建設業の破産・倒産とは、他の会社破産と同じく、事業を廃止して精算する手続の一つです。
ただし、建設業の破産の場合には、取引先1社あたりの債権額が高額になる傾向があります。
また、仕掛中の工事がある場合の対応や、元請負業者・下請業者への対応も必要となります。
この記事では、建設業の破産・倒産手続きの特徴や、建設業の破産手続きの流れ、建設業の破産の注意点について解説していきます。
目次
建設業の破産・倒産手続きの特徴
取引先1社あたりの債権額も高額になる
建設業の破産の特徴として、債権者に取引先が多いという特徴が挙げられます。
そして、建設業の場合、取引先1社あたりの債権額も大きくなる可能性があります。
そのため、建設業の倒産の場合には、関係各所に混乱を来す可能性があります。
また、債権者が銀行などの金融機関の場合、日常的な業務での接点はほとんどなく、未払いや倒産などへの対応にも慣れています。
しかし、建設業の取引相手である業者の場合は、債権の金額も多いことに加え、日常の業務での接点なども多いため、感情的な衝突が起こる可能性があります。
緊張感の高い建設業の現場では、乱暴な取り立てが行われるおそれもあります。
そのような可能性がある場合には、法人経営に詳しい弁護士に相談したうえで、密行的に倒産手続きを進めていくことが適切なケースもあります。
仕掛中の工事があるケースも多い
建設業者は、注文者から建設工事を請け負って施工を完了させ、その対価として注文者から代金を得ています。
このように、建設業者が注文者との間で結ぶ契約のことを「請負契約」といいます。
建築請負契約は、受注者が仕事を完成させて成果物を提供し、発注者は報酬を提供するという契約です。
破産手続きにおいて、請負契約に基づく仕事が完成していない「仕掛(しかかり)工事」がある場合には、複雑な問題となる可能性があります。
請負契約上の義務を遂行するのか、または解除するのかを判断しなければならなくなります。
一般的に、仕掛工事の解除などについては、裁判所から選任された破産管財人が行うことになります。
元請負業者・下請業者への対応が必要となる
建設業の破産の場合、工事を事業者に発注する元請け業者、事業者から工事を請け負う下請業者などにも大きな影響が出てくることになります。
建設業の倒産手続きをする際には、手続きが混乱しないように以下のような資料をしっかりと確認しておくことが重要です。
- 請負契約書
- 下請業者との契約書
- 仕掛工事の件数や内容
- 仕掛工事の工程表など
- 内現場監督の連絡先
建設業の破産手続きの流れ
弁護士に相談して方針決定
会社の経営状態が悪い場合、「法人破産を行うべき状況かどうか」を評価するために、弁護士に相談する必要があります。
まずは、法人の経営や、法人破産に詳しい弁護士に相談したうえで、会社の状況を的確に判断してもらう必要があります。
法人経営に詳しい弁護士に相談すれば、債務超過に陥っていたとしても、再生計画を定める民事再生手続きを選択することによって、事業を再起できる可能性があります。
また、任意整理手続きを行い、裁判所の関与を受けずに債権者と話し合い・交渉を行い、債務免除や支払猶予などが得られれば、比較的早期に事業を再起できる可能性もあります。
そのような手続きの利用が可能であれば、破産ではなく事業を継続することができますし、債権者としてもある程度の債権回収ができる利点があります。
弁護士に方針を相談したうえで、建設事業の継続・再生が不可能な状態に至っている場合には、迅速に法人破産の手続きに着手する必要があります。
会社の破産手続きは、個人の破産手続きに比べて、費用が高額になる可能性があるため、できるだけ早めに対処することで、手続き費用を確保することにもつながります。
破産申立て前の準備
会社の資産や負債の状況などから法人破産が適切であると判断した場合には、会社は破産申立てに向けて準備を進めていくことになります。
その際に事前に債権者に対し弁護士から受任通知を送付する場合があります。
受任通知とはこれから会社が破産手続きを開始すること及びその手続きに弁護士が代理人として介入することを債権者に通知する書面です。
会社ではなく個人の破産を行う際は受任通知を送付することが通常ですが、会社の破産の場合には受任通知を送付しない場合も少なくありません。
なぜなら、事前に法人破産が公になった場合には、債権者が取り立てに動き、申立て手続きに混乱が生じる可能性があるからです。
そのため、法人破産の場合には、個人の破産とは異なり、迅速にかつ密行的に行われる場合もあります。
また、従業員との雇用契約は、原則として破産手続き開始前に解雇することになります。
解雇においては解雇のタイミングや解雇予告手当の支払いを検討するとともに、賃金の支払ができない場合に労働者健康安全機構による立替払制度が利用できる場合がありますので、それらについて準備を整えて従業員に説明する必要があります。
会社を破産する場合には、株主総会は必要ありませんが、取締役会設置会社の場合、原則として取締役会を開くことが必要となります。
取締役全員の署名、押印した議事録を裁判所に提出しなければなりません。
しかしながら、建設業の会社の中には取締役として登記がなされているものの、実質的には経営に全く関わっていないというケースがあります。
この場合、取締役会を開催できなかったり、署名、押印を取り付けることができないということがありえます。
