淫行したらバレてしまいますか?【弁護士が解説】
目次
淫行とは
そもそも、「淫行」とはどのような行為を指すのでしょうか。
この点については、最高裁の判例が、「淫行」を以下のように定義しています。
『淫行』とは、…青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。
なお、「青少年」とは、18歳未満の児童のことを指すとお考えください。
この判決によれば、「淫行」とは、①「心身の未成熟に乗じた不当な手段」を用いて青少年と性的な行為を行うこと、あるいは②「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象」として扱うような態様で性的な行為を行うことを指すということになります。
①②に当てはまらない例としては、青少年と真剣な交際関係にあり、その交際の中で性行為に及んだ場合が考えられます。
また、18歳未満が「淫行」を行った場合も、処罰の対象とはなりません。
つまり、例えば高校生同士で性的な行為を行ったとしても、淫行条例違反として処罰を受けることはないということになります。
- 「心身の未成熟に乗じた不当な手段」を用いた場合
- 「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象」として扱った場合
→真剣な交際関係にある場合、双方とも18歳未満である場合は対象外
淫行条例とは
淫行条例とは、都道府県が制定している青少年保護育成条例のうちの、「淫行」「みだらな性行為」「わいせつな行為」などを規制する条例のことをいいます。
したがって、正式な名称は青少年保護育成条例であり、淫行条例は通称名となります。
淫行条例違反の場合の法定刑は、各自治体によって異なります。
例えば、福岡県や主要都市の法定刑は下表のとおりです。
都道府県 | 児童淫行の場合 | 児童に淫行を教示し、または見せること |
---|---|---|
福岡県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
東京都 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 規定なし |
大阪府 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 | 規定なし |
愛知県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
引用元:福岡県青少年保護育成条例
引用元:大阪府青少年健全育成条例
引用元:愛知県青少年保護育成条例
どのような行為が淫行にあたる?
既に見たとおり、「淫行」とは、18歳未満の青少年と性行為、または性交に類似する行為を行うことです。
「淫行」とよく似た犯罪に、「児童買春」があります。
「児童買春」は、18歳未満の青少年に対して金銭を支払い、性行為または性交に類似する行為を行うことです。
これに対し、「淫行」の場合は、青少年との間で金銭のやりとりはなされていないことが前提となっています。
まとめると、「淫行」にあたるのは、金銭のやりとりこそないものの、青少年と真剣な交際関係にないにも関わらず性的な行為を行った場合であるということになります。
未成年への淫行は何罪になる?
淫行を行ってしまった場合、各都道府県の青少年健全育成条例違反の罪が成立する可能性があります。
例えば、東京都で淫行を行ってしまった場合は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処すると規定されています(東京都青少年の健全な育成に関する条例第18条の6、第24条の3)。
(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)
第18条の6 何人も,青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない。
(罰則)
第24条の3 第18条の6の規定に違反した者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
淫行の時効
罪を犯してしまった場合の時効については、刑事訴訟法250条に定めがあります。
淫行の場合の法定刑は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっていますので、この場合は刑事訴訟法250条2項6号に基づき、時効は淫行を行った時から起算して3年となります。
①(略)
② 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
(略)
六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
(略)
淫行はどのような状況で発覚する?
淫行の事実が発覚する経緯としては、様々な可能性が考えられます。
被害に遭った青少年、もしくはその親族が警察に通報したことで発覚するケースだけではありません。
被害に遭った子どもが、他の異性とも同様の行為を行っていた場合、他の人間が検挙されれば、そこから芋づる式に発覚する可能性もあります。
また、被害に遭った青少年が何らかの非行に走ったりして補導された場合、捜査機関は補導した青少年の携帯電話などを調べることになります。
その際に、淫行に関するやりとりが発覚し、そこから淫行の相手方が特定される可能性もあります。
会社や家族に知られてしまう?
一般に、淫行をしてしまった場合において、淫行の事実を素直に認めており、事案がさほど悪質なものではないのであれば、逮捕・勾留される可能性はさほど高くはないと考えられます。
もっとも、多数の余罪があり、事案が悪質であるなどの事情がある場合は、逮捕・勾留する可能性も否定はできません。
淫行は、児童売春ほどではないにせよ重大な犯罪であり、更なる被害児童の発生を食い止める必要性が高いですし、逮捕しなければ、児童と接触をしたり、逃げようとしたりする可能性が高いからです。
逮捕・勾留の期間は、逮捕が最大72時間、勾留が最長20日間であり、合わせると最長で23日間に及びます。
淫行を含めた青少年健全育成条例違反の事実が発覚した事案において、逮捕されたのは全体の27%程度となっています(2020年検察統計)。
逮捕の段階であれば、体調不良や出張などと会社や家族に説明をすることで、場合によっては事実を隠すこともできるかもしれません。
しかしながら、勾留され20日間出勤ができず家にも帰ることができないとなると、会社や家族に隠し通すのはかなり難しいといえるでしょう。
児童買春ほどではないにせよ、淫行という犯罪に手を出してしまった場合、会社や家族に発覚するというリスクは避けられないものとして受けとめる必要があります。
淫行での逮捕や勾留を免れるために
しかしながら、早期から弁護人を選任し、適切な弁護活動を展開することによって、逮捕や勾留を免れることができる可能性があります。
示談を成立させたり、事案の軽微性や本人の反省、身元引受人の存在等を主張したりすることによって、身体拘束の必要性がないと判断されることがあるのです。
そして、逮捕や勾留を免れることができれば、会社や家族に児童買春の事実が知れ渡らない可能性も生まれてくるでしょう。
また、捜査機関への発覚前であれば、自首も検討すべきです。
自ら罪を犯したことを認め、捜査機関に正直に話して反省の意思を示すことで、逮捕・勾留のリスクをさらに下げることができる可能性があります。
淫行で不起訴になるケースとは?
