この記事をお読みの方の中には、「今まさに生活保護を受給中で、自己破産を検討しているが、自己破産をすることは可能であるか。」、「これから生活保護受給と自己破産の両方を開始しようと考えているが、どちらの手続を先に取るべきなのか。」という悩みを持たれている方も少なくないと思います。
結論を先に述べますと、生活保護受給中の方も自己破産できます。
生活保護を受給しているか否かは、自己破産が出来るかに法律上関係がないからです。
また、生活保護申請と自己破産の申立てのどちらを先に進めることも法律上は出来ます。
しかし、みなさんが置かれている状況によって、先に進めるべき手続がどちらかは異なります。
また、生活保護を受給されている方が自己破産をするためにはいくつか注意しなければならない点もあります。
この記事では、弁護士が、生活保護を受給している方が自己破産する際の注意点についても詳細に解説していきます。
目次
自己破産と生活保護との関係
自己破産と生活保護の関係について解説する前に、まずは各制度がどういったものなのかを見ていきましょう。
自己破産とは
自己破産とは、裁判所が中心となり、破産者の今ある財産をお金に換えた上で債権者(あなたにお金を貸している人をさします。)に公平に配り、残った借金はゼロにするという、国が認めた正式な救済方法です。
ごく単純な例で示すと、100万円の財産を有する人が500万円の借金を抱えているというケースで自己破産をすれば、100万円を債権者に配った上で残りの400万円の借金はゼロ(専門用語で「免責(めんせき)」といいます。)になります。
生活保護とは
生活保護とは、資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度です。
具体的には、日常生活を送るのに支障が出るほどお金に困っている方に国が一定額のお金を支給するという制度です。
引用元:生活保護制度|厚生労働省
両者の関係
生活保護と自己破産との関係については、「自己破産すると生活保護へのデメリットがある?」のところでも述べますが、一方の手続が他方の手続に不利に作用するような関係には原則としてありません。
自己破産すると生活保護へのデメリットがある?
「現在生活保護を受けているが、生活保護を借金の返済に充てることができない関係で借金が一向に減らないので自己破産したいが、自己破産すると生活保護を受けられなくなるのではないか?」
また、「これから生活保護を受けたいと考えているが、自分は過去に自己破産したことがある。過去に自己破産していると生活保護が受けられないのではないか?」という不安を抱えている方もおられると思います。
しかし、安心してください。
自己破産するために「生活保護を受給していないこと」という条件を備えている必要はありませんし、生活保護を受けるために「過去に自己破産したことがないこと」という条件を備えている必要もありません。
したがって、自己破産しても、生活保護が打ち切られるようなことはありませんし、過去に自己破産した経験があるからといって生活保護が受給できないということもありません。
むしろ、生活保護を受給している方が自己破産を申し立てる際には、費用の支払いが免除・若しくは猶予されるというメリットがあります。
この点については、「生活保護を受けていることによるメリット」というところで詳しく解説します。
生活保護を受給している場合の自己破産のポイント
あなたが現在既に生活保護を受給している場合、自己破産をするうえではいくつか重要なポイントがあります。
生活保護を受けている場合、自己破産以外の債務整理手段を選択できない
受け取った生活保護費からの借金の返済は認められていません。
なぜなら、生活保護は、お金がなくて生活ができない人の生活を保障するために国から支給されるものだからです。
個人の債務整理には、自己破産の他に、「個人再生手続」や「任意整理」という種類がありますが、いずれの手続も、自己破産とは違って借金がゼロになるわけではないです。
