慰謝料を請求できる条件とは?ケース別に弁護士が解説
他人の行為によって精神的苦痛を被った場合、その他人の行為が一定の条件を満たすとき、慰謝料を請求することができます。
ここでは、まず、法律上どのような場合に慰謝料を請求することができるかを説明したうえで、離婚、不倫、婚約破棄、DV・モラハラ、事故等のケース別に、具体的な条件について解説していきます。
また、慰謝料を請求するためのポイントについても紹介していきます。
この記事でわかること
- 離婚で慰謝料を請求できる条件
- 不倫・不貞相手に慰謝料を請求できる条件
- 婚約破棄で慰謝料を請求できる条件
- DVやモラハラで慰謝料請求できる条件
- 事故や傷害で慰謝料を請求できる条件
- 慰謝料を請求するためのポイント
慰謝料とは?
慰謝料とは、精神的な苦痛を被った場合に加害者に対して請求する金銭をいいます。
加害者の行為によって精神的苦痛を受けた場合に、受けた苦痛(被害)をお金に換算し、それを加害者に支払わせることによって、その被害の回復を目的としたものです。
慰謝料を請求できる条件は3つ
条件1 精神的苦痛を被ったこと
慰謝料は精神的苦痛を補填(ほてん)するものであるため、精神的苦痛(「精神的損害」といいます。)を被ったことが条件となります。
お金や物についての損害(「財産的損害」といいます。)とは区別されます。
例えば、相手から暴力を受けて怪我をして治療費を支出した場合、治療費相当額は財産的損害、暴力自体やケガによって生じた苦痛は精神的損害ということになります。
この場合、相手が治療費相当額を支払えば財産的損害は補填されますが、精神的損害は補填されませんので、これを補填するため慰謝料請求をすることは(他の条件も満たす限りは)可能ということになります。
民法(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
引用元:民法|電子政府の窓口
条件2 精神的苦痛を引き起こした加害行為が「不法行為」に当たること
「不法行為」とは、故意(こい)又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害することをいいます。
この条件をさらに分解すると次の3つのようになります。
(1)加害行為が権利や法的保護に値する利益を侵害するものであること
慰謝料という法律上の救済を受けるためには、権利や法律上保護される利益が侵害されたことが必要になります。
例えば、後に解説する不倫・不貞行為は「夫婦の貞操」ないし「夫婦生活の平和の維持」という権利利益を侵害するものですが、恋人(内縁関係にもない場合)の浮気はそのような権利利益の侵害が無いため、この条件を満たさないということになります。
確かに、恋人の浮気であっても「権利又は法律上保護される利益」を侵害した、という考え方もあるかと思います。
しかし、現在の日本(裁判実務)において慰謝料を請求できるのは、重大な事案に限定される傾向です。
このような裁判実務を踏まえると、恋人の浮気のケースでは、慰謝料の請求は厳しいということになります。
(2)故意又は過失に基づくものであること
「故意又は過失」は法律用語であり少し難しい概念ですが、平たくいうと故意は「他人を害すると分かっていながらそれを容認して行う心理状態」、過失は「注意すべきだったのに注意を欠いたこと」を指します。
さらに、誤解をおそれずにかみ砕いて言うと、故意は「わざと」、過失は「ついうっかりして」という意味です。
後に紹介する、不倫・不貞行為やDVなどは当然に故意があるものといえます。
他方、交通事故などは前方不注視等、過失による場合がほとんどといえます。
(3)不法行為と精神的苦痛との因果関係
不法行為によって精神的苦痛が引き起こされたという因果関係も必要となります。
例:Aさんが自動車を運転していて歩行者のBさんに軽症を負わせたとします。
Bさんが病院で治療をしてもらったところ、病院の重大な医療ミスが原因で死亡した場合ような場合、Aさんの不法行為とBさんの死亡慰謝料との因果関係は認められないでしょう。
条件3 慰謝料を請求できる期間を過ぎていないこと
慰謝料は、次のいずれかの期間が過ぎてしまうと請求できなくなります。
(1)損害及び加害者を知った時から3年間
(2)不法行為の時から20年間
ただし、DV、交通事故など生命・身体に対する不法行為の場合は、(1)の期間が5年間に延長されます。
民法(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
引用元:民法|電子政府の窓口
ケース別の条件について
ここからは、各ケースにおいて具体的にどのような条件があれば、上記の慰謝料を請求できる3つの条件が揃うかについて解説していきます。
3つの条件といっても、各ケースにおいては、他人の加害行為により精神的苦痛が生じていることが前提となっているため、着目すべきは加害行為が「不法行為」といえるかどうか(条件2)という点になります。
そのため、各ケースにおいて、どのような場合に加害行為が「不法行為」に当たり、慰謝料請求ができるか、ということを中心に解説していきます。
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離婚で慰謝料を請求できる条件
離婚の際に問題となる慰謝料には、次の2つがあります。
- ① 離婚自体慰謝料
(本来であれば離婚しなくて済んだのに)離婚せざるを得なくなったことによる精神的苦痛に対する慰謝料 - ② 離婚原因慰謝料
離婚の原因となった行為自体による精神的苦痛に対する慰謝料
このように、①と②は理屈上は別々のものといえますが、離婚の際には②を①に含めて請求することが多いです。
そこで、ここでは①を請求する場合の条件について解説していきます。
そうすると、離婚で慰謝料を請求できる条件は、「相手の有責行為によって離婚せざるを得なくなったこと」ということになります。
有責行為(ゆうせきこうい)とは、婚姻関係を破綻させる(夫婦関係を修復不可能な状態にさせる)行為であり、典型例としては次のようなものがあります。
- ① 不倫・不貞行為
- ② 悪意の遺棄
- ③ DV・モラハラ
- ④ 性交渉拒否など
夫婦の一方の有責行為が原因で離婚に至った場合、他方は離婚せざるを得なくなったことにより精神的苦痛を被ることになります。
そして、夫婦の一方の有責行為は、故意に他方の「配偶者としての地位」などの権利利益を侵害するものとして不法行為に当たるため、慰謝料を請求することができます。
他方、離婚の理由として多い「性格の不一致」は、夫婦の一方の行為によって生じたものではないため有責行為とはいえず、それ自体を理由に慰謝料を請求することはできないのが原則です。
以下、典型例として挙げた①~④の詳細を解説していきます。
① 不倫・不貞行為
「不貞行為」とは、一般に、「配偶者以外の異性と自由な意思のもとに性的関係を持つこと」と解されています。
「自由な意思のもとに」とは、「自分が」強制されたのではないという意味であり、相手に強制した場合(例えば強姦)の場合は不貞行為に含まれることになります。
「性的関係」とは肉体関係のことであり、性交渉や性交類似行為(口淫等)を指します。
不貞行為は婚姻関係を破綻させる行為であり、これによって離婚に至った場合は慰謝料を請求することができます。
不貞行為は法律用語であり、法定の離婚事由(離婚できる要件)の1つとして定められています(民法770条1項1号)。
引用元:民法|電子政府の窓口
日常用語である「不倫」と概ね一致すると思われますが、不倫は肉体関係を伴わない関係も含む概念として使用される場合もある点で、必ずしも不貞行為=不倫とはならないと考えられます。
ここではあくまでも肉体関係を伴うものを「不貞行為」とし、肉体関係を伴わない接触行為(抱き合う、キスをする、服の上から体を触るなど)は不倫の範疇には入るけれども不貞行為には当たらないものと考えることとします。
肉体関係を伴わない接触行為は、不貞行為には該当しませんが、個別具体的な事情(態様、内容、経緯など)によっては婚姻関係を破綻させるものであり、それによって離婚に至ったときは慰謝料請求をすることができると考えられています。
接触行為を含まない交際(食事・買い物・映画などに行く、LINEをするなど)は、事実上それによって夫婦仲が不和になることは十分あり得ますが、それだけで慰謝料を請求することは難しいと考えられます。
ただし、夫婦の一方が交際をやめるように散々申し入れたのに、他方(交際している側)が悪びれることなく交際を継続し、その結果別居(破綻)に至ったような場合は、他方の一連の行為が有責行為とされ、慰謝料を請求できる余地があるとも考えられます。
不貞行為の時点で婚姻関係が既に破綻していた場合、「不貞行為が原因で婚姻関係が破綻して離婚に至った」とはいえないため、慰謝料請求はできません。
ただし、婚姻関係が既に破綻していたかどうかは、個別具体的な事情に照らして総合的に判断されることになります。
離婚を前提とした別居が長期間続いている、実際に離婚調停や裁判が行われている場合などは破綻が認められる可能性が高いですが、必ずしもそれだけが指標になるわけではありません。
