養育費を女性が支払うケースとは?相場やポイントを弁護士が解説
まず、結論からお伝えすると、養育費を女性が支払うケースはあります。
養育費の支払は男性か女性かによる区別ではなく、子どもの親権をどちらが取得するかによって養育費をどちらが支払うかが決まるからです。
そして、その相場は、それぞれ父母の収入によって異なり、収入に応じた目安は、裁判所が公表している算定表によって知ることができます。
以下、どのような場合に女性が養育費を支払うのか、そしてその金額はいくらとなるのかについて、わかりやすく解説します。
養育費とは
養育費とは、子どもが未成熟子(みせいじゅくし)である場合の、子どもにかかる衣食住、教育及び医療に要する費用のことを言います。
つまり、子どもが成長するまでの生活費です。
未成熟子とは、経済的に自ら独立して自己の生活費を獲得すべき時期の前段階にあって、未だ社会的に独立していない子どものことをいいます。
そして、一般的に”養育費”と考えられているのは、離婚後に子どもと離れて生活する親が、負担する義務のある生活費の一部分を指しています。
親は子に対する扶養義務があります(民法877条1項)。
根拠:民法|e−GOV法令検索
扶養義務とは、子どもを養っていく義務のことを指していますので、子どもが成熟するまでは、親が子どもを養う義務があるということになります。
子どもを養う義務のなかには、育児も含まれていますが、その一部として、養育費の支払い義務が生じています。
養育費の支払い義務はこの扶養義務から生じていると考えられています。
そして、離婚が成立した後も、親子関係は継続していくので、子どもを引き取ることとならなかった親にも、養育費の支払義務は残るという訳です。
一緒に生活していなかったとしても、子どもを養う義務として、養育費を支払わないといけないのです。
また、「離婚後子どもに会うつもりはないので、養育費は支払わなくてもいいのでしょうか?」というご相談を受けることもあります。
面会交流を実施しなければ、養育費の支払義務がなくなると誤解をされていることも多いのですが、上記のような子どもを養う義務として養育費の支払義務があるため、これがなくなるのは、子の扶養義務が他の人に移った場合などに限られてきます。
面会交流と養育費の問題は、あくまでも分けて考えていただくことが必要です。
面会交流についてはこちらのページをご覧ください。
女性が養育費を支払うケースとは?
これまで日本では、離婚後に母親が子どもを引き取ることが多く、子どもがいる女性の収入があまり多くないというのが一般的であったため、養育費は男性が支払うものというイメージが先行しているかもしれません。
しかし、女性であっても、次の3つの条件を満たせば、養育費を支払うこととなります。
条件1:親権を父親が取得していること
まず、女性が養育費を支払うこととなるのは、親権(監護権)を父親が取得していることが前提となります。
養育費は主に子供の生活費であるため、子供と一緒に暮らしていない親が母親であれば母親が、子供を監護し実際に養育している親である父親に対して支払うということになります。
そのため、ここで男女がどちらかということは関係してきません。
条件2:父親が養育費を請求していること
次に、父親側が子どもの親権を持っており、母親に対して養育費を請求していることが必要になります。
養育費は、請求されていなければ支払うこととはならないため、まずは請求されていることが条件となります。
条件3:母親に一定の収入があること
3つ目に、女性に一定の収入があることが条件となります。
一定の収入というのは、父親よりも多い収入というわけではありませんが、結婚している間は夫の扶養に入っており、しばらく給与が上がることは見込めない場合などは、養育費の支払が見込めないこともあります。
子どもの親権をもって育児をしている親と離れて暮らす親の収入の両方を考慮して、男性であるか女性であるかには関わりなく、それぞれの収入に応じて養育費を支払う義務が生じ得るということになります。
女性が養育費を支払う場合の相場とは
養育費の相場
ご相談のなかで、離婚した知り合いのところは養育費5万円と聞いたのでそれぐらいで考えていますというようなお話を聞くことがあります。
しかし、養育費については、全ての方に一律の相場というものは存在していません。
