助成金の不正受給|逮捕される可能性や罰則について
新型コロナウイルスが猛威を振るっていた2020年頃から、感染拡大に伴う行動規制などの影響により、多数の事業者が甚大な損害を被ることとなりました。
現在も感染状況は一進一退の状況であり、事業者の皆様におかれては思うに任せぬ日々が続いていることと推察いたします。
そのような事業者への救済のため、政府は「持続化給付金」及び「雇用調整助成金」の新型コロナウイルス特例措置をはじめ、さまざまな補助金・助成金を受給できる仕組みを用意しました。
これらが適切に支給されれば、多くの事業者の一助となることは明らかですが、他方でこれらの補助金・助成金を不正に受給する行為も見られます。
以下、各種助成金の不正受給についてご説明いたします。
目次
そもそも不正受給とはどういう行為?
持続化給付金も、雇用調整助成金の特例措置も、コロナによる急激な売上減少に苦しむ事業者を少しでも早く救済するという趣旨で設けられたものであり、可能な限りスピーディーに事業者に支払われる必要がありました。
そのため、政府の方針としても、一つ一つの申請につき、時間をかけて正確な審査を行うことより、少しでも早い事業者への救済を優先することとなったのです。
不正受給は、そうした政府の方針を逆手に取り、厳しい審査がなされないことを良いことに、虚偽の申請を行って補助金や助成金の交付申請を行う際、実態と異なる虚偽の事実を記載した書類を提出するなどして、本来なら交付を受けられない助成金の交付を受けることを指します。
なお、実際に受給ができなくとも、不正な書類を提出して申請行為を行った時点で不正受給とみなされてしまいますので、注意が必要です。
助成金の不正受給の事例
持続化給付金の不正受給
まず、持続化給付金を受給するための要件について確認していきます。
持続化給付金の受給要件は、下記のとおりとなります。
- ① 新型コロナウイルス感染症の影響により、ひと月の売上が前年同月比で50%以上減少している事業者
- ② 2019年以前から事業による事業収入(売上)を得ており、今後も事業を継続する意思がある事業者
- ③ (法人の場合)資本金の額又は出資の総額が10億円未満であるか、常時使用する従業員の数が2000人以下である事業者
これらの要件のうち、①及び②について虚偽の申請を行い、不正に持続化給付金を受給するケースが多かったといえます。
具体的には、要件①について、ひと月の売上を過小に記載し、50パーセント以上の減収となったと偽って申請するケースや、要件②について、そもそも個人事業主としての実態がなく、今後も事業を継続する意思のない学生やフリーターが、個人事業主であると偽って申請するケースが挙げられます。
雇用調整助成金の不正受給
雇用調整助成金の特例措置についても、支給対象となる事業主が満たすべき適用要件を、不正受給が問題となりうる点に絞って確認していきます。
厚生労働省が作成した「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)」によれば、雇用調整助成金の特例は、下記の4つの要件を満たす事業主が支給対象になると記載されています(参考:厚生労働省HP)。
- ① 「新型コロナウイルス感染症の影響」により
- ② 「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合
- ③ 従業員の雇用維持を図るために、「労使間の協定」に基づき
- ③ 「雇用調整(休業)」を実施する事業主
①の「新型コロナウイルス感染症の影響」とは、観光客のキャンセルや、営業自粛要請を受けた休業が原因で売上が減少したなどの事情により、経営環境が悪化したことを指します。
②の「事業活動の縮小」とは、売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近1か月間(休業を開始した月が原則ですが、その前月または前々月でも良いとされています)の値が、1年前の同じ月に比べ5%以上減少していることを指します。
なお、1年前の同じ月と比較して要件を満たさない場合は、2年前または3年前の同じ月との比較が可能です。
さらに、そのいずれとも要件を満たさない場合、休業した月の1年前の同じ月から休業した月の前月までの間の適当な1か月との比較が可能です。
③の「労使間の協定」とは、労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者と事業者との間で締結する、休業の実施時期や日数、対象者、休業手当の支払い率などについての協定のことを指します。
この協定は、書面によってなされる必要があります。
そして、事業者がこの協定に沿って、④の「雇用調整(休業)」を現実に実施することが必要です。
このうち、①や③について虚偽の申請を行う例は多くありませんが、②及び④に関して不正な申請がなされるケースは散見されるようです。
具体的には、②については売上の減少額を過大に申請することが挙げられます。
また、④については、雇用調整助成金の不正受給事案として、特に数が多いといえます。
これは、実際には休業することなく業務に従事していた従業員を、休業中であると偽って申請するケースや、取引先に従業員を派遣し、業務にあたらせているにもかかわらず、自社のオフィスに出勤していないことをいいことに、休業中であると偽って申請するケースなどが挙げられます。
具体例 「雇用調整」に関する不正の代表例
- 実際には働いているのに休業中と偽って申請
- 自社に出社せず派遣先で働いているのに休業中と偽って申請
雇用調整助成金の不正受給について詳しくはこちらをご覧ください。
助成金の不正受給の罪名と罰則
詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性
持続化給付金、雇用調整助成金のいずれについても、不正であることを認識した上で申請を行い、助成金を受給してしまった場合は、刑法上の詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性があります。
罰則
詐欺罪が成立する場合、10年以下の懲役に処せられる可能性があります。
持続化給付金の場合、法人が受給する場合でも最大200万円という上限がありますが、雇用調整助成金に関しては、休業期間や対象者の人数などの諸事情により金額が変動しますので、場合によっては支給額が1000万円以上の金額にのぼる可能性もあります。
被害額が高額であり、被害弁償ができていないような場合は、不正受給を主導した者に対し、実刑判決がなされる可能性もありますので、注意が必要です。
詐欺罪について、より詳細にはこちらをご覧ください。
不正受給で逮捕される可能性は?
