離婚したら健康保険はどうなりますか?【弁護士が解説】
国民健康保険加入の手続きを行えば無保険にはなりません。
会社勤務の夫の扶養に入られていた方の場合は、離婚に伴い、元夫の健康保険から外れ、国民健康保険に加入する手続を市区町村の役所で行う必要があります。
離婚前に夫に協力を求めておくと良いでしょう。
この記事では、国民健康保険に加入する手続の流れや届出に必要な書類、注意点について弁護士が詳しく解説します。
目次
健康保険とは
健康保険とは、会社勤めのサラリーマン(給与所得者)が加入する保険のことで、社会保険とも呼ばれています。
健康保険は、全国健康保険協会や健康保険組合が運営しています。
国民健康保険との違い
国民健康保険は、自治体(市区町村)が運営する健康保険で、社会保険に加入していない、自営業者、無職の方、年金受給者などが対象となります。
なお、75歳以上の方や65歳から64歳で一定の障害をお持ちの方については、後期高齢者医療制度に移行します。
健康保険でも、国民健康保険でも、医療費の自己負担額は6歳から69歳までの方については、原則として3割となっています。
※難病などの場合を除く。
社会保険の健康保険との大きな違いは、扶養の有無です。
健康保険では親や子供などの親族を扶養に入れることができ、被扶養者が複数名いても健康保険の料金は変わりません。
これに対して、国民健康保険の場合、扶養という概念がありません。
そのため、離婚した母親が子供を養育していても、それぞれの保険料を支払わなければなりません。
以上をまとめると下表のとおりとなります。
異同 | 健康保険 | 国民健康保険 |
---|---|---|
共通 | 医療費の自己負担は原則3割 | |
大きな違い | 扶養に入れることができるので、保険料は1名分のみでよい | 扶養に入れることができないので全員分の保険料を支払う必要がある |
離婚したら無保険となる?
専業主婦など会社勤務の夫の扶養に入られていた方の場合は、離婚に伴い、元夫の健康保険から外れることとなります。
そのため、保険についてどうなるか、心配される方もいらっしゃいます。
日本では、国民全員が高額な医療費を支払わなくてすむように、全国民が医療保険に加入する制度(国民皆保険)を採用しています。
健康保険から外れても、上述した国民健康保険に加入できるため無保険となることは有りません。
もっとも、国民健康保険に加入する手続を市区町村の役所で行う必要があります。
国保に入る手続きの流れ
国民健康保険へ加入するための具体的な手続きは、
①あなたが保険証を元夫に返したうえで、
②元夫が勤務先の会社で資格喪失証明書を取得したものをあなたが受け取り、
③その資格喪失証明書を持って役所に行き、加入手続を行うという流れになります。
この場合、離婚後なので、元夫からの資格喪失証明書の授受は郵送等でなされるのが通常だと思いますが、そうなると、健康保険の資格喪失後、国民健康保険の加入する手続までの間にタイムラグが生じるので、自分が無保険状態になるのではないかと不安を持たれる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、無保険状態にはなりませんので、ご安心ください。
確かに、資格喪失証明書の取得日と国民健康保険の加入手続を行う日との間にはタイムラグが生じますが、実務上は、資格喪失証明書の取得日に遡って、国民健康保険の加入日として扱うということになっています。
もっとも、資格喪失証明書が発行された日から国民健康保険の加入手続を行った日までの間に、急病などで病院で治療を受けた場合には、病院でのお支払いは、いったん、全額自己負担の際と同額を支払っておかなければならず、国民健康保険の加入手続後に、役所で還付の手続を行うことになります。
具体的には、医療費は原則として3割が自己負担なので、還付の手続を行うことで7割分が戻ってくることになります。
以上をまとめますと、次の通りです。
たとえ、夫に保険証を返した場合でも、無保険状態にはなりません。
もっとも、タイムラグが大きくなると、その分、その期間に病院にかかる可能性が高くなってしまいます。
そうなると、いったんは全額自己負担と同額の治療費を支払い、その後、還付の手続をとるといった多少面倒なことになってしまいます。
できるだけ速やかに、国民健康保険加入の手続を行えるように、離婚前に夫に協力を求めておくと良いでしょう。
健康保険の資格喪失証明書を離婚前にもらえる?
