差し押さえは家に来る?リスクと対処法を弁護士が解説


不動産や債権(預貯金、給料など)の差し押さえの場合、差し押さえが行われる段階では、誰かが家に来ることはありません。

一方、動産(不動産以外の物。現金、ブランドバッグ、宝石など)の差し押さえがあると、執行官が家に来ることになります。

また、自宅が差し押さえられた場合にも、差し押さえが行われた後、売却の準備のために行われる現況調査の際に執行官が家に来ることになります。

執行官が家に来ると、多くの方は執行官自体に馴染みがありませんので、「何が起こるのか」と戸惑われると思いますし、精神的にショックを受けることにもなるでしょう。

特に、動産の差し押さえの場合、事前に知らせもなく執行官が家に来ますから、驚く方がほとんどでしょう。

今回は、差し押さえがあった場合に執行官が家に来るケースについてご紹介し、差し押さえが行われる場合の手続きの流れ、差し押さえの対象となるもの・ならないもの、差し押さえを回避する方法などについて解説していきます。

差し押さえとは?

差し押さえとは、お金を支払わなければならない義務を負う人(「債務者」といいます。)の財産(家や土地、預貯金、動産など)について、勝手に処分することを禁止することです。

差し押さえは、裁判所の命令などによって行われます。

差し押さえについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

 

どのような場合に差し押さえられる?

差し押さえが行われるのは、債務名義と呼ばれる書類で支払い義務があることが明記されているお金を支払わない場合です。

債務名義となるものには、主に次のようなものがあります。

  1. ① 確定判決
  2. ② 仮執行宣言付き判決
  3. ③ 仮執行宣言付き支払督促
  4. ④ 強制執行認諾文言付き公正証書(執行証書)
  5. ⑤ 和解調書
  6. ⑥ 調停調書
  7. ⑦ 破産債権者表
  8. ⑧ 家事審判
  9. ⑨ 家事調停調書

債務名義は、④の執行証書以外は、裁判所での手続きを経て作成されます。

そのため、原則的には、債務者も関与した上で債務名義が作成されます。

ただし、裁判所から送られてきた文書を無視していただけで作成されてしまうものもありますので、注意が必要です(①②③⑧など)。

裁判所から文書が送られてきた場合は、放置することなく、かならず裁判所に連絡するか、早急に弁護士に相談しましょう。

上の債務名義のうち、③支払督促については、特に対応を急ぐ必要があります。

支払督促について、詳しくは以下のページをご覧ください。

④強制執行認諾文言付き公正証書(執行証書)については、以下のページをご参照ください。

 

差し押さえになると執行官が家に来る

差し押さえが行われると、場合によっては、執行官が家までやって来ます。

多くの方は執行官のことをあまりご存じではないので、いきなり家に来られると驚かれると思います。

まずは執行官について、簡単に解説します。

 

執行官とは?

執行官は、各地の地方裁判所に配置され、強制執行の手続きや文書の送達など、法令で定められた事務を行っています。

執行官が行う事務としては、例えば次のようなものがあります。

  1. ① 不動産を差し押さえた後に行われる現況調査(民事執行法57条)
  2. ② 差し押えた不動産の入札又は競売による売却(同法64条)
  3. ③ 差し押えた不動産の内覧の実施(同法64条の2)
  4. ④ 動産の差し押さえ(同法122条1項)

上で挙げた中では、①現況調査、③内覧の実施、④動産の差し押さえの場合に、執行官が家までやって来ることがあります。

今回は特に、①不動産差し押さえ後の現況調査、④動産差し押さえのために執行官が家にやってくる場面について解説します。

 

執行官はいつ、どのようにして家に来る?

