養育費は何歳まで?弁護士がケース別に解説
養育費は、原則、子供が20歳になるまで支払われます(成人年齢が18歳になったこととは連動しません)。
ただし、子供が大学に行く場合や障害・病気があって自立できないなどの事情があると、20歳を過ぎても養育費を請求できる可能性があります。
逆に、子供が20歳になる前に就職するなどして経済的・社会的に自立した場合、養育費の支払いは終了します。
子供を育てるには、何かとお金がかかります。
養育費は、両親の離婚後の子供の生活、進学などのために必要な、とても大切なものです。
では、養育費は何歳まで支払われるのでしょうか?
最近成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことから、「これからは養育費の支払いも18歳までになってしまうの?」と、疑問に思われている方もおられるかもしれません。
また、子供が大学などに行っている、持病や障害で働けない、といった事情で、20歳を超えていても自立していない、という場合もあるでしょう。
逆に、成人前でも就職して、自立している場合もあるかと思います。
今回は、養育費は何歳まで支払われるのか、法改正で成人年齢が引き下げられたことによる影響はあるのか、そのほか、大学に進学した場合、成人前に働き始めた場合、持病や障害がある場合はどうなるのか、などについて、解説していきます。
養育費は何歳まで支払い義務がある?
養育費とは
養育費は、子供が経済的・社会的に自立可能になるまでにかかる生活費、医療費、教育費などの費用です。
離婚する夫婦の間に経済的・社会的に自立できない子(未成熟の子)がいる場合、その子の養育費は、子供を直接養育しない親(非監護親)も負担する義務があります(民法766条1項)。
養育費について、詳しくは下記のページをご覧ください。
支払い期間
養育費はいつから支払い義務があるのか?
養育費の支払い義務が問題となってくるのは、夫と妻の財布が別になり、生計が分かれてしまった後(具体的にいうと、夫婦が別居し始めた後)からです。
同居中でも、家庭内別居状態で、生活費の多くを別々に支払っている場合(必ずしも全てでなくても可)などには、養育費(未だ離婚していない場合は「婚姻費用」)を請求できます。
ただ、別居や家庭内別居が始まったからといって、ただちに養育費の支払い義務が発生するとはされていません。
裁判所の調停や審判、離婚裁判では、多くの場合、養育費の支払い義務が始まるのは養育費を請求したことが客観的に明らかとなった時から、とされています。
具体的にいうと、
-
- 養育費の支払いを求める調停を申し立てた
- 内容証明郵便によって養育費を請求した(弁護士に依頼し、弁護士の名前で出してもらうとより確実です)
といった時から養育費の支払い義務が発生する、という取扱いになっているのです。
養育費(離婚前なら婚姻費用)が請求されていない時期については、子供が扶養を要する状態だったか判然としない、といった理由で、養育費の支払い義務は発生しない、とされています。
請求以前についても養育費の支払い義務を認めてしまうと、支払い義務者(多くの場合、元夫)が「自分に養育費の支払い義務がある」と知らない間にも養育費の未払が増えていってしまい、不都合である、との考慮も働いているようです。
そのため、調停や審判では、原則として、養育費調停の申立てをした月以降の養育費が認められる傾向にあります。
なお、離婚調停を申し立てただけでは養育費を請求したことにならない(「養育費調停」の申立てが必要)ので、注意が必要です。
また、養育費の請求をしたことが客観的に明らかな場合(弁護士に依頼し、内容証明郵便によって請求していた場合など)には、請求をした月の分から養育費が認められる傾向です。
内容証明郵便は、弁護士に依頼して弁護士の名前で出してもらうとより確実ですが、自分で作成して送ることもできます。
ご自身で養育費の支払いを求める内容証明郵便を作る場合は、以下のサイトを参考にしてください。
なお、ケースによっては、請求時以前に遡って養育費を支払わせた裁判例もないわけではありません。
ただ、裁判所は過去の養育費の請求に対しては厳しいことが多いので、過去の養育費を支払ってもらいたい場合は、まずは当事者間で話し合うことをお勧めします。
ご本人たちだけで話し合いがつかない場合、弁護士に交渉を依頼することで話が進む可能性があります。
交渉が行き詰まったときは、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
話し合いの際のポイントについては、以下のサイトをご覧ください。
養育費の支払い義務がいつから発生するかについて、詳しくは以下のサイトをご覧ください。
養育費はいつまで支払い義務があるのか?
