破産の申立てはいつまでに行うべきか?【弁護士執筆】

弁護士の回答

破産申立てをできない合理的な理由がなければ、速やかに申立てを行うべきです。

また、福岡地裁では、受任通知送付後、1年以上経過している場合、裁判所から遅延した理由を調査されます。

さらに、1年以上経過していることに合理的な理由がない場合、管財事件となる可能性もあります。

したがって、1年というのが基本的なタイムリミットと言えます。

なお、法人破産では、労働者を解雇した場合、解雇から半年以内に破産を申し立てないと労働者が賃金の立替払制度を利用することができないなどの弊害があります。

その他、債権が消滅時効にかかるなど、個別のケースによって、様々な弊害があるため、速やかに申立てを行うべきです。

 

破産申立てが遅延する合理的な理由の具体例

破産申立てをできない合理的な理由としては、後述する福岡地裁の例示では、「客観的に見込みのある任意整理が継続していたこと」があげられます。

その他、破産者が申立てにかかる費用(弁護士の手数料、裁判所に支払う予納金)を工面できない場合が考えられます。

すなわち、破産するにも、そのための費用が必要となりますが、そもそも多重債務者は、借金の返済が困難な方々です。

そのため、一括で費用を準備できるケースは決して多くありません。

一括で費用を準備できない場合、通常、分割払いなどで費用を積み立てて行きます。

例えば、1カ月3万円積立を行えば、1年間で36万円を準備することが可能です。

破産に関わる弁護士としては、極力、積み立てを早期にスタートするなどして、申立て費用が準備できしだい、速やかに破産申立てを行うように気をつけなければなりません。

なお、破産を受任した弁護士が過払い金の回収を行うことがありますが、合理的な理由がなければ、基本的には破産管財人の業務であり、破産申立てを先行すべきです。

弁護士の換価行為についてはこちらをごらんください

福岡地裁では、破産手続が円滑に進むように、福岡県弁護士会所属の弁護士に対して、破産レターを発送しています。

以下の文章は、2015年3月に福岡地裁が発出した破産レター(4)のうち、破産申立時期についての記事を抜粋したものです。

第1 破産申立ての時期、換価行為及び資産散逸防止に関するお願い

自然人破産事件における申立ての時期について

(1)受任通知発送後早期の申立ての必要性

平成25年9月以降に当部受付係で受理した約1500件の申立て(法人及びその関連事件等は除く。すなわち、事業者を含む自然人の申立て)につき調査したところ、受任通知から1年以上経過してから申立てのされた事件が約3割ある状況となっています。

一般に、消費者の破産事件においては、債権者である消費者金融に対して取引履歴の開示を求め、過払金発生の有無を検討すること等に相応の準備期間が必要です。

しかし、その間、客観的に見込みのある任意整理が継続していた等やむを得ない事情もないまま、このような期間経過後になされた申立てには以下のような弊害を指摘されるおそれがあります。

(2)申立て遅延による弊害(法人の申立て遅延の弊害を含む。)

債権者や申立人本人に対する弊害

() 債権者は、受任通知の送付を受けて債権回収行為ができなくなるにもかかわらず、他方で、申立てが遅延することにより、配当受領や不良債権の損金処理の時期が遅れることになり、破産手続に対する合理的期待が害される。

() 申立てが遅延することによって、申立人本人について免責の時期が遅れることになり、それだけ申立人本人の経済的更生が遅れることとなる。 

労働債権に関する弊害

() 解雇から申立てまで期間が経過するにつれ、財団債権に該当しない労働債権が増加し、3か月以上経過すると、およそ財団債権性を失うこととなる(破産法149条1項)。

() 労働者健康福祉機構による労働債権の立替払制度は、破産申立日の6か月前の日から2年の間に退職した者が対象となる(賃金の支払の確保等に関する法律施行令3条)ため、解雇から6か月以上経過してから申立てがあると、同制度を利用できないこととなる。

財産管理に関する弊害

() 債権が消滅時効にかかったり、申立人に債務を負う者が所在不明になる等財産の散逸が生じるおそれがある。

() 否認対象行為、資産費消行為等が行われるおそれがある。

資料管理に関する弊害

() 関係書類の散逸、電子データの喪失が生じることがある。

() 経理担当者等と連絡を取るのが困難になることがある。

主張の時期制限に関する弊害

否認の主張、相殺禁止の主張に関する時期制限(破産法166条、71条2項3号、72条2項3号)に抵触し、否認等を主張することができなくなる場合がある。

(3)申立て遅滞に関する裁判所の対応

現在、自然人同時廃止係では受任通知から1年以上経過した後の申立てについては、申立てが遅れた理由について必ず説明を求めていますが、申立代理人におかれては、受任通知から1年以上経過して申立てをされる場合には、申立書等において、受任通知から申立てまでの間の申立人の具体的な生活状況を明らかにするのはもとより、財産回収・換価行為の有無及びこれらの行為を行っている場合には、回収・換価行為の必要性や内容、その後の金の流れを具体的に説明した報告書を客観的な資料を添付して提出するようお願いします。

