養育費を払わない男性の心理とは?離婚問題にくわしい弁護士が解説
養育費とは
養育費とは、子どもが社会人として独立自活ができるまでに必要とされる費用のことをいいます。
養育費の内容としては、子どもの衣食住の為の費用・健康保持のための医療費・教育費が含まれます。
男性が養育費を支払わなくなる理由
男性が親権を取得できなかったケース
離婚協議を行っている際、男性側が親権を強く争ったものの女性側が親権者と指定されたケースなどが挙げられます。
そういったケースでは、「妻は、自分が子どもを見る(=監護する)と決めて(夫の意見を無視して)子どもと一緒に別居したのだから、子どものことはすべて妻が負担すべきだ。」と考える男性が一定数います。
いわゆるモラハラ傾向がうかがえる男性は、こういった考え方に基づいて主張をする方が比較的多い印象です。
こういった男性は、離婚の際に合意した養育費について、初めは合意通り支払を行いますが、事後に何かと理由をつけて減額を求め、「そもそも論」として上記の考え方を振りかざしてくることがあります。
面会交流が実施されていないケース
面会交流は、別居、離婚に伴い離れて暮らすようになった親子の交流を行うものです。
面会交流がうまくいかないケースにおける要因は実に様々ですが、男性から見ると「きちんと子どもに会わせてくれないなら、養育費も払わない。」という心理が働きます。
一方、女性から見れば、「養育費を払ってくれないなら、面会交流は実施したくない。」という心理が働きます。
調停では、「面会交流と養育費は別問題ですから。」などと調停員や裁判官が説明を行いますし、その通りではあるものの、心情としてはなかなか双方とも納得が難しい問題です。
この問題は、面会交流と養育費の役割の違いによるものではないかと考えられます。
面会交流は、親と離れて暮らすようになった子が、離れていても親に愛されている、気にかけてもらえていると感じることなどを通して、子の精神的成長を支える役割があるといえます(よく「子の福祉」という言葉で表現されるものです。)。
他方で養育費は、子の生活を経済的側面から支える役割があります。
育児にはお金がかかりますし、多くのケースでは男性の収入に頼らなければならない実情があります。
このように、面会交流も養育費も、離婚後の子の成長のためにあります。
ところが、目の前の生活を維持するためにお金は絶対に必要となってくる一方で、精神的な成長というものは目に見えません。
「父親の考え方はむしろ、子どもの精神的な成長に悪影響だ。」という考えが出てきてしまうと、「お金は必要だが面会交流は不要。」という発想に行き着いてしまいます。
離婚を決意するきっかけとして、「子育ての方針が一致しない」という事情が挙げられることも多いのですが、そうするとなおのこと、上記のような事態に陥ってしまうことが多くなります。
収入が減ったことを理由とするケース
養育費の金額は、子どもの数と年齢によっても違いますが、基本的に父母双方の収入によって左右します。
養育費の金額はいくらが妥当なのかと考えたとき、インターネットが普及した現代では多くの方が裁判所の算定表に行き着きます。
そして「収入が上がれば養育費が上がる、収入が下がれば養育費も下がる」と理解します。
ここで、たとえば会社員の給与は、直近2、3年という短い期間において多少の減少はあったとしても、長い目で見れば少しずつ上がっていくのが通常です。
そのため、養育費の金額について合意が成立した後は、簡単に金額を下げられるものではありません。
子どもの生活を少しでも安定したものにするという観点からいっても、合意金額を簡単に変動させることは法的にも容易ではありません。
しかし、養育費の金額を合意したあとでも、流動的にいつでも養育費が増減すると安易に理解されていることがしばしばあります。
そのために、収入が減ったことを理由に不払いが起こることがあるのです。
会社員の給与収入と比べれば、個人事業主の収入は変動が大きいといえます。
もちろん、予期せぬ事態に見舞われてどうしても合意した養育費が支払えないという問題に直面することもあるでしょうが、かといって一方的に合意金額を変更して良い理由にはなりません。
母親側が再婚したケース
子どもを見ている(監護している)母親が再婚した場合、その再婚相手は、子どもにとって「新しい父親」と捉えられることが多いです。
そして、その多くのケースで、この「新しい父親」が、母親(前妻)と子どもを扶養するという生活実体が生まれます。
その結果、男性側(前夫、子の実親)からすると、「新しい父親に扶養されているのであれば、養育費をこのまま払い続けると前妻は二重に利益を受けることになるのではないか。」と考えるようになるため、養育費の不払いが生じやすくなります。
子どもが親の再婚に伴って再婚相手と養子縁組すると、第1次的扶養義務は縁組した親(養親)が負うことになります(実親は第2次的な扶養義務を負います。)。
しかし、養子縁組をしながらそのことを前夫に伝えていなかった、あるいは前夫からの養育費を引き続きもらうためにあえて養子縁組をしなかった場合などは、男性からすると「必要のないものを払わされた。」という心理状態になってしまうことがままあります。
このようなケースでは、「これまで支払った分を返せ。」「今後は払わない。」といった問題に発展してしまいます。
父親側が再婚したケース
