セックスレス=不倫?原因・リスクや対処法を弁護士が解説

  
弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  

「セックスレス=不倫」ではありません。

しかし、セックスレスが原因で不倫や離婚の問題に発展する可能性もあります。

そこで、ここではセックスレスと夫婦問題に関して、リスクや対処法について解説していきます。

この記事でわかること

  • セックスレスの定義・統計
  • セックスレスと不倫の関係
  • セックスレスの3つのリスク
  • セックスレスの対処法

 

セックスレスとは

日本性科学会は、セックスレスを「特殊な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上なく、 その後も長期にわたることが予想される場合」と定義しています。

「セクシャル・コンタクト」には、キス、ペッティング、裸でのベッドインなども含まれているとされています。

 

セックスレスの割合は?

2020年に実施された調査(第4回ジェックス・ジャパン・セックスサーベイ2020)によると、婚姻関係にあるカップル(20歳~49歳)におけるセックスレスの割合は51%とのことです。

セックスレスの夫婦は年々増加傾向にあり、今や半分以上の夫婦がセックスレスというのが現状のようです。

また、セックスレスのカップルに占める年代別割合については、次のようになっています。

年齢が上がるにつれてセックスレスのカップルが増えていることが分かります。

セックスレスの割合

 

 

セックスレスと不倫の関係

セックスレスを理由に不倫する

セックスレスであっても、お互いに納得し不満を感じていなければ問題はありません。

しかし、夫婦の一方がセックスレスであることに悩みや不満を抱え、他方がそれに対して何らのフォローもしないような場合は、不倫や離婚の問題に発展する危険が高くなるといえるでしょう。

セックスレスであったとしても、不倫をした場合は「不貞行為」となり、法律上の責任を負う可能性があります。

「不貞行為」とは、夫又は妻以外の人と肉体関係(性交渉又は性交類似行為)を持つことであり、離婚事由(離婚できる条件)の1つとして法律にも定められているものです。

そのため、夫婦の一方が不貞行為をした場合は、不貞行為をされた側の配偶者は離婚を求めることができます。

また、不貞行為をされた場合は、不貞行為をした配偶者やその相手に対して慰謝料を請求することもできます。

たとえ夫婦間においてセックスレスであったとしても、それを理由に離婚や慰謝料の請求が妨げられることは基本的にはありません。

不貞行為をされた側が性交渉を拒否したことなどが原因でセックスレスになった場合であっても同様です。

破綻の抗弁

上記に述べたとおり、セックスレスが理由で不倫(不貞行為)をした場合でも、慰謝料の請求を妨げることは基本的にはできません。

ただし、不貞行為をした時点で、既に夫婦関係が修復不可能な状態になっていた(破綻していた)場合は、慰謝料は認められないとされています(破綻の抗弁といいます。)。

不貞行為を理由に慰謝料が認められるのは、不貞行為が円満な夫婦生活を送るという権利や利益を侵害する行為であるからです。

ここで、不貞行為がされた時点で既に円満な夫婦生活の実体が失われていた場合は、不貞行為によって上記のような権利や利益が侵害されたことにはならないため、慰謝料は認められないとされています。

もっとも、セックスレスであれば直ちに夫婦関係が破綻していたといえる訳ではないことには注意が必要です。

たとえ夫婦の一方がセックスレスについて悩みを抱えていても、表面上は円満な夫婦関係が継続しているという場合は、夫婦関係が破綻しているとは認められないでしょう。

単にセックスレスだったというだけではなく、夫婦間で話し合いをしたにもかかわらず解消に向けた努力もされなかった結果、お互いに共同生活を継続する意思を喪失して別居したなどといった事情があるような場合でなければ、破綻の抗弁が認められるのは難しいと考えられます。

破綻の抗弁についての詳しい解説は、こちらのページをご覧ください

あわせて読みたい
破綻の抗弁とは?