あくまで借金を一定程度カットしたり、支払期間を見直したりすることができるにすぎません。
したがって、個人再生や任意整理の場合だと、これらの手続終了後もあなたは借金の返済をする必要があります。
しかしながら、上述のとおり、生活保護で借金の返済をすることはできません。
そのため、生活保護を受給されている方は個人再生手続や任意整理をすることはできず、残った自己破産手続しかとることができないということとなります。
自己破産に必要な費用が免除される可能性がある
以下で説明するように、生活保護を受けている方は、①自己破産に必要な費用面でのメリットと、②免責許可を受けやすいというメリットがあります。
自己破産にも少なくない費用がかかる
自己破産をする場合の費用は、通常大体30万円 〜 80万円ほどとなります。
そのため、この費用が工面できず、自己破産手続をなかなか進められないという方もおられます。
法テラスの民事法律扶助制度を利用すれば、費用が免除される可能性がある
しかし、生活保護を受けている方であれば、これらの費用の支払いが猶予(一定期間支払いを待ってもらえるという意味です。)され、最終的には免除される場合があります。
それは、生活保護受給者が自己破産を申し立てるにあたり、法テラス(日本司法支援センター)の「民事法律扶助(みんじほうりつふじょ)」という制度を利用した場合のことです。
この民事法律扶助制度は、本来はあなたが弁護士に対して支払わないといけない費用を、法テラスが一旦立て替えてくれるという制度です。
利用者は、弁護士に依頼してから2、3ヶ月後から、費用を立て替えてくれた法テラスに対して分割で返済していくことになります。
分割支払額は、毎月5,000円 〜 10,000円ほどでよいので、費用負担が軽減されるというメリットがあります。
生活保護受給者の場合、この民事法律扶助制度によって立て替えてもらった費用の返済を弁護士の業務終了時まで待ってもらえることがあります。
さらにこれに加えて、自己破産の手続が終了した後に法テラスに対して「免除申請」をすれば、返す必要自体がなくなることがあります。
このように、生活保護受給者の場合には、費用を負担することなく自己破産をすることができる可能性があります。
したがって、生活保護を受けている方で自己破産をしようと考えている方は、民事法律扶助制度を利用することがよいでしょう。
もっとも、利用の際には法テラスの審査があるため、必ず免除されるというわけではありませんので、注意が必要です。
詳しくは法テラスのホームページをご覧ください。
破産管財人の費用も法テラスが立替えしてもらえる
また、自己破産の中でも管財事件という種類の手続になる場合、破産管財人という裁判所が選任する弁護士の費用が必要になりますが、この管財人費用は法テラスを利用する場合でも原則として、自分で工面しなければなりません。
しかしながら、生活保護を受給している方の場合には、20万円を上限として破産管財人の予納金を立て替えてくれます。
免責許可決定を受けやすくなる可能性がある
「免責許可決定(めんせききょかけってい)」とは、裁判所が行う、破産者の借金をゼロにしてよいという判断のことを指します。
これに対して、破産者の借金をゼロにしませんという判断のことを「免責不許可決定」といいます。
免責不許可決定がなされた場合、自己破産手続を終えていても、借金がゼロにならず、債権者に対して借金を返済し続けなければなりません。
例えば、ギャンブルで多額の借金を作ったような場合には免責不許可決定が出ることがあります。
生活保護受給者の方の場合、法律上明記されているわけではありませんが、事実上免責許可決定が出やすい傾向にあります。
ですから、これもメリットといえるでしょう。
もっとも、現在は生活保護だからとしても、そもそもの借金の大半がギャンブルによるもの等、不合理な場合には免責不許可となり得ますから、注意が必要です。
ここまで、生活保護を受けている方が自己破産をする場合のメリットについて説明してきました。