具体的には、再婚相手の女性に連れ子がおり、父親とその子が養子縁組をした場合、再婚相手の女性との間に子が出生した場合に、養育費の減額を求められることがあります。
なぜなら、その父親の収入が離婚時と大きく変わっていなければ、扶養する人数だけが増えるわけですので、子どものために充てられる費用は当然少なくなるためです。
こういったケースでは、離婚後の事情変更が認められることが多く、養育費は減額するのが相当であると判断されることが多いです。
母親側からすれば、自分がまったく関わっていない事情に基づいて減額を求められ、裁判所もそれを認めてしまうことに憤りを感じるのも理解できなくはありません。
しかしながら、上記のとおり、父親の収入自体が増えていないまま扶養すべき人数が増えれば、どうしても養育費は減額せざるを得ないことがほとんどです。
ローンの支払が家計を圧迫しているケース
婚姻期間中に組んだローンを、離婚後も引き続き男性側が負担し続けることはよくあります。
たとえば住宅ローンの場合、その支払は資産形成行為、つまり男性固有の資産を形成するための行為ですから、これが養育費に優先することは認められません。
そのため、ローンの支払は考慮せずに養育費が定められますが、オーバーローン物件の場合は仮に不動産を売却しても支払いは続きますので、養育費の支払に窮するという事態が生じてしまうことがあります。
養育費を支払ってもらえないときの対処法
協議が可能であれば話し合う
まずは、男性側が養育費を支払えない理由を確認します。
「一度合意した金額が払えないのなら、まずは減額を求めたい男性側から先にきちんと説明すべきだ。」という考え方もあるかと思います。
しかし、対立感情が強まるだけで紛争はより深刻なものとなってしまいますので注意が必要です。
したがって、「どういった理由で支払ができないのか」を聞いてみるのがよいです。
次に、養育費の支払えない理由として挙げられた事情が真実なのか、仮に真実だったとした場合、法的に減額や不払いを認めなければならないのか、という点を考える必要があります。
減額や不払いが本当にやむを得ないものだといえる場合は、支払われなかった分について免除せざるを得ない場合もあるかもしれません。
しかし、法的判断は専門家でなければ難しいことが多いといえます。
そのため、たとえば、免除はできないけれども、ひとまず支払いの猶予を認め、事後で清算してもらうという方法を取ってみるのは有用かもしれません。
この方法を取る場合、事後の清算をどのように行うのか(一括払いをするのか、養育費の金額に一定額を加算して分割払いをするのか、そしてそれをいつ行うのか)について、改めて書面で合意しておく必要があります。
養育費の調停を申し立てる
協議が困難な場合は、調停を申し立てることで解決を図ることが考えられます。
調停を申し立てることによって、議論の進行を裁判所が行ってくれます。
議論を進める調停委員会には裁判官も含まれていますので、法的な見通しもある程度示されます。
また、合意に至れば調停調書が作成され、もし合意後にまた不払いが生じた場合は強制執行が可能となります。
さらに、調停でも話し合いがまとまらない場合は、「審判」という手続に移行し、裁判所が法的判断として養育費の金額を決めてくれます。
裁判所の判断が確定すれば、同様に強制執行が可能となります。
弁護士に相談する
養育費を減額せざるを得ないのかどうかを考えるにあたっては、実務的観点での検討が必須となります。
つまり、算定表による算定はもちろん、それ以外の個別の事情を考慮した修正が必要となるのかどうか、過去の裁判所の判断に基づくとどのような考慮をしなければならないのか、といった検討は、専門家でなければ判断が難しいものです。
弁護士に相談することでそういった専門的検討が可能となります。
また、面会交流がうまくいっていないケースでは、養育費という枠組みだけでは解決できない問題も含まれます。
もしうまくいっていない場合は、なぜうまくいっていないのか、うまくいくためにはどうすればよいのかといった検討も必要になってきます。
こういった検討を踏まえ、今後具体的にどのような対応をするのが得策なのか、弁護士に相談することによって具体的な見通しが立てやすくなります。
特に、一度決めた養育費の変更(離婚後の養育費の変更)は、離婚後の事情変更について考えなければなりませんので、離婚時に養育費を定める場合よりも複雑なことが多いです。
そのため、養育費に関する専門の弁護士へのご相談を強くお勧めいたします。
まとめ
養育費を払わない男性が抱いている事情・理由は様々で、法的に認められるものもあれば、減額が不当な場合もあります。
いずれにしても、「自分の子のことなのに、減額なんて許せない。」というのみの理由で戦うことが得策でないことは明らかです。
そういうときこそ一度立ち止まり、冷静になることが大切です。
そして、養育費に関する専門の弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。
当事務所では、離婚事件を専門に扱うチームがあり、養育費について強力にサポートしています。
LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており、全国対応が可能です。
この記事が養育費の問題でお困りの方のお役に立てれば幸いです。
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