会社の清算とは、会社の財産、負債を整理して清算し、残った財産は株主等に分配する手続きです。
会社経営を続けていくことは、いつの時代でも簡単なものではありません。
経営に行き詰り、事業を続けることが難しくなる会社もあります。
そうなってしまった場合、経営者としては、このまま事業を続けて経営改善を図るか、傷の浅いうちに会社を清算するか、判断に迷うところです。
事業自体は順調であるにもかかわらず、後継者を見つけられず事業継続が困難になった場合も、会社をこの先どうするか、決断する必要に迫られます。
適切な判断をするためには、会社の清算に関する基本知識を有していることが重要です。
この記事では、会社の清算の意味、廃業・解散との違い、手続きの流れ、メリット・デメリット、費用やポイントについて解説します。
会社の清算について判断する際のご参考になれば幸いです。
会社の清算とは?
会社の清算とは、会社を解散した後、会社に残った債務について調査し、財産についても調査・処分して、負債を返済し、残った財産(残余財産)を株主等の構成員に分配する手続きです。
会社が解散して清算の手続きが始まるのは、以下の解散事由が発生した場合です。
- ① 定款で定めた存続期間の満了(実務上は少ない)
- ② 定款で定めた解散事由の発生(実務上は少ない)
- ③ 株主総会における解散決議
- ④ 合併
- ⑤ 解散を命じる裁判
- ⑥ 休眠会社のみなし解散
なお、破産手続開始決定も解散事由となるのですが、この場合には、通常の清算手続きではなく破産手続によって、会社の財産の処分や債務の弁済を行います。
清算と廃業との違い
廃業は、会社や個人事業を自主的に終了させ、倒産手続によることなく会社や事業のための財産等を清算するものです。
廃業は、会社の清算とは違い、個人事業主でも行うことがあるものになります。
また、会社の場合についていうと、廃業は、事業の停止から清算の終了までにわたる手続き全体を指す言葉になります。
つまり、清算は、会社を廃業するための手続きの一部分、ということになります。
清算と解散との違い
解散は、会社の事業を終了し、清算に入ることが決まることをいいます。
解散が決まっても、すぐに法人格が全て消滅するわけではありません。
解散後の会社は、清算の目的の範囲内において、清算が結了(終了)するまでの間存続します(会社法476条)。
これに対し、清算は、解散が決まった後、実際に会社の財産関係を整理していく手続きになります。
清算が結了すれば、法人格は完全に消滅します。
会社の清算を検討する状況
清算を検討する状況としてよく見られるのは、次のようなものです。
①事業の先行きが思わしくない
事業を継続していても赤字が出るばかりで、改善の見込みも立たない、という場合、債務超過に陥る前に事業を停止し、会社を清算した方が、傷が浅くて済む可能性が高いです。
②後継者がいない
経営者が加齢・病気により経営を続けられなくなった、死亡してしまった、というような場合には、会社を引き継いでくれる後継者がいないと、会社は解散・清算せざるを得なくなります。
ところが、近年は、個人の自由を尊重する価値観が浸透してきたため、経営者の子であっても経営を引き継ぐことを拒否する場合や、経営者の側にも子に経営を継がせるつもりがない場合が増えてきています。
そのため、後継者がみつからず、事業自体は順調であるにもかかわらず、解散・清算する場合が出てきています。
親族内で後継者が見つからない場合は、親族以外で後継者を探し、事業譲渡、M&Aなどの形で事業を引き継ぐケースもあります。
M&Aや事業譲渡に積極的に取り組んでいる弁護士、公認会計士などに相談すると、事業の引継ぎ先が見つかるかもしれません。
商工会議所やM&Aコンサルタントなどでも、事業承継としてのM&Aに関する相談ができる場合があります。
後継者探しでお困りの方は、一度相談してみるのもよいでしょう。
債務超過の場合は、倒産を検討しましょう
会社の債務の方が資産よりも多い状態(債務超過)に陥っている場合は、通常の清算手続を行うことはできません。
その場合は、破産、特別清算などの倒産手続を検討しましょう。
破産、特別清算では、裁判所の関与の下、手続きの公正性、債権者の平等を担保しつつ会社財産の清算が行われます。
ただ、デメリットとして、
- 法的に決まった手続きがあり煩雑
- 全ての債務を完全に返済することは難しく、債権者に迷惑をかけてしまう
- 多額の費用(100万円以上)がかかる
- 経営者が連帯保証人となっている場合、経営者も弁済を求められる
といったことがあります。
