養育費をもらえないケースとは?事例と対処法を弁護士が解説
養育費は、次の6のいずれかに当てはまる場合、支払ってもらえない可能性があります。
- ① 親権を取得できなかったケース
- ② 元夫が働いていないケース
- ③ 請求が著しく困難なケース
- ④ 父親が子供を認知していないケース
- ⑤ 妻が再婚し、子供と再婚相手が養子縁組をしたケース
- ⑥ 過去に養育費を請求しないという合意をしたケース
このページでは、養育費を支払ってもらえない事例を紹介するだけでなく、どのようにすれば支払ってもらえるようになるかについて、弁護士がわかりやすく解説します。
養育費についてお困りの方はぜひ参考にしてください。
養育費とは
養育費とは、子供の監護・養育のために必要な費用をいいます。
子供が、社会的・経済的に自立するまでの衣食住にかかる経費や教育費・医療費などがこれに当たります。
離婚の際、親権を取得しなかった親も、子供の親として、養育費を支払う義務を負います。
養育費についての詳細は、こちらのページをご参照ください。
養育費をもらえないケースの典型例
親権を取得できなかったケース
原則
養育費とは、子供の監護・養育のために必要な費用をいいます。
そして、離婚後に、子供の監護・養育を行うのは、親権者です。
そのため、離婚時に、元夫を子供の親権者と指定して離婚し、元夫が子供を監護・養育している場合には、妻が養育費を請求することはできません。
例外
親権者を元夫と定めて離婚していても、妻が子供を監護・養育している場合には、子供の監護・養育のために必要な費用を支出しているのは、妻(監護権者)です。
このような場合には、たとえ親権者でなくても、妻が元夫に対し、養育費を請求することが可能です。
元夫が働いていないケース
妻が離婚時に親権を取得した場合、夫に対し養育費の請求をすることで、夫は養育費の支払義務を負います。
夫が無職で収入がない場合、原則どおり養育費の算定表を用いて養育費を算出すると、養育費の適正額が「0円」と算定されてしまうことになります。
ただし、夫に潜在的稼働能力(働こうと思えば働くことが可能である能力のことをいいます。)がある場合には、潜在的稼働能力に応じた収入があると見なされることがあります。
判例 参考判例:福岡家審平18•1•18家月58•8•80
たとえば、養育費の支払義務を免れるために、意図的に退職したような場合が考えられます。
また、夫が退職後、雇用保険を受給している場合には、雇用保険による給付額を収入に参入することも考えられます。
このように、夫が無職のケースでも、働いていない理由によっては、養育費の請求が認められるケースもあります。
そのため、元夫が無職であるからと養育費の請求を諦めるのではなく、専門家である弁護士に相談するのが良いでしょう。
請求が著しく困難なケース
夫が養育費の支払義務を負っているものの、請求をすることが著しく困難なケースもあります。
元夫の所在も連絡先もわからない場合
たとえば、離婚後に時間が経過してしまい、元夫の所在も連絡先も不明な場合には、元夫の居場所を突き止めることが必要となります。
このような場合、請求の前に、元妻が元夫の居場所を突き止める必要が生じ、結果として養育費の請求を諦めてしまうケースが想定されます。
しかし、元夫の居場所が不明であるとしても、元夫が養育費の支払義務を負っていることに変わりはありません。
追跡の方法として、たとえば、元夫が住民票を異動させているような場合には、判明している最後の住所地から住民票の履歴を辿ることで、元夫の所在が判明する可能性もあります。
また、弁護士であれば、弁護士会の照会制度を利用することにより、各種団体に照会をかけることも可能です。
元夫の所在や連絡先が不明であっても、諦めずに専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
元夫が日本国外にいる場合
元夫が外国籍の場合には、離婚を期に母国へ帰国し、日本に戻ってこないケースが考えられます。
そして、元夫の所在も連絡先もわからない場合には、元夫の所在を突き止めることが非常に困難となるでしょう。
また、離婚時に養育費に関する合意をしていたとしても、元夫が支払義務を履行しないまま帰国してしまった場合には、その国の強制執行(元夫の財産を取り立てること)制度を利用する必要があります。
このように、元夫の所在を突き止めた上で、その国の法律や制度に従って養育費の請求をすることは、非常にハードルが高いといえるでしょう。
父親が子供を認知していないケース
直ちに養育費の請求ができないケースとして、父親が子供を認知していない場合があります。
