「借金があっても生活保護の申請は通るのだろうか・・・」と気になっておられるかもしれません。
生活保護を受ける前からある借金は、生活保護の申請が認められるかどうかに影響しません。
ただし、生活保護受給中に借金をするとその分保護費を減らされます。
また、生活保護受給中に隠れて借金をすると、後から保護費を返還させられたり、生活保護を打ち切られたりする可能性があります。
今回の記事では、生活保護と借金の関係について解説していきます。
生活保護とは
生活保護とは、国から、生活に困窮している人に、生活費、住居費など生活に必要な費用を支給することです(現物支給を含む。)。
生活保護により、国は、日本国憲法に定められた「健康で文化的な最低限度の生活」(日本国憲法25条1項)を営む権利を保障しているのです(生活保護法1条)。
生活保護を受けることになると、生活費等に充てるものとして、毎月一定額の「保護費」を受け取ることができます(生活保護法31条1項、32条1項、33条1項、35条1項、36条1項)。
ただ、保護費は、収入がある場合には減らされます。
保護費の額は、年金、児童扶養手当、給料などの各種収入と合算して、最低生活費として定められている金額になるように決められているのです。
そのため、収入が増えた場合は、保護費は減額されてしまいます。
生活保護の受給中は、福祉事務所のケースワーカーが担当につくので、収入の状況を毎月申告しなければなりません。
申告した内容に不備があると、ケースワーカーから指導を受けます(生活保護法27条)。
収入を申告していなかった場合などには、保護費の返還を求められることもあります(生活保護法63条)。
報告をしなかった場合や虚偽の報告をした場合には、生活保護が打ち切られることもあります(生活保護法28条5項)。
これから生活保護を申請する場合
これまでの借金が生活保護に影響する?
これから生活保護を申請しようと考えている方の中には、現在借金があるという方もおられるかと思います。
そうした方は、「借金があっても生活保護を受けられるのか?」と心配しておられるかもしれません。
結論から言いますと、借金があることは、生活保護の申請が認められるかどうかとは関係ありません。
生活保護の申請が認められるための要件は法律で以下のように定められています(生活保護法4条1項、7条、8条)。
- 生活保護の申請がある(急迫した状況にあるときを除く。)。
- 本人の資産だけでは、最低限度の生活の需要を満たすことができない。
- 利用しうる資産、能力その他あらゆるもの(親族からの援助を含む。)を、その最低限度の生活の維持のために活用している。
これを見ればわかるとおり、借金の有無については、生活保護開始の要件とはされておらず、関係ないものとされています。
そのため、生活保護が開始されるかどうかには、借金の有無は関係しません。
生活保護で借金を踏み倒せる?
生活保護を受給することになったからといって、自動的に借金が帳消しになり、踏み倒せるようになるわけではありません。
実際には、生活保護を受けている間は借金を返せる状態ではないのですが、その間も、放置しておくだけでは借金は残り続けます。
借金をなくすためには、裁判所に申立てをして、正式に自己破産の手続きを行わなくてはなりません。
生活保護を受けるような経済状態であれば、自己破産の手続きをすることで借金を帳消しにしてもらえる可能性は十分あります。
自己破産の手続は、用意すべき書類なども多く、手続きの仕方も専門的なもののため、弁護士に依頼して行うことが一般的です。
弁護士に依頼するというと、費用のことを気にされる方が多いですが、ご心配には及びません。
弁護士費用を用意できない場合、法テラスを利用すれば、弁護士費用を安く抑えることができ、分割払いにすることもできます(収入額、資産などについての要件を満たす必要はあります。)。
さらに、生活保護を受けるような状況の方であれば、後から弁護士費用の支払いを免除してもらえる場合もあります。
自己破産などの債務整理にかかる費用、法テラスの利用に関するメリット・デメリットなどの詳細は、次のページで解説しています。
ぜひ一度ご覧ください。
すでに生活保護を受給している場合
借金すると生活保護は打ち切りになる?