養育費は、原則、子供が20歳になるまで支払われます(成人年齢が18歳になったこととは連動しません)。
ただし、子供が大学に行く場合や障害・病気があって自立できないなどの事情があると、20歳を過ぎても養育費を請求できる可能性があります。
逆に、子供が20歳になる前に就職するなどして経済的・社会的に自立した場合、養育費の支払いは終了します。
養育費は、子供が独立可能になるまで支払わねばなりません。
多くの場合、子供が20歳になるまで養育費の支払いは続きます。
ただ、父母の再婚や子供の養子縁組があった場合には、養育費の減額、免除がある場合もあります。
再婚や養子縁組のケースについては、以下のサイトで解説しています。
法改正(成人年齢引き下げ)の影響は?
2022年(令和4年)4月1日に改正民法が施行され、成人となる年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
しかし、「18歳で成人することになったのだから、養育費の支払いも18歳まで」となるわけではありません。
法律上の成人年齢が引き下げられても社会の状況がいきなり変わるわけではないのです。
そのため、養育費の支払いは、これまで同様、「20歳になるまで」とすることが多いです。
ケース別に検討
養育費の支払は原則として20歳までですが、事情によっては、支払い期間が延びたり、又は逆に短縮されることがあります。
養育費の支払い期間が変わるケースについて、代表的なものを紹介します。
子供が大学に進学した場合
近年では大学進学率は上がっており(令和3年年度は54.9%)、男女問わず大学に進学することが増えてきました。
引用元:厚生労働省|令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告
子供が大学に進学した場合、卒業は20歳以降となるのが通常ですが、大学を卒業するまでは経済的・社会的に独立できないことが多いです。
そのため、大学に進学した場合には養育費の支払い期間を20歳以降まで延長できるのか、できるとして何歳までか、ということが問題となってきます。
合わせて、大学進学にかかる費用(大学の入学金・学費など)を養育費に上乗せさせることができるのかも、よく問題となっています。
大学進学の費用の扱い、養育費支払い期間の延長の扱いは、一般には、支払い義務者(多くの場合、元夫。以下では便宜上、支払い義務者を単に「夫」ということがあります。)が大学進学に同意していたかどうかによって変わってきます。
ただ、大学進学と養育費の関係については法律上に明確な規定があるわけではなく、裁判例によっても異なる場合があるなど、難しい問題があります。
以下では一般的な取扱いを解説しますが、疑問がある場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
支払い義務者が大学進学に同意していた場合
支払い義務者(夫)が大学進学に同意していた場合は、養育費の支払い期間の延長、養育費への学費の上乗せが認められることになります。
延長期間は、大学卒業まで、又は、一般に大学を卒業する年齢である22歳の3月までとなることが多いです。
ただ、大学は一般に4年制ですので、養育費の延長が認められるのは原則として入学後4年間だけです。
留年などによって養育費の支払い期間を延長するには、
①留年することについて支払い義務者(夫)の承諾があること
又は
②夫の収入が多く、留年する期間についても子供のために費用を負担することが社会通念上当然といえる状況にあること
が必要となってきます。
支払い義務者が大学進学に同意していなかった場合
支払い義務者が大学進学に同意していないと、養育費の支払い期間の延長や大学進学費用の養育費への上乗せは、難しくなってきます。
ただ、両親の学歴が大学卒業以上であること、両親の経済的状況などから子供の大学進学後も養育費の支払いを継続させるのが妥当な場合には、同意があった場合と同じく、養育費の支払い期間の延長や学費等の上乗せを認める取扱いもあります。
証拠を集めることが重要!