② 悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、非難される態様で、正当な理由なく夫婦の義務である同居、協力、扶助義務に違反する行為をすることです。
例えば次のような行為が悪意の遺棄に当たります。
-
- 理由なく他方の配偶者や子どもを放置して別居を続ける
- 理由なく他方の配偶者を自宅から締め出す
- 収入がありながら生活費を支払わない
- 他方の配偶者が病気なのに世話をしない
悪意の遺棄も婚姻関係を破綻させる行為であり、それによって離婚に至った場合は慰謝料を請求することができます。
③ DV・モラハラ
DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、一般的には、配偶者から他方に対する暴力のことをいいます。
殴る・蹴るのような身体的な暴力の他にも、精神的暴力や性的暴力も含まれます。
モラハラ(モラルハラスメント)は、精神的暴力のことでありDVの一種です。
DV・モラハラによって婚姻関係が破綻し、離婚に至った場合は慰謝料請求をすることができます。
なお、婚姻関係が破綻した後にDV・モラハラがあった場合は、離婚自体慰謝料は請求することができませんが、離婚原因慰謝料(DV・モラハラ自体による慰謝料)については請求することができます。
DV・モラハラ自体は、婚姻関係の破綻の有無にかかわらず、身体等の人格権を侵害する不法行為であるからです。
離婚原因慰謝料(DV・モラハラ自体による慰謝料)を請求する場合については、後に詳しく解説いたします。
④ 性交渉拒否など
夫婦関係における性交渉は結婚生活の重要な基礎の一つと位置づけられており、いわゆるセックスレスは婚姻関係の破綻の原因になり得ると考えられています。
そうすると、夫婦の一方が理由なく性交渉を拒否したことなどが原因でセックスレスとなり、それが原因で離婚に至った場合、性交渉拒否などは有責行為になるとも思えます。
もっとも、裁判実務では、性交渉を拒否する行為だけでなく、
- 他方配偶者がセックスレスについて悩んでいるのを知りながら配慮を示さなかった
- それを補うような身体的接触や精神的なつながりを深める行動をとらなかった
などの事情もある場合に、それらも併せて有責行為と捉える傾向にあります。
したがって、性交渉拒否などセックスレスの直接の原因となった行為があるだけでは慰謝料を請求するのは難しいと考えられます。
しかし、それに加えて、夫婦で話し合ったけれども改善する努力がされなかったなどの諸事情が加わった場合は、請求できる可能性があると考えられます。
不倫・不貞相手に慰謝料を請求できる条件
不倫・不貞相手に慰謝料を請求できる条件は、次のようになります。
「相手が自分の妻又は夫と不貞行為をしたこと」
ここでいう「不貞行為」も、配偶者のある人と自由な意思のもとに性的関係(肉体関係)を持つことをいいます。
配偶者のある人から強姦されたような場合は、不貞行為には当たりません。
不貞行為は、夫婦の共同生活の平和の維持という権利利益を侵害するものであり、不法行為となります。
肉体関係を伴わない接触行為については、不貞行為には含まれませんが、その態様等から夫婦の共同生活の平和の維持という権利利益を侵害するものとして不法行為とし、慰謝料を認めた裁判例もあります。
そのため、抱き合う、キスをするなどの行為も、その状況によっては慰謝料請求が認められる可能性があるといえるでしょう。
慰謝料請求が認められない場合
相手が不貞行為をしたとしても、次のような場合は慰謝料請求が認められません。
不貞相手に「故意又は過失がない」と認められた場合、不貞行為は不法行為には当たらないため慰謝料を請求することができません。
不貞相手からは「(自分と性的関係を持つ人が)既婚者であることを知らなかった」という反論が出される場合が多いですが、これは故意又は過失がないという反論といえます。
もっとも、「過失がない」とまで認められるには、相手が独身者であると信じてもやむを得ないような事情がある場合に限られます。
例えば、自分と同棲していた、頻繁に泊まりのデートをしていた、相手の両親を紹介された、求婚されたなどの事情です。
反対に、住んでいる場所を教えてくれない、泊まりのデートは拒否する、クリスマスなどには会ってくれないなど、既婚者ではないかと疑うべき事情があれば、故意はもちろん過失があったと評価されることになるでしょう。
不貞行為に及んだ時点で婚姻関係が既に破綻していた場合、不貞行為によって夫婦の共同生活の平和の維持という権利利益を侵害したとはいえません。
したがって、この場合は不法行為に当たらず、慰謝料を請求することができません。