婚姻関係にない男女の間に生まれた子供(法律上は非嫡出子(ひちゃくしゅつし)といいます。)は、認知の手続きによらなければ、法律上、その男性の子供としては扱われません。
そのため、子供の養育費を請求するためには、まず、子供の父親に認知してもらう必要があります。
認知の手続きの方法は、①任意認知(役所に認知届を提出する方法)、②認知調停の申立て、③認知訴訟の提起があります。
交際相手が認知しない場合の対処法について、詳しくはこちらのページをご参照ください。
無事に認知手続きが完了したら、その男性が法律上の父親となりますので、養育費を請求することが可能となります。
なお、養育費の支払義務が生じるのは、原則として、養育費を請求した時からになりますので、子供が生まれてすぐに、養育費の請求を行うのがよいでしょう(認知調停と同時に養育費調停も申し立てることが可能です)。
養育費の請求についてのワンポイントアドバイス
口頭やLINEでの請求では、養育費の支払い義務が認められない可能性があります。
養育費の請求は、明確でなければなりません。
そのため、弁護士に依頼し、内容証明郵便などできちんと請求されておくことを強くお勧めします。
妻が再婚し、子供と再婚相手が養子縁組をしたケース
原則
子供が再婚相手と養子縁組をした場合、第一次的には、養親となった再婚相手が子供に対して扶養義務を負うことになります(民818条2項)。
そのため、親権者が再婚した上で、再婚相手と子供が養子縁組をした場合には、元夫は養育費の支払義務を負わなくなるのが原則といえます。
例外
子供が再婚相手と養子縁組をした場合であっても、実親である元夫は、二次的には子供の扶養義務を引き続き負っています。
そのため、養親の収入が低く、養親が十分に子供を扶養することができないなどの事情がある場合には、養子縁組後も、養育費の請求をすることが可能な場合もあります。
再婚後の養育費の請求は、これまでの養育費に関する合意の有無や、再婚までの経緯などによって事情が異なりますので、専門家である弁護士に相談されるのがよいでしょう。
過去に養育費を請求しないという合意をしたケース
やや特殊なケースとして、夫婦間で、離婚後に養育費は請求しないという合意をすることがあります。
養育費を請求しないという合意は、特に子供の福祉に反するような特段の事情がない場合には、原則として有効であるというのが、過去の裁判例の考え方です。
判例 参考判例:札幌高決昭51.5.31判タ336号191頁
離婚後1年経過後に養育費を請求したケースで、生活状況に大きな変化がないことから、養育費の請求を認めなかった裁判例もあります。
過去に養育費を請求しないという合意をしたときと、経済的な状況に変化がない場合には、養育費の請求が認められないことも考えられます。
しかしながら、養育費を請求しないという合意は、元夫婦間の合意ですので、子供から夫に扶養してほしいと請求することは、妨げられないと考えられています。
離婚後の状況にもよりますので、一概にはいえませんが、子供の扶養請求権を元妻が法定代理人として行使することで、実質的に養育費の支払いを受けることも想定されます。
養育費をもらうための6つのポイント
これまで、養育費をもらえないケースについて解説をしてきました。
それぞれの段階において、養育費をもらうポイントがありますので、順にご説明いたします。
Point1 離婚の際に親権・監護権を取得する
養育費をもらうためには、離婚の際に親権者を母である妻と定めて離婚する必要があります。
協議離婚や調停離婚においては、夫婦の合意により親権者を定めることになりますが、親権者の変更は容易に認められるものではありません。
また、親権(法律上の代理などに関する権利)と監護権(現実に子供を育てていく権利)を分ける夫婦もいらっしゃいますが、現に子供を育てていく親(母)が親権者でない場合、子供が契約を結ぶ際に、都度、親権者(父)の同意が必要となります。
子供の生活上の不都合も大きいと思われますので、親権と監護権は同一の人が取得すべきでしょう。
(※親権・監護権についてのページがあるならそちらに誘導してもよいかもしれません。)
Point2 離婚届を提出する前に養育費について合意をする
養育費がもらえないケースで、元夫の所在や連絡先が不明なケースを紹介いたしました。
離婚後は、元夫婦がそれぞれの生活状況について知る機会は少なくなり、互いに連絡をとりたくないという心情になるのが一般的です。
時間が経過してしまうと、養育費の取り決めをする前に、元夫の所在や連絡先が変わってしまう可能性が高くなってしまいます。
そのため、離婚届を提出する前に、養育費の金額やいつまで支払ってもらうかについて、きちんと合意をすることが重要となります。
