債務整理をすると、その後一定期間、新たに住宅ローンを組むことは難しくなります。
既に住宅ローンを組んでいる場合は、自己破産以外の債務整理の方法をとることができれば、自宅を失わずに済む場合が多いです。
今回は、
- 債務整理の種類
- 債務整理後に住宅ローンを組む際のポイント
- 既に住宅ローンを負担している場合、債務整理をするとどうなるか
といったことについて、解説していきます。
債務整理すると住宅ローンはどうなる?
債務整理をしようとお考えの方の中には、「いずれマイホームを持ちたいが、債務整理をしてしまうと住宅ローンが組めなくなるのでは・・・?」とご心配の方もおられるかもしれません。
たしかに、債務整理をしてしまうと、一定の期間、新たに住宅ローンを組むことは難しくなります。
しかし、その後は、また住宅ローンを組むこともできるようになります。
期間については、債務整理の種類によっても異なってきます。
まずは、債務整理の種類から見ていきましょう。
債務整理には3種類がある
債務整理には、主に以下の3つの種類があります。
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
それぞれの方の借金額や収入及びその他の状況(職業、持ち家の有無など)によって、最もよく合う手続を選択する必要があります。
それぞれの手続きについて、簡単にご説明します。
任意整理とは
任意整理とは、裁判所を通すことなく貸金業者などとの間で話し合い、借金の減額(主に利息や遅延損害金のカットとなります)や返済期限の延長について合意していき、無理のない返済計画で借金を整理していく手続きです。
任意整理を行えるのは、利息制限法に従った引き直し計算後の借金額が、3年間から5年間(36回から60回の分割)程度で返済できる範囲に収まっている場合です。
裁判所を通さない私的な手続きなので、住宅ローンや車のローン、保証人のついている借金などは対象から外す、というような柔軟な解決も図ることができます。
任意整理ができる場合やメリット・デメリットについて、詳しくは以下のページをご覧ください。
個人再生とは
個人再生は、裁判所に申し立て、一定のルールに従って借金を減額し、返済期間も原則3年(最長で5年)に延長してもらう手続きです。
個人再生は、自宅を持ち続けたまま借金の大幅な減額ができる、というのが大きなメリットとなっています。
ただ、
- 再生計画案を提出しなければならないなど手続きは厳格で手間がかかる
- 費用も任意整理より多額となる場合が多い
- 自己破産と違い借金が全くなくなる(チャラになる)わけではない
といったデメリットもあります。
個人再生について、詳しくは以下のページをご覧ください。
個人再生を選択できるのは、個人再生による減額後の借金を3年から5年(36回から60回)で支払える、安定した収入がある、借金額が5000万円以下である、などの条件を満たす方になります。
個人再生ができないケースについては、以下のページで解説しています。
自己破産とは
自己破産とは、裁判所に申し立てて、財産を清算して債権者に分配した上で、借金をなくす(免責する)手続きです。
財産の清算と分配は、裁判所に選任された破産管財人が行います。
ただ、破産する人の財産が少なく、破産手続の費用にも足りない場合には、破産管財人を選任することなく、破産の開始と同時に破産手続を終了(廃止)させ、借金の免責だけを行います(「同時廃止」といいます)(破産法216条1項)。
自己破産については、以下のページで詳しく解説しています。
これらの手続き全部についてまとめて説明したページも設けておりますので、ご関心のある方はぜひ一度ご覧ください。
借金減額の診断シミュレーター
当事務所では、ご自身にあった債務整理の方向性を手軽にオンラインで診断できるよう、借金減額の診断シミュレーターをご提供しています。
簡単な質問に答えることで、あなたに適した債務整理の方法や、過払い金の請求・時効の主張ができるかなどに関する参考情報をご提供しております。
債務整理にご関心のある方は、ぜひ一度お試しください。
債務整理後、いつから住宅ローンを利用できる?
債務整理をすると、どの種類の手続を使っても、一定期間、住宅ローンを含むローン全般を新たに組むことができなくなります。
その理由と、住宅ローンを組むことができるようになる時期について、ご説明します。
債務整理後に住宅ローンを利用できないのはなぜ?