執行官がいつ、どのようにして家に来るのかには、①不動産差し押さえ後の現況調査の場合と②動産差し押さえの場合で違いがあります。

それぞれの場合についてご説明します。

 

①不動産差し押さえ後の現況調査の場合

不動産差し押さえ後の現況調査の場合は、現況調査を実施する日時を記載した通知書があらかじめ送られてきます。

通知書が送られてくるタイミングは、差し押さえ(競売開始)の決定が債務者に送達されてから1~2週間後となることが多いです。

通知書に記載された日時では都合が悪い場合は、裁判所に連絡すれば、日程を変更してもらえる可能性があります。

なお、現況調査の時に家の住人がいない場合、執行官が同伴した業者が、鍵を無理やり開けてしまいますので、注意が必要です。

現況調査では、執行官により、土地や建物の外観、建物内の状況の確認などが行われ、写真の撮影も行われます。

そのほか、居住者への聞き取り、周辺環境の確認なども行われます。

現況調査の結果は、後日、現況調査報告書にまとめられます。

現況調査報告書は、裁判所に備え置かれ、希望者が閲覧できる状態となります。

また、現況調査報告書は、一部の物件を除いては、インターネット(不動産競売物件情報サイト・BTIシステム)でも公開されます。

 

②動産差し押さえの場合

動産の差し押さえのために執行官が家に来る場合は、「何月何日に訪問する」などといった通知はありません。

債務者の家で動産の差し押さえを行う場合は、執行官が、予告することなく、直接債務者の家に赴き、家の中に入り、売却すればお金になりそうな財産を探し出して、差し押さえます。

金庫や容器なども開けられて、中身を探索されることがあります。

差し押さえた財産は、持ち運ぶことが可能な場合は、執行官が持ち帰ることが多いです。

執行官が持ち帰らない場合は、封印などの表示をして、財産を差し押さえていることが見て分かるようにします。

なお、事前に債務名義は債務者に送達されていますので、債務者としては、「いつかは差し押さえがあるかもしれない」ということは分かっている状態にはなります。

 

 

差し押さえの流れ

差し押さえの流れ

差し押さえは、債権者(債務者に対してお金を請求する権利がある人)が裁判所(動産差し押さえの場合は執行官)に申立てをすることによって始まります。

不動産の差し押さえの場合、裁判所が申立てを認めると、強制競売開始決定が出され、強制執行が開始します(動産差し押さえの場合は、執行官が動産を実際に差し押さえることで強制執行が開始します。)。

そうして手続きが進むと、差し押さえられた物が売却されてお金に換えられます(換価)。

そうして得られたお金は、法律上の決まりに従って債権者に分配されます(配当)。

 

 

差し押さえの対象となるもの

差し押さえの対象となるのは、不動産、動産及び債権です。

具体例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 不動産・・・土地や建物
  • 動産・・・車、宝石、ブランド品、現金、絵画、商品など
  • 債権・・・預貯金、給料、年金など

 

 

差し押さえの対象とならないもの

動産の中には、法律上、差し押えの対象としてはならない物があります(差押禁止動産)。

差押禁止動産には、以下のようなものがあります(民事執行法131条)。

  • 生活に欠かせない衣服、寝具、家具、台所用具、畳、建具
  • 1か月間の生活に必要な食料、燃料
  • 標準的な世帯の2月間の必要生活費を勘案して政令で定める額(66万円(民事執行法施行令1条))の現金
  • 仕事に欠かせない器具等
  • 実印などの印章
  • 仏像、位牌
  • 系譜、日記、商業帳簿など
  • 勲章など
  • 義手、義足
  • 法令により設置が義務付けられている消防用の機械・器具、避難器具など

ほかに、給料、年金などの4分の3(養育費、婚姻費用のための差し押さえの場合、2分の1)も、差押禁止債権とされ、差押えの対象から外されています(民事執行法第152条)。

 

 

差し押さえのリスク

差し押さえが行われると、生活に以下のような支障が生じるリスクがあります。

差し押さえのリスク

家を立ち退かざるを得なくなる

自宅が差し押さえられると、最終的に自宅は強制競売にかけられてしまいます。

この強制競売で第三者が自宅を落札した場合、自宅はその第三者のものになってしまいます。

そうすると、元々その家に住んでいた住人(債務者及び家族)は、自宅を立ち退かざるを得なくなります。

期限までに立ち退かないでいると、再度執行官が家に来て、強制的に立ち退かされてしまいます。

自宅を立ち退きたくない場合は、差し押さえを受けた後早いうちに、債権者と交渉し、お金の支払いについて交渉しましょう。

また、強制競売ではなく、債務者(所有者)が自ら買い手を探し、差し押えをした債権者の同意を得て売却する任意売却の可能性を探ることもできます。

任意売却については、後ほどご説明します。

 

