振り込め詐欺で逮捕|その後の流れ・逮捕されないポイントを解説
この記事でわかること
- 振り込め詐欺とはどのような犯罪か
- 振り込め詐欺で逮捕されるのはどのような場合か
- 振り込め詐欺で逮捕される確率
- 振り込め詐欺で逮捕された場合の手続きの流れ
- 振り込め詐欺で逮捕された場合のリスク
- 振り込め詐欺で逮捕されることを防ぐ2つのポイント
目次
振り込め詐欺はどんな犯罪?
「振り込め詐欺」とは、詐欺罪として処罰される犯罪行為の類型の一つです。
電話やメールなどによるやりとりを経て相手を騙し、金銭の振込みや手渡しを要求するタイプの詐欺行為が挙げられます。
子や孫を装って高齢者に電話をかけ、「事故を起こしたので示談金が必要」などと虚偽の情報を伝えて金銭を要求するケースや、融資や投資の話を持ちかけ、保証金名目で金銭を要求するケースなど、様々な手法が日々生み出されています。
こうした振り込め詐欺は、単独で犯行に及ぶケースは多くなく、むしろ複数の共犯者で役割を分担するなど、組織的な犯行に及ぶケースが多いといえます。
振り込め詐欺について、詳しくはこちらをご覧ください。
詐欺罪の法定刑は、「10年以下の懲役」となっています。
詐欺罪の刑罰として定められているのは懲役刑のみであり、罰金刑が定められていません。
そのため、詐欺罪について処罰を受けることになる場合、必ず公判請求(刑事裁判にかけること)されることになります。
詐欺罪一般について、より詳細にはこちらをご覧ください。
振り込め詐欺で逮捕される場合とは?
逮捕される法律上の条件
当然ですが、捜査機関は何の制約もなく被疑者を逮捕できるわけではありません。
被疑者を通常逮捕するには、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」と「逮捕の必要性」が存在しなければなりません(刑訴法第199条第1項・第2項)。
② 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、(中略)前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
(以下略)
「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」とは、客観的な証拠に基づき、罪を犯した合理的な疑いがあることをいいます。
逮捕のもう一つの条件として、逮捕の必要性が認められることが挙げられます(刑事訴訟規則143条の3)。
逮捕の必要性とは、逃亡したり、証拠を隠滅したりするおそれがあるため、身体を拘束しておくのが相当であるといえることを指します。
仮に、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が認められる場合であっても、被疑者の年齢、境遇、犯罪自体の重さや行為態様、その他の様々な事情を踏まえ、逮捕の必要があるかどうかを判断することになります。
その結果、逃亡するおそれも証拠を隠滅するおそれもないと判断される場合は、逮捕状の発付を受けることができないため、被疑者を通常逮捕することはできません。
もっとも、振り込め詐欺に関していえば、被害者から実際にお金を直接受け取る「受け子」に関しては、金銭を手渡しにより受領したその時点で、詐欺罪の既遂犯(未遂ではなく、犯罪行為を終えたこと)が成立することになります。
ですので、その瞬間を警察官が目撃していれば、逮捕状の発付を待たずして、その場で受け子を担当している者を現行犯逮捕できることになります(刑事訴訟法第212条、第213条)。
②(以下略)
第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
逮捕について、より詳しくはこちらをご覧ください。
振り込め詐欺で逮捕される確率
振り込め詐欺にあたる行為を行ってしまった場合に、逮捕される可能性はどの程度あるのでしょうか。
令和5年度犯罪白書によれば、令和4年に検察庁にて認知された詐欺事件は1万6846件であり、このうち逮捕された者の数は全部で8116名です。
これらの数字を前提とすると、詐欺罪で逮捕される確率(身柄率)は48.2%となります。
また、逮捕された後に検察官が勾留請求を行う割合は、逮捕者の99.4%に上り、逮捕された者のうち、実際に勾留された者は、逮捕された8116人中8017人となっています。
そのため、詐欺で逮捕された場合に勾留までされる確率は約98.8%となり、詐欺罪で逮捕された場合はほとんどの事案で勾留までされてしまうことになります。
参考:令和5年版犯罪白書
以上のデータには、振り込め詐欺以外の態様による詐欺罪の事案も含まれていますので、振り込め詐欺を行った場合に逮捕される確率を正確に算出できるわけではありません。
ですが、振り込め詐欺は通常、単独で行われる類型の犯罪ではなく、何名もの共犯者と協力して役割を分担しながら行うケースがほとんどです。
一般的に、共犯者が複数いることが想定されるケースにおいては、共犯者間での口裏合わせや証拠隠滅を防ぐため、逮捕・勾留して取調べを行う必要性が高まります。
まして、振り込め詐欺などの特殊詐欺については、その収益が反社会的勢力に流れていることもあり、捜査機関としても背後にある組織の全容を解明しようと考える可能性は高いでしょう。
そのため、振り込め詐欺の事案については、他の態様による詐欺罪と比べて取調べが長期間にわたるケースも多いと考えられます。
ですので、振り込め詐欺が発覚した場合に逮捕される確率は、通常の詐欺事件の場合と比べて、さらに高まるといえるでしょう。
実際に逮捕されるケースとは?
