個人再生とは、裁判所の手続を利用して借金を減額したり、返済期間を延ばしたりする制度です。
個人再生は裁判所を通す手続きであるため、多数の資料・書類を提出することが必要となります。
そのため、個人再生は弁護士などに依頼して行うことが多いです。
しかし、その場合でも、相談者本人が揃えなければならない書類が多数あります。
今回は、個人再生で必要となる書類について解説していきます。
個人再生の必要書類とは
本人が準備するもの
個人再生では、弁護士に依頼したとしても、自分で用意しなければならない書類があります。
自分で準備する書類は、主に次のようなものです。
なお、場合によっては、以下に記載されていない書類が必要となることもありますし、逆に、以下で挙げている書類が必要ない場合もあります。
裁判所によって必要な書類が異なる場合もあります。
また、弁護士によっては、これらの資料の一部について、弁護士の方で取り寄せるなどしてくれる場合もあります。
詳しくは、弁護士又は申立てをする裁判所にお尋ねください。
基本的に必要な書類 |
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児童手当などの公的給付を受給している場合 |
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会社員で勤続5年以上の場合に必要な書類 |
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持ち家の場合 |
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裁判や差し押さえをされている場合 |
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主なものについて、解説していきます。
家計表
家計表は、世帯全体の収入(給料、自営収入、年金など)・支出(住居費、駐車場代、食費、水道光熱費、電話料金、教育費、交際費、娯楽費等)を表にして記載するものです。
申立て前2か月分の家計表を作成し、提出します(裁判所により異なる場合もあります)。
その後も、再生計画認可決定が出るまでの間、原則として毎月作成・提出することになります。
家計表は、再生計画に定められた弁済を履行できるか確認するための資料として重要な意味をもつものです。
実態を反映した家計表を作るため、家計簿をつけることも必要になります。
以下が家計表の書式例になります。
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事業収支実績表
個人事業者の方が個人再生の申立てをする場合には、事業収支実績表を提出します。
事業収支実績表は、事業の収支の状況や資金繰りの状況について記載するものです。
申立前6か分について記載を求められる場合が多いです。
事業収支実績表を作成する際には、家計の状況で記載した内容を重複して記載していないか、注意が必要です。
なお、事業の収支については、必ずしも「事業収支実績表」という形で提出しなければならないわけではありません。
従前から作成している試算表などで収支及び資金繰りの状況の概要がわかれば、そうしたものを提出すればよいとされている裁判所もあります。
東京地裁では、基本的には試算表などでよいとされています。
以下が事業収支実績表の書式例になります。
ひな形のある必要書類
次の表に掲げるものは、弁護士が主に準備するものです。
ただし、場合によっては、ご本人に準備していただくこともありますので、弁護士の指示に従うようにしてください。
- 申立書
- 陳述書
(東京地裁の場合、収入一覧及び主要財産一覧。ただし、個人再生手続開始決定後に、報告書を提出する。) - 債権者一覧表
- 財産目録
- 清算価値算出シート
- 事業等に関する補充説明書
- 商業登記事項証明書
(裁判所が必要と判断したとき) - 可処分所得算出シート
*給与所得者等再生の場合 - 弁済許可申立書
*住宅資金特別条項を利用する場合
申立書
申立書には、
- ① 申立人の氏名、住所
- ② 給与所得者等再生と小規模個人再生のどちらを利用するか
- ③ 職業、収入その他生活状況
- ④ 債務総額
などを記載します(民事再生規則112条2項、12条1項)。
①②以外の詳細は、陳述書や債権者一覧表、財産目録に記載して添付する場合がほとんどです。
ほかにも、
- 給与所得者等再生の要件を満たさないと判明した場合、小規模個人再生手続の開始を求める意思があるか(民事再生法239条3項、民事再生規則136条2項2号)
- 小規模個人再生の要件がないことが判明した場合、民事再生手続きの開始を求める意思があるか(民事再生法221条6項)
- 再生計画案の作成の方針についての意見(民事再生規則112条2項、12条1項5号)
についても、申立書に記載します。裁判所によっては、申立書とは別の書面として意見書を提出することもあります。
申立書の書式例は、以下のとおりです。
陳述書(報告書)
