倒産を回避するために事前にするべきことはたくさんあります。
企業の再建にあたっては、企業を取り巻く外部環境や内部環境を適切に分析し、企業の今後の方向性を見定めることが重要になります。
企業に再生可能性がありますか?
企業の資金繰りが悪化し、負債を返済することができない状況に陥り、その資金繰りの悪化が一時的な手元不如意でなければ、企業は清算をするか、抜本的な再建を図るかという選択に迫られます。
そのような局面で、企業を清算するか、再建を図るかの判断の基準となるのが、再生可能性があるか否かという視点になります。
企業に再生可能性が乏しいのであれば、これ以上事業を継続しても、損失が拡大するのみであるから事業を停止し、傷口の拡大を防ぐことが最優先となります。
他方、企業に再生可能性がある場合には、再建を図り、負債を返済する力をつけ、可及的な返済をすることが企業の債権者の利益にもなります。
このような局面で、企業の再建を図るか、それとも破産をするかの判断基準は、最終的には企業に再生可能性があるかという点に尽きます。
再生可能性がないにも関わらず事業を継続すれば、損失が無益に拡大する、財産の逸失の危険性などの大きな不利益が生じる可能性があるため、このような局面では再生可能性を適切・迅速に判断することが求められます。
企業の命運が左右される局面ですので、時間がない中でも再生可能性の有無は慎重に判断しなければなりません。
経営者の一存や専門家の経験則などの不明確・不明瞭な基準に頼ることなく、数値や金額の根拠を示しながら、個別具体的かつ専門的な判断が行われなければなりません。
それでは、再生可能性はどのように判断されるのでしょうか?
結論としては、企業が抱えた負債の返済について、相当程度の確実性が備わった計画を作成できるかどうかが重要になります。
そして、負債の返済を相当程度の確実性をもって行うためには、通常時よりも高い利益率を獲得できる見込みが必要となります。
再生を行う企業は、負債の返済という負担があるため、健全な企業よりも高い売上高営業利益率を獲得できなければ、健全な経営状態を取り戻すことができないからです。
再生の一歩は経費削減から
再生の第一歩はまずは経費等を削減し、現時点での売上高でしっかりと利益を出す、利益率を上げる体制を再構築することが重要です。
まずは、原価と販管費の各勘定科目を一つ一つ丁寧に確認し、余分な経費が使われていないかを探っていきます。
経費削減を十分に行った上で、次に、後述の外部環境分析や内部環境分析を行い、企業がとるべき方針を検討・決定することになります。
外部環境分析とは?
外部環境分析には、マクロ環境分析とミクロ環境分析とがあります。
この分析の目的は、環境変化が個別企業の市場戦略にどのように影響してくるかを見定めるものです。
それは、外部環境の変化の中に機会と脅威を探り、事業領域の見直しとマーケティング戦略の再確立を図るために行います。
例えば、福岡県の場合、韓国や中国から多くの観光客が訪れており、福岡県の経済に大きな影響を与えています。
福岡県の企業においてはこのような観光客の存在は切っても切れない関係であり、その反面、外交問題などによって大きな影響を受けることがあります。
令和元年の日韓関係の悪化によって、福岡県に訪れた観光客は大きく減少しました。
その結果、韓国人観光客をターゲットに経営をしていた企業は大きなダメージを受けることになりました。
そのような企業の場合、今後は、外交問題に大きな影響を受けない日本人客をメーンのターゲットに添えるべきという方針になります。
マクロ環境分析
マクロ環境分析は、PEST分析と呼ばれることがあります。
これは、政治・法律的要素(Politics)、経済的要素(Economic)、社会・文化的要素(Social)、技術的要素(Technology)のそれぞれの英文の頭文字をとったものです。
この4つの要因の特徴を整理することによって、環境変化が個別企業にどのような機会と脅威を与えているかを整理することができます。
現在におけるマクロ環境の変化の特徴は、経済のグローバル化であり、産業構造、及び社会構造は急激な変化をしています。
ミクロ環境分析
マクロ環境分析が、規制・税制などの法律の制定・改定、景気・為替・金利・などの経済情勢、出生・死亡率などの人口統計、資源・公害・災害などの環境問題、技術革新、価値観・ライフスタイルなどの文化等を対象にするのに対して、ミクロ環境分析は、業界規模・成長性・顧客ニーズなどの業界環境、寡占度合い・参入撤退障壁などの業界内の競合状況、新製品開発、他産業からの代替製品の参入などの製品動向、特許・技術動向等を対象にします。
企業の競争条件、市場動向、業界構造に直接的に影響を与える外部経営環境をミクロ環境と呼びますが、現在の日本では、マクロ環境の変化が企業のミクロ経営環境に直接影響を与えていると言われています。
したがって、個別企業の外部経営環境分析は、このミクロ環境分析を中心に行い、環境変化へ対応戦略を検討していくことになります。
ここで重要なのは、競争条件の変化、市場動向の変化、業界構造の変化がどのように進展しているかを具体的に把握することです。
内部環境分析とは?