次は、実際に自己破産手続を法テラスの弁護士に依頼して進めて行くときにはどのような流れになるのかを簡単に説明します。
ケースワーカーの方には伝えた方がよい
これは私見ですが、ケースワーカーの方には伝えた方がよいでしょう。
弁護士は法律の専門家なので、自己破産手続については熟知していますが、生活保護についてはケースワーカーの方が熟知していることかと思います。
また、過去に生活保護を受けながら自己破産をした方を担当されたご経験もあると思います。
ですので、ケースワーカーに伝えたうえで生活保護について適切な助言を受けることは積極的に行った方がよいかと思います。
もっとも、後ほど詳しく述べますが、ケースワーカーの方から「先に自己破産して借金をなくしてから生活保護の申請をしてはどうか。」という助言がされても、そこで生活保護の申請を諦める必要はありません。
法テラス利用のデメリットもある
法テラスを利用した場合、費用面でメリットがあることは既に述べました。
しかし、法テラスを利用することのデメリットもいくつかありますので、ご紹介します。
依頼するまでに時間がかかる
先ほど見ていただいたように、法テラスを利用するためには審査を経る必要があります。
法テラスを使わない場合であれば、弁護士に依頼してすぐに受任通知(じゅにんつうち)というものが全債権者宛に出されます。
受任通知とは、ざっくりとした内容を説明すると、「私は、〇〇さんに依頼を受けた弁護士です。〇〇さんは借金の返済が出来なくなってきたのでこれから債務整理を始めます。今後は取り立てを止めてください。」と伝える書面のことです。
受任通知が届いた後の取り立ては違法となりますから、受任通知が送付されれば、債権者からあなたへの支払督促は通常ピタリと止まります。
しかし、法テラスを利用した場合、審査終了後に選任された弁護士から受任通知が送付されます。
審査に2~3週間、長ければ1か月ほどかかりますので、その間も債権者からの督促は止まらないこととなります。
自己破産の専門家でない弁護士が担当になるおそれがある
後の話ともつながりますが、法テラスを利用した場合、弁護士を自由に選ぶことは出来ません。
ですので、場合によっては自己破産の申立てをした経験があまりない弁護士が担当になるおそれもあります。
相性の悪い弁護士が担当になるおそれがある
弁護士を自由に選ぶことができないため、あなたと相性が悪い弁護士が担当になるおそれがあります。
事件を依頼した後には、自己破産の準備のために弁護士とやりとりをする必要があります。
相性の悪い弁護士とのやりとりはストレスになるでしょう。
「持ち込み型」でデメリットが軽減できる可能性
もっとも、弁護士を選べないというデメリットに関しては、以下の方法で軽減することが可能です。
それは、自分から法テラスと契約している法律事務所に相談予約をとるという方法です。
法テラスを利用したい場合にとりうる方法としては、
- ①法テラスに所属している弁護士に依頼する
- ②法テラスと契約している弁護士に依頼する
の2つがあります。
先ほど紹介したのは①の方法ですが、この方法だとあなたが弁護士を選ぶことは出来ません。
しかし、②の方法だと自ら法律事務所を選んで相談予約をとり、相談を受けるということとなります。
ですので、実際に相談を受けてみて、「この弁護士にお願いしよう。」と思えばその弁護士に依頼することは可能です。
もっとも、この方法だと、弁護士を選ぶことは出来るようになりますが、法テラスと契約している弁護士でなければならないということは注意が必要です。
ですから、あらかじめ自分で法律事務所に相談予約の電話をする際には、法テラスと契約しているかを尋ねるのがよいでしょう。
また、②の方法を使ったとしても、審査に時間がかかるというデメリットまでは解消できませんので、ご注意ください。
さらに、あなたの案件で法テラスの利用をして、依頼を受けてもらえるかについてはその弁護士の判断となりますので、相談に行っても依頼を受けてもらえないという可能性もあります。
法テラスを利用する方法については分かっていただけたでしょうか?
