病院の破産・倒産とは?手続きの流れや注意点を弁護士が解説


病院の破産・倒産とは、他の会社破産と同じく、事業を廃止して精算する手続の一つです。

病院の破産手続きは、個人病院であれば医師、医療法人であれば法人が行うことになります。

病院の破産手続きについては、医療という人の生命・身体の対応をする事業の特殊性から、患者への対応や、従業員への対応、診療記録の保管などについて注意しなければなりません。

病院が破産する場合には、手続きが複雑になる可能性が高いため、法人破産や病院の破産手続きに詳しい弁護士に任せる必要があります。

以下この記事では、病院破産の手続きの特徴や注意点、破産手続きの流れ、破産することのメリットなどについて解説していきます。

病院の破産・倒産手続きの特徴

病院の破産手続きを誰が行うか

病院が破産する場合、破産手続きを誰が行うかについては、ケースによって異なります。

「病院」は病院の破産手続きの主体ではありません。

医療法には、「この法律において、『病院』とは、医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって、二十人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいう」と規定されています(医療法第1条の5第1項前段)。

そのため、「病院」とは「場所」のことであって、法的な手続きの主体とはなりません。

なお、入院施設のないクリニックのような病院については、医療法では「診療所」と分類されています。

この記事では、診療所も含めて、「病院」として説明していきます。

そして、病院の破産とは、病院の運営主体・開設者の破産を指します。

個人運営の病院が破産する場合には、運営主体・開設者である医師個人が破産手続きの主体となります。

また、医療法人の運営する病院が破産する場合には、運営主体・開設者である当該医療法人が破産手続きの主体となります。

 

自己破産しても医師免許ははく奪されない

病院の破産で、その病院を医師個人が運営している場合、医師が自己破産をすることになります。

しかしながら、病院が破産をしても医師が医師免許を失うことはありません。

医師免許が与えられない条件については、医師法第4条に規定されています。

第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。

  1. 一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
  2. 二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
  3. 三 罰金以上の刑に処せられた者
  4. 四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者

引用元:医師法|e-Gov

医師が何らかの刑事事件を起こして、罰金以上の刑を受けた場合には、医師免許をはく奪されてしまう可能性があります。

しかし、病院が破産したとしても医師免許がはく奪されることはありません。

したがって、開業した病院やクリニックが経営に失敗して、医師個人が破産したとしても、医師免許がなくなるわけではないため、再び勤務医などとしてやり直すことができます。

 

患者への配慮が必要

病院が破産する場合、医療行為を継続することが難しくなるため、入院・通院している患者への配慮が必要となります。

転院に要する期間や費用を考慮し、その間まで診療を継続できるのかを判断しなければなりません。

万が一、入院患者がいるにもかかわらず医療体制が不十分な場合や、患者の生命に危機的な状況が迫っている場合には、都道府県の環境保健部等の行政機関、保健所、医師会とも協議をしなければなりません。

入院患者がいない場合でも通院中の患者が緊急的な治療の必要があれば、患者の状況を調査し、行政機関に協力を要請する必要もあります。

病院の規模が大きければ大きいほど、地域の医療に与える影響が大きいため、病院の破産については、慎重に検討しなければなりません。また、医療過誤などの問題をくれぐれも起こさないように気をつける必要もあります。

 

 

病院の破産手続きの流れ

病院の破産手続きの流れ

 

弁護士への相談~方針決定

病院の破産を行う場合、まず弁護士に相談する必要があります。

医療法人の場合には、法人破産となりますが、大量の書類を整えなければならない上、手続きも複雑ですし、債権者や裁判所への対応も必要となりますので、専門家である弁護士に依頼して行うのが一般的です。

また、病院の破産の場合には、現在の債務状況や診療報酬債権の譲渡の有無、診療の継続性などについて事前に弁護士と打ち合わせを行う必要があります。

したがって、個人の医師の自己破産であっても弁護士に相談するべきです。

その上で、病院の破産をする場合には、事業活動を最終的に止める必要があるため、いつ事業を止めるのか、患者をどのようにして他の医療機関に引き継ぐのかということもあらかじめ綿密に計画しておかなければなりません。

そのため、会社破産や病院の破産に詳しい弁護士事務所に相談することが重要です。

 

