養育費と確定申告|申告の必要性やポイントを弁護士が解説

  
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA


養育費とは?

「養育費」とは、お子さんの監護や教育のために必要な費用のことをいいます。

具体的にいえば、お子さんの衣食住に必要な生活費、教育費、医療費など、お子さんの生活・成長のために必要な費用が、これに当たります。

離婚した後、お子さんと同居をして監護している親は、お子さんとは同居していない他方の親から、お子さんの生活費として養育費を支払ってもらう権利があります。

養育費について、くわしくはこちらをご覧ください。

 

 

確定申告とは?

「確定申告」とは、個人事業主などが、その年の1月1日から12月31日までの1年間で発生した収入・支出等を計算した申告書を税務署へ提出し、国に納付すべき所得税の金額を確定する手続きのことです。

個人事業主、農業従事者、不動産賃貸業を営む個人、不動産の譲渡による利益がある方などは、毎年、2月16日から3月15日までの1か月の間に、税務署に確定申告の手続きを行う必要があります。

 

 

養育費を支払う側の注意点――養育費が、扶養控除の対象となる可能性があります!

以下では、イメージしやすいように具体例で説明します。

具体例

Q1:私は個人事業主であり、毎年、税務署に確定申告を行っています。

また、離婚した妻との間には未成年の子どもがおり、親権は妻が持っていますので、毎月、元妻に対して、子どもの養育費を支払っています。

養育費を支払っていると、確定申告をするときに扶養控除の対象とすることができ、所得税や住民税の税金対策になると聞きました。

養育費の支払いと、確定申告や扶養控除との関係について、くわしく知りたいです。


A1:確定申告を行っている方で、養育費を支払っている方は、一定の条件を満たせば、確定申告の際に扶養控除として申告し、所得税・住民税を節税できる場合があります。

さて、Q1に対する回答をくわしく説明していきましょう。

扶養控除とは?

そもそも、「扶養控除」(ふようこうじょ)とは、納税者に所得税法上の「控除対象扶養親族」となる人がいる場合に、一定の金額を、確定申告上の所得から控除(差し引くこと)ができる制度のことをいいます。

また、所得税法上の「控除対象扶養親族」とは、扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人をいいます。

 

扶養控除が認められる条件は?

個人事業主の方が養育費を支払っている場合、確定申告の際に、扶養控除として申告し、所得税・住民税を節税できる場合があります。

お子さんへの養育費の支払いが扶養控除として認められるための条件は、主に以下の4つです。

  • ①お子さんが、その年の12月31日現在で、年齢が16歳以上であること。
    →お子さんが16歳未満である場合、養育費を扶養控除として申告することはできません。
  • ②お子さんの年間の合計所得金額が、48万円以下であること(お子さんの収入が給与のみの場合は、お子さんの給与収入が、103万円以下であること)。
    →具体的には、お子さんがアルバイトをしている場合などに問題になります。
    お子さんの所得・収入が、上記の金額を超えている場合には、養育費を扶養控除として申告することはできません。
  • ③個人事業主(納税者)が、お子さんに対し、青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払いを行っていないこと、またはお子さんを白色申告者の事業専従者としていないこと。
    →具体的には、個人事業主がお子さんを家業に従事させている場合などに問題になります。
    個人事業主の事業にお子さんを従事させ、お子さんに対して給与の支払いを行っていたり、白色申告の事業専従者として確定申告をしている場合には、養育費を扶養控除として申告することはできません。
  • ④お子さんが、個人事業主(納税者)と生計を一にしていること。
    「生計を一にしている」といえるためは、必ずしも同居していることまでは必要ありません。
    個人事業主が、別居しているお子さんに対して、常に生活費、学資金、療養費等の送金を行っている場合には、「生計を一つにしている」との条件を満たすとされています。
    そのため、個人事業主が離婚に伴う養育費の支払いを継続して行っている場合などには、「生計を一つにしている」ということができ、養育費を扶養控除として申告することができる場合が多いでしょう。
    また、以下の2つのどれかに当たる場合には、養育費を扶養控除として申告することはできませんので、注意する必要があります。
  • ⑤養育費を毎月支払うのではなく、一括払いで支払った場合、養育費を扶養控除として申告することはできません。
    →これは、上記の④の条件で、「生計を一にしている」といえるためは、個人事業主が、別居しているお子さんに対して、常に生活費、学資金、療養費等の送金を行っている必要があるためです。
    養育費を一括で支払った場合には、継続的な支払いではありませんので、「常に生活費等の送金が行われている場合」には当たらなくなります。
    そのため、養育費を支払う個人事業主の側としては、養育費を一括払いしてしまうと、扶養控除として申告できなくなってしまいます。
    個人事業主の方は、養育費の一括払いは、税金対策の観点からは得策ではない、ということに注意する必要があります。
  • ⑥お子さんの親権を取得した親が、すでにお子さんを扶養親族に入れている場合は、養育費を支払っている個人事業主の側は、重複してお子さんを扶養親族にすることはできません。
    →このため、離婚した後、お子さんを父母のどちらの扶養に入れるかで紛争となることがあり、事前に話し合って決めておくことが望ましいといえます。

養育費と扶養控除の関係について、くわしくはこちらをご覧ください。

 

養育費を扶養控除する場合の具体的な所得控除金額は?