不正受給の事案については、支給後に事後的な書類の調査が行われており、徐々に発覚の件数が増えつつあります。
その中には、書類の一部を改ざんして、本来よりも過大に受給してしまったという事案から、そもそも受給要件を欠いているにもかかわらず、全くの虚偽である書類を作り上げることで、高額な助成金を騙し取ったと言われても仕方のないような悪質な事案、さらには事業者自身には虚偽の申請を行う意図はなくとも、申請を依頼した社会保険労務士が独断で不正な申請を行ってしまった事案など、さまざまなケースが見られます。
上記の事案はいずれも不正受給となりうるものですが、全ての事案において経済産業省や労働局が刑事事件として通報するわけではありませんし、仮に通報がなされたとしても、必ず逮捕されるわけでもありません。
持続化給付金に関しては、経済産業省が自主返還を呼びかけており、自主的に連絡をして返還手続をとることができます。
こうした自主返還を行うことで、警察への通報を回避できる可能性があります。
雇用調整助成金についても、厚生労働省が通報窓口を設けており、自発的に連絡をして返金を申し出ることで、刑事事件化を回避できる可能性があります。
引用元:雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金の不正受給に関する通報窓口一覧|厚生労働省
警察への通報などを防ぐ手段について、詳しくはこちらをご参照ください。
不正受給で逮捕された場合の流れ
助成金等の不正受給が原因で、詐欺罪の被疑者として逮捕されてしまった場合、検察官は高い確率で裁判所に対し勾留請求を行うと考えられます。
多くの場合、裁判所は勾留を許可する決定を出しますが、勾留決定が出てしまうと、逮捕期間の3日間と合わせ、最長で23日間にわたり警察署内の留置施設に収容され、取調べを受けることになります。
これほどの期間、警察署から出ることができなければ、特に個人事業主の場合は全く業務を行うことができず、経営にさらなる打撃を生じさせることは必至でしょう。
逮捕されてしまった場合、上記の流れで事件が進行してしまう可能性が高いといえますので、極力逮捕されないよう、後述するような対策を事前に講じておく必要があります。
仮に、悪質な事案であると判断されてしまい、自主返還などができず、警察に通報され逮捕されてしまった場合は、早期に弁護士をつけ、適切な弁護活動を受ける必要があります。
具体的には、ことさらに不利な供述調書を作成されないよう、取調べへの対応について詳細なアドバイスを受けるとともに、弁護士から勾留の必要がないことを検察官や裁判官にアピールしたり、勾留決定が出てしまった場合でも勾留決定に対する準抗告(刑事訴訟法429条)を行うなど、勾留を回避するための活動を迅速に行うことが望ましいでしょう。
雇用調整助成金の不正受給による逮捕の可能性について、より詳細にはこちらをご覧ください。
また、逮捕されてしまった場合の流れについて、より詳細にはこちらをご覧ください。
不正受給をしてしまった場合の対処法
不正受給をしてしまった場合、速やかに返還のための窓口に連絡を取り、返金を申し出る必要があります。
経済産業省や厚生労働省は、現在も過去に遡って申請資料の事後的なチェックを続けています。
持続化給付金の不正受給に関与し、多額の被害額を出したとして逮捕されてしまった事件が現在でも大々的に報道されていることからも明らかなとおり、こうしたチェック作業はかなり徹底的に行われているといえるでしょう。
ですので、今まで連絡が来ていなかったとしても、不正な申請を行ったことは、いずれ発覚する可能性が高いと考えられます。
他方で、自主的に返還窓口に連絡を入れた上で真摯に謝罪を行い、早期に返金手続をとることで、刑事事件化を回避できた事案も少なからず存在します。
場合によっては、事情聴取の場に弁護士を同行し、弁護士からも返金の見通し等について説明を行うなどのサポートを受けることも、刑事事件化を回避する上では有効といえます。
厳密には警察への自首とは異なりますが、こうした事情聴取に弁護士を同行することのメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。
繰り返しにはなりますが、これらの給付金については、支給されてからある程度期間が空いていることから、現時点で不正受給に関する連絡が来ていなかったとしても、いつ連絡が来てもおかしくない状況であると考えるべきです。
そのため、逮捕・勾留されるのみならず、前科がついてしまい、場合によっては実刑判決を受けるという最悪のケースを回避するために、少しでも迅速な動き出しが求められるといえます。
前科について、詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
以上、持続化給付金や雇用調整助成金の不正受給について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
「簡単な申請でお金がもらえる」などと軽い気持ちで不正受給を行ってしまった方もいらっしゃるかもしれませんし、どうしても事業が行き詰まってしまい、追い詰められて不正受給に手を染めてしまったという方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、不正受給は詐欺罪が成立しうる行為であること、詐欺罪は場合によっては実刑判決もあり得る重大な犯罪であることを、今一度しっかりと認識する必要があります。
コロナ禍が少しずつ落ち着き、事業が再び軌道に乗り始めた頃に不正受給の疑いがかかり逮捕されるなどといった事態が生じることだけは、何としても回避しなければなりません。
万一、不正受給に心当たりのある場合は、速やかに返還窓口に連絡を取り、誠意ある対応を取られることをお勧めいたします。
今後の対応につきご不安な方は、刑事事件に注力する弁護士に早期にご相談ください。