父母それぞれの年収に応じての相場と考えられているものは、計算式にすると、とても複雑なものとなっており、手計算で行うのは簡単ではありません。
これを簡単に早見表として、裁判所の公表している「養育費・婚姻費用算定表」、いわゆる”算定表”と言われるものによって示されています。
算定表は、父母の収入と給与所得者か自営業者か、子供の人数を元に、その相場が決められています。
この算定表は、離婚後も父母双方に育てられた場合に子どもがどのような生活水準で生活をすることになっていたかを考えたうえで、様々な事情を考慮して決められています。
そのため、子どもの生活にかかる費用を単に収入に応じて分割したり、折半にするという考え方とも異なっています。
もちろん、あくまで目安であるため、その他の特別な事情によって、上下することはあります。
裁判所では、この算定表の目安がとても重要視されており、基本的には、まず算定表にしたがって養育費を決定し、特別な事情がある場合は、そこから考慮すべきかを検討するという運用が行われています。
そのため、ある程度の目安は、この算定表に記載されていると考えてよいでしょう。
算定表の詳しい見方については、こちらのページをご覧ください。
以下、具体例で養育費の金額を計算しますので、参考にされてください。
女性の年収が400万円の場合
女性の年収が400万円の場合は、父親の年収がいくらかをまず調べる必要があります。
そして、それぞれの年収から目安が出てきます。
妻の年収よりも夫の年収の方が高いからと言って、支払義務を免れるということにもなりません。
夫(もらう側)の年収:300万円
妻(払う側)の年収:400万円
子どもの人数・年齢 | 養育費の相場 | ||
---|---|---|---|
妻が給与所得者 | 妻が自営業者 | ||
1人 | 0~14歳 | 2~4万円 | 4~6万円 |
15歳以上 | 2~4万円 | 4~6万円 | |
2人 | いずれも0~14歳 | 4~6万円 | 6~8万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 4~6万円 | 6~8万円 | |
いずれも15歳以上 | 4~6万円 | 6~8万円 | |
3人 | いずれも0~14歳 | 4~6万円 | 6~8万円 |
第1子15歳以上、第2子・第3子0~14歳 | 4~6万円 | 8~10万円 | |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 4~6万円 | 8~10万円 | |
いずれも15歳以上 | 4~6万円 | 8~10万円 |
夫の年収:600万円
妻の年収:400万円
子どもの人数・年齢 | 養育費の相場 | ||
---|---|---|---|
妻が給与所得者 | 妻が自営業者 | ||
1人 | 0~14歳 | 2~4万円 | 2~4万円 |
15歳以上 | 2~4万円 | 4~6万円 | |
2人 | いずれも0~14歳 | 2~4万円 | 4~6万円 |
第1子15歳以上、第2子0~14歳 | 4~6万円 | 4~6万円 | |
いずれも15歳以上 | 4~6万円 | 4~6万円 | |
3人 | いずれも0~14歳 | 4~6万円 | 6~8万円 |
第1子15歳以上、第2子・第3子0~14歳 | 4~6万円 | 6~8万円 | |
第1子・第2子15歳以上、第3子0~14歳 | 4~6万円 | 6~8万円 | |
いずれも15歳以上 | 4~6万円 | 6~8万円 |
女性の年収が600万円の場合
女性の年収が600万円の場合も同様に、父親の年収がいくらかをもとに算出することになります。
この場合、母の年収よりも父の年収が多い場合であっても、母の年収が著しく低いわけではなく、当然支払義務はありますので、取り決めをして支払っていくことになります。
詳細はこちらをご覧ください。
養育費シミュレーターで簡単に計算!
当事務所で作成している、養育費シュミレーターで、父母の年収と子供の人数を入力すれば簡単に算定表にしたがった養育費の目安を算出することができます。
算定表上は記載のない、年収2000万円以上の場合や子どもが4人以上の場合などにも対応しています。
算定表ではどの表を見たらよいかわからない、どう考えるか分からないという方にも、入力のみで簡単にシュミレーションが可能となっていますので、ぜひご活用ください!
