を考えているが決心がつかないということであれば、刑事事件の経験が豊富な弁護士に相談されることをおすすめします。

 

示談

一般に、被害者のいる犯罪は、被害者との間で示談を成立させることで逮捕の可能性は低くなります。

示談成立は加害者の反省の表れといえますし、当事者間では紛争は解決しており刑事的にも寛大な処分が期待できるにもかかわらず、あえて逃走して不利な状況を招くことも考え難いといえるからです。

ただし、電車での盗撮については、偶然出くわした被害者を撮影するという犯行の性質上、警察に盗撮が発覚し、捜査が開始される前に被害者の連絡先を把握して示談交渉をするということは、限りなく困難と思われます。

このため、捜査が開始されて、警察から呼び出しを受けた段階(任意の事情聴取)で、弁護士を通じて、被害者に連絡を取り、示談交渉を開始するという流れが一般的です。

 

既に逮捕されている場合は示談は意味がない!?

盗撮では、任意の事情聴取を経ずに、いきなり逮捕されるケースも多くあります(現行犯逮捕の場合など)。

この場合、既に逮捕されているため、示談を成功させても逮捕を免れることはできません。

しかし、たとえ逮捕後であっても、示談を成立させることの持つ意味は大きいと言えます。

勾留、起訴、判決という逮捕後の流れのどの段階においても、示談が成立しているという事実は、加害者にとって有利な事情として考慮されるのが通常だからです。

盗撮をしてしまった場合、逮捕の前後にかかわらず被害者との示談を念頭においておくことが重要と言えます。

とはいえ、盗撮のような性被害については、被害者の処罰感情が強く示談交渉が難航することも少なくありません。

もし被害者と示談する意向がおありの場合は、早急に弁護士にご相談されるとよいでしょう。

示談交渉の経験が豊富な弁護士に早めに依頼しておくことで、その後のスムーズな交渉が期待できます。

 

 

電車の盗撮で逮捕、その後の流れ

盗撮で逮捕された場合、次のような流れで事件は進行します。

  • 1
    逮捕
  • 2
    送検
  • 3
    勾留
  • 4
    起訴
  • 5
    判決

 

逮捕

警察は容疑者を逮捕すると、その時点から48時間以内に容疑者を検察官に送致(そうち)しなければならず、容疑者の送致を受けた検察官は、24時間以内に容疑者の勾留を請求するか判断します。

すなわち逮捕されると、最大で72時間にわたり身柄を拘束されることになるのです。

 

送検

通常、逮捕から48時間以内に、事件と身柄が検察に送られます。

これが「送検」と呼ばれる手続きです。

送検を受けた検察官は、勾留請求を行うかどうかを判断するため、弁解録取の手続きを行います。

弁解録取とは、容疑者の言い分を簡易的に聴き取る手続きを指します。

このときに作成された書面(弁解録取書)は、のちの裁判で証拠として用いられることがあるため、実質的には取り調べに類するものと考えて慎重に臨む必要があります。

弁解録取の手続きが終了した後、検察官が勾留請求を行う必要があると判断した場合、裁判官に対し容疑者の勾留を請求します。

 

勾留

裁判官は、勾留の要件に照らして、勾留を認めるかの判断をします。

勾留の要件

容疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があって、かつ、次の①から③のいずれか1つに該当すること

  1. ① 定まった住居を有しないとき
  2. ② 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
  3. ③ 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき

引用元:刑事訴訟法|e−GOV法令検索

勾留が認められるとどうなる?

勾留されると、10日間にわたり身柄拘束が続きます。

また、最長で10日間を上限として、勾留延長される可能性があります。

すなわち、延長を含めると最大で20日間拘束が続くことになります。

 

起訴

起訴とは、刑事裁判にかけられることを意味します。

起訴前の勾留は最長でも20日間ですが、起訴された場合、保釈されない限り判決まで勾留が続くことになります。

 

判決

判決の種類としては、執行猶予付きの判決、実刑判決や無罪判決などが挙げられます。

犯行を否認している場合は無罪判決を目指すことになりますが、無罪判決を得られる確率は極めて低いものとなっています。

日本の刑事裁判では、起訴されると99%以上が有罪となっています。

そのため、刑事事件においては、起訴を回避することが最大の弁護活動となります。

 

まとめ

このページでは、電車内での盗撮について、犯罪として成立する要件や逮捕されるか否かについて解説しました。

最後に、改めて要点を整理します。

  • 盗撮は刑法ではなく、都道府県が定める迷惑防止条例によって処罰の対象とされている。
  • 盗撮の対象は「通常衣服で隠されている下着又は身体」だが、衣服の上からの撮影であっても、「卑わいな言動」として処罰される可能性がある。
  • スマートフォンの普及により盗撮被害が増加傾向にあり、出来心で盗撮してしまわないよう気をつける必要がある。
  • 自首によって逮捕の確率を下げられる可能性があり、刑事事件を得意とする弁護士に依頼することが効果的である。

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