離婚時に相手が貯金を隠していた!財産隠しへの対応法
離婚時に相手が貯金を隠していた場合、これは「財産隠し」とされ、適切に対応する必要があります。
「財産隠し」は刑事責任を問うことはできませんが、行為は、道徳上は非難される行為です。
財産分与の不公平を避けるため、隠された財産を明らかにし、適切な対処を行うことが重要です。
この記事では、財産隠しに気づいた際の具体的な対応方法などについて実際の相談事例をもとにくわしく解説いたします。
ご相談内容
私達は40年前に結婚しました。しかし、結婚当初より、夫のモラルハラスメントに苦しみ、25年前に別居しました。
現在、私は65歳(専業主婦)、夫は70歳(メガバンクの支店長を経て、退職し10年)です。
同居中から、年収等一切知らされることがなく、生活費も毎月必要最小限の決まった額を渡されるだけでした。
別居の始まった年から3年は生活費をもらえませんでした。
そこで、私の両親に説得してもらい、それから12年間、生活費を支払ってもらいました。
その後、夫が60歳で退職した時に生活費を一方的に打ち切られ、今に至る10年間は援助がありません。
最近になって、離婚によって財産分与を請求できるということがわかり、離婚調停を申し立てたいと考えています。
夫が財産隠しをする可能性が非常に高いので、まず財産の保全処分をしたいと思っています。
しかし「離婚調停前の仮処分」では執行力が無く、従わなくても10万円以下の過料が科せられるのみなので、執行力のある方法を知りたいのです。
夫は30年前に建てた土地付き一戸建てに一人で住んでおり、これを含めて、かなりの資産があると予想できます。
できれば全財産の半分が欲しいのですが、それは請求可能でしょうか?どうぞよろしく御回答お願い致します。
弁護士のアドバイス
①財産分与の基準時について
財産分与の基準時として、現時点を基準とするという場合と別居時を基準とするという場合とがあり、この点について、過去の裁判例も別れています。
相談者の方のお話ですと、15年以上前に別居されて生計も別になったとのことですので、別居時の財産を基準として分与することになる可能性が高いと思います。
相談者の方は現時点での全財産について、半分することを希望されているようですが、別居時の財産を半分することになるでしょう。
ただし、これまで婚姻費用(生活費のこと)を10年間支払ってもらっていないということなので、その未払分を財産分与として清算の対象にできる可能性があります。
②財産を保全する方法
財産の保全処分としては、3つ方法が考えられます。
調停前の仮処分
一つ目が、相談者の方も言及されている調停前の仮処分です。
これは調停委員会が職権で行う仮処分ですが、調停の申立てを行った申立人が職権発動を促すことはできます。
ただち、強制力がありませんので、実効性はあまりないでしょう。
審判前の保全処分
二つ目が、審判前の保全処分です。
この処分には、調停前の仮処分と異なり、強制力がありますので実効性は確保できます。
しかし、これは審判を申し立てるのと同時に行う必要がありますので、財産分与の審判を申し立てる必要がありますが、相談者の方はいまだ離婚が成立していませんので、次の民事保全手続を利用することになると思います。
民事保全手続
三つ目が、民事保全手続です。
これは財産処分を当面の間禁止する仮差押えを行い、相手方が財産を処分するのを防ぐことになります。
財産を保全する方法として、この3つがありますが、これらはいずれも対象財産が判明している場合に取る手段となります。
すなわち、そもそも、夫が財産を隠している場合、保全することができません。
そこで、以下では、どのようにして、隠し財産を調査するかについて、解説します。
通帳の開示を求める
ご本人が相手に直接財産開示を求めても、相手が「貯金を渡したくない」と考えて、素直に開示してくれない可能性があります。
そこで、弁護士を通じて相手方に開示を求めるとよいでしょう。
相手が開示してくれない場合、経験豊富な離婚専門の弁護士であれば、開示の必要性について説得してくれると思われます。
隠し口座の見つけ方
相手がすべての口座情報を開示しない場合、隠し口座をどのようにして見つけるのかがポイントとなります。
様々な方法を検討すべきですが、隠し口座をもっている可能性が高い銀行に対して、弁護士照会によって、相手の口座の有無を調査するという方法があげられます。
例えば、自宅に銀行から封書や葉書が届いていたのであれば、その銀行に口座を持っている可能性が高いと考えられます。
また、自宅や勤務先のそばの銀行なども利用している可能性があるでしょう。
さらに、既に開示されている口座の取引履歴の中に、隠し口座の銀行名が記載されている可能性もあります。
例えば、既に開示されているA銀行の口座の取引履歴の中に、B銀行口座への送金履歴が残っていれば、B銀行に口座がある可能性があります。
なお、金融機関によっては弁護士照会では口座情報を開示しない場合も考えられます。
このような場合は、裁判所を通じて調査嘱託を申し立てることを検討します。
ネット銀行に財産を隠している場合
ネット銀行の場合、通帳がないため、通常の口座と比べて調査が難航する傾向です。
しかし、ネット銀行であっても、口座開設時には自宅にカードなどが送付されてくるはずです。
また、その他の利用状況などの書類が届いていると考えられます。
さらに、上記と同様に、既に開示されている銀行口座の取引履歴の中に、ネット銀行口座への送金履歴が残っていれば、そのネット銀行に口座がある可能性があります。
貸し金庫に財産を隠している場合
相手が貸し金庫に財産を隠している場合、相手が普段取引をしている(預貯金がある)銀行のサービスを利用している可能性が高いと思われます。
そこで、その銀行に対して、弁護士照会や調査嘱託を行い、財産の有無を調査するという方法が考えられます。
現金を隠している場合
現金を隠している場合は、弁護士照会等の方法を取ることができないので、調査が難しいと考えられます。
しかし、このような場合でも、口座の不自然な点を見つけることで、財産分与を主張ができる場合があります。
例えば、口座から100万円などの高額な引き落としがある場合、その使途について、釈明を求めます。
相手から、合理的な説明がなされれば問題はありませんが、説明ができない場合、財産隠しの可能性が高いといえるでしょう。
このような場合、当該100万円を財産分与の対象とすべきであると主張することが考えられます。
離婚の財産隠しは罪?
相手が夫婦の共有財産を隠している場合、理屈の上では、窃盗罪や横領罪が成立する可能性があります。
しかし、刑法には、親族相盗例という規定があり、夫婦の場合、窃盗罪や横領罪が成立する場合でも刑が免除されます(刑法244条1項)。
参考:刑法|電子政府の窓口
したがって、刑事責任を問うことはできません。
もちろん、財産を隠すという行為は、道徳上は非難される行為です。
また、財産を隠したりすると、相手の納得が得られず、裁判となり、解決まで長期化するおそれがあります。
これは夫婦双方にとって負担となります。
したがって、財産隠しの疑いがある場合、双方とも誠実に開示すべきであることを伝えるなどして、不毛な争いとならないようにすべきです。
まとめ
以上、離婚における財産隠しの事案について、実際の相談例をもとに詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
財産隠しがある場合、まずは対象となる財産を調査しなければなりません。
現金や預金などの流動性が高い資産については、調査が難しい場合があります。
また、調査にあたっては、弁護士照会や調査嘱託などの方法を検討しなければならないケースもあります。
そのため、離婚問題に精通した弁護士にご相談されながら、調査を進めていかれることをおすすめいたします。
専門の弁護士であれば、隠し財産を調査し、適切な財産分与を受けるために適切な助言をしてくれるでしょう。
この記事が、離婚の財産分与でお困りの方にとって、お役に立てば幸いです。
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