中小企業の場合、扱っている製品分野も多くなく、ましてや複数事業を展開している企業は極めて少ない状況です。
つまり、今日の多くの中小企業は、主力の製品を柱にした単一事業であることが多いと言えます。
こうした中小企業にとっての経営危機は、その単一事業の競争力が減退し、キャッシュフロー創出能力が弱体化したことによって生じることがほとんどです。
このような状況で、企業が事業の競争力を増大させ、キャッシュフロー創出能力を強化することができるかを見極めるために、内部環境分析を行うことは有意義といえます。
内部環境、つまり、経営資源とは、企業が保有するヒト・モノ・カネ・情報(技術)を指します。
企業が再生できるかどうかは、自助努力によるところが大きく、それは持てる経営資源によって決すると言っても過言ではありません。
その際に、重要なのは、事業デューデリジェンスによって、企業の実態を正確に把握し、再生可能性の判断を行うことです。
以下では、事業デューデリジェンスを実施する際などに専門家がどのような点に着目するのかをご説明いたします。
ヒトとは、具体的には、経営者、従業員のことであり、組織、人事制度なども含まれています。
経営者については、経営者の姿勢・能力などすべてについて分析します。
経営者が今後の再建のために適する人材か否かを判断・見極めることが重要なことは言うまでもありません。
たとえば、経営者に必要なリーダーシップについて考えてます。
経営者がリーダーシップを発揮するために必要な能力は、専門能力、管理能力、人間力だと言われています。
専門能力とは、事業そのものや財務・経理・人事などについても経営者として必要な知識を持っているかどうかです。
管理能力とは、従業員をしっかり管理する能力です。人間力とは、経営者としての人格、器量をみて、従業員がついてきてくれるかどうかです。
これらの点を複眼的に見て、経営者に今度の再建を任せても良いかを検討します。
従業員に関しては、年齢、勤続年数はもちろん、能力、やる気などについても調査・分析します。
組織についても適切かどうか、機能しているかどうか、適材適所で人員配置されているかなどを検討します。
また、人事制度はモチベーションを高める制度になっているかなどを詳細に調査します。
企業の事業内容に応じて、設備、取扱製品、在庫などが効率よく利用できているか。
製造原価を減少できないか、在庫ロスを減少できないかなどを中心に調査・分析をします。
金融機関の担当者は、資金調達力ということで自己資本の内容、外部借入金の詳細、債務者区分、保証関係などを特に確認しています。
そのため、これらの点について、問題点はないか、問題点がある場合には解決可能か否かを検討する必要があります。
また、資金繰りを把握するこおとも重要です。
経営破綻に陥った企業の多くは、資金繰りに逼迫していますから、経営再建計画を作成する段階及び実行段階において、資金繰りが破綻することのないように十分な注意が必要です。
情報には、会計システムやERPなど情報システムや企業の持つ情報のほかに、ノウハウなどもこれに含まれます。
技術には特許などの知的財産やヒトに属する技能も含まれます。
例えば、製造業でいえば、技術には開発技術もあれば生産技術もあります。
また、生産方式や生産工程、営業基盤、販売力、小売行では接客サービスのスキルなども含まれます。
したがって、情報・技術は広範囲にわたるものですが、重要なことはこれらの情報・技術がどの程度、競合他社と差別化が図られているかという視点です。
もしくは、現時点では差別化ができていない場合でも、今後差別化が図れる必要があります。
特に情報・技術は無形財産であり、数値化は難しいですが、情報・技術の優越によって再建計画の実行可能性に大きく影響を与えますので、十分に調査・分析することが必要です。
SWOT分析とは
企業の経営資源の分析によく使用される手法にSWOT分析があります。
自社を取り巻く経営環境を内部環境と外部環境に分けて自社の「強み」「弱み」「機会」「脅威」を分析しようとするものです。
外部環境におけるビジネスチャンスは何か?自社との関連性は高いか?という観点で外部環境分析の結果を整理するものです。
機会の例として、高齢化社会における消費構造の変化などが挙げられます。
外部環境におけるビジネスリスクは何か?自社との関連性は強いか?という観点から外部環境分析の結果を整理するものです。
技術革新による画期的新商品の登場、海外からの低価格品の流入などが挙げられれます。
自社の強みは何か?他社に比較して勝っている部分は何か?という観点から自社分析の結果を整理するものです。
強みの例としては、独自の技術力・ノウハウなどが挙げられます。
自社の弱みは何か?他社に比較して劣っている部分は何か?という観点から自社分析の結果を整理するものです。
弱みの例として、財務体質からくる資金調達力の不足、知名度の低さによる人材獲得難、などが挙げられます。
そして、この分析から得られた情報をもとに機会をいかすための具体的な方策は何か?
新たな事業機会は生まれているのか?
脅威を克服することはできないのか?
こうしたことについて、蓄積している経営資源を活用して対応できるかを検討するのにSWOT分析の意義があります。
以上において、外部環境分析、内部環境分析の手法やその必要性などをご説明しましたが、このような分析はなるべく企業内外の関係者が関与のもと行われることが望ましいと言えます。
これによって、多角的な発想や問題点の発見につながり、より効果的な再生計画の作成につながると考えられますので、今後の企業経営に不安や悩みがある経営者は一度弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。