生活が不便になる

動産が差し押さえられた場合、差し押さえられた物を使って行っていたことが、できなくなってしまう場合があります。

 

家族が不安を感じる

家族(債務者)の物が差し押さえられると、債務者の家族もショックを受け、不安になってしまうことがよくあります。

特に、執行官が自宅に来た場合には、自宅という生活領域にまで他人に立ち入られること、家にある財産(動産)又は自宅そのものを差し押さえられることで、精神的に大きなショックとなり、家族の不安も一層大きいものとなる可能性があります。

差し押さえが行われる前に債務に関する問題を解決できれば、家族に知られずに済むこともあります。

詳しくは以下のページをご覧ください。

 

隣近所に差し押さえが知られてしまう

執行官が家に来る、差し押さえられた物件の情報がインターネット上の情報サイト(BIT)に掲載されるなどすると、隣近所の人に差し押さえがあったことを知られてしまう可能性があります。

差し押さえを受けることは名誉なこととはいえませんので、隣近所に知られることにより、その地域に住みづらくなることもあります。

 

 

差し押さえを回避するための方法

差し押さえを回避するには、いくつかの方法があります。

代表的なものをご紹介していきます。

差し押さえを回避するための方法

 

債務を弁済してしまう

差し押さえを回避するために一番有効な手段は、判決などの債務名義の対象となった債務を弁済してしまうことです。

債務がなくなれば、もはや差し押さえを受ける危険はありません。

差し押さえが行われた後でも、弁済をすれば、差し押さえを取り下げてもらうことが可能です。

なお、債務を弁済した場合は、証拠とできる領収証などをしっかり保管しておきましょう。

 

債権者と協議する

債務を弁済したくても、金銭を工面できず、全額一度に弁済できない場合もあります。

そのような場合には、債権者に連絡し、支払い方法や減額などについて協議してみましょう。

債権者も、強制執行を最後まで行うには費用や手間がかかりますので、分割払いや減額に応じてくれる可能性はあります。

 

任意売却を行う

自宅など不動産の差し押さえを回避するには、任意売却を行うことも考えられます。

任意売却とは、債権者や抵当権者の同意を得て、物件を、市場を通じた通常の方法で売却することです。

任意売却には、強制競売にはない以下のようなメリットがあります。

 

①市場価格に近い価格で売却できる可能性がある

強制競売で売却される場合、

  • 今住んでいる債務者が素直に立ち退いてくれるか分からない
  • 物件に欠陥があった場合に売り手が通常負担する瑕疵担保責任が免除されている

といった特殊性があります。

そのため、強制競売で物件を売却すると、たいてい売値は市場価格よりもかなり低くなります。

任意売却であれば、普通の売買と大きく変わりませんので、市場価格により近い価格で家を売ることができる可能性があります。

 

②買い手を選べる

強制競売では、入札形式により、最も高い価格を付けた参加者に家が売却されてしまうこととなりますので、家の所有者(債務者)が買い手を選ぶことはできません。

一方、任意売却の場合であれば、売り手である所有者が売る相手を選ぶことができます。

そのため、例えば、親族や家族に買い取ってもらい、その後、無償又は低めの賃料で貸してもらい、家にそのまま住み続けられるようにすることも可能です。

不動産業者の中にも、買い取った不動産をリースバックしてくれる業者がありますので、そうした業者に売却することも考えられます。

 