個人再生を申し立てる際には、以下のことなどを記載した陳述書(報告書)を提出します。
陳述書(報告書)には、主に以下の事項を記載します。
- 申立人の職業、収入の額及び内容等
- 生活の状況(家族関係、養育費支払いの有無、住居の状況)
- 申立人の負債状況(詳細は債権者一覧表に記載します。)
- 再生手続開始の申立てをするに至った事情及び今後の見通し
- 差押え等の状況
陳述書にはひな形があり、弁護士が、相談者から聞き取った内容をそこに記入し、作成していきます。
陳述書の書式例は、以下ページをご覧ください。
債権者一覧表
債権者一覧表とは、
- 債権者(貸金業者など)の名前、住所、連絡先
- 残債務額
- 債務の発生原因(契約年月日、契約の種別(貸金、立替金、保証金債務など))
などを記載するものです。
上記のほかに、
- 異議の留保をするか(債権者一覧表に記載した金額に異議を述べる可能性がある場合、異議の留保をしておく。通常、異議の留保はしておくことが望ましいです。)
- 債務名義(判決、支払督促、調停調書、公正証書等)があるか
についてチェックする欄などもあります。
別除権(抵当権など)が付いている債権や住宅資金貸付債権(住宅ローン)については、別の欄にも記載します。
これらの債権については、債権額、抵当権の行使により弁済が見込まれる額、担保不足見込額、抵当権の対象になっている担保物件を記載します。
住宅ローンがあって住宅資金特別条項を利用する場合は、住宅ローンについては、債権額のみ記載すれば足ります。
債権者一覧表の書式例は、以下ページをご覧ください。
財産目録・清算価値算出シート
財産目録は、個人再生を申し立てる人が保有している財産について記載する書類です。
清算価値算出シートは、保有している財産の清算価値をまとめて表にしたものです。
財産目録・清算価値算出シートの項目及び添付書類には、以下のようなものがあります(添付書類には、上に掲載した表と重複するものもあります)。
項目 | 添付書類 |
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現金 | |
過払金 | 和解書等 引き直し計算書等 |
預貯金 | 通帳のコピー、取引履歴 |
金銭給付請求権 (貸付金、求償金又は売掛金等) |
貸付等に関する契約書、念書等 回収困難な場合などには、そのことが分かる書面 |
積立金(社内積立、財形貯蓄等) | 状況に応じて必要な書類 |
退職金 | 退職金見込額証明書 又は、退職金支給規定等のコピーと勤務開始日がわかる書面 |
保険金(現在加入しているもの及び過去1年以内に解約又は失効したもの。ただし、期間は裁判所により異なる。) | 保険証券 解約返戻金証明書 受領した返戻金を明らかにする書面等 |
自動車、バイク等 | 車検証のコピー 登録事項証明書 自動車の査定書(国産で初年度登録から5年以内の場合) |
敷金 | 賃貸借契約書、住宅使用許可証(いずれも敷金の額が明らかになるもの) |
事業用動産(事業設備、在庫商品、什器備品等) | 現在の価値が明らかになるような資料 確定申告書の別表 |
その他の動産(着物、時計、貴金属、パソコン、ピアノ等)で、申立時に10万円以上の価値があるもの | 現在の価値が明らかになるような資料があれば添付 |
株式、有価証券 | 現在の価値が明らかになるような資料 |
その他の財産で申立時に10万円以上の価値があるもの | 現在の価値が明らかになるような資料 |
破産した場合に否認の対象となることが明らかな財産 | 回復見込額が明らかになるような資料があれば添付 |
不動産(相続したが名義変更していないものなど第三者名義のものも含む) | 不動産登記事項証明書 固定資産評価証明書、査定書 |
財産目録・清算価値算出シートの書式は、以下ページをご覧ください。
可処分所得算出シート(給与所得者等再生の場合)
可処分所得算出シートは、給与所得者等再生の場合に提出します。
給与所得者等再生では、可処分所得の2年分以上の額は最低限返済しなければならないというルールがあります。
そのため、可処分所得がいくらかを明らかにする必要があり、可処分所得算出シートの作成・提出が求められるのです。
可処分所得算出シートでは、本人と被扶養者の氏名・年齢等(別居の被扶養者を含む)、過去2年間の収入額、所得税・住民税・社会保険料の額、生活費・住居費の額、住居の状況等について記載し、可処分所得を算出します。
なお、可処分所得算出シートには、同居人の収入は記載する必要はありません。
可処分所得算出シートの書式は、以下ページをご覧ください。
弁済許可申立書
住宅ローンを負担している場合で、住宅資金特別条項を利用してマイホームを手元に残そうと考えている場合には、個人再生の申立書と同時に、弁済許可申立書も提出します。
個人再生の手続中は、住宅ローン以外の通常の借金に対しては、債権者間の不公平が起こらないようにする必要があることなどから弁済は停止しています。
しかし、住宅資金特別条項を利用する場合は、弁済許可の申立てをすることで、住宅ローンの返済を続けることができます。
自分で申立てができる?