女性が養育費を支払う場合の6つのポイント
Point1 男女とも取り決めは慎重に行うこと
養育費は、原則通りであれば、離婚成立後、子供が20歳になるまで、継続的に支払いをしていくものです。
一度取り決めをし、これに基づく支払いをすることとなると、金額を変更するためには、父母の協議で合意するか、合意ができない場合には裁判所の調停を利用して減額を申し出ることになります。
離婚後も円満な関係を築いており、協議で合意ができそうな場合は問題ありませんが、なかなか円満に行かないことの方が多いです。
また、養育費の取り決めは、お互いの合意で算定表よりも高い金額や低い金額で合意することができます。
相場である算定表と異なる合意をした場合、次に減額・増額などの要求を行いたいときにも、一度目の合意があったことを前提に話をすることになるため、算定表通りの金額になるとは一概に言えないという状態になります。
女性側で収入は少ないものの、子どものために支払うと合意してしまうと、その後やはり生活が苦しく減額したいと主張しても、算定表通りの金額への減額はすんなりはいきません。
男性側でも、女性側の収入が少ないからいらないと養育費の請求をしない場合は、請求をしない合意を書面で一度してしまうと、その後にやはり少しでも支払って欲しいと変更することは難しくなります。
そのため、養育費は当事者間で一度取り決めると簡単に金額等を変更できないものだということを前提に、支払う側も受け取る側も、慎重に取り決めしていただく必要があります。
成人年齢の引き下げがあり、18歳となりました。
しかし、裁判所の運用では、養育費の支払義務の終期は、これまでと変わらず、20歳までの支払義務とすることとなっています。
これは、18歳で高校卒業後に子どもが独立して働き始めることはあまり多くなく、20歳までは未成熟であることが多いためとされています。
そのため、18歳で社会人となり働き始めた場合などは、当然、養育費の支払義務がなくなるというのもこれまでと同じ取り扱いです。
Point2 養育費の金額と、支払時期を決めておくこと
金銭の支払を受けるものであるため、支払がいつなのか(離婚協議書作成後、毎月末日など)、どこに振込を行うのか、支払終期はいつなのかを明記しておく必要があります。
支払い終期については、原則20歳であることはさきほど記載しましたが、例えば、両親が大学を卒業しており、子も当然大学進学を前提として、高校進学しているなどの場合には、大学卒業までを終期とすることもあります。
最近は、大学への進学が多くなっていることもあり、学生の間は、基本的には未成熟子と考えられているため、大学生の間は養育費の支払義務があると考えられているため、大学進学時の養育費についても取り決めしておくことが多くなっています。
学生は未成熟子と考えられることが一般的ではありますが、大学院生もこれに含まれるかというと、判断が別れるところかと思います。
もちろん、離婚時に既に大学院に進学しており、就学中ということであれば、父母が合意したうえで、学生を続けていることになるため、未成熟子と考えるべきかと思います。
他方で、離婚成立後に大学院進学を決めた場合には、この了解をとっているかどうかなど、個別具体的に検討していく必要が出てきます。
支払をいつまでにするか、は養育費の取り決めにおいてとても重要ですので、きちんと取り決めをしておきましょう。
今後支払が滞ったときの請求のためにも、金銭の支払に関する部分は、いつからいつまで、誰から誰へ、どこに振込をするか、きちんと特定し、明記しておくことが必要です。
Point3 弁護士に適正額を相談すること
父母の年収と一言で言っても、いつの年収を基準とすればよいのか、仕事が今年から変わった場合はどう考えるのか等、自分に置き換えた場合の疑問は尽きないと思います。
一般的には昨年度の収入とすることが多いものの、大きく変動があった場合には、当然考慮することになります。
また、子どもにかかる費用についても、一般的な家庭と比べ、高額な習い事をしていたり、私立の学校に通学していたり、病気により特別の費用がかかっているなど、様々な事情が家庭によって異なります。
裁判所の公表している算定表は、あくまでも日本の一般的な家庭で子どもが公立学校に通っている場合を前提として算出されているものであるため、個別具体的な事情は、別途考慮して行く必要があります。
そして、取り決めをしてから変更することは難しくなってくるため、取り決めをする前に、専門家である弁護士に一度ご相談いただくことをお勧めします。
Point4 離婚協議書や公正証書を作成すること
支払いをする金額やいつまでの支払とするか等については、今後問題になることが大いに予想されるため、きちんと離婚協議書や公正証書にまとめ、当事者間での共通の認識としておくのがよいでしょう。
離婚協議書は、養育費についてだけではなく、その他の離婚の条件についても記載することになります。
離婚協議書の作成は、専門家に依頼せずに、当事者の方でも作成することは理論上可能です。
しかし、離婚協議書は、一度作成すると、よほどの事情がない限り変更はできません。
また、将来的に影響を及ぼすため、離婚専門の弁護士に作成をお願いされることをお勧めいたします。
離婚協議書の記載方法については詳しくはこちらをご覧ください。
公正証書を作成すべき?