では、淫行を行ったものの、不起訴となるのはどのような場合でしょうか。
真剣な交際関係にあったという主張が認められた場合
まず、青少年との間で真剣な交際関係にあったことを検察官に理解してもらえた場合は、犯罪が成立しないものとして、不起訴処分となると考えられます。
未成年との間で真剣な交際関係にあるという主張をしたとしても、捜査機関は簡単にはこの主張を鵜呑みにしません。
そのため、真剣な交際関係にあったことを示すために、日々のメッセージのやりとりや、真剣な交際関係にあったことを示す証拠を揃え、捜査機関に提出することが必要になります。
18歳未満であるという認識がなく、18歳未満であることを知らなかったことにつき過失がない場合
また、子どもの側が実際には18歳未満であるにも関わらず、18歳以上であるなどと年齢を偽っており、加害者側も相手が18歳以上であると過失なく信じていた場合は、犯罪の成立に必要な「故意」がないものとして、犯罪が成立しません。
そのため、このような場合は、捜査機関としても起訴することは難しく、不起訴処分とすることになるでしょう。
もっとも、18歳未満であることを知らなかったことにつき過失がないと判断される条件は厳しいといえます。
「髪を染めていた」「化粧をしていた」などと、見た目からして18歳以上であろうと判断した場合や、年齢を確認していたとしても、メッセージでのやり取りや口頭で年齢を確認した程度では、過失があると判断されてしまうでしょう。
また、出会い系アプリの中には、身分証を用いた年齢確認を行うものもあるようです。
そうした出会い系アプリで出会った相手と性行為を行ったところ、相手が未成年だったというケースもしばしば見られますが、年齢確認を経てアプリに登録していたとしても、相手が18歳未満であると信じたことにつき過失があると判断される可能性はあります。
なぜなら、免許証などを用いて年齢確認を行う場合、両親の免許証を使ってしまえば登録はできてしまうため、年齢確認のあるアプリに登録していたという事実のみでは、相手方が確実に18歳以上であるとは断言できないからです。
当然ながら、出会い系アプリを利用すること自体は犯罪には当たりませんが、相手の年齢に違和感を覚えた場合は、身分証を見せてもらって年齢を確認することが望ましいといえます。
他方、身分証により年齢を確認したものの、子どもの側が身分証を精巧に偽造していたような場合は、過失がないと判断される可能性があります。
年齢確認のために必要な手段を講じたにも関わらず、それでも気づくことが不可能であったといえる事情があれば、18歳未満であると知らなかったことにつき過失がないと判断されることになります。
被害者及びその家族との間で示談が成立した場合
また、被害者との間で示談を成立させることも、不起訴処分となる可能性を高めるといえます。
成人の場合と異なり、淫行を処罰する理由は、青少年の性被害を社会全体で防止しようという考えも含まれています。
そのため、被害者本人が許していても、淫行を行った者を処罰することは、社会にとっても必要なことだと考えられているといえます。
したがって、成人の場合に比べて、示談の効力はやや弱まると言わざるを得ません。
しかしながら、被害者及びその家族が加害者のことを許しており、刑事処罰を求めないとの意思表示まで行っているのであれば、捜査機関もこうした意思を重視すると考えられます。
ですので、淫行を行ってしまった場合において、不起訴処分となる可能性を高めるためには、被害者及びその家族との間で示談を成立させることが有益であるといえます。
なお、被害者が未成年であることから、示談交渉の相手方は、被害者の法定代理人(両親など)となります。
まとめ
「真剣に交際していた」「18歳未満であるとは全く思わなかった」などといった事情があるにも関わらず、捜査機関がそうした主張をまともに取り合ってくれない場合、捜査機関に事実と異なる不利な供述調書を作成されないように注意しなければなりません。
並行して、真剣に交際していたこと、あるいは18歳未満であると知らなかったことにつき過失がなかったことを捜査機関にアピールするための材料を適切に選択し、捜査機関に提出することも必要です。
このように、犯罪の成立自体を争う場合は、刑事事件に注力する弁護士を選任し、取調べ対応や証拠提出など様々な面において、適切なアドバイスを受けることが不可欠といえるでしょう。
また、犯罪の成立を認め、示談交渉を行うことを希望する場合は、被害者が18歳未満の子どもであることもあり、その両親と示談交渉をする必要があります。
淫行は、子どもの成長に大きな悪影響を与える犯罪ですから、両親も被疑者に対し強い敵対意識を持っており、示談交渉はほぼ確実に難航します。
両親の心情にも配慮し、粘り強く、丁寧に交渉することが求められますから、できる限り早期に刑事事件に注力する弁護士を選任することが重要になります。
淫行事件を起こしてしまいお困りの方、家族等への発覚リスクを最小限化したい方は、刑事事件に注力する弁護士にご相談されることをお勧めします。
この記事が皆さんのお役に立てば幸いです。