法テラスは若干手続も複雑なので、何か分からないことがある方は一度最寄りの法テラスに問い合わせてみることをおすすめいたします。
生活保護受給中の自己破産の流れ
まず、最寄りの法テラスに電話して、「自己破産を考えている。」と伝えたうえで無料の法律相談を予約しましょう。
相談の際には、あなたが現在生活保護を受給中であることや、法テラスの民事法律扶助制度を利用した自己破産申立てを依頼したいということを伝えましょう。
民事法律扶助の利用ができるかの審査が通り次第、法テラスが選んだ弁護士が自己破産の手続を進めて行きます。
その弁護士の業務が完了したら、先ほど紹介したように、法テラスに対して費用の償還免除申請をしましょう。
また、法テラスと契約している法律事務所に直接相談予約をして、相談の際に法テラスを利用したいと伝え、その法律事務所が対応できるということであれば、その法律事務所を通じて法テラスの審査を受けることも可能です。
なお、デイライトでは法テラスとの契約はしておりません。
生活保護受給中に自己破産をする場合の必要書類
生活保護を受けている方が法テラスを利用して自己破産をする場合、主に以下の書類が必要になります。
- ① 資力を証明する書類
- ② 世帯全員の住民票の写し
- ③ 費用の振込に用いる口座に関する書類
- ④ 事件に関する書類
①〜④の書類についてより細かくみていきます。
①資力を証明する書類
- 直近2ヶ月の給料明細
- 直近の課税証明
- 直近1年分の確定申告書の写し
- 生活保護受給証明書
- 直近の年金証書の写し
- その他これらに準ずる書類
- 資力申告書(まだ生活保護を受給していない方のみ対象)
②世帯全員の住民票の写し
- 本籍・筆頭者及び続柄の記載があるもの、またマイナンバーの記載がないものが必要です。
③費用の振込に用いる口座に関する書類
- 口座情報がわかる書類の写し
→通帳、キャッシュカード、オンライン口座の画面 - 自動払込利用申込書口座振替依頼書の写し
④事件に関する書類
債務整理の場合には、債務一覧表が必要になります。
債務一覧表とは、あなたがどこからどれだけの借金をしているのかを表にまとめたものをさします。
今見ていただいたように、法テラスの審査にはかなり多くの書類が必要です。
これらの書類を集めるには時間と労力を必要としますし、いざ集めて提出しても、今度は審査で時間がかかります。
審査には2〜3週間程度はかかると思っておいたほうがよいでしょう。
自己破産と生活保護はどっちを先にすべき?
これまでの説明を聞いて、現時点で生活保護申請も自己破産申立てもされていない方からすると、「自己破産と生活保護、どちらを先にすべきなのかが分からない。」という疑問が出てくると思います。
この点についてのお答えですが、法テラスを利用したい場合は生活保護申請、現時点で債権者から督促が来ている場合には弁護士への依頼を先にすべきでしょう。
生活保護を受給していれば、法テラスの様々な審査に通りやすくなりますから、生活保護申請を予めしていた方が、法テラスを利用する上ではメリットが大きいでしょう。
一方で、既に述べましたが、法テラスを利用するためには1ヶ月弱くらいの間審査を待つ必要があります。
そのため、既に債権者から督促が来ているのであれば、生活保護申請をするよりも前に弁護士に依頼し、一刻も早く督促を止めてもらう方がよいでしょう。
また、繰り返しになりますが、自己破産手続中であっても生活保護は受給できますし、生活保護受給中でも自己破産はできます。
ところで、自治体の窓口に多額の借金を抱えた人が生活保護申請に来た場合、まず自己破産をして借金をゼロにしてから改めて生活保護受給申請をするように助言される場合があるようです。
しかし、あなたがその助言に従わなければならない義務があるわけではありません。
まとめ
これまで、生活保護と自己破産との関係について説明してきました。
大切なことですので、最後に改めて本記事でお伝えしたいことをまとめたいと思います。
- 生活保護受給中でも自己破産はできる
- 過去に自己破産したことがあっても生活保護は受けられる
- 生活保護受給中の場合、自己破産費用の面で法テラスを援助が受けられるメリットがある
- 生活保護受給中に法テラスを利用した場合、支払いが猶予されるだけでなく、免除される可能性もある
- 費用面でメリットの大きい法テラス利用でも、弁護士を選べないというデメリットがあるが、「持ち込み型」を使えばそのデメリットも軽減できうる
- 法テラス利用したい場合は生活保護申請を、債権者からの督促を止めたい場合は弁護士への依頼を先にとるべき
この記事が、少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。