上記のデメリットのうち特に、債権者に迷惑をかけてしまうこと、経営者自身も返済責任を追及されることを考えると、できることならば、倒産に至る前に廃業できる方が望ましい結果になることが多いと思われます。
倒産について、詳しくは以下のページをご覧ください。
会社の清算のメリットとデメリット
メリット |
|
---|---|
デメリット |
|
会社の清算のメリット
自分で事業終了時期を選べる
破産などの場合、支払不能などの外的な状況によって事業を終了させることを迫られてしまいます。
一方、会社の清算の場合は、経営者が主体的に事業の状況について考え、事業を終了させるかどうか、その時期はどうするか、といったことを考えることができます。
経営者が連帯保証人となっていても、責任を追及されなくてすむ
債務超過に陥る前に会社の清算ができた場合、会社の財産のみで債権者への支払いを済ませることができます。
そのため、経営者が会社の債務の連帯保証人となっていた場合でも、経営者個人への請求をされずに済みますので、経営者の個人資産を守ることができます。
会社が債務超過に陥った後になってしまうと、会社財産では返しきれなかった負債について、連帯保証人となっている経営者の個人資産から返済するよう迫られてしまいます。
最悪の場合、会社の破産とともに、経営者も自己破産することになってしまいます。
自己破産することになってしまうと、経営者は、持ち家、車、預貯金など多くの財産を失ってしまうことになります。
このような事態を避けることができるという点が、適切な時期に会社の清算に踏み切ることの大きなメリットになります。
自己破産については、以下のページをご覧ください。
経営の責任を負わなくてもよくなる
経営者は、日々重圧にさらされています。
売上げの確保、税金や従業員への賃金の支払い、取引先との関係維持、不祥事の防止など、しなければならないことは山のようにあり、責任も大きいです。
会社の清算ができてしまえば、こうした経営者としての責任からは解放されます。
課税されなくなる
会社は、存続しているだけで、法人住民税を課されてしまいます。
会社の清算が済んで会社が消滅すれば、こうした課税もなくなります。
役員登記の必要がなくなる
会社の存続中は、役員の任期終了に伴って役員に関する登記をする必要があります。
その度に、登記手続費用や司法書士費用がかかります。
会社の清算ができてしまえば、役員登記をする必要もなくなり、費用も必要なくなります。
決算報告・確定申告をしなくてよくなる
事業が続いていると、決算報告書を作成したり、確定申告をしたりする義務が生じます。
しかし、会社を清算して消滅させてしまうと、決算報告、確定申告をする必要もなくなります。
会社の清算のデメリット
会社自体が消滅する
会社を清算すると、法人格がなくなり、会社が消滅してしまいます。
そうすると、会社にまつわる関係を全て清算し、会社の財産も処分しなければならなくなります。
そのため、次から述べるような支障が生じてきます。
従業員を全員解雇する必要がある
会社を清算すると、従業員は全員解雇することになります。
解雇は従業員にとって非常に大きな影響があるので、反発、混乱も予想されます。
経営者としても、一緒に働いてきた従業員を解雇することは苦渋の決断となるでしょう。
この決断ができず、解散・清算の時期を逃してしまうことも実際にあります。
ただ、結局倒産してしまったら、従業員は職を失うことになりますし、破産などの手続きにも巻き込まれることとなってしまいます。
そうなると、従業員は、十分な給料や退職金ももらえなくなる可能性があります。
弁護士などにも相談し、状況を見極めて対応することが大切です。
取引先にも影響する
会社を清算して事業を停止すると、取引先としても、売上げが減少してしまう、調達先の再選定をする必要が生じてくる、といった影響を受けます。
清算する会社が希少な部品、原材料を提供していたような場合、その部品等を使った商品が製造できなくなる可能性もあります。
このように、会社の清算は、清算する会社だけでなく、取引先などの関係する会社に大きな影響を及ぼすことがあります。
事業用資産が散逸する
会社を清算すると、会社が保有していた事業用の資産も処分しなければならなくなります。
そうすると、再度事業を始めようとしても、再び事業用資産を集める必要が生じるので、難しくなります。
許認可を失う
会社は清算すると消滅してしまいますので、会社として有していた許認可も失ってしまいます。