また、養育費は長期間(子供が成人又は大学卒業まで)支払いを継続するものです。
口約束だけでは、相手が支払ってくれなくなる可能性があります。
したがって、養育費を含めた離婚協議の結果を記載した合意書(離婚協議書といいます。)を作成すべきでしょう。
また、離婚協議書は法律文書ですので、きちんと不備がないよう作成すべきです。
ご自身で離婚協議書を作成する場合でも、離婚専門の弁護士に一度は確認してもらうことをお勧めいたします。
Point3 離婚後であっても養育費の請求をする
養育費の請求は、離婚時に取り決めをしていない場合であっても、子供の監護・養育をしている間は請求することができます。
一方で、養育費は、原則として、請求した時から未払いとなります。
そのため、離婚後に年月が経過している場合、請求時より前に遡って未払養育費を請求することは難しいといえます。
離婚後に元妻が、元夫から養育費を受け取っていないという場合には、早めに元夫に請求することが重要となります。
また、口頭で請求するのではなく、内容証明郵便や養育費調停の申立てなど、請求した時がいつなのかが明確となる方法により請求すべきでしょう。
合意ができた場合、合意内容を書面に残すことは、離婚時の合意の場合と同様に重要となります。
Point4 公正証書の作成や調停での合意の方法を活用する
公正証書(執行受諾文言付きの公正証書にする必要があります。)には、相手が養育費の支払を怠った場合に、裁判所の判決などを待たないで直ちに強制執行手続きに移ることができるというメリットがあります。
また、調停で合意すれば、公正証書を作成した場合と同様に、相手方が養育費の支払を怠った場合に、直ちに強制執行手続きに移ることが可能です。
養育費は、将来分の養育費分まで差し押さえることが可能ですので、公正証書の作成や調停での合意は、相手方に支払いを継続させる心理的プレッシャーを与えることができるといえます。
Point5 元夫の所在や連絡先を把握しておく
離婚後に元夫の所在や連絡先がわからなくなり、養育費の請求ができなくなってしまうことを防ぐため、こまめに元夫の所在や連絡先を確認することも効果的です。
所在や連絡先、勤務先などが変更になった場合には、速やかに相手方に通知するという合意をすることも、効果的といえるでしょう。
養育費の強制執行手続きをする場合、回収可能性が高い方法は、元夫の勤務先の給料を差し押さえることです。
そして、強制執行手続きの申立ては、元夫の住所地の近くの裁判所に申し立てる必要があります。
したがって、元夫の所在や勤務先を把握しておくことは、養育費をきちんと確保する上で重要となります。
Point6 離婚に強い弁護士に相談する
交渉を弁護士に任せることで精神的負担を軽くする
養育費の請求は、元夫に直接連絡を取る方法でも可能ですが、元夫が素直に養育費の支払いに応じてくれない可能性も十分に考えられます。
また、婚姻期間中にモラハラやDVの被害を受けており、元夫と連絡をとりたくないと考える方も多いと思います。
そのような場合には、離婚事件専門の弁護士に相談した上で、弁護士から養育費の請求をすることが可能です。
相手方と連絡をとりたくないからと、養育費の請求を諦めてしまうことは、できる限り避けるべきです。
ご自身の精神的な負担を軽くするためにも、弁護士に相談されることをお勧めいたします。
適切な法的主張を行う
さらに、相手方が無職となった場合でも、状況次第では、潜在的稼働能力が認められ、養育費の請求が可能になる可能性もあります。
潜在的稼働能力を立証する場合など、弁護士に相談し、適切な法的主張を行うことが、養育費を確保することにつながる場合もあります。
まとめ
以上、養育費をもらえないケースについて、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。
養育費がもらえないケースを紹介しましたが、離婚の時に取り決めをするなどの方法により、適切な額を確実に支払ってもらうことが可能になる場合もあります。
また、中には、DV・モラハラの被害を受けた過去があり、当事者同士で連絡をとるべきではないケースや、当事者同士で交渉したことで、本来もらえるはずだった金額の養育費をもらえなくなるケースもあります。
そのため、養育費の請求についてお悩みの場合には、早めに養育費に精通した弁護士に相談されることをお勧めします。
当事務所では、離婚問題に注力した弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、養育費に関する様々な情報やノウハウを共有しています。
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