振り込め詐欺を行ってしまい、捜査機関に発覚した場合は、逮捕される可能性は高いといえます。
特に、振り込め詐欺による被害額が高額である場合や、詐欺グループに所属して多人数で協力しながら詐欺行為を行ったなどの場合は、犯罪行為の悪質性が高く、共犯者間での口裏合わせや証拠隠滅の可能性が高いと判断され、逮捕・勾留される可能性が高まると考えられます。
また、振り込め詐欺の受け子(お金を取りに行く役割)については、被害者が騙されたふりをするなど、捜査機関が被害者と協力して犯人をおびき出し、被害者からお金を受け取った瞬間に、詐欺罪の現行犯として逮捕されるケースもあります。
振り込め詐欺で逮捕された場合の手続きの流れ
振り込め詐欺で逮捕されてしまった場合、まずは警察署内の留置施設に収容されます。
その後、警察から検察庁に対し、48時間以内に詐欺事件について事件送致がなされます。
検察官は、送致を受けてから24時間以内に被疑者を勾留するかどうか判断しなければならないとされています。
検察官からの勾留請求を裁判所が認めた場合、最長で20日間にわたって警察署内で留置されることになります。
ですので、逮捕の期間である72時間(3日間)と合わせ、最長で23日間、警察署内の留置施設で過ごさなければならなくなる可能性があります。
捜査の結果、被疑者が罪を犯したことを立証できるだけの十分な証拠が揃ったと検察官が判断した場合は、当該事件について起訴され、刑事裁判が開かれることになります。
詐欺罪の場合、法定刑は「10年以下の懲役」のみであり、罰金刑が定められていません。
そのため、略式起訴によって簡易な手続で事件を終結させることはできませんので、起訴されることを回避できなければ、裁判所において刑事裁判が開かれることになります。
刑事裁判を受け、手続の中で言い渡された判決が確定すれば、判決内容どおりの刑を受けることになります。
逮捕後の流れと逮捕を防ぐ方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
振り込め詐欺で逮捕された場合のリスク
家族に知られてしまう
まず、逮捕されてしまうと、少なくとも72時間(3日間)は帰宅できなくなる可能性が高いです。
その後、勾留まで認められてしまうと、最長で23日間にわたり帰宅ができないことになります。
振り込め詐欺事件の場合、事案の内容にもよりますが、特に組織的な詐欺行為が行われていた場合などは、一般的に捜査が長期化することが予想されます。
捜査機関としても、詐欺グループを一網打尽に摘発したいと考えるでしょうから、共犯者に働きかけて証拠を隠滅するようアドバイスしたり、逃亡を促したりすることも想定される中で、せっかく逮捕した者をみすみす釈放するとは考え難いといえます。
そのため、捜査機関が23日間より早い時期に被疑者を釈放する可能性は、現実的には乏しいでしょう。
場合によっては、起訴後に保釈が認められる段階まで帰宅ができないかもしれません。
数日間の不在だけで済むのであれば、「急な出張が入った」などと伝えることでごまかしが効く可能性もありますが、これだけの期間にわたって自宅に帰ることができないとなると、ご家族も心配することになるでしょう。
場合によっては、逮捕されたことに感づいて、警察や職場に問い合わせたりするかもしれません。
職場を解雇される可能性がある
また、逮捕・勾留の期間が延びてしまうと、そもそも仕事にも行けなくなってしまいます。
体調不良などと伝えておけば、数日間なら職場に発覚せずにやり過ごすこともできるかもしれません。
しかし、上述したように、最長23日間にわたって勾留が続いてしまうと、職場との関係でも逮捕・勾留された事実を隠し通すことは難しくなるでしょう。