③周囲に事情を知られずに済む

自宅が強制競売にかけられると、物件の情報がインターネット上の情報サイト(BIT)に掲載されてしまいます。

そのため、こうしたサイトを見た近隣の人に事情が知れてしまう可能性があります。

また、競売情報を知った不動産業者などが様子を見に来ることもあります。

いくつもの業者が立て続けに様子を見に来るとご近所から見ても目立ちますし、やってきた業者が近所の人に物件や住人(債務者)の様子を聞くこともあります。

こうしたことから、家が強制競売にかけられていることが、いつの間にか近所に知れ渡ってしまうことも珍しくありません。

一方、任意売却であれば、不動産業者を通じて普通どおり売却するだけですので、差し押さえを受けたことや、借金などを支払えなくなっていることを周りの人に知られることはありません。

 

債務整理を行う

返済能力に比べて債務が多すぎるような場合、債務整理を行うことで、差し押さえを回避できる可能性があります。

債務整理は、膨らみ過ぎた債務について減額・免除を受けたり、返済期限を延長してもらったりして、返済可能な状態に整理することをいいます。

債務整理の手続きには、主に、任意整理、個人再生、自己破産があります。

債務整理に関する詳しい説明は、以下のページをご覧ください。

 

借金問題に強い弁護士に相談する

差し押さえを受ける可能性がある場合や、既に差し押さえを受けてしまった場合には、なるべく早いうちに借金問題に強い弁護士に相談することをお勧めします。

借金問題に強い弁護士であれば、上でご紹介したような債権者との協議、任意売却の実施、債務整理の手続きなどを行う際に、的確なサポートとアドバイスを提供することができます。

借金問題に強い弁護士に相談することのメリットなどについては、以下のページで詳しく解説しています。

 

 

差し押さえについてのQ&A

家族の私物を差し押さえることができる?

差し押さえを受けている債務者以外の家族の私物については、差し押さえることはできません。

ただし、差し押さえを避けるために財産(自動車、不動産など)の名義を家族名義にすることはやめてください。

このようなことをしても「詐害行為」として取り消されてしまいます。

それに、このような行為をしてしまうと、債務整理をしようと思ってもできなくなる可能性があります。

場合によっては、刑事罰を科されることもありますので、注意してください。

 

スマホを差し押さえることができる?

スマホは、現代ではほとんど生活必需品であるため、差し押さえの対象とされないことがほとんどです。

ただ、スマホを複数台所有している場合、スマホの財産的価値が高い場合などには、差し押さえられる可能性がないとはいえません。

 

差し押さえで家族に悪影響がある?

差し押さえがあると、家族に悪影響が及ぶ可能性もあります。

執行官が家に来ることなどで家族が精神的にショックを受ける可能性もありますし、隣近所に差し押さえのことが知られてしまい、家族がご近所づきあいや学校生活で辛い思いをすることもあるかもしれません。

こうしたことによって、家族が、差し押さえの原因を作った債務者に不満・不信感を抱き、家族関係が悪くなることも十分あり得ます。

 

 

まとめ

今回は、差し押さえがあって家に執行官が来る場合、差し押さえにより生じる不利益、差し押さえを避けるための方法などについて解説しました。

自宅が差し押さえられた、自宅で動産の差し押さえを行うことになった、となると、執行官が家に来ることになります。

執行官が家に来るとなると、大きなショックを受けられる方もおられますし、家族にも影響が及ぶ可能性があります。

そのようなことにならないよう、敗訴判決を受けた、裁判所でした和解で約束したお金を払えなくなった、など、差し押さえを受ける可能性がある場合には、なるべく早く借金問題に強い弁護士に相談しましょう。

そうすれば、弁護士が、債権者と交渉する、債務整理や任意売却を実施する、といった方法で、差し押さえを回避できる可能性を探ってくれます。

当事務所でも、借金問題を集中的に取り扱う破産再生部を設け、借金問題、差し押さえに関する問題でお悩みの方をサポートする体制を整えております。

差し押さえなどの問題でお困りの方は、どうぞ当事務所までお気軽にご相談ください。

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

 


なぜ借金問題は
弁護士に相談すべき?

続きを読む

まずはお気軽にご相談ください
初回相談無料
(対面・オンライン相談の場合)