協議書と公正証書の違いは、当事者間で作成した書面か、公証人が作成する公文書かという点にあり、その効力も変わってきます。
実際に支払が滞ったときなどには、裁判手続を経ずに、そのまま強制執行を行うことができるため、養育費を受領する側としては、公正証書を作成しておく方が安心といえます。
ご自身の件で公正証書まで作っておいた方がよいのかという点も、専門家にご相談いただくのがよいと思いますが、公正証書の作成までは必要ないと考えられる場合でも、養育費の支払いがある場合は、協議書までは必ず作っておくようにしてください。
個人または会社その他の法人からの嘱託により、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書のことを言います。
養育費について、公正証書にする一番の目的は、公正証書の中に、養育費の支払についての合意と、養育費の支払い義務者が養育費の支払をしないときは直ちに強制執行に服する旨の文章が明記されていることです。
これにより、養育費が支払われなくなった時に、裁判手続を行うことなく、すぐに強制執行をすることができるというところにあります。
※強制執行について
養育費の場合の強制執行で多いのは、養育費の支払い義務者の給料を差し押さえる方法です。
公正証書の作成は、公証役場で行われます。
当事者で養育費についての公正証書を作成する場合は、公証役場に事前に公正証書の案文を送付し、決められた日時に父母が一緒に公証役場に出向き、公証人の前でお互いに合意した文書について、公証を受けるという手続を行うことになります。
弁護士に依頼する場合は、弁護士が案分作成や公証役場での手続きをすべて行ってくれるので負担が少ないでしょう。
Point5 その他の取り決めもきちんと行うこと
例えば、面会交流や財産分与があげられます。
面会交流を実施しなければ、養育費も支払う必要がないと思われている方もいらっしゃいますが、面会交流と養育費は別の性質のものであり、面会交流を実施するしないに関わらず、養育費の支払義務は存在し続けます。
また、離婚原因と養育費の金額は無関係です。
一方に不貞があったため、親権はおいて出ていくこと、養育費は要求された金額を支払うことなどを求められるケースもありますが、養育費はあくまで子どもの生活にかかる費用であり、慰謝料ではありませんので、この点にも注意が必要です。
養育費を支払わないという合意
養育費を支払わないという合意についても、ここで説明しておきます。
養育費を支払わないとの合意は、父母の間ではもちろん有効です。
しかし、取り決めをおこなったときと事情が変わり、子どもの生活に問題が生じるおそれがある場合などは、請求されるおそれがあります。
また、子どもからの扶養料として、子どもが最低限の生活を送ることができなくなってしまった場合などに、子どもからの請求という可能性は残りますので、養育費の支払をしない合意をする場合には、この点を理解しておく必要があります。
Point6 父母が再婚した場合の取り決め
子どもを引き取って養育していた親が、再婚し、子が再婚相手との間で養子縁組を行った場合は、一義的な扶養義務(=子どもを養っていく義務)が、離れて暮らしている親から再婚相手に変わります。
そのため、再婚相手の年収によっては、養育費の支払義務がなくなることもありますので、この点は、事前に当事者間で合意ができれば、免除とする合意をしておくことなども考えられます。
また、子どもを監護していない方の親が再婚し、新たに子どもが産まれた場合にも、これまで取り決めた養育費の金額は減額となります。
しかし、一方の不貞により既に再婚や出産が予定されている場合などは、場合によっては、減額を認めないという合意をすることもあり得るため、そのような場合には、専門家に相談されてみてください。
まとめ
養育費は、必ずしも男性が支払うというものではなく、女性が支払うケースも存在しています。
そして、養育費の金額は、双方の収入によって相場が決まってきます。
収入が少ないから支払わなくていいということにはなりません。
、養育費は、継続して長期にわたって支払を続けていくものですので、離婚協議書や公正証書を作成しておく方がよいでしょう。
養育費の取り決めの際には、まずは一度専門家へご相談ください。
当事務所では、離婚事件を専門に扱うチームがあり、養育費の問題について強力にサポートしています。
LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており、全国対応が可能です。
養育費の問題については、当事務所の離婚事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が養育費の問題についてお悩みの方にとってお役に立てれば幸いです。
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