債務整理後には、一定期間、新たに住宅ローンを利用することができなくなります。
その理由は、債務整理を行うと、そのことを信用情報機関が管理する信用情報に登録されてしまい、いわゆる「ブラックリスト」に載った状態になってしまうからです。
信用情報機関とは、借入れ・返済の状況などに関する情報(信用情報)を管理している機関のことです。
貸金業者や銀行などの金融機関は、ローンなどの申込みがあると、信用情報機関に照会して、申込者の信用情報を調べます。
そのため、この信用情報に債務整理をしたことや延滞したこと(事故情報)が記録されていると、返済能力に疑問のある人だ、と認定されてしまい、ローンを組ませてもらえないのです。
信用情報機関は、以下の3つになります。
株式会社シー・アイ・シー(CIC)
全国銀行個人信用情報センター(KSC)
信用情報機関は、事故情報をずっと保有しているわけではなく、それぞれの機関の取り扱いに従って古いものを消去していきます。
信用情報から事故情報が消えれば、再び住宅ローンを組むこともできるようになってきます。
なお、「ブラックリスト」に載りたくないからといって債務整理をせずにいても、借金を返せなくなり、延滞が続くようになれば、「延滞した」との情報が信用情報に記載されてしまい、やはり「ブラックリスト」に載った状態になってしまいます。
そのころには借金額が膨らんで、希望する債務整理の方法では解決が難しくなったり、完済までの期間が長くなってしまう、といったことも考えられます。
借金で生活が苦しい場合は、早いうちに債務整理に詳しい弁護士に相談しましょう。
弁護士に債務整理を依頼すれば、借金の取立てが止まる、返済を一時停止できる、といったメリットもあります。
借金問題を弁護士に相談した場合のメリットについては、以下のページで詳しく解説しています。
ぜひご一読ください。
いつから住宅ローンを組める?
債務整理後いつから住宅ローンを組めるかは、行った債務整理の種類や、住宅ローンを借りようとしている金融機関がどの信用情報機関に加盟しているかによって異なってきます。
各信用情報機関における事故情報の登録期間の概要は、以下のようになっています。
任意整理 | 個人再生 | 自己破産 | |
---|---|---|---|
JICC | 契約継続中及び契約終了後5年以内 *ただし、契約日が2019年9月30日以前の場合には、債務整理の事実が発生した日から5年を超えない期間 |
契約継続中及び契約終了後5年以内 *ただし、契約日が2019年9月30日以前の場合には、個人再生申立ての日から5年以内 |
契約継続中及び契約終了後5年以内 *ただし、契約日が2019年9月30日以前の場合には、自己破産申立ての日から5年以内 |
CIC | 契約期間中及び契約終了後5年以内 | 契約期間中及び契約終了後5年以内 | 契約期間中及び契約終了後5年以内 |
KSC | 契約期間中及び契約終了日から5年を超えない期間 延滞は、延滞解消日から5年経過後に「成約」に変更 *延滞については、「成約日/実行日」が2006年10月以前の場合、返済区分(延滞、求償権完済等)の発生日から5年経過後 |
個人再生手続開始決定の日から7年を超えない期間 | 破産手続開始決定の日から7年を超えない期間 |
上の表のとおり、事故情報が消えるまでには以下の期間がかかります。
個人再生・自己破産の場合、申立てから5~7年(CIC、KSC)又は完済から5年程度(JICC)
任意再生の場合、手続きを始めてから完済までには3~5年程度かかりますので、事故情報が消えるまでには、手続きを始めてから8~10年程度かかることになります。
個人再生の場合も、完済までに3~5年かかりますので、JICCで事故情報が消えるまでには、申立てから8~10年程度かかります。
事故情報が消えれば、また住宅ローンを組むことができるようになります。
もちろん、申し込むときの収入や年齢、勤務歴などに応じて借りれる金額は変わってきます。
任意整理で事故情報が消えるまでの期間の詳細については、以下のページでも解説しています。
債務整理後に自宅を持つ方法がある?
「ブラックリスト」に載っている間に自宅を持てる?