ただし、先にも説明したように、婚姻関係が既に破綻していたかどうかは、個別具体的な事情に照らして総合的に判断されることになります。
なお、実際に婚姻関係が破綻していたかどうかはさておき、不貞相手が不貞行為に及んだ時点で「既に婚姻関係が破綻している」と信じ、そのことに過失もない場合は、不法行為に当たらないので慰謝料請求はできないと考えられています。
ただし、婚姻関係が破綻していると信じたことに「過失なし」と認められるのは極めて例外的なケースであり、ほとんどの場合認められることはありません。
婚約破棄で慰謝料を請求できる条件
婚約破棄とは、婚約を取り交わした後に婚約を一方的に(不当に)破棄することをいいます。
相手に婚約破棄された場合の慰謝料
相手に婚約破棄された場合に慰謝料を請求できる条件は、次のとおりです。
- ① 婚約が成立していること
- ② 婚約破棄に正当な理由がないこと
婚約を一方的に破棄することは、相手の結婚への期待を裏切るものといえます。
ただし、婚約が具体的に結婚への期待を生じさせるものになっていなければ、法的保護に値するものとはいい難く、婚約破棄に基づく慰謝料請求は難しいと考えられています。
そこで、①の条件を満たすためには、単なる口約束等のみではなく、次のような客観的な事情も必要と考えられています。
- 婚約指輪の交換
- 両家の顔合わせ
- 知人などへの結婚の報告
- 結婚式場の予約
- 結婚式の招待状の発送
また、②の「正当な理由」とは、次のようなものです。
- 婚約相手が別の異性と浮気した
- 婚約相手から虐待、暴行、重大な侮辱を受けた
- 婚約相手が行方をくらました
- その他、婚約相手に社会常識を逸脱したような言動がある
相手の責任で婚約を破棄せざるを得なくなった場合の慰謝料
相手から一方的に婚約破棄されなくても、相手が浮気や虐待などをしたことが原因で自分から婚約を破棄せざるを得なくなる場合もあります。
その場合は、以下の条件を満たせば、相手に対して慰謝料を請求することができます。
- ① 婚約が成立していること
- ② 婚約破棄に正当な理由があること
DVやモラハラで慰謝料請求できる条件
DVやモラハラで慰謝料請求できる条件は、「DVやモラハラに該当する行為があったこと」となります。
DVやモラハラは、故意に他人の身体・尊厳などの人格権を侵害するものであり、不法行為に該当するため、慰謝料を請求することができます。
DVやモラハラに該当する行為とは?
DVやモラハラに該当する行為としては、具体的には、殴る・蹴る・物を投げつける、性行為を強要する、避妊に協力しない、暴言・侮辱、嫌がらせ、支配・束縛、無視をするなどといった行為が挙げられます。
もっとも、これらの行為があれば直ちに慰謝料請求が認められるとは限りません。
これらの行為にはそれぞれ程度があり、相手に重傷を負わせるなどの悪質性の高いものもあれば、通常の夫婦喧嘩の範囲のもの(お互い様といえるようなもの)もあります。
裁判実務では、慰謝料の支払義務を負わせてしかるべき程度に悪い行為については慰謝料請求を認める一方、夫婦の共同生活の中で通常は我慢される限度(※)を超えない場合は慰謝料請求を認めないという考え方がされています。
そのため、DVやモラハラに該当する行為を検討する際には、相手の行為がどの程度悪いことなのか(これは「違法性」といわれるものです。)ということも問題になります。
(※)違法性の程度は客観的に判断されるものであり、被害者の方が「我慢すべきだ」と思っている程度とは別物であることには注意が必要です。
違法性の程度の判断や行為の捉え方が困難な場合もある
相手の行為がどの程度悪ければ慰謝料を請求できるのかについて、明確な基準はありません。
また、同じ行為であっても、それが慰謝料請求が認められる程度に悪い行為であるかどうかは、状況や経緯によっても異なります。
例えば、「無視する」という行為は、日常的に相手を責め立てるなどして相手を支配下に置いた上で行われればモラハラといえますが、普段は円満な夫婦がたまたま喧嘩をした直後に行われたものであればモラハラとはいえないでしょう。
また、上記の例のように、特にモラハラの場合は、一つ一つの行為ではなく、一連の経緯を全体として見なければ判断がつかないことがほとんどです。
このように、違法性の程度の判断や行為の捉え方は困難なことが多いです。
そのため、DVやモラハラで慰謝料請求をお考えの場合は、専門の弁護士に相談されることを強くおすすめいたします。
事故や傷害で慰謝料を請求できる条件
事故や傷害で慰謝料を請求できる条件は、次のとおりです。
- ① 故意又は過失による加害行為
- ② ①によって生命・身体に被害を被ったこと