生活保護受給中でも、借金をすることも一応可能ではあります。
しかし、生活保護を受けている間に借金をしてもいいことはありません。
なぜなら、借金で借りたお金は「収入」とされてしまい、その分だけ保護費が減らされてしまうからです。
つまり、借金をしてしまうと、利息が発生する返済負担は増えたのに、保護費は減らされてしまい、いいことがない、という状況になります。
具体例でご説明すると、以下のようになります。
具体例 例:保護費を月8万円受け取っていた場合
5万円借金をしてしまうと・・・
保護費が8万円 – 5万円 = 3万円に減額
↓
5万円の借金は残り、利息も発生する
しかも、後でご説明するように、保護費から借金を返すことは認められていないので、返済することも難しくなります。
そもそも、収入がない状態で借金をしようとすると、収入について貸金業者に嘘をついて借りようとしなければならないことがほとんどでしょう。
そうすると、自己破産をする際に、虚偽の申告による借入れがあることが免除に悪影響を与えてしまいます(この点も後ほど詳しくご説明します)。
生活保護を受けている間は、借金は、しても良いことがない、と思っておきましょう。
ただ、それでもどうしてもお金が足りないという場合があるかもしれません。
その場合は、一度、ケースワーカーや福祉事務所に相談してみましょう。
医療を受ける必要がある場合や、生活に必要な家電の購入が必要な場合、進学、結婚などの事情がある場合などには、事前の承認を得られれば、公的な貸付けを利用するなどして借金をしても収入と認定されない場合があります。
奨学金も、利用できる可能性があります。
まずは、ケースワーカーなどに相談してみましょう。
借金を隠して保護費を受け取ると不正受給!
「ケースワーカーや福祉事務所には秘密にしておいて借金をすれば、バレないのでは?」と考える方もおられるかもしれませんが、それは難しいです。
福祉事務所では、生活保護を受けている人の銀行口座などの出入金の状況を調べることができます(生活保護法29条1項)。
そのため、借金をしていることは、すぐにバレてしまいます。
ケースワーカーが年に何回か訪問に来るので、その際に、「生活状況が豊かすぎる」と分かってしまうと、そこから借金がバレていく場合もあります。
借金をしていたことがバレた場合は、借金した分について遡って収入と認定されてしまうので、以前に受け取った保護費の一部は不正受給となり、その分の保護費を返還するよう求められてしまいます(生活保護法63条)。
金額や態様によっては、生活保護が打ち切られてしまう可能性もあります(生活保護法28条5項)。
生活保護を受けている間に、こっそりと借金をすることは、止めておきましょう。
どうしてもお金が足りない場合は、上でもご説明した通り、利用できる貸付けもあるかもしれませんので、一度ケースワーカーなどに相談してみましょう。
保護費での借金返済は認められていない
保護費として受け取ったお金で借金を返すことは、許されていません。
保護費はあくまでも、最低限度の生活を維持するために、「衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの」(生活保護法12条一号)など定められた用途に必要な限りで支給されるものなので、保護費をもって借金を返すことは認められていません。
厚生労働省の「『生活保護制度』に関するQ&A」にも、住宅ローンについてですが、「保護費から住宅ローンを返済することは、最低限度の生活を保障する生活保護制度の趣旨からは、原則として認められません。」と記載されています。
個人間の借金もNG?
個人間の借金も、金融機関や貸金業者から借金をした場合と扱いは変わりありません。
借金をして受け取った額は収入と認定されますし、保護費を返済に充てることは禁止されます。
生活保護を受けている人にお金を貸そうかと考えている場合は、生活保護を受けている当人に、「お金を貸すと収入と認定されて保護費が減額されてしまうこと」などを説明し、それでもよいのか聞いた上で貸しましょう。
そうしないと、後から本人が保護費の返還を請求されてしまい、むしろ困った事態に陥らせてしまうかもしれません。
そして、保護費を返済に充てることができない以上、貸したお金については、返済してもらえることはあまり期待せず、「あげたもの」と思うようにした方が無難です。
そう思えないようなお金であれば、貸さない方が賢明でしょう。
借金を放置することのデメリットとは?
