覚せい剤とは知らなかった場合でも覚せい剤使用の罪に問われてしまう?
何らかの違法ドラッグであるとは知っていましたが、覚せい剤であるとは知りませんでした。
それでも覚せい剤使用の罪に問われてしまうのですか?
覚せい剤使用の罪が成立するためには、覚せい剤を使用することについての故意が必要です。
故意とは、覚せい剤を使用することについての認識のことです。
覚せい剤ではないと思っていたのであれば、故意がなく犯罪は成立しないことになります。
質問者は、「何らかの違法ドラッグ」と知っていたとのことです。
何らかの違法ドラッグとは具体的にどのようなものを想像していたのでしょうか。
仮に覚せい剤である可能性を除外していなかったのであれば、覚せい剤使用の故意があったと認定されます。
というのも、故意で必要となる認識の程度は、「覚せい剤である」という確定的なもののみならず、「覚せい剤かもしれない」といった不確定的なもので十分であると考えられているからです。
未必の故意と呼ばれています。
実際のところ、「覚せい剤であるとは知らなかった」という主張が認められる可能性はかなり低いといえます。
覚せい剤を明確に除外した違法薬物の認識しかなかったと主張したとしても、なぜ覚せい剤ではないと思っていたのか、捜査機関や裁判所からは詰問されることでしょう。
覚せい剤ではなく別の薬物であったと考えていたことに理由があると考えられる場合でも、完全に処罰を免れる訳ではありません。
軽い刑罰を定めている罪の限度において犯罪の成立が認められるとした裁判例も存在します(最高裁第一小法廷昭和61年6月9日判決)。
判例 最高裁第一小法廷昭和61年6月9日判決
「両罪は、その目的物が麻薬か覚せい剤かの差異があり、後者につき前者に比し重い刑罰が定められているだけで、その余の犯罪構成要件要素は同一であるところ、麻薬と覚せい剤との類似性にかんがみると、この場合、両罪の構成要件は、軽い前者(麻薬)の罪の限度において、実質的に重なり合っているものと解するのが相当である。被告人には、所持にかかる薬物が覚せい剤であるという重い罪となるべき事実の認識がないから、覚せい剤所持罪の故意を欠くものとして同罪の成立は認められないが、両罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で軽い麻薬所持罪の故意が成立し同罪が成立するものと解すべきである。」
また、裁判例においては、以下のように尿中から覚せい剤が検出された場合には、有罪の推認が働くとするものも多く存在します(高松高等裁判所平成8年10月8日判決他)。
そのため、覚せい剤と知らずに摂取したから覚せい剤使用の故意がないという弁解を行なったとしても、特段の事情がない限りは裁判所に認めてもらうことは出来ません。
判例 神戸地方裁判所姫路支部令和2年6月26日判決
「覚せい剤は、法律上その取扱いが厳格に制限され、取扱資格者でない者は、その使用、所持及び譲渡が禁止され、その違反に対しては厳罰をもって取り締まりがなされている薬物であるため、一般の日常生活において、それが覚せい剤であると知らないうちに誤って体内に摂取されるというようなことは通常ではあり得ないことである。
したがって、被告人の尿中から覚せい剤が検出された場合には、他人が強制的に、あるいは被告人不知の間に、覚せい剤を被告人の体内に摂取させたなどの被告人が覚せい剤を使用したとはいえない特段の事情が存在しない限り、経験則上、被告人の尿中から覚せい剤が検出されたということのみで、自らの意思に基づいて覚せい剤をそれと認識した上で摂取したものと推認するのが相当である。」
「覚せい剤かもしれないなどと一瞬も考えたことがないのに・・・」と不満に思われることでしょうが、そもそもの原因は、違法ドラッグと知りながらそのドラッグを使用してしまったことです。
体に異様な影響があるにもかかわらず、それを繰り返したり楽しんだりしたことです。
あなたにとって、逮捕されたことは、長い目で見ればプラスになるかもしれません。
大切な体を守るために、これを機に、薬物依存から抜け出しましょう。
もちろん、私たち弁護士があなたの言い分をないがしろにすることはありませんし、不起訴処分・無罪判決獲得のために全力を尽くします。
ですが、弁護士は、不起訴・無罪判決等を獲得することだけが仕事ではありません。
あなたが薬物依存から抜けだし、胸を張って社会に復帰できるように、何らかの手助けができればと考えています。
覚せい剤で逮捕されお困りの方、家族が逮捕されお困りの方、薬物依存から抜け出すきっかけを求めている方、刑事事件に注力する弁護士が所属する当事務所にお気軽にご連絡ください。
なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか