不貞行為の立証は難しい?|立証のための要件と証拠集めのポイント
不貞行為とは
不貞行為とは、配偶者以外の人と、自由な意思により(=強制ではなく)、性的関係をもつことをいいます。
不貞行為は法律上の離婚原因となっています(民法770条1項1号)。
引用元:民法|eGov法令検索
そのため、配偶者が不貞行為をしていたことが立証できれば、その配偶者が離婚したくないと言っていても、裁判によって離婚を成立させることができます。
また、不貞行為があったことが立証できれば、不貞行為をした配偶者と、不貞行為の相手方(不倫相手)に対して慰謝料を請求することもできます。
このように、不貞行為を立証できるかどうかは、離婚の実現や慰謝料の請求において、結果に大きな影響を及ぼします。
今回は、不貞行為はどのように立証していけばよいのかについて解説していきます。
不貞行為はどんな場合に認められる?
そもそも、どのような行為があれば「不貞行為」といえるのでしょうか?
性的関係があることは絶対必要なのでしょうか?
キスしたり抱き合っただけでも「不貞行為」になるのでしょうか?
まずは、どのようなことをすれば「不貞行為」になるのか、見ていきましょう。
不貞行為が認められるケース
- 原則として、性的関係があることが必要。
- 性的関係があれば、愛情があるか否か、一回だけか複数回かは関係なく、不貞行為と認められうる。
- 脅迫や暴力などによって強制された場合は、不貞行為に当たらない。
原則として、法律上「不貞行為」と認められるには、性交渉があったことが必要です。
キスしていた、抱き合っていた、というだけでは足りません。
性的関係があれば、愛情の有無、回数に関係なく(一回だけでも)、不貞行為と認められる可能性があります。
ただ、性的関係があったとしても、相手から無理やり強制された(暴力、脅迫など)場合には、本人の自由意思によって性的関係をもったのではないので、不貞行為とはなりません。
不貞行為が認められにくいケース
- 性的関係がないと、不貞行為とは認められにくい。
- メール・SNSのやり取りだけの場合などは、不貞行為とは認められにくい。
性的関係がない場合(いわゆるプラトニックな関係)、不貞行為と認められることは難しいです。
抱き合っていた、キスをしていた、というだけで性交渉に至っていない場合も、とても難しいでしょう。
メールやSNSでのやり取りだけの関係、ということでは、不貞行為とはまず認められません。
ただし、会っただけなど「不貞行為」には至っていなくとも、夫婦間の平和を乱したとして慰謝料が認められる場合もあります。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
また、性的関係に至らないキスや抱き合う行為、メールやSNSでのやり取りについての証拠しか押さえることができなかったときも、それらが無駄になるとは限りません。
行為の場所や時間、様子、メールなどの文面、その他に集められた証拠によっては、性的関係の存在を認定する証拠となる場合もあります。
詳しくは、「不貞行為の証拠になるもの」の項でご説明します。
不貞行為の立証は難しいのか
不貞行為を立証するのは難しいのでしょうか?
そもそも、不貞行為をしている人は、それを隠そうとするのが普通です。
そのため、証拠も隠されていることが多く、「不貞行為の証拠を押さえるのなんて簡単」とは言えません。
でも、千里の道も一歩から。
まずは、できるところから少しずつ、証拠固めをしていきましょう。
どのような証拠を集めたらよいか、注意すべき点はないか、ということについて、一度弁護士に相談するのもおすすめです。
特に離婚問題を専門に扱う弁護士であれば、裁判ではどのような証拠が必要になるのか、どうやって手に入れればよいか、注意すべき点はないか、などについて専門的な知識を有しています。
ご相談いただければ、それぞれの方の事情に応じて、「あなたのためのアドバイス」をしてくれるでしょう。
不貞行為の証拠になるもの
不貞行為の証拠となるものには、以下のようなものがあります。
これらについて、詳しく見ていきましょう。
写真・ビデオ
性交渉・裸体の写真・映像
- 性交渉、裸やそれに近い状況の写真・映像、旅行で同じ部屋に宿泊したことを示す写真・映像は、有力な証拠
- 配偶者や不倫相手の顔がはっきりわかる写真を確保しよう。
- 配偶者のスマホに保存されている写真やビデオは、自分のスマホなどに転送するか、相手のスマホごと写真撮影する。
配偶者と不倫相手の性交渉の現場を映した写真やビデオがあれば、ほぼ確実な証拠となります。
しかし、そんなものが存在することは稀です。
不倫相手の裸又はそれに近い状況(下着姿など)の写真や映像が配偶者のスマホなどに残されているケースもあります。
この場合、不倫相手の顔がはっきりわかる写真を確保するようにしましょう。
二人で旅行に行って、同じ部屋に泊まったことがわかる写真なども、有力な証拠となります。
配偶者のスマホなどに保存されている写真や映像をは、自分のスマホなどに転送して確保されているケースも見受けられます。
この場合、注意しなければならないのは、不正アクセスとならないようにすることです。
これについては後ほど詳しく解説します。