生活保護を受給していても借金をすること自体は可能ではあるため、生活保護受給者でも、ケースワーカーなどの了承もないまま借金を負ってしまう場合はあります。
しかし、保護費からの返済もできないので、実際のところ返済することは難しいでしょう。
でも、だからといって借金を放置していると、困ったことになりかねません。
借金を放置してしまうと、次のようなことが起こってきます。
利息や遅延損害金がどんどん膨らんでしまう
返す当てがないからといって借金を放置していると、その間に利息はどんどん膨らんでしまいます。
さらに、返済期限を過ぎてしまうなどして期限の利益を失ってしまうと、利息よりもさらに高利率の遅延損害金が発生してきてしまいます。
期限の利益、遅延損害金については、以下のページもご参照ください。
債権者からの取立てがある
借金の返済期限を過ぎてしまうと、お金を貸した貸金業者など(「債権者」といいます。)からの電話や手紙、訪問による取立てが始まります。
こうした取立ては、支払いが遅れれば遅れるほど頻繁に来るようになり、大きな精神的負担となってしまいます。
訴訟提起、支払督促の申立てが行われる
取立てをしても支払いがないとなると、債権者は、訴訟を起こしたり、支払督促の申立てをするなどします。
訴訟が起こされると「訴状」が、支払督促が申し立てられると「支払督促」が、裁判所から債務者(お金を支払わなければならない人)に発送されます。
これらの文書は、単なる督促状とは違い、強い法的な効果があるので、無視していてはいけません。
裁判所に連絡するなどして適切に対応しないと、「相手の言い分を認めた」とされ、敗訴判決を受ける、支払督促に仮執行宣言を付けられる、といった大きな不利益を受けてしまいます。
訴状や支払督促が届いたときは、すぐに弁護士に相談し、速やかに対応しましょう。
弁護士に相談できない場合でもせめて、訴状などに同封された文書などを参考に、答弁書(支払督促の場合は督促異議の申立書)を作成し、裁判所に提出しましょう。
特に支払督促については、異議を出せる期間が厳しく制限されていますので、注意が必要です。
支払督促については、以下のページで詳しく解説しています。
支払督促を受け取った方は、ぜひ一度ご覧ください。
差し押さえが行われる
支払いを命じる判決や仮執行宣言付き支払督促が出されると、次は、債権者は、裁判所に差し押さえの申立てをします。
差し押さえの申立てが認められると、債務者の財産(預貯金、不動産、給料など)が差し押さえられてしまいます。
差し押さえがあると、債務者は自分の財産であっても自由に処分することができなくなります。
預貯金や給料が差し押さえられた場合は、債務者は、自分の預貯金を引き出すこと、差し押さえられた部分の給料を受け取ることができなくなってしまい、最終的には、債権者に預貯金や給料が引き渡されてしまいます。
自宅などを差し押さえられた場合には、強制競売にかけられて売却され、代金を債権者に支払われてしまいます。
ただ、生活保護法により、「既に給付を受けた保護金品及び進学準備給付金又はこれらを受ける権利」は差し押さえることができない(生活保護法58条)とされているので、これから受け取る保護費、これまでに受け取った保護費は差し押さえることができません。
もしも保護費として受け取ったお金が入金されている預貯金を差し押さえられてしまったら、全部又は一部が違法な差し押さえになりえます。
その場合、裁判所に申立てをして差し押さえの効力をなくしてもらう必要があります。
この申立ては、差し押さえをした貸金業者などの債権者に預貯金が支払われてしまう前に急いで行わなければなりませんし、専門知識がない一般の方には難しい手続きです。
このような申立てをしたい場合には、急いで弁護士に相談しましょう。
法テラスに相談すれば、生活保護受給中の方であれば、弁護士費用を立て替えてもらえて、その後弁護士費用を返済することも免除してもらえる可能性が高いです。
お近くの法テラスに相談してみることをお勧めします(なお、デイライト法律事務所は法テラスとは契約していないため、法テラスを利用してのご依頼はお受けすることができません)。
差し押さえについては、以下のページでも詳しく解説しています。
借金がある場合の対処法
借金がある場合、生活保護の受給前のものであれば、債務整理をしておくようにできると安心です。
自己破産などの債務整理をしたことは、生活保護の申請が認められるかどうかには影響しないので、ご安心ください。
生活保護を受給中に借金をしてしまった場合でも、債務整理をすることは可能です。
債務整理には、
- 自己破産:借金をゼロにできる
- 個人再生:住宅ローンの残った持ち家を残しつつ、借金を大きく減額できる
- 任意整理:減額できるのは利息・遅延損害金だけと少ないけれど、車・持ち家を残せる、保証人に迷惑をかけずに済むなど自由度の高い
などがあります。
ただ、個人再生と任意整理の場合は、手続き後に残った借金を3~5年かけて返済することになります。
そのため、残った借金の返済の目途が立てられない、安定収入がない、といった場合には、利用することができません。
生活保護受給者(又は受給予定者)の場合、保護費を借金の返済に充てることができず、返済の目途を立てられないため、個人再生や任意整理をすることは大変難しいです。
そのため、生活保護を受給中の方、又は受給予定の方は、ほとんどの場合自己破産をすることになります。
自己破産とは?