 

不倫を理由にセックスレスとなる場合

不倫をしていると、不倫相手との性交渉等に肉体的にも精神的にも満足し、夫婦間ではセックスレスになるというケースがあります。

あるいは、相手に不倫をされたことが原因で、相手のことを受け入れられなくなってしまい、セックスレスになるというケースもあります。

この場合の不倫は不貞行為に該当する可能性が高いといえます。

そして、セックスレスを理由に不倫した場合と異なり、セックスレスが原因で夫婦関係が破綻したという抗弁が成り立つ余地もありませんので、少なくともセックスレスを理由に慰謝料の請求が妨げられることはないといえるでしょう。

 

 

セックスレスの3つのリスク

拒んでいる側のリスク

リスク① 離婚の理由となる可能性

夫婦間における性交渉についての考え方は人それぞれと思われますが、一般的には円満な結婚生活を送るための重要な要素の1つといえるでしょう。

そのため、相手がセックスレスに悩みや不満を抱えている場合は、セックスレスを理由に、相手から離婚を切り出される可能性もあるといえます。

実際に、裁判所に申立てられる離婚の手続きにおいては、申立の動機として「性的不調和」が挙げられるものが一定数あります。

引用元:司法統計(令和3年度)第19表|最高裁判所

必ずしも性的不調和=セックスレスとは限りませんが、セックスレスが離婚の一因となっているケースは少なくないと推察されます。

「セックスレスで離婚になるわけがない」と思われる方も多いかも知れませんが、実際には離婚を考えるまで悩まれている方は珍しいとはいえず、セックスレスは決して軽視できない問題ともいえるでしょう。

もっとも、仮に相手に離婚を切り出されたとしても、こちらが離婚に応じなければすぐに離婚が成立することはありません。

しかし、相手が離婚を望む場合は、最終的には裁判で離婚を請求されることになるでしょう。

その際、セックスレスを理由に、裁判で離婚が認められるかどうかが問題となります。

セックスレスを理由に裁判で離婚できる?

結論としては、セックスレスを理由に裁判で離婚が認められる可能性はゼロではありません。

まず、裁判で離婚が認められるためには、法律で定められている離婚事由(離婚できる条件)がある必要があります。

法律では、離婚事由について次のように定められています。

【根拠条文】

民法(裁判上の離婚)

第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

引用元:民法|電子政府の窓口

そして、裁判実務では、夫婦関係における性交渉は結婚生活の重要な基礎として位置付けられています。

そのため、セックスレスは、上記の離婚事由のうち「婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法770条1項5号)に該当する可能性があると考えられています。

ただし、単に性交渉がないということだけでは離婚が認められるのは難しいでしょう。

性交渉がないということだけではなく、セックスレスに至った経緯や他の事情も合わせて、夫婦関係が修復不可能な状態になっている(破綻している)といえる場合に離婚が認められる傾向にあります。

「他の事情」としては、性交渉を拒否する側が相手(拒否された側)の不安を解消する努力や配慮を欠いたことなどが指摘される場合が多いですが、性交渉に関する事情に限らず、生活態度や夫婦関係を継続する意思などが総合的に考慮されることになります。

また、セックスレスの原因となった方に責任がないといえるような場合(病気や身体障害などで性交渉ができない場合)であっても、客観的に夫婦関係が破綻していると認められた場合は離婚が認められる可能性があるといえます。

参考に裁判例をご紹介いたします。

判例① 横浜地方裁判所昭和61年10月6日判決

結婚後、新婚旅行中も含め約1か月間、全く性交渉や性的接触がなく、その理由について夫が何らの説明もしなかったことから、妻が不安を募らせ別居し、夫に対して離婚を求めた事案です。

裁判所は、新婚当初の夫婦間に性交渉が相当期間全くないのは極めて不自然、異常であるとし、それがもっぱら夫の意思に基づく場合には、妻に対し理由の説明がなされるべき(妻の不安、疑問、不満を除くために説明が必要)と指摘した上で、夫婦関係は破綻しているとして離婚を認めました。

判例② 東京高裁昭和52年5月26日判決

夫が交通事故で障害を負ったため、妻が様々な努力をしても性交渉でほとんど満足な結果が得られなかったことなどを理由に、妻が夫に対し離婚を求めた事案です。

裁判所は、上記のような経緯から妻が夫との性交渉に嫌悪感を抱いたことや、その他の生活上の負担から、妻は夫婦関係を継続する意思を完全に喪失しており、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとして離婚を認めました。

性交渉を拒む原因が相手にある場合は?