例えば、離婚前に妻が再就職する場合、その会社の健康保険に入りたいと考える場合があります。
この場合、夫の会社から健康保険の資格喪失証明書を発行してもらわなければなりません。
そこで、妻側から「離婚前でも健康保険の資格喪失証明書をもらえますか?」という質問が多いです。
健康保険の資格喪失証明書を発行するために離婚は条件ではありません。
健康保険証を夫を通じて会社に返却することで、離婚前でも健康保険の資格喪失証明書を発行してもらうことができます。
いつまでに、どんな届出が必要?
国民健康保険に加入するときは、健康保険等の資格を喪失した日から14日以内に、住所地の役場(区役所等の保険年金担当課)へ届出が必要です。
手続が遅れると、遡って保険料を支払う必要があるので注意されてください。
また、その間の医療費はやむを得ない事由がなければ、全額自己負担となる可能性があります。
届出に必要な書類とは?
- 印鑑・国民健康保険に加入する人のマイナンバーが分かる書類(個人番号カード、通知カードなど)
- 手続きに来所する人の身元確認書類(免許証やパスポートなど顔写真があるものは1点、住民票や介護保険証など顔写真がないものは2点必要。)
- 各医療証(子ども、障がい者、ひとり親家庭等。家族の人が持っている場合も持参してください。)
- キャッシュカード、または通帳と金融機関の届出印(口座振替のため)
※お住まいの地域によって異なる可能性があるため、詳しくは役場にお問い合わせください。
離婚と健康保険の問題点
上記のとおり、国民健康保険への加入は、「資格喪失証明書」が必要であり、これまで扶養に入っていた方は、相手方に頼んで、会社で発行してもらう必要があります。
一見簡単そうですが、離婚事案においては、スムーズにいかないことが見受けられます。
これは次の理由によるものです。
相手方が世間体を気にして離婚したことを秘匿したい場合、職場に離婚したことを話してくれない可能性があります。
相手方からDVやモラハラを受けていた被害者の方の場合、相手方と接触を取りたくないという気持ちが強く、資格喪失証明書の発行を依頼できないという問題があります。
離婚するまでの経過の中で、相手方が増悪感を持つなどして、感情的になっているため、資格喪失証明書の発行を依頼しても無視される場合があります。
このような場合、資格喪失証明書の取得は容易ではありません。
他方で、国民健康保険への加入には、期限があり、これを過ぎると医療費を全額自己負担する可能性があります。
資格喪失証明書を取得できないとき、どうすればいい?
資格喪失証明書を取得できない場合、以下の対応が考えられます。
当事者同士ではスムーズに話ができない場合、家族、知人、弁護士などの第三者を通して、相手方に資格喪失証明書の発行を伝えるという方法があります。
相手方に依頼しても発行してもらえない場合、直接、会社に連絡するという方法もあります。
会社は被保険者や被扶養者に異動が生じた場合、5日以内に保険者に対して届出をする義務があります。
しかし、中小企業の場合、担当者が必要性を理解してくれない可能性もあります。
上記の方法でも取得できない場合、お住いの市区町村役場の国民健康保険課窓口に相談することをお勧めします。
まとめ
以上、離婚と健康保険について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
離婚しても、国民健康保険へ加入できるため無保険となることはありません。
ただ、離婚問題では当事者が感情的になってしまい、資格喪失証明書の取得でもめる可能性があります。
その場合、弁護士などの第三者に交渉してもらうとスムーズに行く可能性もあります。
この記事が離婚問題に直面されている方にとって、お役に立てば幸いです。
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