債務整理後「ブラックリスト」に載っている間に自宅を持つ方法も、ないわけではありません。
主に考えられる方法は、
- 配偶者などの家族名義でローンを組むこと
- 頭金を用意すること
です。
配偶者などの家族名義でローンを組む
債務整理をしていない人(配偶者や親・子どもなど)の名前であれば、住宅ローンを組むことに支障はありません。
もちろん、住宅ローンを組む際には、信用情報だけでなく、ローンを組む当人の収入、資産、職業なども考慮されますので、思うように融資が受けられるとは限りません。
しかし、少なくとも、家族の一人が「ブラックリスト」に載っていることの影響が及ぶことはありません。
ブラックリストに載っている人が保証人になることはできない
住宅ローンを組む場合、配偶者などの家族に保証人になってもらうことはよくあります。
しかし、債務整理をしてブラックリストに載ってしまっている人は、新たに保証人になることはできません。
返済能力が疑わしい状態の人では、保証人としての役割(借り入れた当人の代わりに借金を払う)を果たすことができない可能性が高いからです。
そのため、保証人には別の家族になってもらうか、保証会社に頼むことになります。
ペアローンは利用できない
ペアローンは、住宅を購入するに際に、夫婦が各人で住宅ローンを組み、お互いに相手の住宅ローンの連帯保証人になる、という借入方法です。
ベアローンは、夫婦二人ともが住宅ローンの借入れをした上、連帯保証人にもなる必要があるものなのです。
そのため、夫婦のどちらかが債務整理をして「ブラックリスト」に載った状態だと、その人は住宅ローンを組むことも連帯保証人になることもできないので、ペアローンは利用できません。
頭金を用意する
頭金を用意することができれば、住宅ローンの審査の際に有利に働きます。
頭金があれば、それだけ住宅ローンで借りなければならない額も減ります。
そうすれば、金融機関側にとって、貸したお金を返してもらえないことによる損失が減るので、住宅ローンの審査を通る可能性も、頭金がない場合と比べれば上がってきます。
年収に占めるローンの返済額の割合(返済比率)も下がることとなり、このことも審査の際に有利になります。
頭金が多ければ、住宅ローンで借りる額が購入する自宅の価値を下回り、自宅に抵当権を設定することで十分な担保とすることもできます。
こうなれば、審査に通る可能性もさらに上がってきます。
ただそれでも、債務整理に関する情報が信用情報に残っている間は、住宅ローンを組める可能性は低いことは、知っておいてください。
「ブラックリスト」から消えた後に住宅ローンを組む場合のポイント
信用情報から事故情報が消えれば、住宅ローンを組める可能性が出てきます。
しかし、そのときにも、以下のようにいくつか注意すべき点があります。
信用情報の開示を請求する
住宅ローンの申込みをする前に、信用情報の開示請求をして、本当に事故情報が消されているか確認しましょう。
銀行などの金融機関は、それぞれどこかの信用情報機関に加盟していますので、住宅ローンを申し込む予定の金融機関が加盟している信用情報機関を確認し、信用情報の開示を請求します。
開示された信用情報に債務整理に関する記載がなければ、その信用情報機関に加盟しているところでは住宅ローンを組める可能性があります。
各信用情報機関に加盟している金融機関、信用情報の開示請求の仕方と読み方は、それぞれの信用情報機関のHPで調べることができます。
任意整理について信用情報にどのように記録されるかについては、以下のページでも解説しています。
短期間にたくさんの住宅ローンを申し込まない
早く住宅ローンを借りたい場合でも、急いで短期間にたくさんの住宅ローンを申し込むことはお勧めできません。
住宅ローンの申込みをしたことは信用情報に記録されてしまうので、あまりに多くの申込みをしていると、「たくさん申し込んで断られ続けているのか」などと思われ、印象を悪くしてしまいます。
そうすると、審査に通りにくくなってしまうおそれがあります。
同時期に申し込む住宅ローンは、3社程度までにしておきましょう。
債務整理の対象となった業者とその関連会社は避ける
債務整理の際に借金を減額又は免除してもらった業者とその関連会社では、信用情報機関とは別に、独自に債務整理に関する情報を共有している場合があります(いわゆる「社内ブラック」)。
そうした情報を得ている会社では、信用情報から事故情報が消えた後でも、住宅ローンなどの借入れをすることは難しくなります。
