財産分与の対象とは?弁護士が解説|チェックリスト
財産分与の対象となるのは、夫婦が結婚生活の中で協力して築いた財産です。
夫婦が婚姻中に取得した財産は、夫婦の一方の名義で取得したものであっても、基本的には夫婦の協力によって得られたものとして財産分与の対象となります。
他方で、夫婦の協力によらずに一方が独自に取得した財産は、財産分与の対象とはなりません。
財産分与の対象を把握することは、財産分与を適切に行うためにとても重要なポイントとなります。
ここでは、財産分与の対象やその調べ方、注意するべきポイントなどについて解説していきます。
財産分与とは?
財産分与とは、夫婦が離婚をする際に財産を分け合うことをいいます。
財産分与の内容には、清算的要素、扶養的要素、慰謝料的要素があるとされています。
清算的財産分与 | 結婚中に築いた財産の清算 |
扶養的財産分与 | 離婚により困窮する相手の生活を支援するための分与 |
慰謝料的財産分与 | 相手の精神的苦痛を慰謝するための分与 |
この記事では、清算的要素としての財産分与(清算的財産分与)を念頭に置いて解説していきます(単に「財産分与」と表記している場合、この清算的財産分与のことをさします)。
清算的財産分与とは、夫婦が結婚生活で協力して築いた財産を離婚時に分け合い清算するものであり、財産分与の中心的なものです。
財産分与の対象とは?
財産分与の対となる財産(以下、「対象財産」といいます。)は、夫婦が婚姻中に協力して得た財産です(民法768条3項)。
参考:民法|e-Gov法令検索
具体的には、次のような条件を満たす財産です。
- ① 夫婦が婚姻中に取得した財産
- ② 特有財産ではない財産
- ③ 基準時に存在する財産
①夫婦が婚姻中に取得した財産
対象財産といえるためには、まずは夫婦が婚姻中に取得した財産であることが条件となります。
夫婦は経済活動も含め協力して共同生活を送っているため、婚姻中に(結婚生活の中で)取得した財産は、基本的には夫婦が協力して得た財産ということができます。
このように夫婦が協力して得た財産は、一方の名義になっていても、実質的には夫婦の共有の財産(実質的共有財産)ということができます。
この実質的共有財産を離婚の際に分け合って清算し、実質的共有状態を解消するのが清算的財産分与です。
②特有財産ではない財産
夫婦の協力によらず、一方が独自に取得した財産は、名実ともに夫婦の一方のみに帰属するものとして、対象財産にはなりません。
例えば、結婚前に取得した財産や、贈与や相続によって取得した財産です。
このような一方の独自の財産を「特有財産」(又は「固有財産」)といいます。
なお、特有財産であるかどうかわからない場合(立証できない場合)は、実質的共有財産とみなされ、対象財産となり得ます。
③基準時に存在する財産
「基準時」とは、財産分与の対象となる財産を特定する時点のことであり、原則として「別居時」となります。
通常、別居時が夫婦の協力関係が終わる時点であり、この時点に存在する財産が夫婦の協力によって得た財産の最終形態といえるからです。
基準時より前に滅失した財産や、基準時以降に取得した財産は、基本的には対象財産となりません。
財産分与の対象一覧
財産分与の対象になり得る主な財産には、次のようなものがあります。
- 不動産
- 預貯金
- 株式等
- 保険
- 自動車
- 退職金
不動産
結婚後に共同生活を送るために購入した自宅などの不動産は対象財産となります。
ただし、頭金を一方の結婚前の貯金や実家からの援助で賄ったような場合は、その頭金に対応する割合部分は、頭金を出した方の特有財産として対象財産からは除かれます。
(寄与割合の問題とする場合もあります)。
財産価値として把握される場合は、「分与時」の時価が分与の対象額となります。
住宅ローンを組んで購入した自宅などで、ローンがまだ残っている場合は、時価から基準時におけるローン残高を控除した金額を分与の対象額とするのが一般的です。
(分与時の残額を控除する考え方もあります。)
時価からローン残高を控除した金額が0円を下回る場合(この状態を「オーバーローン」といいます。)は、当該不動産の分与対象額はゼロと扱います。
預貯金
預貯金は、基準時における残高が対象財産となります。
結婚前に貯めていたお金や、相続や贈与によって得たお金を入金したものは特有財産であり対象財産とはなりません。
ただし、これらの特有財産と結婚後に夫婦で協力して貯めたお金が渾然一体となり、区別ができない状態になっている場合もあります。
例えば、結婚前に100万円貯めていた(結婚時点の残高100万円の)口座を、結婚後も引き続き利用し、生活費のための出金や給与の振り込みなどによって残高が100万円よりも減ったり増えたりを繰り返しつつ、最終的に基準時には残高200万円になったような場合です。