また、職場から、体調不良なのであれば通院した上で診断書を出すように指示が出た場合は、取り繕うことも困難になります(虚偽の診断書を作成すると、有印私文書偽造罪など別の犯罪が成立する可能性もありますのでご注意ください)。
逮捕・勾留中は家族との面会を制限される可能性がある
加えて、共犯者が複数いる詐欺の類型では、「接見禁止」の決定がなされることがあります。
被疑者の家族や事件の関係者が面会に来ることで、自宅に残っている証拠品の処分を頼んだり、まだ逮捕されていない共犯者への伝言を頼むなどして間接的に働きかけることで、証拠隠滅や逃亡を図ったりすることを防ぐために、面会できる人間に制限がかかることがあるのです。
この接見禁止の決定がなされた場合、原則として勾留中は弁護人以外との面会ができなくなってしまいます。
ですが、早期に弁護人を選任すれば、家族など一定の関係性がある人間については、事件に一切関係がないこと、証拠隠滅と疑われることを一切しないことを誓約する書面を作成して裁判所に提出し、接見禁止の一部解除を申請することができます。
報道される場合もある
また、振り込め詐欺の容疑で逮捕されてしまった場合、在宅事件の場合と比べて、実名報道のリスクも高まります。
確かに、全ての刑事事件が報道されるわけではないため、仮に逮捕されたとしても運良く報道されずに済むケースもあります。
しかし、振り込め詐欺に関しては往々にして被害額が高額になるケースも多いことから、社会的にも厳しい目で見られる可能性が高いといえます。
そのため、振り込め詐欺で逮捕者が出たというニュースは、社会の興味関心を惹きつけやすいテーマであると考えられます。
そのため、被害者が多数存在し、被害総額も高額になるようなケース、大規模な詐欺グループの一員が逮捕されたケースなどでは、実名報道の可能性がさらに高まるといえるでしょう。
刑事裁判に発展した場合、初犯でも実刑判決を受ける可能性もある
詐欺事件全般に共通していえることですが、既に見たとおり詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役刑のみですので、詐欺罪が成立し有罪判決を受ける場合、判決の内容は懲役刑のみになります。
詐欺罪の成立自体を争わない場合、執行猶予をつけられるかどうかが裁判における争点となるケースが多いです。
しかし、振り込め詐欺は往々にして高齢者をターゲットにするような類型が多く、その手口も身内を案じる気持ちや還付金等に関する知識の乏しさにつけ込むものであって、極めて悪質であると判断されることが多いといえます。
そのため、振り込め詐欺を行なってしまった場合、無銭飲食などをはじめとする他の詐欺事件と比較しても、刑罰の内容が重めになるケースが多いと考えられます。
後述する示談交渉により、被害者にだまし取ったお金を返金した上で許しを得ることができれば、執行猶予付判決が言い渡されることも珍しくありません。
しかしながら、振り込め詐欺の場合は被害者が多数存在し、被害額もかなり高額に及ぶケースが一般的には多いといえます。
そのため、返金するお金を用意できず、そもそも示談交渉を行うことすらできないこともあります。
被害者への返金が満足にできない状況では、当然ながら被害者の方々にも許してもらえず、結果として実刑判決が言い渡される可能性が高まってしまいます。
逮捕されないための2つのポイント
弁護士同行で自首をする
詐欺罪にあたる行為をしてしまった場合に、逮捕される可能性を下げるための手段として、自首をすることが考えられます。
捜査機関に発覚する前に自首をして、自らの行いにつき深く反省していること、今後は誠意を持って被害弁償を行う意向があることなどを伝え、警察の方で記録に残しておいてもらうことが望ましいでしょう。
