破産すると処分されてしまう財産とは?弁護士が解説

破産すると財産はどうなる?

個人破産の多くの場合、債務者の方にめぼしい財産はありません。

そのため、個人破産では破産手続はすぐに終了する傾向にあります。

しかし、中には、不動産、高価な自動車、多額の預貯金等のめぼしい財産があるケースもあります。

このようなケースでは、資産を現金化(これを「換価」といいます。)して、債権者に公平に配当する必要があります。

すなわち、破産において、免責許可決定が出ると、債務者は借金の返済義務を免れます。

債権者は債権回収ができなくなります。

借金の返済義務がなくなるのに、債務者に多額の資産があるのは不公平です。

そのため、破産手続においては、一定額の資産を超える分については、適切に換価し、債権者に配当することが求められるのです。

このような業務を実施するのは「破産管財人」です(裁判所が管財人名簿に登録されている弁護士の中から選任します。)。

破産手続においては、破産手続開始時に債務者が有している差押えが可能な財産が破産財団に組み入れられます。

破産管財人は、破産財団を管理し、換価処分し、配当等の業務を実施します。

 

 

債務者の生活はどうなる?

破産によって不動産などの高額資産を失うのはしょうがないとしても、債務者の方も生活していなかなければなりません。

また、破産法の目的は、債務者の経済的更生を図るということにあります。

したがって、破産管財人が換価処分するのは、あくまで一定の高額な財産だけで、生活に必要な最低限度のものは、処分しなくて良いこととされています。

「自由財産」に当たる財産は処分しなくてもよいものとされています。

ここでは、この自己破産しても処分しなくてよい自由財産とは何かについてご説明いたします。

 

 

換価を要する具体的な基準

福岡地裁では、破産における換価基準について、部内の基準を策定して運用しています。

下図がその換価基準となります。

福岡地裁の換価基準について

【福岡地裁の換価基準について】

第1 換価等をしない財産

破産者が有する次の(1)から(9)の財産については、破産手続における換価又は取立て(以下「換価等」という。)をしない。ただし、破産管財人の意見を聴いて相当と認める場合は、法定自由財産でないものについて、換価等をすることができる。

  1. 99万円に満つるまでの現金
  2. 預貯金(残高合計が20万円以下である場合に限る。)
  3. 保険契約解約返戻金(見込額合計が20万円以下である場合に限る。)
  4. 自動車(処分見込額合計が20万円以下である場合に限る。)
    ただし、初度登録から5年を経過した自動車については、なお相当な価値があることが類型的にうかがわれるもの(ハイブリッド車、電気自動車、外国製自動車、排気量2500ccを超えるものなど)を除き、価額を0円とみなすことができるものとする。
  5. 居住用家屋の敷金等返還請求権
  6. 電話加入権
  7. 退職金債権のうち支給見込額の8分の7相当額(8分の1相当額が20万円以下である場合には、当該退職金債権の全額)
  8. 家財道具
  9. 差押えを禁止されている動産又は債権

前項により換価等をしないことが財産状況報告集会において裁判所によって了承された財産については、自由財産拡張の裁判があったものとして取り扱う。

第2 換価等をする財産

  1. 破産者が第1の1項(1)から(9)に規定する財産以外の財産(財産の種類が同(1)から(9)に該当しない財産と合計額が上限額を超える財産の双方を含む。)を有する場合には、当該財産については、すべて換価等を行う。ただし、破産管財人の意見を聴いて相当と認めるものについては、換価等をしないものとすることができる。
  2. 前項ただし書により換価等をしないことが財産状況報告集会において裁判所によって了承された財産については、自由財産拡張の裁判があったものとして取り扱う。

第3 換価等により得られた金銭の破産者への返還

換価等により得られた金銭は、破産管財人の意見を聴いて、換価等しない財産(第1の1項(7)の財産については、退職金支給見込額の8分の1で評価し、同(8)(9)の財産の額は算入しない。)との合計額が99万円に満つるまでの範囲内で相当と認める額を、破産者に返還することができる。

前項の規定により破産者に返還することが財産状況報告集会において裁判所によって了承された金銭については、自由財産拡張の裁判があったものとして取り扱う。

第4 自由財産拡張の申立て等

破産者は、第2の1項ただし書、第3の1項又は第5の適用により自由財産とすることを求める場合は、速やかに、裁判所及び破産管財人に対し、自由財産の拡張に関する上申書を提出するとともに、破産管財人に対し、協議の申出を行う。裁判所ないし破産管財人が第1の1項ただし書を適用しようとする場合で、破産者が換価等しないことを求めるときも同様とする。

破産管財人との協議が整わない場合又は自由財産とすることが財産状況報告集会において裁判所によって了承されないことが見込まれる場合は、裁判所に対し、自由財産拡張の申立書を提出する。財産状況報告集会の前に自由財産とすることを求める場合も同様とする。

裁判所は、自由財産拡張の申立てを却下する場合又は財産状況報告集会の前に自由財産拡張を認める場合は、自由財産拡張の申立てに対する明示の裁判を行う。

第5 この基準によることが不相当な事案への対応

この基準によることが不相当と考えられる事案については、破産管財人の意見を聴いた上、この基準と異なった取扱いをすることもできるものとする。

以上

 

 

 

換価基準の改正

上記の換価基準は、2005年に策定され、その後10年以上も運用されてきました。

また、同時廃止と管財事件の振り分けに関する基準(同時廃止基準)についても、同時期に策定されて運用されてきました。

しかし、経済情勢や多重債務者を巡る状況が変化し、上記基準の妥当性が問題視されるようになり、2017年に同時廃止基準が改正されることとなりました。

そのため、換価基準についても、新たな同時廃止基準に合わせる形で、一部改正されました。

改正された点は、以下のとおりです。

①「第1 換価等をしない財産」の「1(3) 生命保険解約返戻金」を「1(3) 保険契約解約返戻金」へ変更。

②「1(4) 自動車(処分見込額合計が20万円以下である場合に限る。) ただし、初年度登録から5年を経過したものについては、外車又は排気量2500ccを超えるものでない限り、処分見込額を0円とみなす。」の「ただし」以下を「初度登録から5年を経過した自動車については、なお相当な価値があることが類型的にうかがわれるもの(ハイブリッド車、電気自動車、外国製自動車、排気量2500ccを超えるものなど)を除き、価額を0円とみなすことができるものとする。」と変更。

上記の基準は改正後の全文となります。

 

 

自由財産とは?

自由財産とは、自己破産をしても、処分しなくていい財産のことをいいます。

破産法において、自由財産となるのは次のものです。

①新得財産
②差押禁止財産
③99万円以下の現金
④自由財産の拡張がなされた財産
⑤破産管財人によって破産財団から放棄された財産

新得財産とは

得財産とは、債務者が「破産手続開始後に新たに取得した財産」のことをいいます。

破産法では、破産財団に組み入れられる財産は、破産手続開始時に債務者が有している財産でなければならないとされています。

したがって、破産手続開始後に新たに取得した財産については、処分されるおそれはありません。

差押禁止財産とは

差押禁止財産には多くの種類がありますが、ここでメインとなるのは差押禁止動産です。具体的には生活必需品などが差押禁止動産とされています。

自由財産の拡張とは

本来的自由財産ではない財産であっても、裁判所の決定によって、自由財産として取り扱うことができるという制度が設けられています。

この制度のことを「自由財産の拡張」といい、上記の換価基準第4にも記載されています。

自由財産の拡張は専門的判断が必要ですので、具体的にどのような場合に認められるかについては、破産法に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

 


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