この場合、結婚時の残高100万円がそのまま基準時にも維持されているとは言い難く、特有財産部分を明確に分けることは非常に困難です。
そのため、少なくとも結婚時の残高100万円全額を控除することは難しく、場合によっては特有財産の部分はなくなったと考えて基準時の残高200万円を対象財産とすることもあり得ます。
株式等
結婚後に取得した株式等の有価証券も対象財産となります。
不動産と同様、分与時の株価相当額が分与の対象額となります。
上場会社の株式は市場価格となります。
他方、非上場会社の株式については株価の算定が必要になります。
算定方法はいくつかありますが、どのように算定するかについて当事者間で争いがある場合は公認会計士に評価してもらうことになります。
保険
解約すると解約返戻金が発生する(貯蓄性のある)生命保険や学資保険も対象財産となります。
基準時における解約返戻金相当額が分与の対象額となります。
結婚前から契約をしている場合は、結婚前に保険料を払い込んだ部分に相当する金額は特有財産として対象財産から除かれます。
また、自分の両親が保険料を支払っていた場合などは、夫婦の協力により築いたものではないため全部特有財産となります。
自動車
結婚後に取得した自動車も対象財産となります。
対象額は分与時の時価相当額となります。
ローンを組んで購入した場合で、基準時にローンが残っている場合は、その残額を時価から差し引いた金額を対象額とするのが一般的です。
ただし、高級車の場合以外は財産価値がほとんどないことも多く、財産分与の対象とせずに主として利用していた方が引き取るケースも多いです。
退職金
退職金は、給料の後払い的な性質があるとされているため、婚姻期間に対応する部分については夫婦の協力によって得たものとして、対象財産となります。
未だ退職しておらず、退職金を実際に受け取っていないという場合でも、将来に受け取る確実性がある場合は対象財産とするのが一般的です。
その際には、基準時に自己都合退職したと仮定して退職金額を算定し、それをもとに婚姻期間に対応する部分を算出するという方法で対象額を算出します。
また、退職給付制度の一部として、企業年金制度が導入されている企業もあります。
これらの企業年金も退職金の分割払いや前払いといえるものである場合は、財産分与の対象となります。
住宅ローンや生活費のための借り入れなど、夫婦の財産を取得したり、家計を維持するためにされた借金は、夫婦の一方の名義でされたものであっても「夫婦の借金」ということができます。
夫婦の借金は、それ自体は独立して財産分与の対象となることはありませんが、対象財産の評価額から差し引くなどの形で財産分与において考慮されることになります。
財産分与の対象とならないものとは?
特有財産や夫婦の一方の専用品、合意によって対象財産から除外したものは財産分与の対象とはなりません。
まず、特有財産は、夫婦の協力によって得られたものではないので財産分与の対象となりません。
特有財産には、結婚前に取得した財産や、親などの第三者から贈与を受けた財産、相続した財産などがあります。
また、夫婦の一方のみが使用する仕事道具や服飾品などの専用品も、財産分与の対象とはなりません。
ただし、宝石などの高価なものは対象財産とされる場合があります。
さらに、本来は対象財産となるもの(夫婦の協力によって得られた財産)であっても、当事者間の合意によって対象財産から除外することは自由にできます。
例えば、子どもの学資保険などは、子どものために積み立てたものだからということで、合意によって対象財産から外し、親権者となる側が全て取得するケースもあります。
財産を調べる方法
対象財産は、次のような資料によって把握することができます。
財産の種類 | 確認資料 |
---|---|
不動産 | 登記簿謄本(現在事項証明書)や権利証 |
預貯金 | 通帳や取引履歴 |
株式等 | 金融機関からの通知書 |
保険 | 保険証券や保険会社からの通知書 |
自動車 | 車検証 |
退職金 | 退職金規程 |
※上記の確認資料は一例であり、絶対にこの資料が必要というわけではありません。
財産分与を行う場合は、お互いに自己名義又は自己が管理している財産について、上記のような資料を任意に開示することになります。
したがって、相手が把握している財産は、全て相手が任意に開示するのが本来です。
しかし、財産を渡したくないといった理由などから、相手が任意に開示を拒否する場合もあります。
そのような場合は、原則として、こちら側(その財産があると主張する側)が資料を集め、その財産の存在を主張・立証する必要があります。
その際には、必要に応じて、調査嘱託や弁護士会照会を利用することもあります。
調査嘱託とは、裁判所を通じて金融機関等に相手名義の財産の情報を開示してもらう手続です。