住宅ローンを申し込むときは、債務整理で借金の減額・免除をしてもらった業者及びその関連会社は避けるようにしましょう。
クレジットヒストリーを積んでおく
債務整理に関する事故情報が抹消された後の信用情報は、クレジットカードやローンの利用履歴も長年記録されていない状態のものとなっています。
事故情報が記載されている間はクレジットカードなどの利用ができないため、このようになるのです。
しかし、今日の社会で、クレジットカードすら長年利用しないという人は少なく、こうした状態の信用情報は、金融機関には不自然に映る場合があります。
場合によっては、「この人は債務整理をしたから、クレジットカードなどの利用ができなくなっていたのではないか」と思われてしまい、審査に通りにくくなりかねません。
こうした事態にならないための方法として、審査があまり厳しくない業者から少額のローンを借り、それをしっかり返済することで、信用情報に借入れと返済の履歴(クレジットヒストリー)を残すということが考えられます。
クレジットヒストリーを積んでおくことで返済能力を示せるため、信用が上がり、住宅ローンの審査にも通りやすくなります。
頭金を準備することも有効
頭金を準備できれば、上でもご説明した通り、審査のハードルは低くなっていきます。
信用情報から事故情報が消えた後に住宅ローンを組む場合も、頭金が用意できないか検討しましょう。
「ブラックリスト」に載った状態が解消された後に住宅ローンを組む際の注意点については、以下のページでも取り上げています。
住宅ローン返済中の場合
現在既に持ち家があり、住宅ローンを返済中、という方は、債務整理をすることでマイホームを失うことはないか、気になるところかと思います。
持ち家については、自己破産以外の手続ができれば、基本的には失わなくて済みます。
それぞれの手続について解説します。
任意整理の場合
任意整理の場合には、裁判所を通す必要もなく、すべての債権者を平等に扱うという要請も強くありませんので、任意整理の対象とする借金を比較的自由に選ぶことができます。
そのため、住宅ローンについては任意整理をせず、そのまま返済していくこととして、持ち家を守ることが可能です。
個人再生の場合
個人再生の場合は、原則としては全ての借金を対象にすることとなっており、対象とされた借金の担保権は実行されてしまう(例:車のローンがあれば、車を引き上げられる)のですが、住宅ローンについては例外が設けられています。
個人再生について定める民事再生法では、「住宅資金貸付債権に関する特則」が定められています。
この特則を活用することで、住宅ローンを特別扱いとして全額返済し、自宅の抵当権を実行されないようにできます。
こうすることで、持ち家を守ることができるのです。
個人再生の場合に住宅ローンがどうなるかについては、以下のページで詳しく解説しています。
自己破産の場合
自己破産をすると、まとまった財産を手元に残すことはできませんので、自己破産をする人の名義になっていれば、持ち家も手放すことになります。
住宅ローンが残っている場合は、抵当権が付けられていますので、住宅ローンの債権者が抵当権を実行し、競売にかけられるなどします。
住宅ローンが残っていない場合でも、破産管財人が換価処分を行うので、自宅は売却されてしまいます。
自己破産をした場合に自宅はどうなるかについては、以下のページで詳しく解説しています。
まとめ
今回は、債務整理には主に任意整理、個人再生、自己破産があること、債務整理後に自宅を購入したい場合の対処法、既に住宅ローンを組んで自宅を購入している場合は自己破産以外の方法であれば自宅を手放さずに済むことなどについて解説しました。
債務整理をすると、確かに一定期間住宅ローンを組むことは難しくなります。
しかし、債務整理をしなくとも、借金を返せずに延滞することが続くと、「ブラックリスト」に載ってしまい、住宅ローンを組めなくなってしまいます。
早くに弁護士に相談して債務整理を始めた方が、希望する解決方法を取りやすく、借金問題の解決も早まる場合が多いです。
自宅をお持ちの場合は、借金額が膨らんで自己破産しなければならなくなる前に、できるだけ早く債務整理の経験豊富な弁護士に相談することがとても大切です。
当事務所では破産再生チームを設けて借金問題に力を注いでおり、借金でお困りの方を強力にサポートしています。
お困りの方は当事務所までどうぞお気軽にご相談ください。