「わざわざ自分から正直に警察に自首した人間が、今後逃亡したり証拠を隠滅したりする可能性は低い」と考えてもらえれば、逮捕されることを防げるかもしれません。
自首について、詳しくはこちらをご覧ください。
示談交渉を成功させる
自首の検討と並行して、弁護士を通じた被害者との一刻も早い示談交渉も、捜査機関への発覚や逮捕・勾留を防ぐ上では極めて重要であるといえます。
詐欺罪のような、お金を騙し取られた被害者が存在する事案においては、被害者にお金を返し、誠心誠意謝罪をすることで許してもらう(示談を成立させる)ことが、処分を決定する上で非常に大きな意味を持ちます。
示談を持ちかける上で、被害者の心情を考えると、少なくとも被害金額については、全額を返金しない限り許しを得られる可能性は下がると言わざるを得ません。
ですが、全額を返せないからといって返金する意味がなくなるわけではありません。
足りない分については、今後社会復帰を果たした後に少しずつでも働いてお返しすることを約束するなど、誠意を持って謝罪をし、反省を伝えるべきです。
仮に起訴されてしまい、有罪判決を受ける可能性が高まったとしても、一部でも被害者に対して返金を行なっていたり、被害者からの許しを得られていたりすれば、裁判では有利な事情として考慮してもらえます。
その結果、懲役の期間を短くできる可能性、さらには執行猶予付判決を獲得できる可能性を高めることができます。
もっとも、振り込め詐欺の場合、組織的な犯行がなされている以上、被害者の数も多く、その分だけ被害総額も高額になります。
振り込め詐欺グループによる犯行については、被害総額が億単位にのぼるケースも散見されますし、それだけの金額を一人で返済することは現実的ではないかもしれません。
ですが、被害者のお気持ちに寄り添いつつ、できる限りの被害弁償を提案するなど、粘り強く交渉していく必要があります。
振り込め詐欺の場合、逮捕・勾留されているケースが多く、自ら被害者に連絡を取って交渉することは難しい状況が多いと考えられます。
そのため、基本的に示談交渉は弁護士に任せることが必要です。
刑事事件に精通した弁護士を選任し、示談交渉を任せれば、刑事事件に関する豊富な経験に基づき慎重に交渉を行いますので、示談成立の可能性を高めることができるといえます。
示談交渉について、詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
以上、振り込め詐欺で逮捕された場合の流れや逮捕を回避する方法についてご説明しましたが、いかがでしたでしょうか。
昨今ではSNS上でも「闇バイト」と称して、振り込め詐欺の受け子などを募集することがしばしばあるようです。
割の良いバイトと考えて、軽い気持ちで振り込め詐欺に加担してしまう方が増加していますが、振り込め詐欺は詐欺罪の中でも悪質な類型であると考えられており、逮捕され起訴されてしまうと厳罰が科されることが予想されます。
目の前の高額な報酬に目が眩み、大切な人生を棒に振ってしまうことのないよう、十分に気をつけていただければと思います。
「振り込め詐欺に加担してしまったかもしれない」「身近な人が振り込め詐欺で逮捕された」などのご不安を抱えていらっしゃる方は、すぐに刑事事件に精通している弁護士にご相談ください。
本文でも触れたように、自首同行や示談交渉など、ご自身で反省を深め、被害者に誠意ある対応を行うことで、今後の処分を少しでも軽減させられるかもしれません。
そのためには、お一人で動くのではなく、弁護士の力を借りることが不可欠といえるでしょう。
この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。