許認可を失ってしまうと、同内容の事業を再度始めるには許認可を取り直す必要が出てくるので、事業再開のハードルは上がってしまいます。
手続きのための費用がかかる
会社の清算をするためにも、会社清算にかかる費用でも解説するように、一定の費用がかかります。
ただ、破産、特別清算などの倒産処理をしようとすると、手続費用がさらに多額(最低でも100万円以上)になってきます。
そのため、比較的低廉な費用で実施できる清算手続を選択することには、メリットがあるともいえます。
会社の清算の手続き
会社の清算のスケジュール
会社の清算の手続きは、次の図のような流れで進みます。
事前の準備
会社を清算することを決めたら、まずは取引先や従業員、金融機関への説明をしていきます。
この際、早い段階で情報が漏れてしまうと、「債務超過で倒産するようだ」との誤解を受けて、いきなり取引を打ち切られる、支払期限の来ていない代金の支払いを迫られる、といった不測の事態が起こる可能性があります。
情報を伝える時期、相手、情報漏れの可能性には十分に注意して、関係者への説明を進めましょう。
そして、清算に入った際の影響を最小限にするために、取引量を徐々に減らしていくなどして、事業を縮小していく措置も進めましょう。
会社の解散
会社の解散の手続きでは、まず株主総会を招集します。
株主総会は、取締役会での決議(取締役会がない場合、取締役の過半数の決定)によって招集します。
招集通知は、株主総会の2週間前までに発送します(株主全員の同意が得られるときは不要)。
株主総会では、解散決議と清算人の選任を行います。
解散決議をするには特別決議が必要なので、出席株主の3分の2以上の賛成を得なければなりません。
清算人の選任については普通決議で足りるので、出席株主の過半数が賛成していれば可決されます。
会社の解散について、詳しくは以下のページをご覧ください。
清算手続
解散決議が成立したら、清算人によって清算手続が始められます。
最初に行う手続に、解散に関する登記手続があります。
会社の解散と清算人の選任について、速やかに登記手続を行います。
税金に関しては、税務署等への廃業届、解散確定申告・納税を行います。
加えて、官報公告を行います。
官報公告は、知られていない債権者に会社の解散を知らせて申し出を促すためのもので、2か月以上の期間を設ける必要があります。
清算人はほかにも、会社の財産の現況を調査し、解散日現在の財産目録・貸借対照表を作成し、これらに対する株主総会での承認を得なければなりません。
その後、清算人は、債権者の調査、会社財産の処分、売掛金・貸付金などの債権回収などを進め、官報公告の期間が終わった後は負債の返済も行っていきます。
負債の返済が済んだ後に財産が残った場合には、残余財産として株主などの出資者に分配されます。
また、従業員の解雇に関する各種手続き(社会保険関係、税金関係など)も行っていきます。
これらの清算事務が終了したら、清算人は、決算報告を作成して株主総会での承認を得なければなりません。
決算報告について株主総会の承認を受けた後2週間以内に、清算結了の登記も行います。
確定申告、税務署等への清算結了届の提出も必要となります。
清算結了登記から10年間は、清算人は、清算会社の帳簿資料(帳簿並びにその事業及び清算に関する重要な資料)を保存しなければなりません。
会社の清算にかかる期間
会社の清算にかかる期間は、最短でも2か月となります。
これは、官報に掲載する解散の公告期間が2か月以上必要だからです。
官報公告は、会社が清算に入ることを広く知らせ、会社に知られていない(見落とされている)債権者に申し出の機会を与えることを目的として、会社の解散が決定した後に行われます。
公告期間の2か月が経過するまでは、原則として、既に知れている債権者に対しても弁済することができませんので、清算を終了させることができません。
公告期間が経過した後は、残っている債務の弁済と清算結了登記をする必要もありますので、解散が株主総会で決まってから清算が完全に終わるまでには、2か月半程度はかかると見込んでおきましょう。
なお、会社の規模が大きい場合や、会社財産の中に処分が難しい物がある場合、清算にかかる期間は長期化します。
長い場合には、会社の清算に数年を要することもあります。
会社清算にかかる費用
弁護士費用
会社の清算は、事前準備、解散手続、債権者調査、財産処分、分配、その他各種手続きなど必要となる作業が多く、その内容も複雑です。
情報漏れの防止など、気を遣う対応も生じてきます。
そのため、会社の解散は、専門家のサポートを受けながら進めることが重要になってきます。