当部の「同時廃止基準について」(破産法実務)には申立て遅延について直接の記載はありませんが、受任通知から1年以上経過した申立てにおいて、申立て遅延に合理的理由がないと判断される事案では、申立代理人からの受任通知から申立てまでの間に不適切な換価行為や、否認対象となるような親族への偏ぱ弁済が行われたりする事案が多くみられますので、否認調査や免責調査の要ありとの理由で「管財事件相当」と判断される可能性が極めて高くなります。

そして、管財人の調査によって、申立て遅延の間に、現に不適切な換価行為や否認対象となるような親族への偏ぱ弁済等の資産散逸行為が行われていることが明らかになった事案においては、申立代理人に対しても資産散逸防止義務違反に基づく損害賠償請求や否認請求がなされることがあります(別表記載の裁判例①及び当庁での実例①②③④参照)。

したがって、受任通知発送後、可能な限り早期の申立てをお願いします。

 

  申立代理人による資産換価について

(1) 申立代理人による資産換価の原則禁止

申立代理人がどのような場合に、どの程度まで資産を換価することができるかについて法令上明文の定めはありませんが、別表②の裁判例が「申立代理人弁護士による換価回収行為は、債権者にとって、それが行われなければ資産価値が急速に劣化したり、債権回収が困難になるといった特段の事情がない限り、意味がないばかりか、かえって、財産価値の減少や隠匿の危険ないし疑いを生じさせる可能性があるのであるから、そのような事情がないにもかかわらず、申立代理人弁護士が換価回収行為をすることは相当ではなく、換価回収行為は、原則として管財人が行うべきである」と判示しているとおり、財産の回収・換価は原則として管財人が行うべきものであり、許容されるのは、上記判示のような場合のほか、相当な申立費用・管財費用を捻出するなどの必要性がある場合で、かつ、換価行為が相当である場合に限られると考えられます。

(2) 換価に関する裁判所の対応

申立代理人による換価行為が行われている場合には、上記のとおり、換価行為の必要性、相当性が問題となりますので、当部では、申立書等において、その説明を求めています。

例えば不動産の売却であれば、売却の必要性、価格の相当性及び売却代金の使途等の説明が必要となります。

上記必要性、相当性が明確になっていない場合には、否認調査の必要が生じるため、「同時廃止基準について」における否認対象行為調査型に該当することとなり、原則として管財事件として進行することとならざるを得ません。また、換価に時間を要した場合には、前記1に述べた申立て遅延の問題も生ずることとなります。

さらに、管財人の調査の結果、申立代理人による換価行為が必要性・適切性を欠くものと認められるような場合には、事情に応じて、管財人から、当該換価行為そのものや当該換価行為に係る報酬について否認権を行使する必要が生じることがあります(別表の裁判例②及び当庁での実例①⑤参照)。

したがって、申立代理人において換価行為を行う場合には、上記のように必要やむを得ない場合に限って行うこととし、かつ、換価行為の相当性を明確に説明できるようにしておく必要がありますのでよろしくお願いします。

(3) 回収確実資産がある場合の取扱い

大手消費者金融会社に対する未回収過払金や保険解約返戻金等回収確実資産がある場合には、申立代理人ではなく、管財人がこれら資産を換価して管財費用に充てるのが相当と考えられますので、管財費用を準備する名目で申立代理人において、資産換価を行う必要はありません。こうした回収確実財産がある場合には、申立代理人において換価することなく、管財人に引き継ぐようにお願いします。

資産散逸防止について

(1) 申立代理人の資産散逸防止義務

一般に、申立てを受任した申立代理人は、将来破産財団を形成することになる申立人の資産を適切に管理する義務を負担すると解されています。別表の各裁判例も、債務者との間で同人の破産申立てに関する委任契約を締結した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、その財産が散逸することのないよう、必要な措置を採るべき法的義務(財産散逸防止義務)を負う旨判示しています。

(2) 資産散逸に関する裁判所の対応

当部では、申立人がかつて有した相当の価値を有する資産が申立時に存在しない場合には、申立書等において、その説明を求めています。例えば、受領した退職金や保険解約返戻金については、内容、使途等を説明していただいています。

これらが明らかとならないときは、事案に応じ、「同時廃止基準について」における資産調査型、否認対象行為調査型その他に該当することとなり、原則として管財事件として進行することとならざるを得ません。

さらに、管財人の調査の結果、資産の散逸が認められるような場合には、事情に応じて、管財人から、否認権を行使したり、申立代理人に対し、損害賠償責任を追及せざるを得ない場合もあります(別表の各裁判例及び当庁における各実例参照)。

したがって、申立代理人におかれては、このようなことがないよう、受任後直ちに、申立人に対し、資産散逸行為を行うことがないよう十分な説明をし、かつ、財産の種類、内容等に応じて適切な資産保全措置を行うなどして、その散逸を防止し、管財人に適切な引継ぎをされるようお願いします。

産手続については、まずは破産問題にくわしい、地元の弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

 


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