Q:私は、現在、建設関係の会社経営をしていますが、資金繰り悪化のため、破産を考えています。
破産後は、年齢などを踏まえ、新たに会社員として就職することは難しいです。
また、これまで会社経営で培ったノウハウを活用して今後も建設関係の事業を続けたいと思っています。
そこで、会社破産後に個人事業主、もしくは新会社を設立し、今後も建設関係の事業を継続できないでしょうか?
A:一定の条件を満たせば、現会社を破産させた後も、個人事業主や新会社として事業を継続することができます。
特に中小企業の場合、会社破産とともに経営者も破産することが多く、経営者の今後の生活再建という点に着目すると、現在の事業を継続した方が良い場合もあります。
そこで、一定の条件を満たし、かつ、経営者に事業を継続する意思がある場合には、現会社を破産させた上で、個人事業や新会社として事業を継続することがあります。
会社破産後に個人事業主や新会社として事業を継続するためには、一定の条件を満たす必要があります。
目次
そもそも会社が破産すると事業はどうなる?
会社の破産申立てをし、裁判所によって破産手続開始決定がされた場合、原則として事業は停止しなければなりません。
また、破産申立ての準備段階に入った時点で、通常の場合、事業を停止することがほとんどです(事業停止する日を「Xデー」と呼ぶことがあります。)。
もっとも、事業を継続することが財産的価値等に照らして相当と判断される場合には、外部的には破産準備に入ったことを秘したまま、事業を一定の期間継続することがあります。
つまり、いつ事業を停止するのかは、それぞれの事業毎に個別に判断する必要があります。
なお、上述のとおりですが、遅くても破産手続開始決定時には原則として事業は停止しなければなりません。
破産の効力に注意
破産手続は会社を適切に清算するための手続ですので、破産手続が開始すると、破産管財人によって、会社財産は全て処分され、契約関係は終了します。
また、その他にも、いくつもの法的な効力が生じます。
会社財産の換価・処分
破産法第78条1項には、破産する会社の財産について、次のとおり規定されています。
破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。
つまり、破産手続は会社を清算させる手続ですので、破産手続が開始すると破産管財人は清算に向けて会社財産を換価・処分します。
例えば、工具、原材料、在庫品などを換価・処分し、これによって、金銭化した財産は最終的には債権者の配当などに充てられます。
また、敷金返還請求権のような金銭的給付を目的とする財産についても原則として換価されます。
敷金返還請求については明渡しによって生じる請求権ですので、具体的には、破産管財人は賃借物件を賃貸人に明け渡すことで、賃貸人に対し敷金返還請求をすることになります。
この点について、押さえておく点は敷金返還請求をするためには賃借物件を明け渡さなければならないという点です。
つまり、新しい事業を開始するために工具、原材料、在庫品、賃借物件などの現会社の財産が必要な場合には対策を講じる必要があります。
どのような対策があるかについては後述いたします。
契約関係の終了
会社が破産すると、当然に契約関係も終了します。
例えば、賃貸借契約、リース契約、預金契約、業務委託契約など、破産によって会社自体が消滅してしまいますので、会社が当事者の契約関係は当然に終了となります。
また、取引先との関係も終了することになります。
そのため、未回収の売掛債権がある場合には破産管財人によって回収が行われ、未払いの買掛債権がある場合には破産によって支払義務が消滅することになります。
したがって、新たに事業を始めるにあたっては、契約関係の見直しや破産によって取引先との関係に与える影響を十分に注意することが必要になります。
従業員の解雇
会社が破産する場合、従業員を解雇する必要があります。通常は、破産申立ての準備段階で従業員を解雇することになります。
なお、従業員との関係や従業員の給与の取り扱いについては、こちらのページをご覧ください。
したがって、新しい事業を開始するにあたって、従業員を雇いたいという場合には再度雇用契約を締結する必要があります。
代表者も自己破産する場合の問題点
会社が破産する場合、多くの事案では代表者も自己破産することになります。
その理由は、会社が金融機関から融資を受ける際、金融機関は代表者の連帯保証を求めることが通常であり、また、会社の業績が悪化し、資金不足に陥った場合、会社の代表者は自己名義で消費者金融などから借り入れをし、会社に資金投入することも多々あり、その結果、会社の破産という状況では、代表者にも返済が困難な程度に負債が膨らんでいることが多いからです。
したがって、事業を個人事業主として継続したいと考える場合には、会社破産に関連する問題と合わせて、代表者の個人破産に関連する問題も検討することが必要になります。
代表者個人が破産する場合も、財産関係・契約関係を清算することは会社破産と同様です。
もっとも、個人の破産の場合には、会社の破産と違い、自由財産という例外が広く認められており、自由財産として扱われる財産については破産後も保有し続けることが可能です。
自由財産に関する詳細についてはこちらのページをご覧ください。
また、代表者の破産のケースで、特に気をつけなければならない点は、破産をすると、事故情報として信用情報機関(いわゆるブラックリスト)に載ってしまうため、新規融資を受けることができないという点です。
そのため、このような信用状況でも事業を続けることが可能か否かについては、慎重に判断することが大切です。
どのようなケースで事業継続ができる?