会社の清算サポートについて、デイライトの弁護士費用は、以下のとおりです。
相談料 | 初回無料 |
---|---|
着手金 | 55万円(税込)~ ※財産状況やテナントなどの明渡しの有無、従業員数、債権者数を考慮してお見積もりいたします。 |
上のとおり、会社の清算に関するご相談は初回無料となっております。
まずは一度、お気軽にご相談ください。
ご相談を伺った上で、個別のケースに応じたお見積もりをお出しさせていただきます。
その他の費用
会社の解散から清算までに必要となる最低限の実費は、以下のとおりです。
登記費用(解散、清算人選任) | 3万9,000円 |
---|---|
官報公告費用 | 3万3,000円 |
清算結了登記費用 | 2,000円 |
合計 | 74,000円 |
会社の清算のポイント
赤字が増えすぎないうちに動き出す
会社を無事に清算したいのであれば、赤字が増えすぎない間に動き出すことが大切です。
赤字が続いて負債が増え、会社の資産が減っていってしまうと、いずれは債務超過に陥ってしまいます。
そうなると、通常の清算手続きで事業を畳むことはできなくなり、倒産処理が必要になります。
倒産処理をすることになると、費用も労力も通常の清算の場合以上にかかってしまいますし、債権者に十分な弁済をできなくなってしまう、経営者が連帯保証人となっていれば個人資産も失う危険がある、といったデメリットが生じます。
経営の先行きが見えない、事業を止めることも考えている、という場合は、赤字が増えすぎてしまわないうちに早めに動き出すことが必要です。
倒産や再生にくわしい弁護士に相談する
清算も視野に入れて動き出すときは、倒産や再生にくわしい弁護士に相談しましょう。
倒産や再生にくわしい弁護士であれば、相談者の会社の経営状態について精査し、倒産処理の必要はないか、解散以外の方法を取ることはできないか、について一緒に考えてくれます。
場合によっては、M&A、事業承継についての助言や、経営改善の方法についての提案も行ってくれることがあります。
もちろん、解散がベストな選択である場合や、相談者が解散を希望している場合には、解散に関するサポートを行っていきます。
その場合も、倒産や再生にくわしい弁護士であれば、スムーズに、適切に手続きを進めてくれるでしょう。
倒産や再生にくわしい弁護士を探す際には、HPをよく見てみることも参考になります。
HPを見て、力を入れている分野、実績、弁護士の経歴などを見てみましょう。
そして、「この法律事務所が良さそうだ」と思ったら、まずは相談に行ってみるようにしましょう。
実際に弁護士と話をして、話しやすそうだ、信頼できそうだ、と思えれば、依頼をして、その弁護士とともに事態の解決に当たっていきましょう。
決断・行動は迅速に
解散に関する決断や行動は、迅速にしなければなりません。
遅れれば遅れるほど、赤字が増えるなど状況が悪くなってしまいます。
弁護士への相談、方針決定は、なるべく早く行いましょう。
弁護士に相談した後も、弁護士の作業がスムーズに進むようにご協力ください。
資料などの準備や打ち合わせについて、弁護士からの連絡に応じて迅速にご対応いただけると、弁護士の方でも検討、準備を早く進めることができます。
まとめ
今回は、会社の清算について、手続き、メリット・デメリット、ポイントなどを解説しました。
会社の清算を決断することは、会社を完全に消滅させることを意味する重い決断です。
しかも、時期を逃してしまうと、通常の手続きによる清算が不可能になり、倒産手続をしなければならなくなる場合もあります。
適切な判断をするためには、早期に専門家の支援を受けることが必要です。
会社の清算が頭に浮かんだ時には、「少し気が早いかな」と思うくらいのうちに、倒産や再生に詳しい弁護士に相談してください。
倒産や再生に詳しい弁護士であれば、会社の清算を適切に進めてくれるのはもちろんのこと、経営改善のためのアドバイス、資金調達に関する支援、M&Aに関する助言なども行ってくれる可能性があります。
当事務所も、企業法務部を設け、会社の清算に伴う労働問題、税金問題、知的財産の問題及びM&Aに関する問題などの解決に向けた支援、会社の清算を避けるための経営コンサルティング、資金調達の支援、債権回収の代理などを行っております。
債務超過に陥っており倒産手続が必要な場合にも、破産再生チームがありますので、当事務所において途切れなく手続きの支援を続けることができます。
お困りの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。