上記の①から④の条件を満たし、⑤又は⑥に該当しなければ、養育費を扶養控除として申告することができます。

この場合、以下の金額の所得控除を行うことができます。

控除対象扶養親族 所得税 住民税
16歳以上19歳未満 38万円 33万円
19歳以上23歳未満 63万円 45万円

 

所得控除とは?

所得控除とは課税対象となる所得金額を減らせる制度です。

わかりやすく言えば、所得控除額が多ければ多いほど税金が課される対象となる所得額が減ります。

その結果、適用される所得税率も下がり、所得税も減ります。

例えば、所得税において所得に対して63万円の所得控除が適用される場合には、課税所得額が63万円減ることになります。

適用される所得税率が20%とすれば、12万6000円(復興特別所得税は除く)の所得税の節税効果を得られるでしょう。

 

 

養育費を支払ってもらう側の注意点――養育費を一括払いで受け取ると、贈与税が課税される場合があり得ます!

以下、イメージしやすいように具体例で解説します。

具体例

Q2:私は、離婚した夫から、子どもの養育費を毎月支払ってもらっています。養育費を受け取っていると、所得になって、税務署に確定申告をしなければいけないとインターネットで見ました。本当にそのような手続きをしなければいけないのでしょうか?


A2:毎月養育費を受け取っている方は、養育費について、税務署に確定申告をする必要はありませんので、ご安心ください。

ただし、養育費を一括払いで支払ってもらった場合、贈与税が課税される場合がありますので、注意する必要があります。

Q2に対する回答をくわしく説明していきましょう。

 

確定申告書の「所得」に記載する必要がある?

養育費を支払ってもらっていると、養育費について、これを所得として確定申告の手続きをしなければいけないのでしょうか?

答えは、上記のとおり、基本的には、確定申告の手続きを行う必要はまったくありませんので、ご安心ください。

養育費として受け取ったお金は、お子さんの生活や教育のために妥当な金額であれば、所得税や住民税の課税対象にはなりません。

そのため、確定申告の必要はありません。

養育費は、お子さんに対する扶養義務に基づいて、権利として受け取るものであり、所得・給料として受け取るものではないためです。

そのため、あなたが、個人事業を営んでいて確定申告をしている場合でも、養育費を「所得」に入れる必要はありません。

 

養育費を一括払いで受け取ると、贈与税が課税される場合がある!

ただし、養育費として、大きな金額を一括払いで受け取った場合、所得税や住民税の課税対象にはなりませんが、贈与税が課税されてしまう可能性があります。

養育費を一括払いで受け取ると、養育費を払ってもらう側としては、毎月取り立てる手間がなくなりますので、養育費を払ってもらえないリスクがなくなる、というメリットはあります。

もっとも、養育費を支払ってもらう側としては、贈与税が課税されるかもしれないというデメリットが発生しますし、上記のとおり、養育費を支払う側としては、扶養控除として申告できなくなるというデメリットも発生することに注意する必要があります。

そのため、養育費の支払い方法を一括払いにするかどうかについては、予想外のデメリットが発生しないように、親同士で事前に話し合いを行って決めるのが望ましいでしょう。

 

 

個人事業主が支払い義務者となる場合の養育費の計算方法は?

養育費の適正額は、家庭裁判所が作成している「養育費算定表」という客観的な基準により決められるのが普通です。

確定申告を行っている個人事業主が養育費の支払い義務者となる場合、基本的には、確定申告書の「課税される所得金額」の数字が、養育費等の算定基礎となります。

ただし、個人事業主の養育費の算定の場合、専門的には、「課税される所得金額」から控除したり、加算したりする項目が存在し、専門家ではない方には分かりづらい部分があり、適正額を算出することが難しい場合があります。

そのため、個人事業主の養育費を算定する場合は、離婚分野に精通した弁護士に相談されることをお勧めいたします。

確定申告を行っている場合の養育費の算定方法について、くわしくはこちらをご覧ください。

 

 

まとめ

以上のとおり、

  • 個人事業主で、養育費を支払っている方は、一定の条件を満たせば、確定申告の際に扶養控除として申告し、所得税・住民税を節税できる場合がある。
  • 養育費を受け取っている方は、基本的に、養育費について税務署に確定申告をする必要はない。

ということでした。

しかし、養育費と確定申告との関係では、

  • 養育費を一括払いすると、支払い側では、養育費を扶養控除として申告できなくなってしまったり、受け取る側では贈与税が発生する可能性がある。
  • 個人事業主の養育費の算定は、専門家ではない方には分かりづらい部分があり、適正額を算出することが難しい場合がある。
    など、いくつかの注意点も存在します。

そのため、個人事業主の養育費の算定や、養育費と確定申告との関係についてお悩みの方は、ぜひ、離婚分野に精通した弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

当事務所では、離婚事件を専門に扱うチームがあり、養育費について強力にサポートしています。

LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており、全国対応が可能です。

一人でも多くの方がこの記事を参考に養育費の問題が解決できるようになれば幸いです。

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