万引きを繰り返してしまうのはなぜ?【クレプトマニアを弁護士が解説】
万引きを繰り返す原因は?
日々多くの犯罪が起こっている中で、圧倒的な件数を誇るのが窃盗罪です(令和5年版犯罪白書)。
その多くはコンビニやスーパー等での万引きであり、警察に捕まってもなかなか止められない人達がいます。
これらの人は、単に規範意識が低いだけとは限らず、クレプトマニアという病気である可能性があります。
近年、某女性アスリートが窃盗罪で逮捕されたときにこの病気を患っていたことが報道され、世間での認知度も向上したことと思います。
クレプトマニアは、治療をすることなく放置していたとしても治るものではありません。
放置した結果、何度も万引きを繰り返して逮捕され、最終的には実刑判決を受けることになってしまうケースもあります。
逮捕や裁判が度重なることで、社会復帰が困難となってしまうため、早期の治療が必要といえるでしょう。
以下では、クレプトマニアについて詳しく説明していきます。
クレプトマニアとは?
クレプトマニア(窃盗症)とは、経済的利得目的以外で窃盗行為という衝動を反復的に実行する症状であり、精神障害の一種です。
摂食障害との併存が多いと言われていますが、原因としては、ストレスや脳疾患が考えられるもののはっきりとした原因が解明されているわけではありません。
クレプトマニアかどうかは、以下のような5つの基準によって判断されます。
- 個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗ろうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返されること。
- 窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり
- 窃盗に及ぶときの快感、満足、または開放感
- その盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものではなく、妄想または幻覚への反応でもない。
- その盗みは、素行症、躁病エピソード、または反社会的パーソナリティ障害ではうまく説明されない。
1の基準に厳格に当てはめた場合、一般的に万引き行為をする方は、万引きした商品を食べたり、利用したりしているでしょうから、1の基準に該当しないということになります。
1の基準は自分が欲しいものだけを盗むことが常態化している人や、お金が無いから盗むという人を除外するための基準であるとされています。
そのため、万引きの動機としてよくある、「生活費の節約のため」「お金を払うのが勿体無い」といった理由で万引きを繰り返す人達が、この1の基準によって窃盗症ではないと判断されることになります。
各基準に該当するか否かは、医師による専門的な診断を受けなければ分かりません。
万引きを何度もしてしまうという人は、一度病院で診断を受けることをお勧めします。
クレプトマニアは裁判でどのように扱われるのか
以前は、クレプトマニアという病気自体が裁判所に理解されておらず、量刑の考慮要素になっていなかったこともありました。
しかしながら、近年、クレプトマニアと認定できる者に対しては、刑務所での服役よりも専門的な治療を受けることを重視すべきという考えが広まっており、執行猶予付き判決や罰金刑とされることが増えています。
判例 保護観察付きの執行猶予期間中に、再犯に及んだ窃盗被疑事件の裁判例
クレプトマニアの治療を継続するべきとの判断がされました。【東京高裁平成28年5月31日判決】
このような流れがあるとはいえ、クレプトマニアであると判断されたとしても、必ず実刑を回避できるというわけではありません。
上記裁判例は、「罰金刑とすることが裁量を逸脱しているとまでは直ちにいえない」と判断しているのみであり、「被告人がクレプトマニアであれば必ず罰金刑とするべき」とは判断していません。
すなわち、刑罰の選択は裁判官の裁量にかかっており、裁判官が事案に応じて最も適切な更生方法を選択した結果、クレプトマニアの診断書等があったとしても実刑判決となることも十分にありえます。
このように、裁判となった場合でも、クレプトマニアであることが認定されれば実刑判決を免れる可能性はありますが、確実な保証はありません。
病気だからといって万引きを行うことが正当化されるわけではありませんから、クレプトマニアであることに早期に気付き、治療を行っていくことで真の問題解決が出来るといえるでしょう。