自己破産とは、持ち家・車などの主だった財産を処分して債権者に分配し、残ってしまった借金については免除してもらう(免責)という手続きです。
自己破産をする場合には、裁判所に申し立てて手続きを行わなければなりません。
自己破産をすると、資産を処分しても返済できなかった借金については免除されるというメリットがあります。
他方で、以下のようなデメリットもあります。
- 車、持ち家、多額の預貯金などは処分しなければならない。
- 「ブラックリスト」に載ってしまい、一定期間新たな借入れ・クレジットカードの利用などができなくなる。
- 保証人がいる場合、保証人に請求される。
- 友人、職場などへの借金も免責の対象となり、これらの人への借金がある場合には自己破産のことも知られてしまう。
- 一部の資格・職業について制限が加えられる。
- 官報に名前が載ってしまう。
- 浪費、ギャンブルなどが借金の原因である場合は利用できない可能性がある。
また、破産法は、免責不許可事由として、
を挙げているので注意が必要です。
この規定によれば、破産手続開始決定の申立てがあった日の1年前から破産手続開始の決定があるまでの間に、借金が返せないこと(破産手続開始の原因事実があること)がわかっていながら、そんな事実はないと嘘をついてお金を借りるなどしてしまっていると、自己破産をしても借金を免除してもらうことはできなくなってしまいます。
そのため、生活保護を受給している(又は近いうちに受給予定である)ことを隠し、返済能力があるフリをしてお金を借りて、後になって「生活保護を受けているから払えない」と言いだしたような場合は、免責不許可事由に当たるとして免責が認められない(=借金が消えない)ということになってしまう可能性があります(ただし、免責不許可事由があっても、裁判官の裁量で免責が許可されることもあります。)。
「生活保護を受けているからどうせ返さなくていいんだ」「もうすぐ生活保護を受けることになるから、借金をしても返さなくて済むようになる」などと安易に考えて借金をすると、上のとおり、自己破産をしても免責されない可能性があり、場合によっては、詐欺罪に問われて、刑事罰を科されることもありえます。
そのようなことは、決してしないようにしましょう。
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債務整理にご興味のある方は、当事務所の借金減額診断シミュレーターをご活用ください。
「生活保護を受給予定だし、自己破産しかない・・・」と思っている方も、一度試してみてください。
もしかしたら、過払い金が発生している、時効が成立している、という可能性が見つかるかもしれません(平成22年6月以前から借金をしている方の場合は、過払い金が発生している可能性があります。)。
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どうぞご自由にご活用ください。
生活保護と借金についてのQ&A
借金があると生活保護のケースワーカーにバレる?
上でもご説明したとおり、福祉事務所には、生活保護受給者の銀行口座の取引履歴を調査する権限がありますので、隠れて借金をしてもバレてしまいます。
隠れて借金をしていたことがバレると、過去に遡って保護費の返還を請求されたり、生活保護を打ち切られたりしてしまいます。
生活保護の受給中に、隠れて借金をすることは、やめましょう。
どうしてもお金が足りないときは、ケースワーカーに相談し、生活保護を受給していても利用できる貸付けについて聞いてみましょう。
事情がある場合、事前の承認があれば、借金をしても収入と認定されないこともあります。
まとめ
今回は、生活保護を受ける際に借金があっても大丈夫なのか、生活保護を受けている間に借金をすることはできるのか、といった点について解説しました。
生活保護の受給中に借金をすることは、ケースワーカーなどの承認がない場合、後に保護費の返還を要求されたり、生活保護を打ち切られたりする可能性があるので、やめておきましょう。
ケースワーカーの承認が得られて借金をする場合も、返済できる範囲内に留めるように気を付けましょう。
生活保護を受ける前に借金があった場合については、生活保護の申請は認められますが、生活保護を受けるようになったからといって、自動的に借金がなくなることはありません。
ケースワーカーの承認を得て借金をした場合についても、生活保護受給中だからといって返済義務が免除されることはありません。
借金があって返済ができない場合は、自己破産をするなどして、借金を整理してしまいましょう。
自己破産などの手続きは、裁判所を通して行う専門的なものなので、弁護士に依頼して行うことが多いです。
当事務所でも、自己破産をはじめとした債務整理を行う破産再生チームを設け、借金問題の解決に力を注いでいます(ただし、当事務所では法テラスの利用はできません。)。
借金問題を解決したい方は、当事務所までぜひ一度ご相談ください。