受任通知の発送

弁護士と事前の法律相談を実施した上で、病院の破産手続きに関する費用や、具体的な手続きに関する流れ、サービス内容について弁護士から説明を受けます。

弁護士に委任することが決まったら、弁護士から債権者に対し、委任を受けたことを知らせる受任通知を発送します。

弁護士から受任通知を発送すると、多くの債権者はその後、債務者である医療法人や医師個人ではなく弁護士に連絡をしてきます。

そのため、債権者から医療法人、医師個人への直接の取立ては止まります。

また、受任通知発送後は、破産申立て準備のために債権額を確定することや、全債権者を平等に扱うことが必要となるため、債権者への支払いは止めることになります。

以上が、一般的な債務整理の場合についての解説になります。

ただ、病院の破産の場合には、支払ができない状態にあることを債権者に知られると、無理な取り立てを招くなどして混乱が起こる場合もあるので、破産申立てとほぼ同時に受任通知を出す場合も多いです。

その場合、結局、直接の取立てが止まるのは、破産申立ての目処が具体的についてから、ということになります。

 

破産申立て

必要書類を整えることができたら、裁判所に破産の申立てをします。

必要書類の提出や破産申立てにあたっては、弁護士が全て行ってくれますので、申立ての際に依頼者が直接、裁判所に出向く必要はありません。

なお、病院の破産手続きでは、直接医療に関わる医療従事者や病院施設の保守管理者、診療報酬の計算や雇用保険の計算に関わる事務職員を最低限確保する必要があります。

このように病院の破産に当たっては、一部の従業員については雇用を継続しなければならないという点には注意が必要です。

ですので、どの人員を解雇せずに残して業務を行ってもらうのか、その資金をどう捻出、確保しておくのかについてもあらかじめ検討しておかなければなりません。

 

審尋

裁判所への申立て後、裁判官と面談する審尋が行われます。

審尋では、破産の経緯や債務の状況等について事情を聴かれます。

 

破産手続開始決定

申立て書類の審査と審尋の結果、破産手続開始の原因(支払不能又は債務超過)があると認められると、裁判所は破産手続開始決定を出します。

 

破産管財人選任

破産手続きが開始すると、裁判所は、破産管財人を選任します。

破産管財人の選任は、通常、破産手続開始決定と同時に行われます。

破産管財人は、破産を申し立てた医師や医療法人の財産を管理し、最終的に処分する権限を持ち、その後の破産手続きを進めていきます。

具体的には、病院に設置されている医療機器やベッドなどの備品、病院の建物、土地といった不動産、診療報酬などの財産です。

ただし、病院はその特性上、裁判所から選任された破産管財人だけでは、財産の管理や処分等の業務を行うのは困難です。

そのため、破産申立ての前に看護師や事務職員の代表者が管財業務の補助者として選定される場合があります。

 

債権者集会

破産手続き中には、その進捗状況を報告する債権者集会が開かれます。

債権者集会では、破産管財人が病院の破産手続について、業務の進捗度合いを報告します。

債権者集会は必要に応じて複数回開催される場合があります。

おおむね3か月に1回程度の頻度で開催されます。

 

配当

財産を処分した後、債権者に配当できるだけの現金があれば、配当が実施されます。

配当は、一回だけでなく、複数回行われることもあります。

配当が終われば破産手続きは終了し、破産をした医療法人は、法人格を失って消滅します。

医師個人の場合には、破産手続が終了するときに、借金の免除をするかどうかが決定されます。

なお、破産手続きの費用を賄う額しか財産がなく、配当に回す金銭がないという場合もあります。

そのような場合、配当を行わずに破産手続きが廃止される(終了する)ことになります(異時廃止)。

 

 

病院の破産以外の手続きについて

私的整理

破産以外の手続きとして、私的整理という方法があります。

病院の私的整理とは、裁判所の関与を受けずに、銀行などの債権者と話し合いを行い、債務免除や支払猶予を行う手続きをいいます。

私的整理は、民事再生法等の債務整理のための法律に基づくものではなく、債権者に対する強制力はありません。

債権者の任意の和解契約に基づいて進めるものなので、「任意整理」とも呼ばれています。

任意整理は、依頼を受けた弁護士が銀行などの債権者と交渉するため、裁判所に出向く必要がありません。官報に掲載されることもないので、周囲の人にバレずに借金問題を解決できる可能性があります。