そのような場合に、破産が全くできないということになると、債権者にとっても大きな影響が出ますし、破産すべきである会社をそのまま存続させておくことも問題になってしまいます。
そこで破産法は、個々の取締役に破産申立ての権限を認めています。
このような手続きを準破産といいます。
役員構成などについてもあらかじめ弁護士に相談するようにしましょう。
破産申立て
会社破産の申し立て準備が整った段階で、裁判所に破産手続き開始の申し立てを行います。
会社の経営者が連帯保証人になっている場合には、会社の経営者の自己破産も一緒に申し立てを行うことがあります。
破産の申立ては、代理人弁護士が行うことになるため、会社の経営者が申立ての段階で裁判所に出向く必要などはありません。
審尋
破産申立て後に、審尋(債務者審尋)が行われることがあります。
審尋とは、口頭または書面で意見を述べる機会として実施されるものです。
破産手続きを開始する要件が備わっているかどうかを調査するために、裁判所で行われることになります。
債務者審尋では、裁判官や破産管財人候補者から、破産申し立てに至った経緯などについて聞き取り調査が行われることになります。
裁判所から債務者審尋を求められたときには必ず応じる必要があります。
破産手続開始決定・破産管財人選任
債務者審尋等を経て、破産手続き開始原因があると認められる場合には、裁判所が「破産手続開始決定」をします。
それ以降、会社の財産は「破産財団」となります。
そして破産財団を管理するために、「破産管財人」が選任されます。
破産管財人が選任されると会社の財産の管理・処分権はすべて破産管財人に移りますので、会社が財産を勝手に処分することはできなくなります。
その後は通常、破産管財人の事務所で、破産管財人・申立代理人・代表者の打ち合わせ・面談が実施され、今後の進行や処理について話し合い、破産管財人から疑問点などのヒアリングが行われます。
破産管財人は会社財産の処分や債権の調査と確定、契約関係の処理、否認対象行為の有無の調査などの管財業務を実施します。
管財人は、会社の財産調査を行い、財産の内容を把握し、それらを売却するなどして現金化します。
満額に届かないにしても、債権者に弁済ができるように用意を進めていくのです。
債権者集会
破産手続き開始後は、破産管財人が財産調査、財産の処分、配当などの業務を進めていきます。
破産手続開始決定日から3か月後を目途に裁判所にて債権者集会(財産状況報告集会)が開催されます。
当該集会にて破産管財人から債権者に向けて資産の状況や今後の進行予定について説明があります。
債権者集会には申立代理人と共に会社代表者も出席する必要があります。
債権者集会は、管財業務の進行度合いによって一回で終わる場合もあれば、複数回続行されることもあります。
そして、破産管財人による処理状況については、債権者集会によって報告がなされます。
債権者集会は、破産手続きが終了するまでの間、約3か月に1回のペースで開かれます。
配当
破産管財人の処分によって、債権者に対し配当できるだけの破産財団(配当すべき財産)がある場合は、債権者に配当が行われます。
配当手続については破産管財人が振り込みで行うのが原則ですので、破産者は関与せず、出席する必要もありません。
債権者への配当が終わった場合やそもそも配当すべき財産が存在しないという場合には、その時点で破産手続きが終了となります。
破産手続きが終了した場合には、会社の法人格が消滅し、会社の負債も消滅することになります。
建設業の破産以外の手続きについて
民事再生
民事再生手続は、倒産手続の中でも再建型の手続で、裁判所への申立てをして、債務を一部免除してもらい経営再建を図る手続です。
民事再生手続では、裁判所が選任する監督委員のもとで再生計画案を作成し、債権者の同意を得た上で、債務を一部免除してもらい、会社の再建を目指します。
なお、民事再生手続きについては、以下の記事において詳しく解説しておりますので、参考にされてください。
任意整理
私的整理は裁判所での手続きを経ず、債権者と交渉して借金を減額させる方法です。私的整理は任意整理と呼ばれる場合もあります。
前述の民事再生手続きを選択した場合、会社は取引先を失う可能性が高く、経営再建に必ずしも適している方法ではありません。
金融機関からの借り入れさえ軽減できれば会社を存続させられる見込みが大きいという場合には、債務負担を柔軟に調整しやすい私的整理が適しています。
なお、任意整理については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、参考にされてください。
建設業の破産・倒産の3つの注意点
建築請負契約の取り扱い
建設業の破産手続きでとりわけ注意が必要となるのは、「仕掛(しかかり)工事」への対応です。
請負工事が未完成のまま請負人が破産をすると、破産手続きにおいてさまざまな処理や対応が必要となります。
すでに経営破綻しているが、終わっていない工事があるという場合には、未完成の工事が放置されるという事態になりかねません。
注文者や下請業者に対しても、大きな影響を与えることになるため、仕掛中の工事はできるだけ完成させてから法人破産の手続きを開始することが基本となります。
仕掛中の請負工事を完成できないまま建設会社が破産する場合には、破産手続きにおいて未完成の工事の処理が問題となります。
破産手続開始決定後は、破産管財人が以後の対応を判断することになります。
建設会社の破産で仕掛物件がある場合に破産管財人には、以下の2つの選択肢があります。
- 請負契約を解除する