ここまで見てきたとおり、支払い義務者(夫)が大学進学に同意していたか否かは、養育費の支払い期間を延長できるか、養育費を増額できるか、という点に大きな影響を及ぼします。
注意しなければならないのは、この「同意」は、証拠により立証できなければ非常に弱い、ということです。
特に、調停、訴訟など裁判所を利用することになると、「同意」を裏付ける証拠がなければ、相手方が調停等の場で大学進学に同意すると認めない限り、「同意」があったものと認めてはもらえません。
支払い義務者(夫)が大学進学に同意していたことは、証拠に残しておくことが重要です。
(証拠を残すことが重要という点については、塾、習い事、部活動、私立学校への進学などについての同意に関しても同じことが言えます。)
証拠としては、主として次のようなものが考えられます。
夫とのメール(LINEなどSNSでのやり取りも含む。)や手紙の中で、夫が大学進学に同意していることを示すような記述がある場合には、メールであれば画面を写真に撮る、印刷するなどして残し、手紙であれば手紙そのものを保管する方法が考えられます。
文面としては、
相手方「わかった」
などの簡単なものでも証拠となる場合があります。
他にも、
- 子供が受験勉強をしていることを知っているが特に反対していない
- 子供が塾の「大学進学コース」に通っていることを知っている
- 受験を応援している
- いい学校に行けるよう勉強を頑張れなどと書いている
といったものでも、間接的な証拠となる場合があります。
年賀状などに簡単に書いているようなものでもよいですし、同居している親(多くの場合、元妻)や子供の側から知らせた手紙などだけでも証拠になる場合があります(妻や子からの手紙の場合、出す前にコピーを取るか写真に残すかして、投函した年月日も記載しておきましょう。)。
メールを証拠とするために画面を撮影する場合、
- メッセージの送信日時が分かるように撮影すること
- メッセージの前後が途切れていないとわかるように撮影すること
などに気を付けましょう。
夫との会話で、子どもの進学について話し合ったもの、塾や受験予定などの状況について知らせたものなどの録音も、証拠となる場合があります。
録音データが裁判所に証拠として提出されるケースは多いです。
このとき、関連する部分だけ抜き出して提出する方もいます。
この場合、相手から「改ざんしたものだから証拠と認められない」と主張される可能性があります。
このような事態を回避するために、提出する側は、必ず前後のデータも含めたオリジナルのデータを残しておきましょう。
また、相手側は改ざんの疑いがある場合、提出した側に対し、元データの提出を求めるようにするとよいでしょう。
離婚が成立した後に追加の養育費をめぐってトラブルになることを回避するために、離婚協議書を作る段階で、大学進学時の養育費の支払い期間延長や学費等の負担についてあらかじめ取り決めて記載しておく方法をおすすめいたします。
離婚が成立した後であっても、大学進学が問題になる前又は問題になった時に、話し合いをして、念書・合意書などにしておくことができます。
離婚協議書や念書・合意書などは、紛失したから再度作成しようと言っても相手方が応じてくれない可能性が高くなりますので、大切に保管しておきましょう。
離婚協議書については、以下のサイトもご参照ください。
大学進学時に養育費の支払い期間を延長する場合の記載例は、当事務所が提供している離婚協議書の自動作成機でもご確認いただけます。
ぜひご利用ください。
面会交流との関係
離婚後、同居していない親(養育費の支払い義務者)と子供の交流を続けるため、面会交流が行われています。
最近は、離婚届に「面会交流について取決めをしている」かどうかを答えさせるチェック欄があることなどから、離婚時に面会交流について取り決めるケースも増えてきているようです。
ただ、面会交流を長く続けられるケースばかりとはいえず、子が会いたがらなくなる、相手方が面会交流を求めてこない、といった理由から、面会交流が途絶えてしまうこともあります。
厚生労働省の統計によると、母子世帯の母のうち、現在も面会交流を行っている割合は3割程度となっているようです。
確かに、子供も大きくなれば部活、塾などで忙しく、友達との交流も増え、面会交流に積極的でなくなる場合もあるでしょう。
しかし、面会交流が行われていないと、残念ではありますが、「去る者は日々に疎し」ということになり、同居していない親はどうしても子供との関係が薄くなってしまうことが多いです。
そうすると、大学に進学する時になって「養育費の支払いを延長してほしい」といっても素直に応じてくれなくなる可能性が高まってしまいます。
直接会う時間を取りにくいなら、
- 回数を減らしてもよいから面会交流を実施する
- 学校行事を見学してもらうなどする
- 電話や、Skypeなどのオンラインツールを利用する
- 手紙やメール、年賀状だけでもやり取りする
- 同居している親(元妻)が写真や手紙・メールで子供の状況を知らせる
といった方法もあります。
事情にもよりますが、できるだけ親子の交流を続けられるようにする方が、夫の支援も得やすくなると思われます。
大学進学費用を養育費に上乗せする場合はどうなる?