任意整理は、将来利息のカットや返済期限の猶予等により、毎月の負担軽減を図る手続きです。

医師は、潜在的な稼働能力が高く、一般の会社員に比べて収入も多いため、多額の借金があっても任意整理で解決できる可能性があります。

任意整理の方法がとれるか否かは、会社破産や病院破産に詳しい弁護士に相談して確認する必要があります。

なお、私的整理については以下の記事で詳しく解説しております。

 

民事再生

倒産以外の手続きとして、民事再生という手続きもあります。

民事再生とは、民事再生法という法律に基づき、債権者の多数の同意を得て、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等によって、債務者の事業又は経済生活の再生を図る手続をいいます。

破産手続きを行うと、医療法人や医師の財産は原則全て処分され、債権者、従業員、取引先などとの法律関係も全て清算されます。

一方、民事再生では医療法人や医師の財産や債権者などとの法律関係を維持しつつ、会社の再建を目指すことができます。

なお、民事再生については、以下の記事で詳しく解説しております。

 

 

病院の破産・倒産の3つの注意点

①患者への対応

病院の破産・倒産で注意しなければならないのは、患者への対応です。

病院が破産申立を行う際には、入院患者の生命・身体をいかに保護するかという点が非常に重要となります。

破産により医療従事者が解雇されたあとからでは、入院患者の転院作業は非常に困難となります。

そのため、病院としては、入院患者がいる場合には、人道的・倫理的観点から、安全確実かつ迅速な転院に向けて細心の配慮が求められるのです。

具体的には、入院患者数、通院患者数、転院・転医の状況、受け入れ先が確保されているか、転院に要する期間や費用、転院・転移までの間、診療を継続するだけの医療体制が整っているかどうかを正確に把握する必要があります。

医療体制が十分でない場合や、入院患者の生命・身体に危険が生じる可能性のある場合などには、都道府県の環境保健部等の行政機関、所轄の保健所及び地域の医師会と協議し、患者に対する影響がないようにする必要があります。

入院患者が存在しない場合であっても、継続的な治療をする通院患者が存在する場合には、緊急治療の必要性の有無など、患者の状況について調査し、行政機関等の協力を求める必要があります。

また、通院患者からは、紹介状・診断書・診療録(カルテ)・レントゲンの交付依頼に対応する必要があります。

特に、通院患者は、病院が破産することを知らずに来院して、張り紙やホームページなどの通知によって破産の事実を知ることがほとんどでしょう。

 

②従業員への対応

病院・診療所で従業員を雇用している場合は、給与が未払いにならないうちに、事情を説明して退職してもらう必要があります。

無理に経営を続けて、給料が払えなくなってしまうと、従業員の日々の生活の糧を奪ってしまうことになります。

病院の破産手続の開始決定がなされると、破産管財人が選任されます。

破産管財人の選任以降は、管財人が病院の財産管理を行うことになります。

しかし、病院や診療所の破産については、その業種の特殊性から、破産管財人だけでは管財業務を行うことはできません。

そのため、破産申立前に、看護師や事務員代表者1名が管財業務の補助者として選定されることがあります。

このような場合には、補助者の雇用が継続されることになります。

仮に、従業員への給与が支払えないまま破産手続きを進めることになった場合には、従業員への「未払賃金立替払制度」を利用する必要があります。

未払賃金立替払制度とは、法人の倒産により賃金が支払われないまま退職した従業員に対して、未払賃金の一部を立替払する制度です。

立替払の対象となる未払賃金は、従業員が退職した日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している定期賃金と退職手当のうち、未払となっているものです。

いわゆるボーナスは立替払の対象とはならず、また、未払賃金の総額が2万円未満の場合も対象とはなりません。

立替払いされる給料は全額ではありません。

立替払いされる額は、未払賃金の額の8割であり、退職時の年齢に応じて88万円〜296万円の範囲で上限が設けられています。

立替払した場合は、独立行政法人労働者健康安全機構がその分の賃金債権を代位取得し、本来の支払責任者である使用者に求償します。

このように、未払賃金立替払制度を利用することで未払給与の一部を受け取ることができますが、全額補償されるわけではありませんし、実際に支払われるまでには時間がかかることになります。

従業員への給料が未払いのまま、病院の破産手続きを進めることは避けるようにしましょう。

 