また、配偶者のスマホごと写真に撮って証拠にすることもできます。
その場合の注意点は、後の・メールやSNSの項をご参照ください。
相手方らの行動についての写真・ビデオ
- ラブホテル・自宅への出入り、キスや抱き合っている場面の写真・ビデオなどが証拠となりうる。
- 撮影日時、場所がわかるように撮影する。
- ラブホテル・自宅への出入りは、入った場面、出た場面の両方を撮影する。
- 配偶者と不倫相手の顔がはっきり映るように撮る。
ラブホテルに二人で出入りする写真や映像も、性的関係があることを示す強い証拠です。
ラブホテルへの出入りを写真や映像に撮る場合、入った場面と出た場面の日時と場所がはっきりわかるように映しましょう。
配偶者と不倫相手の顔がはっきりわかるように撮影することも必要です。
どちらかの自宅に訪れている場面の写真や映像でも、場合によっては(例えば深夜から朝まで滞在した場合など)、性的関係があったことの証拠になります。
この場合もやはり、入った場面と出た場面の日時と場所、配偶者と不倫相手の顔がはっきりわかるように撮影しましょう。
性的関係に至らないキスや抱き合う場面の写真やビデオでも、その場面や前後の様子、場所、時間、頻度、その他のなどによっては、性的関係を認める証拠となることもあります。
こうした写真の場合も、日時と場所、配偶者と不倫相手の顔がはっきりわかるように撮影しましょう。
デジタルの写真・映像データの注意点
- オリジナルのデータは必ず残しておく
写真やビデオは、今はデジタルのものがほとんどだと思います。
デジタル情報は改ざんが容易なので、ときに改ざんを疑われる場合があります。
そのときには、オリジナルのデータを提出する必要が出てきます。
これを提出できないとなると、改ざんしたことを隠しているのではないかと思われ、証拠としての価値が下がることもありえます。
後に改ざんの疑いを晴らすことができるよう、写真や映像の元となったオリジナルのデータは必ず残しておきましょう。
特に、映像を編集することには注意が必要です。
ビデオを長時間にわたって録画した場合、無関係な映像も多く録画されるので、そういった部分は編集して消してしまおうと思うかもしれません。
しかし、編集する場合、必ず、元のデータも残しておきましょう。
編集した映像を裁判の証拠として提出した場合に、相手方から、「誤解を与えるように編集されている」と反論されることがありえます。
そのような反論が出たときには、恣意的な編集はしていないことを示すためオリジナルのデータを提出することになります。
これを提出できないと、映像の証拠としての価値が落ちてしまうことになりかねません。
そのようなことのないように、オリジナルのデータは必ず保存しておきましょう。
配偶者と不倫相手の会話の録音
たとえば配偶者の車の中にICレコーダーを忍ばせて、配偶者と不倫相手の会話を録音する、ということが考えられます。
二人が性交渉に及んでいる場面が録音できれば、かなり確実な証拠となります。
会話の中で、二人が性的関係にあることを示す発言があれば、それも強力な証拠となります。
録音も、最近はICレコーダーやスマートフォンなどのデジタル機器によって行うことが多いと思います。
この場合、写真やビデオと同様改ざんを疑われることがありますので、元のデータは必ず保存しておきましょう。
不貞行為を認める念書や録音データ
相手方が不貞行為を認めた場合、このことを念書などの書面にしておくとよいです。
そうしておけば、後々配偶者が態度を変えて不貞行為を認めなくなり、証拠が必要となったとき、強い証拠として用いることができます。
念書を書かせる場合には、
- 不貞開始の時期
- 不貞行為の期間
- 不貞行為の回数
- 不貞相手方の名前や職業
- 不貞の相手方と出会ったきっかけ
- 不貞の相手方は夫(又は妻)が結婚していると知っていたか
などといったことを、なるべく具体的に書いてもらうことがポイントとなります。
そして、最後に念書を作成した年月日を記載し、相手方に署名してもらいましょう。
夫婦で不貞行為の問題について話し合う際に録音をし、相手方が不貞行為を認めた発言を証拠にしようとする場合もあるでしょう。
この場合も、先ほどの念書に盛り込むべき内容(不貞開始の時期、期間、回数、不貞の相手方の名前や職業、出会ったきっかけ、不貞の相手方は夫(又は妻)が結婚していると知っていたかなど)を、相手方に発言させられるとよいです。
注意点
- 認めさせようとしすぎると、逆効果のことも
- オリジナルのデータは必ず保存
配偶者が不貞行為を認めた発言を録音しようとする場合、こうした言葉を無理に言わせようとすると、逆効果の場合があります。
音声データは、裁判所に証拠として提出するときには、全体を提出しなければならなくなる可能性があります(オリジナルのデータは必ず保存しておきましょう。)。
データを編集して、自分にとって有利な部分だけを提出しても、相手方から「そういう意味で言ったのではない。」「無理やり言わされた。」「あまりにしつこく迫るので、やけになって言った。」などと反論されることがあります。
その場合、音声データの全体を提出しなければならなくなります。
