友人や親族を含め特定の債権者のみに借金の返済をしてはいけません。
債務整理のご相談に来られる方の多くは、金融機関やクレジット会社、消費者金融、友人や親族など、複数の債権者に対し債務(借金)を負っています。
このうち友人や親族など個人的な人間関係を有している債権者については、今後も関係が続くことや、道義的な責任などから、少しだけでも返済したいとの相談を受けることがあります。
しかしながら、破産手続開始後はもちろん、破産手続申立ての準備を開始した時点から債権者は平等に扱わなければなりません。
そのため、特定の債権者の債務のみを返済すること(偏頗弁済といいます。)は、原則として、許されません。
偏頗弁済とは?
偏頗弁済は、破産法上、以下の要件で制限されています。
判例 破産法162条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
- イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
- ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合、破産手続開始の申立てがあったこと。
- 二 省略
以下省略
これらの要件は、①特定の債権者への返済等であること、②破産者が支払不能になった後または破産手続申立てがあった後の行為であること、③債権者(受益者)が債務者の支払不能状態などを知っていたことの3つにまとめることができます。
①特定の債権者への返済等であること
債権者間の平等を確保する趣旨ですので、債権者間の平等を害するような行為である、特定の債権者への返済などが対象となります。
②支払不能になった後または破産手続申立てがあった後の行為であること
破産手続申立てがあった後という基準については、明確に判断することができますが、支払不能という要件は、一義的に明らかではありません。
素人の方が自身の財産状況について、支払不能か否かを判断することは困難かと思います。
詳しい判断については、専門家へ相談することをおすすめします。
目安としては、借入れなどに頼ることなく、返済期限が到来している債務を返済することができない場合には、支払不能の可能性があります。(※あくまで目安として捉えてください。)
③債権者(受益者)が債務者の支払不能状態などを知っていたこと
偏頗行為の相手方が、偏頗弁済を受けた当時、債務者のイまたはロに規定する事実を知らなかった場合には、否認することができないということになります。
以上の要件を満たした場合には、偏頗弁済に該当し、「否認する」ことができるということになります。
否認とは、破産手続前になされた破産者の行為の効力を否定して、失われた財産を破産財団に回復することをいいます。
つまり、偏頗行為の相手方(受益者)に対し、破産管財人から当該金銭の返還請求をすることになります。
また、偏頗行為を行うと、免責不許可事由にも該当します(破産法252条1項3号)。
そのため、借金が免責されない可能性が生じることになります。
免責不許可事由については、こちらのページをご覧下さい。
さらに、偏頗行為について、罰則規定も定められています(破産法266条)。
以上より、特定の債権者への返済(偏頗弁済)は、大変リスクのある行為ですので、差し控えるようにしましょう。
破産手続終結後に支払うことは可能?
免責許可決定によって、破産者の債務は免責されます。
そのため、破産後に、債権者から請求を受けたとしても、これを拒むことができます。
もっとも、破産手続終了後は、偏頗弁済のような制限はありませんので、任意に債権者に対し、返済をしても問題はありません。
破産手続を申立てた時点や債務者が支払不能になった時点から、法律では、債務者に対し、種々の規制をかけています。
これは、このような危機時期に陥った場合には、債権者としては、配当の引き当てとなる債務者の財産を保全することに大きな利害関係があるので、財産の保全の見地から、債務者の行為に制限を設けているのです。
このように、危機時期に陥った段階では、債務者の行為に、一定の制限がかかりますので、返済不能に陥った方は、一度、債務整理を専門とする弁護士に借金問題について、ご相談することをおすすめします。