以上の破産する際の注意事項を踏まえ、では、どのような場合に事業を継続することができるかをまとめます。
上述したとおり、会社が破産すると、会社財産は全て換価・処分されてしまいます。
そのため、新しい事業を開始するために工具、原材料、在庫品、賃借物件などの現会社の財産が必要な場合には対策を講じる必要がでてきます。
代表者の個人財産や第三者(親族など)の援助によって、破産管財人からこれらを買い取ることで残すことが考えられます。
その際には、工具などの価格がいくらかが問題になりますが、買取業者などから見積書を取得するなどして、適正額が算出の上、破産管財人と買取について協議することで、事業の継続に必要な財産を残すことが可能な場合があります
なお、その際に気をつけなければならない点は、破産手続を申立てる前に、売却手続をしてしまうと、会社の破産手続において否認取消される可能性があり、また、代表者の個人破産の手続の際に、換価処分の対象となってしまう可能性があります。
したがって、買取時期としては会社の破産手続において、破産管財人との協議を経て、買取を行うことがベストと言えます。
破産をすると、賃貸借契約が終了してしまうため、継続して賃借物件を利用した場合には賃借人の変更(会社→代表者個人など)などをする必要があります。
そのためには、まずは賃貸人(もしくは管理会社)と交渉し、会社から代表者個人に賃借人を変更することの内諾を得ておきます。
その上で、会社の破産手続において、破産管財人と協議の上、賃借人の変更の許可をもらうことになります。
その際には敷金関係をどうするかがポイントとなりますが、代表者の個人財産から破産財団に対し、敷金相当額を差し入れることは必須条件となるでしょう。
したがって、新たに事業を始めるにあたっては、何らかの対策を講じる必要があります。
なお、気をつけなければならない点は、代表者の個人破産をする場合は、個人破産の際に再契約が終了する可能性があるため、相手方には相当な説明をしておく必要があります。
取引先との関係はビジネスですので、良くも悪くも損得勘定であることを理解しておくことが必要です。
つまり、仮に、自社に取引先にとって不可欠の技術がある場合には取引先は、破産後も付き合いを継続したいと考えると思います。
他方、自社との取引の継続に大きなメリットがない場合には、破産によって取引関係が終了してしまう可能性もあります。
事業を続けるためには取引先との関係がどのようになるかはとても重要な事柄ですので、慎重に見極めることが大切です。
会社が破産する場合、従業員を解雇する必要があります。
そのため、事業を継続するために不可欠な人材が引き続き協力してくれるのかを判断する必要があります。
そして、新たな事業についても引き続き協力するということであれば、再度雇用契約を締結する必要があります。
代表者も同時に破産する場合、代表者の信用情報が、信用情報機関(いわゆるブラックリスト)に載ってしまうため、新規融資を受けることができないという問題点があります。
そのため、事業資金を借入れによって頼ることができません。また、個人財産についても破産によって、自由財産を除き換価処分されてしまいますので、自己資金も十分に確保しておくことができません。
したがって、基本的には初期投資として相当額の資金が必要な事業については、個人事業として引き継ぐことは大きなハードルとなります。
会社において各種免許申請をしている場合、個人事業や新会社として新たに事業を継続する場合には、新たに免許を申請し直す必要があります。
負債が消滅すれば事業の再建が可能なのか
会社が多額の借金を負うことになった原因を特定し、かかる原因を除去することができるのか、原因を除去できれば事業の継続はできるのかを慎重に判断することが必要です。
会社や代表者の負債が消滅しても、同じように資金繰り悪化や業績悪化に陥るのであれば、そもそも、このような事業自体が成り立たないものであって、同じことの繰り返しになってしまう可能性が否定できません。
そこで、事業継続の可否を判断するにあたっては、十分な利益が出ている事業か否かによって、黒字体質への転換ができるかを見極めます。
具体的な数値としては、営業利益や経常利益が重要な指針となります。営業利益や経常利益段階で、赤字であれば事業継続は極めて困難です。
では、どの程度の利益が出ていれば良いかというと、事業によって考慮すべき事情は多種多様ですので、十分といえるか否かは個別の判断となります。
経営者の事業継続の意思
事業を継続するか否かを判断する際に最も重要な判断材料は、経営者に事業継続の意思があるのか否かという点です。
そもそも、経営者に事業継続の強い意思がない場合には事業の再建は困難です。
会社破産、代表者の破産には大きなエネルギーが必要で、債権者集会などの際は、損害を受けた債権者などから厳しい意見を頂戴することもあります。
このような苦境を乗り越えるためには、経営者に再建への強い意思が求められます。
新会社を設立し事業を引き継ぐ場合の問題点
新会社を設立し事業を引き継ぐ場合には特別の問題も生じます。
このような事業の引き継ぎは事業譲渡に当たりますので、当該事業譲渡が債権者に著しく不利益を与える場合には詐害行為取消しや否認取消しの対象となる可能性があります。
したがって、債務超過状態にある会社では、破産に先立って事業譲渡をすることは慎重に行う必要があり、仮に、このようなスキームを採る場合にはメインバンクとの事前交渉や金融機関への同意を得ておくべきでしょう。
また、このような場合には、一般的には、否認という問題が生じない第二会社方式(特定調停スキーム)を採ることが多いです。
第二会社方式についてはこちらのページをご覧ください。
事業を継続するためには多方面への配慮が必要になりますが一定の条件を満たす場合には個人事業主や新会社として事業継続をできる場合もありますので、資金繰りが悪化している企業や業績が悪化している企業の経営者で、このようなスキームを検討されている方は、一度企業再建を専門とする弁護士にご相談することをおすすめします。