大学進学により養育費の支払い期間が延長される場合、大学の学費などの費用も養育費に上乗せすることが認められる場合が多いです。
上乗せの対象となるのは、授業料、施設利用費など、学校に納める学費です。
この学費を、父母の基礎収入(養育費を捻出する基礎となる収入。詳しくは、養育費とは?をご覧ください。)の比率に従って按分し、支払い義務者の負担額を決定する、ということになることが多いです。
ただ、裁判官によっては、公立高等学校の学校教育費相当額(月額2万7820円)は裁判所の標準算定方式・算定表(養育費を算定する際に広く用いられています。)で算定される養育費に最初から盛り込まれているので、これを月々の学費から差し引いて計算する、との方針を取る場合もあります。
入学金、教材費の上乗せについては、裁判所で認められることは少ないです。
しかし、当事者間で話し合って上乗せについて了承してもらえば、入学金などについても負担してもらうことができます。
大学進学と養育費について、以下のサイトでも詳しく解説していますので、参考にしてください。
子供が高校を中退して働き始めた場合
子供が20歳になるまでに高校を卒業・中退するなどして働き始めた場合は、養育費の支払いはどうなるのでしょうか?
この場合、子供がどのような働き方をしているか、によって結論が異なってきます。
子供が正社員として就職した場合には、通常であれば経済的に自立できると期待できるため、もはや「未成熟子」とは扱われず、養育費の支払いも終了します。
これに対し、子供がいわゆる「フリーター」のような状態で、非正規雇用で働いているような場合には、収入や仕事内容などの事情にもよりますが、自立できた、とはいえず、「未成熟子」として扱われ、養育費の支払い義務も続く場合が多いと考えられます。
引きこもりや「ニート」となっており、働くこと自体出来ていない場合も、「未成熟子」となり、少なくとも20歳になるまでは養育費の支払いを続けなければなりません。
子供が障害や病気のために働くことができない場合
子供に障害や病気があり、20歳を過ぎても働いて自立することが難しい場合もあります。
このような場合には、20歳を過ぎても引き続き、養育費の支払いが続けられる可能性があります。
まとめ
今回は、養育費は何歳まで支払うことになるのか、支払い義務が始まるのはいつからか、成人年齢が18歳に引き下げられた影響はあるのか、大学進学、高校中退、子の障害・持病などの事情がある場合はどうなるのか、といった点について解説しました。
成人年齢を引き下げる法改正がありましたが、養育費を何歳まで支払うかという問題にはあまり影響していないようで、従来通り20歳までの支払いとなることが大半です。
ただ、子供が早くに就職するなどして自立した場合は、20歳になる前に養育費の支払いが終了することがあります。
一方、子供が大学などに進学した場合や、障害・持病がある場合などで、20歳を過ぎても経済的・社会的に自立できていないときには、養育費の支払い期間が延長されることがあります。
このうち大学進学の場合では、相手方が大学進学などに同意していたかどうかが重要となりますので、相手方との話し合い、同意していたことの証拠の確保などが必要となってきます。
どのような証拠を集めれば支払い期間の延長が認められるか、養育費額の上乗せについてはどの程度の上乗せが認められるか、といった点については、専門的な知識も必要となってきますので、弁護士に相談してみることをお勧めします。
当事務所には、離婚事件に注力する弁護士で構成された離婚事件チームがあり、特別な事情のある場合の養育費に関する問題についての対応にも、豊富な経験があります。
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