③診療録の保管場所の確保

破産者本人は病院の「管理者」として診療記録(カルテ)などの保管義務を負うことになります(医療法第24条2項)。

医師や病院・診療所の管理者は、診療録を5年間保存する義務があります。

また、病院日誌・診療日誌・処方箋・手術記録・看護記録・検査所見記録・エックス線写真などは2年間保存する義務があります。

しかし、閉鎖した病院内に診療録等を残置しておくのは個人情報保護の観点から適切ではありません。

そのため、可能な限り適当な場所での保管を検討する必要があります。

このような観点から保管場所をどうするかについて検討する必要があります。

例えば、病院の施設の買受人がそのまま当該施設を病院として利用する場合には、その病院内で保管してもらうという方法があります。

病院として利用していた土地、建物について買い手が決まり、かつその買い手が医療法人社団等の医療機関であった場合、その土地、建物を再利用し、病院を経営するケースもあります。

現実に従来の患者に対して診療行為を行うことができない破産者が保管しているよりも、病院の跡地に他の病院が移転し、従前の診療録等が引き継がれ、現実に診察を受ける可能性の高い医療機関に引き継いでもらった方が患者のメリットになります。

病院が破産した場合であっても、診療記録の保管義務は残ることになるため、記録の引き取り先が見つからなかった場合には、破産財産から費用を捻出して診療記録等の保管をすることになります。

 

 

病院が破産・倒産を弁護士に相談する3つのメリット

病院が破産・倒産を弁護士に相談する3つのメリット

①債権者からの取り立てや強制執行を止められる

破産の申し立てを弁護士に依頼した場合、弁護士は各債権者に対して受任通知を送ります。

受任通知を受け取った債権者は、電話や郵送、訪問等の方法で直接取り立てを行うことが出来なくなります(貸金業法21条1項)。

そのため、弁護士に依頼をすることで、債務者に直接取り立ての連絡が来ることはなくなります。

破産をせざるを得ないほど借金に追い込まれている状況では、債権者から頻繁に取り立ての連絡が来ていることも多いでしょう。

そのような状況から解放され、債権者とやり取りする窓口を弁護士に一任出来ることで、精神的にとても楽になることが期待できます。

また、破産手続開始決定が出ると、債権者はそれ以降、債務名義を取得していたとしても強制執行で財産(給料や預金等)を差し押さえに行くことが出来なくなります。

 

②全ての債務を免れることができる

破産をすれば、医療法人の場合、最終的に法人自体がなくなってしまうので、残っていた債務は全て消滅し、現に会社が保有している財産を支払いに充てる以外には支払いの必要はなくなります。

医師個人の場合でも、借金の免除をしてもらうことで支払い義務がなくなります。

民事再生、会社更生、私的整理により会社の再建を図ると、倒産前からの債務の一部を引き続き弁済しなければならず、全ての債務を免れることはありません。

 

③債権者全員の同意を得なくても、手続きを進めることができる

私的整理の場合、メインバンクはもちろん、その他の債権者全員の同意がなければ手続きを進めることができません。

しかし、破産などの法的手続きの場合、債権者全員の同意がなくとも手続きを進めることができます。

 

 

病院の破産・倒産についてのQ&A

医療法人が破産したら理事はどうなる?

医療法人が破産すると、その資産は処分されますが、一般的に理事個人の資産まで処分の対象になることはありません。

医療法人と理事個人はそれぞれ独立した法人格であり、財産に関する権利義務も分離されています。

医療法人が破産すると、その資産は処分されますが、一般的に理事個人の資産まで処分の対象になることはありません。

また、債務者に対する個人的な支払義務もなく、個人資産が差押えの対象になることも普通は考えられません。

ただし、役員に要求される注意義務を怠った結果、医療法人や第三者に損害が生じた場合には、損害賠償責任が生じる可能性があります。

また、借入れについて、理事が個人で連帯保証している場合には、連帯保証人として借金を返済する責任を負っているため、理事個人も自己破産などの手続きを取る必要があります。

 

 

まとめ

病院が破産する場合には、入院患者の転院や一部の従業員の雇用の継続、診療記録の保管などに留意しなければなりません。

病院の破産手続きを行う場合には、特殊な対応が必要となりますので、会社破産や病院破産に詳しい弁護士事務所に相談するようにしてください。

当事務所では、破産再生チームを設け、企業・個人の倒産問題・債務整理に精通した弁護士がチームを組み、皆様を強力にサポートする体制を整えています。

経営難により事業の継続に悩んでいる医療機関経営者の方は、是非当事務所にご相談ください。

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