個人再生は、法律的には自分自身で申立てをすることも可能ではあります。
しかし、個人再生をするには、多数の書類を作成しなければなりませんし、再生計画案を作成する必要もあります。
さらに、自分自身で個人再生の申立てをすると、裁判所は多くの場合、個人再生委員を選任します。
個人再生委員には弁護士などが就任し、申立人の財産・収入の状況などの調査、申立人が作成する再生計画案へのアドバイスなどを行います。
この個人再生委員の報酬は、申立人が負担しなければなりません。
その額は15万円から20万円程度となっており、それなりに高額です。
でも、個人再生委員はあくまで裁判所に任命されるものであり、申立人の立場で動いてくれるわけではありませんし、再生計画案や書類の作成を代わりにしてくれるわけでもありません。
同じお金を払うのであれば、個人再生委員に支払うよりも、弁護士に依頼して代理人になってもらう方が有利な場合が多いといえます。
なお、裁判所によっては、弁護士に依頼していても個人再生委員が選任される運用となっています(例:東京地裁)ので、ご注意下さい。
参考:再生手続開始申立書(個人再生)の添付書類一覧表|裁判所
同居人がいる場合の必要書類
同居人がいる場合は、同居人の収入に関する資料(同居人の給与明細書・源泉徴収票・確定申告書、同居人の年金受給証明書・生活保護受給証明書など)が必要になります。
同居家族の通帳のコピーを提出しなければならない場合も多いです。
また、家計収支表を作成する際には、家計を同一にする同居人に関する収入、支出も計上しなければなりません。
ただし、可処分所得額算出シートを作成する際には、同居人の収入は合算しませんので、注意が必要です。
なお、これらの資料を収集・作成する過程で、ご家族に、個人再生をすることがバレることもあります。
ご家族・職場などに個人再生のことが分かってしまうケースと、バレてしまったときの対処法については、以下のサイトで詳しく解説しています。
気になる方は、ぜひ一度ご覧ください。
個人事業主の場合の必要書類
個人事業主の方が個人再生の申立てをする場合、以下の書類なども必要となる場合があります。
- 事業収支実績表
既にご説明したとおり、事業の収支、資金繰りの状況などについてまとめた表です。
*民事再生規則14条1項6号では、資金繰りの実績を明らかにする書面(申立ての日の前1年間のもの)及び申立て後6か月間の資金繰りの見込みを明らかにする書面の提出が求められています。しかし、こうした資金繰りに関する内容は事業収支実績表にも記載しており、実務上は、事業収支実績表の提出だけで足りる場合も多いです。 - 確定申告書(過去2年分)
- 貸借対照表・損益計算書(確定申告時に作成したものなどがある場合。申立ての日の前3年以内のもの)
- 労働協約又は就業規則(あれば)
- 商業登記事項証明書(裁判所が必要と判断したとき)
- 事業等に関する補充説明書
陳述書での職業に関する記載を補充するための説明書です。
書類準備の6つのポイント
個人再生の必要書類を準備する際、以下の6つのポイントを押さえておくと、準備がスムーズに進みやすくなります。
書類を取得する時期に注意!