- 請負契約を遂行し仕事を完成させ、注文者に対し報酬を請求する
仕掛工事の請負報酬の取り扱い
上述のように、破産会社が建築請負契約を解除した場合には、工事にかかる請負報酬の取り扱いにも注意が必要です。
破産管財人は、解除する工事の出来高を査定し、出来高が既に受領した前受金や中間金を超えている場合には、その差額分を注文者に請求することになります。
逆に、出来高が前受金を下回る場合には、その差額は注文者から債権として請求されることになり、その債権は、破産債権よりも優先度の高い財団債権に割り振られることになります。
元請業者・下請業者への対応
建築業の破産手続きにおいて、請け負った工事を完了したにもかかわらず、請負代金の支払を受けられていない場合は、早急に支払請求をする必要があります。
元請け業者は、注文者から出来高払いまたは完成払いをうけたときは、下請業者に対して、1か月以内に、できるだけ短い期間内に下請代金を支払わなければなりません(建設業法24条の3)
そのため、請負代金の早期に回収する必要があります。
また、自社が下請業者と請負契約を締結している場合には、建設業法に基づいて、下請業者に適切に代金を支払う必要があります。
下請業者とは、該当する契約の種類が問題になることもあるため、依頼許諾の自由の有無・業務遂行上の指揮監督の有無・時間や場所的拘束性の有無・報酬の算定、支払い方法などの要素から適切に判断しなければなりません。
建設業が破産・倒産を弁護士に相談する3つのメリット
さまざまな選択肢の中から適切な手続きを選んでもらえる
会社の破産手続きを行うと、事業をいったんすべて清算する必要があります。
経営が悪化したとしても、法人を存続させながら、再起を図りたいと考えている場合には、法人破産という手続きは最後の手段となります。
法人破産の手続きではなく、任意整理や民事再生の手続きを利用できれば、会社を存続させながら事業の再生を図ることができます。
そのため、どのような選択肢・手続きをとるべきであるのかは、会社経営や法人破産に詳しい弁護士と面談したうえで、方向性を決定する必要があるでしょう。
そのような弁護士に相談することで、それぞれの手続きのメリット・デメリットを比較して、何が最適な倒産手続きであるかについてのアドバイスをしてもらえます。
破産に伴う手続きをスムーズに行うことができる
法人破産の手続は破産法において詳細に規定されており、その内容は非常に複雑かつ専門的です。
特に、債権者が多い法人破産の場合には、債権者への対応負担が大きくなる可能性が高いため、手続きに精通している弁護士に対応を依頼しておくのが安心です。
また、破産管財人や裁判所との調整についても、弁護士が行うことでよりスムーズに手続きを進めることができます。
債権者からの取り立てを止めることができる
会社の負債が大きくなると、債権者からの日常的な取り立てに悩まされている経営者の方も少なくありません。
弁護士に倒産手続きを依頼した場合には、弁護士から債権者に対して受任通知を送付することになります。
受任通知の中では、弁護士が債務整理を受任したこと、および、今後の借金に関する連絡はすべて弁護士を通じて行うべきことが記載されます。
債権者である金融機関は、受任通知の内容に従い、それ以降は弁護士を通じて借金の返済などに関するやり取りを行うことになります。
そのため、受任通知が発送されると、債権者から会社や経営者に対する直接の取立ては基本的にはストップします。
このように債権者からの厳しい取り立てを止められれば、経営者の方にとって日々のストレスを大きく軽減することにつながるでしょう。
建設業の破産・倒産についてのQ&A
法人が破産したら代表者や家族はどうなる?
会社と代表者個人とは、原則として別々の主体となり、同一とは取り扱われません。
そのため、会社が立ち行かなくなって破産するからといって、代表者(社長)やその家族が必ずしも破産しなければならないわけではありません。
ただし、代表者(社長)が会社の負債について、連帯保証人になっている場合には、代表者個人も破産しなければならない可能性があります。
連帯保証をすると、主たる債務者である会社が破産しても、保証人として、借りたお金を返さなければなりません。
会社がつぶれたから、知らないという主張は認められません。
債権者からの請求に対して、代表者(社長)の個人資産で支払いすることができるのであれば、破産をする必要はないことになります。
しかしながら、代表者(社長)自身も返済することができない場合、支払を免除してもらう必要がでてきます。
なお、会社が破産する際の代表者の責任については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひ参考にされてください。
まとめ
以上、請負工事が未完成のまま建設業者が破産をすると、破産手続きにおいてさまざまな処理や対応が必要となります。
また、建設業の破産に際して、契約を解除した場合には、工事にかかる請負報酬の取り扱いにも注意が必要となります。
このように、建設業の破産手続きを行う場合には、特殊な対応が必要となりますので、法人破産や会社経営に詳しい弁護士事務所に相談するようにしてください。
当事務所では、破産再生チームを設け、企業・個人の倒産問題・債務整理に精通した弁護士がチームを組み、皆様を強力にサポートする体制を整えています。
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