これを提出できなければ、音声データの証拠としての価値が大きく下がってしまうことも考えられます。
また、提出したとしても、裁判官が客観的に聞いてみて、「たしかに都合のいいところだけ抜き出している。」「無理やり言わせている。」と思うようであれば、音声データを証拠として取り上げてはもらえなくなります。
むしろ、裁判官は、そうした提出者の態度から、提出者の主張全体を疑わしく思うようになるかもしれません。
テレビなどでは、録音のごく一部を再生して、「こんな発言があった」などと報道されることもありますが、裁判となるとそれでは通用しません。
「なんとしても不貞行為を認めさせよう」と気負いすぎず、「うまく発言させられればラッキー、無理でも別の証拠で何とかする」ぐらいの気持ちで、他の証拠を十分そろえた上で、話し合いに臨んだ方がよいかもしれません。
メールやSNS
メールやSNSのやり取りも、証拠となります。
性交渉に及んだことが直接的に書かれていれば一番良いですが、ぼかした言い方(「昨日はよかったね」など)をしていることが多いです。
ぼかした言い方の場合、「性交渉があったという意味ではない。」と反論されてしまうことがあります。
しかし、その場合でも、他の証拠(ホテルのレシート、クレジットカードの履歴など)と合わせて、性交渉があったことを立証できる場合もあります。
メールやSNSのやり取りの証拠を押さえる場合、スマホの画面を写真に撮る方法によることが多いです。
その場合の注意点として、
- だれのスマホであるかわかるようにスマホ全体の写真を撮ること
- メッセージの送信日時がわかるように撮影すること
- メッセージの前後が途切れていないことがわかるように撮影すること
などがあります。
通話履歴
不倫相手と頻繁に通話していることを示す通話履歴も、証拠となりえます。
強力な証拠とはいえませんが、他の証拠と合わせて不貞行為を立証できることもあります。
レシートやクレジットカードの明細
不倫相手と利用したホテル、不倫相手への贈り物などのレシートやクレジットカードの明細も、不貞行為の証拠の一つとなりえます。
これらだけで不貞行為の認定をしてもらうのは難しい場合もあるかもしれませんが、他のメールなどのやり取り、写真などと合わせて、証拠となる場合もあります。
興信所
自分では証拠をそろえられない場合、興信所に依頼することも考えられます。
興信所に依頼すれば、配偶者と不倫相手の行動を尾行し、写真を撮影して報告書を作成するなどしてくれます。
ただ、費用は、数十万円~数百万円と幅がありますが、いずれにせよ相応の金額がかかります。
証拠を集める方法についての注意点~違法行為に注意
配偶者のスマホに暗証番号などでロックがかけられ、そのままでは中が見られない場合もあります。
また、相手方のメールを見たいと思ったときに、IDとパスワードが必要となる場合もあります。
このような場合に、暗証番号、ID、パスワードなどを入手又は推測して勝手に相手のデータを見ると、不正アクセス禁止法に違反したとして刑事罰の対象になるおそれがあります。
また、相手方のプライバシーを侵害したとして、慰謝料を請求されることもあります。
せっかく証拠として入手したのに、違法に入手した証拠(違法収集証拠)として、裁判所で証拠と認めてもらえなくなることもありえます。
このようなリスクについても、心にとめておいてください。
スマホにロックがかかっているような場合に、これまでに述べてきた他の方法で証拠を集める方がよいこともあります。
証拠がない場合も慰謝料は請求できる?
証拠がない場合の対処法
不貞行為(性的関係)を示す証拠が見つけられない場合でも、話し合いで解決できる可能性もあります。
当事務所でも、不貞行為の証拠がそろえられなかった事例で、慰謝料の支払を認めさせたケースがあります。
このケースでは、証拠が十分でなかったので、裁判をすると慰謝料を得ることが難しかったのですが、弁護士が代理人となり、依頼者の心情を伝えて説得をするなどして粘り強く交渉し、慰謝料を得ることができました。
また、性的関係まで立証できなくとも、親密な関係を立証できれば、一定の慰謝料の支払いを請求できる場合もあります。
不貞行為の証拠が十分に集められない場合、一度、弁護士に相談することをお勧めします。
他にそろえられる証拠はないか、今ある証拠で慰謝料を請求できないか、などについて、アドバイスを受けることができます。
まとめ
今回は、不貞行為とは何か、どんな場合に認められるか、不貞行為の立証は難しいのか、どのようなものが証拠になるのか、証拠を集める際の注意点、といったことについて解説しました。
「不貞行為」と認定されるには性的関係があったことが認められることが必要であり、その証拠を集めるのは、確かに簡単ではありません。
しかし、写真、映像、録音、メールやSNS、通話履歴、レシートやクレジットの明細など、手に入れられる証拠も色々あります。
ただ、証拠を集めるための行為も方法によっては違法行為となり、刑事罰の対象になることもありうるので、注意が必要です。
証拠集めに行きづまったときは、一度弁護士に相談することをおすすめします。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?