住民票など公的な証明書などの書類には、「個人再生の申立ての3か月以内に発行したもの」などと、発行された時期について制限がかけられているものが多くあります。
そのため、書類の準備を急ぎすぎても、個人再生の申立てが予定どおりのスケジュールでできなければ無駄になってしまいますので、注意が必要です。
預金通帳のコピーなども、「申立前2週間以内にコピーしたもの」などとの制限が付けられている場合があるので、気を付けましょう。
弁護士には本当のことを全部伝える
個人再生の申立てをする場合、弁護士には、本当のことを隠すことなく伝えましょう。
事情が変わると必要書類も変わってきますので、後になって本当のことが分かった、ということになると、書類を準備しなおさなければならなくなります。
もし本当のことが分からないまま申立てをしてしまい、その後に真実が分かってしまうと、個人再生手続での借金の減額などで不利になる可能性もあります。
悪くすれば、個人再生の申立ての却下、個人再生手続の廃止、再生計画案の不認可などもあり得ます。
伝え忘れている借金や財産、収入、個人再生前に処分した財産(車、不動産など)、返済してしまった借金などがある場合も、必ず弁護士に伝えましょう。
個人再生の際に本当のことをいわないと起こることについて、以下のサイトもご参照ください。
弁護士との連絡をしっかり取る
個人再生では、弁護士との連絡をしっかり取ることがとても大切です。
書類の準備に関しても、弁護士から「書類を準備してほしい」という連絡があるかもしれません。
弁護士が連絡で使用する電話番号は連絡先に登録し、着信があればすぐにわかるようにしておきましょう。
また自分からも、書類の準備でわからないことがあれば弁護士に速やかに連絡を取り、対応についてアドバイスを受けるようにしましょう。
関係があるかわからなくても弁護士に見せる
個人再生の必要書類を探していると、関係があるのかないのかわからない書類が出てくることもあると思います。
そうした書類も、必要になる場合がありますので、決して捨てたりせず、残しておきましょう。
場合によっては思わぬ発見がある(昔完済した借金が見つかり、過払い金が請求できるようになるなど)こともありますので、弁護士にも見せてみることをお勧めします。
個人再生にくわしい弁護士へ相談する
個人再生の申立てをお考えの方には、個人再生に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
個人再生をするには、用意する必要書類も弁護士において作成しなければならない書類も多くあります。
さらに、財産の清算価値や可処分所得を的確に把握し、ご本人にとってなるべく有利になるようにした上で、裁判所や債権者も納得する再生計画案を作成する必要もあります。
こうしたことをご本人の利益の最も沿うように行えるのは、個人再生をはじめとした債務整理に注力している弁護士です。
個人再生などの債務整理に詳しい弁護士であれば、必要書類の収集や債権者への対応にも豊富な経験があります。
さらに、返済総額を抑えるために必要な、財産の清算価値の適切な評価方法、可処分所得の計算方法についても熟知しています。
借金でお困りの方は、ぜひ一度、債務整理に詳しい弁護士にご相談ください。
債務整理に強い弁護士かどうかは、ホームページを見るなどして調べてみることができます。
借金問題は弁護士に相談すべきであることや弁護士選びのポイントについては、以下のサイトで詳しく紹介しています。
書類が見つからなくても他の方法がある
個人再生の必要書類は多岐にわたるので、中にはどうしても見つからない、というものもあるかもしれません。
その場合も、焦らずに、弁護士に早いうちに相談しましょう。
上に挙げた書類がなくなっていても、再発行してもらう、関係機関に証明書を出してもらう、といった代替手段をとることができる場合が多いです。
早いうちに相談していただければ、弁護士の方でも素早く対応が取れるので、手続に大きな支障を来すことなく進めることができます。
書類が見つからなくて困ったときには、早めに弁護士に相談しましょう。
まとめ
今回は、個人再生での必要書類、必要書類を準備する際のポイントなどについて解説しました。
個人再生は必要書類も多く、煩雑な手続きです。
財産の清算価値や可処分所得の計算には、個人再生に詳しい専門家でなければ知ることが難しいポイントもあり、これが適切に行えるかどうかで借金をどこまで減額できるかに影響も出てきます。
個人再生の申立てを希望する場合は、早めに、個人再生に詳しい弁護士にご相談することをお勧めします。
当事務所は、借金問題に精通した弁護士で構成された破産再生チームを設け、借金でお困りの方を支援できるように注力しています。
借金問題については、当事務所までどうぞご相談ください。