特に事故の場合、「過失」によって引き起こされることがほとんどであることが、これまで紹介した類型とは異なるポイントといえます。
また、交通事故の場合は慰謝料の対象は次の3つとされています。
このように、生命や身体に被害が生じた場合にのみ慰謝料を請求することができるのが原則です。
例えば「事故によって車が壊れたけれども怪我はしていない」(物損事故)場合は、車が壊れたことによって精神的苦痛を感じるとしても、基本的には慰謝料の対象にならないとされています。
交通事故以外の事故(鉄道、スキー場、商業施設等での事故)についても、基本的には交通事故の場合と同様に考えられています。
精神的苦痛の原因 | 慰謝料を請求できる条件 |
---|---|
離婚 | 有責行為(不貞行為、悪意の遺棄、DV・モラハラ、性交渉拒否等)によって離婚せざるを得なくなったこと 【認められない場合】 ・有責行為の時点で既に婚姻関係が破綻していた場合 |
不倫・不貞行為 | 不貞行為があったこと 【認められない場合】 ・故意・過失がない場合 ・不貞行為に及んだ時点で既に夫婦関係が破綻していた場合 |
婚約破棄 | ①婚約が成立していること ②正当な理由なく婚約破棄されたこと(又は正当な理由があり婚約破棄せざるを得なくなったこと) |
DV・モラハラ | DV・モラハラに該当する行為があったこと |
事故・傷害 | ①故意又は過失による加害行為 ②①によって生命・身体に被害を被ったこと |
慰謝料を請求するための4つのポイント
POINT① 証拠を確保する
慰謝料を請求するときには、各条件が存在していることを証拠によって証明する必要があります。
たとえ条件が揃っていたとしても、それを裏付ける証拠がない場合は、相手がその条件の存在を認めない限り、慰謝料を請求することが難しくなります。
そのため、適切な証拠を確保することが重要になります。
証拠とは、例えば次のようなものがあります。
精神的苦痛の原因 | 慰謝料を請求できる条件 慰 |
証拠の例 | |
---|---|---|---|
離婚 | 有責行為によって離婚に至ったこと | 不貞行為 | 写真、ビデオ、録音、不貞行為を認める念書・録音データ、メール・SNS、通話履歴、レシート・クレジットカードの明細、興信所の調査報告書等 |
悪意の遺棄 | メール・SNS、通帳(送金記録がないこと)、家計簿等 | ||
DV・モラハラ | 診断書、怪我の写真、警察等への相談記録、録音、メール・SNS等 | ||
性交渉拒否等 | メール・SNS、日記、録音等 | ||
不倫・不貞行為 | 不貞行為があったこと | 写真、ビデオ、録音、不貞行為を認める念書・録音データ、メール・SNS、通話履歴、レシート・クレジットカードの明細、興信所の調査報告書等 | |
婚約破棄 | ①婚約が成立していること ②婚約破棄に正当な理由がないこと |
①婚約指輪・その領収書、式場の資料、結婚報告のメール・SNS、招待状等 ②不貞行為・DV等の場合と同様の証拠、メール・SNS(連絡が途絶えたことがわかるものなど)等 |
|
DV・モラハラ | DV・モラハラ行為があったこと | 診断書、怪我の写真、警察等への相談記録、録音、メール・SNS等 | |
事故・傷害 | ①故意又は過失による加害行為 ②①によって生命・身体に被害を被ったこと |
①交通事故証明書、ドライブレコーダー動画、刑事記録等 ②診断書、診療費明細書、後遺障害診断書、死亡診断書等 |
POINT② まずは交渉を試みる
交渉(示談交渉)とは、裁判所等の公的機関を利用せずに、当事者同士で話し合って解決する方法です。
裁判所等を利用しないので、話し合いが上手くまとまれば早期に解決することができます。
また、当事者同士が納得すれば、裁判官が判断したときのような厳格な結論にする必要はないため、柔軟な解決をすることもできます。
合意内容は必ず書面に残す
話し合いがまとまった場合は、合意内容を必ず書面にしておく必要があります。
この書面は、慰謝料の金額や支払方法等を確定し、合意の存在を証明する非常に重要な文書となります。
しかし、適切な形式・内容のものを作成するには、法律知識やノウハウが必要になるため、専門家に相談の上慎重に作成されることをおすすめします。
POINT③ 適切な法的措置をとる
交渉によって解決できなかった場合は、早めに適切な法的措置をとるようにしましょう。
慰謝料請求の場合の法的措置は、「調停」と「訴訟」(裁判)が考えられます。
「調停」とは、裁判所で話し合いをし、合意による解決を目指す手続きです。
「訴訟」とは、裁判官が当事者の主張や提出証拠を踏まえて一定の結論(判決)を出す手続きです。