弁護士会照会とは、依頼している弁護士の所属弁護士会を通じて金融機関等の団体に照会をかける制度です。
これらを利用することで、相手が任意の開示を拒んでいても、相手の財産を明らかにすることができる場合もあります。
ただし、探索的に照会をかけることは認められておらず、これらを利用するにも、相手名義の財産の存在について何らかの手がかりがなければなりません。
そのため、全く手がかりがない状態の場合は、相手の財産を明らかにすることは困難になります。
したがって、同居中に相手名義の通帳や金融機関等からの郵送物などをチェックしておく(写真やコピーをとっておく)など、できる限りの手がかりを集めておくようにすることも重要なポイントとなります。
財産分与の注意点
対象財産を把握する
財産分与を適切に行うためには、まずは対象財産を適切に把握することが大切です。
対象財産の把握が不十分であると、もらえるはずの財産をもらうことができなかったり、渡さなくてよい財産を渡してしまったりする結果となってしまうので注意する必要があります。
財産を漏れなく洗い出す
裁判実務では、当事者双方が把握している財産を全て(特有財産も含めて)開示したうえで、特有財産を除いて対象財産を確定させていく方法をとるのが一般的です。
したがって、まずはお互いが自分の把握している財産を全て開示することになります。
もっとも、相手が財産を渡すまいとして自己名義の財産の開示を拒む(財産を隠匿する)ケースもあります。
そのため、事前に相手名義の財産についてできる範囲で調べておくとよいでしょう。
具体的な調べ方や証拠の集め方は事案により異なりますので、詳しくは離婚問題に強い弁護士にご相談ください。
特有財産は対象から除外する
特有財産がある場合は、それを財産分与の対象から外す必要があります。
洗い出した各財産のうち、何が(どの部分が)特有財産であるかを見極めることが重要です。
もっとも、結婚生活が長い場合などは、特有財産と実質的共有財産が渾然一体となり、特有財産の見極めが難しいことも多いです。
個別具体的な事情に即した判断も必要になりますので、詳しくは離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
なお、特有財産か否かに争いがある場合は、特有財産だと主張する側がそれを立証する必要があります。
そのため、自己名義の特有財産がある場合は、、結婚前(結婚時)の残高証明や、贈与契約書、遺産分割協議書など、特有財産であることを裏付ける証拠を集めておくようにするとよいでしょう。
財産分与に強い弁護士に相談する
財産分与については、対象財産の把握の他にも、財産の評価、基準時、分与割合、分与方法など、検討するべきポイントは多岐にわたります。
いずれのポイントについても、適切に対応するためには専門知識やノウハウが不可欠となりますので、財産分与に強い弁護士に相談しながら慎重に進めることをおすすめします。
結婚期間が長くなればなるほど、夫婦の財産状況は複雑化し、財産分与を巡る争いも長期化・激化する傾向にありますから、専門家のサポートを受ける必要性は高くなるでしょう。
弁護士に代理交渉(代理人として相手と直接交渉すること)を依頼すれば、財産の把握や分け方等に関する協議をスムーズに進めることができ、裁判所の手続きを利用することなく、早期解決ができる場合もあります。
また、弁護士には、財産分与以外の離婚条件(養育費、慰謝料など)の調整も含め、離婚の手続きを全般的に任せることもできます。
なお、財産分与は、離婚と一緒に求めることが多いですが、事情によっては財産分与を取り決めないまま離婚を先に成立させる場合もあります。
財産分与は離婚後も請求することができますが、離婚後2年が経過すると請求できなくなってしまうため、早めの対応が必要です。
お早めにご相談ください。
まとめ
以上、財産分与の対象、その調べ方や注意するべきポイントなどについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
財産分与の対象となるのは、夫婦が結婚生活の中で協力して築いた財産です。
結婚後に取得した不動産、預貯金、株式等、保険、自動車、退職金などは、一方の名義になっていても実質的共有財産として財産分与の対象となります。
他方で、結婚前に取得した財産や、贈与や相続によって取得した財産など、夫婦の協力によらずに取得した財産は、特有財産として財産分与の対象からは除かれます。
もっとも、これらの見分けが難しいケースも多く、個別具体的な判断が必要になります。
お困りの場合は離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
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