調停と訴訟のメリット・デメリットをまとめると次のようになります。
手続き | メリット | デメリット |
---|---|---|
調停 | ・手続きが簡単 ・費用が低額 ・柔軟な解決の可能性がある ・訴訟よりも早く解決できる |
・適切な解決とならない可能性 ・相手が応じないと成立しない |
訴訟 | ・裁判官が法律に基づき判断する ・相手が応じなくても決着がつく |
・手続きが厳格・複雑(弁護士に依頼する必要性が高い) ・時間と費用がかかる |
離婚で慰謝料を請求するケースで、離婚成立前の場合は、まずは調停(離婚調停)を申し立て、調停で解決できなければ訴訟(離婚訴訟)に進むという順番を踏むことになります。
それ以外の場合は、調停を申し立てることもできるし、いきなり訴訟を提起することもできます。
もっとも、調停はあくまでも話し合いの手続きであるため、合意がまとまらなければ結局は訴訟を提起して決着をつけることになります。
そのため、交渉段階で折り合いがつかなかった場合は、いきなり訴訟を提起することが多いです。
適時に法的措置をとることは、請求期限との関係でも重要です。
期限内に調停や訴訟で請求をすることにより、期限切れで請求ができなくなってしまうことを防ぐこともできます(「時効の完成猶予・更新」という制度によるものです。)。
POINT④ 早期に専門の弁護士へ相談する
慰謝料を請求する場合は、早い段階で専門の弁護士へ相談することをおすすめします。
慰謝料はご自身で請求するのが難しい
先に慰謝料を請求できる条件について解説しましたが、実際の事案においては様々な個別事情が絡み合っているため、条件を満たすかどうかの判断は、専門家でなければ困難といえます。
また、先ほど説明したとおり、慰謝料請求においては証拠を確保することがポイントとなります。
特に訴訟の場合、裁判官は証拠に基づいて判断をするため、適切な証拠を収集・提出することが非常に重要になります。
しかし、どのような証拠が必要なのか、どのように収集すればよいかについては、専門家でないと判断が難しいといえるでしょう。
さらに、慰謝料を請求する際の通知書の内容・書き方・送り方、合意がまとまった際の合意書の形式・内容など、様々な点に注意しなければ、適切な解決をすることはできません。
そのため、慰謝料の問題に強い弁護士のサポートを得ることが重要となります。
代理交渉による早期かつ適切な解決の可能性
代理交渉とは、弁護士が代理人となって相手方と直接交渉し、合意による解決を目指すものです。
代理交渉により、当事者本人同士の話し合いよりも冷静に話し合うことができ、裁判になった場合の見通しを立てたうえでの適切な解決に向けた調整を図ることもできます。
そのため、当事者本人同士の話し合いでは交渉決裂となり法的措置に移らざるを得ないような事案でも、代理交渉によって交渉段階で合意がまとまり、早期解決できる場合があります。
法的措置への移行がスムーズ
代理交渉から弁護士に依頼している場合は、交渉で解決できなかった場合に法的措置(特に訴訟)へスムーズに移行することができます。
訴訟を提起する段階ではじめて弁護士に依頼する場合は、弁護士を探す時間、弁護士にこれまでの経緯を話して打ち合わせをする時間、証拠を集める時間、弁護士が訴訟準備する時間などがかかり、決着がつくまでより多くの時間がかかってしまいます。
慰謝料の請求には期限もあるため、なるべく早い段階から弁護士に相談し、適切な対応をとってもらうことをおすすめします。
まとめ
以上、慰謝料を請求できる条件について、ケース別に解説しましたがいかがだったでしょうか。
基本的な考え方をご紹介しましたが、実際の事案において慰謝料を請求できるかどうか判断するためには、高度な専門知識が必要になります。
条件を満たす場合も、実際に請求して適正額を獲得するためには、専門技術が必要になります。
そのため、慰謝料請求をお考えの場合、慰謝料の問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
当事務所では、離婚問題を専門に扱うチームがあり、不貞・婚約破棄も含む男女問題について強力にサポートしています。
LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
慰謝料の問題については、当事務所の離婚事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、慰謝料の請求についてお悩みの方にとってお役に立てれば幸いです。
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