こちらが性交渉を拒む原因が相手にある場合は、相手からセックスレスを理由に離婚を求められたとしても、相手の請求は裁判では基本的には認められないと考えられます。

例えば、相手が暴力的に性行為を強要したり、避妊に協力しないために、こちらが性交渉を拒むようになり、セックスレスとなったような場合です。

このような場合は、セックスレスの原因を作ったのは相手といえます。

裁判では、離婚の原因を作った配偶者(「有責配偶者」といいます。)からの離婚の請求は、原則として認められないものとされているため、相手がセックスレスを理由に離婚を求めても、基本的には認められないと考えられます。

不倫の場合は離婚が認められる可能性が高い

セックスレスが離婚の直接の原因となっている場合であっても、夫婦の一方が不倫をした場合は「不貞行為」(民法770条1項1号)を理由に離婚が認められる可能性が高くなります。

たとえ不倫の原因がセックスレスであったとしても、基本的にはそれを理由に離婚の請求が妨げられることはないといえるでしょう。

もっとも、例えば次のようなケースで、不倫によって夫婦関係が破綻したわけではないといえるような場合は、例外的に離婚が認められない可能性があるとも考えられます。

  • セックスレスに悩む方が一度だけ風俗店を利用し性的サービスを受けたような場合
  • 性交渉を拒む側が相手に対して「性交渉は外でしてくれ」とお願いしており、実際に自身以外の人と性的関係を結ぶことを容認していたような場合

 

リスク② 慰謝料を請求される可能性

セックスレスが原因で離婚に至った場合は、相手から慰謝料を請求される可能性があります。

このとき、裁判で慰謝料の請求が認められる可能性もゼロではありません。

先に述べたように、夫婦関係における性交渉は結婚生活の重要な基礎として位置付けられており、セックスレスは夫婦関係の破綻の原因になり得ると考えられています。

そのため、セックスレスが原因で夫婦関係が破綻し離婚に至った場合、相手は、性交渉を拒否した側に対し慰謝料を請求することができると考えられています。

もっとも、裁判例においては、単に性交渉を拒否したことのみをもって慰謝料を認めているわけではありません。

性交渉を拒否したことに加え、
・性交渉を拒んだ側が、他方配偶者がセックスレスについて悩んでいるのを知りながら配慮を示さなかった
・性交渉を拒んだ側が、セックスレスを補うような身体的接触や精神的なつながりを深める行動をとらなかった
などといった事情がある場合に、慰謝料が認められる傾向にあります。

判例 東京地裁平成29年8月18日判決

協議離婚した後、元妻が元夫に対し、婚姻中に性交渉はおろかキスやハグなどの接触もなかったことによって離婚に至ったことを理由に、慰謝料を求めた事案です。

裁判所は、性交渉がないことに加え、元夫が元妻に性的関心を示さないこと、そのことにより元妻が不安を感じており元夫もそれを察していたのに身体的な接触や言葉を交わすなどして夫婦間の精神的結合を深めるような行動をとらなかったことなどから、夫婦関係は破綻したとして、離婚と慰謝料(50万円)を認めました。

性交渉を拒む側に責任がないといえるような場合は?

性的不能(勃起不全など)によって性交渉ができない場合、性交渉を拒否すること自体については責任がないといえます。

しかし、このような場合であっても、相手に配慮を示さない、性交渉以外の手段で精神的なつながりを深める努力をしない等の事情があった場合は、それにより夫婦関係を破綻させた責任があるとして、慰謝料が認められる可能性はあると考えられます。

判例 東京地裁平成16年5月27日判決

妻が夫に対し、夫の性的不能を理由に離婚と慰謝料を求めた事案です。

裁判所は、夫の性的不能と他の生活態度を一括して検討、評価し、夫が妻を妻として扱わずに家政婦同然の扱いをして配慮を欠いたことなどを理由に、離婚と慰謝料(100万円)を認めました。

他方、こちらが性交渉を拒む原因が相手にある場合は、たとえセックスレスが原因で離婚に至ったとしても、夫婦関係を破綻させた責任はむしろ相手にあるといえるため、相手による慰謝料の請求は認められないと考えられます。

不倫の場合は慰謝料が認められる可能性高い

不倫がある場合、「不貞行為」に該当すれば慰謝料が認められる可能性が高いといえます。

先にも触れたとおり、セックスレスであるからといって、不倫の慰謝料の請求が妨げられることは基本的にはありません。

また、不倫の時点で既に夫婦関係が破綻していた場合は慰謝料は認められないものの、セックスレスであっても破綻の抗弁が認められるケースは多くはありません。

 

拒まれている側のリスク

相手から離婚を切り出される可能性がある

一般的には、結婚している男女間における性交渉は、お互いを理解し合い愛情を確認する役割を持つため、円満な夫婦生活にとっては重要な要素といえるでしょう。

そうすると、相手に性交渉を求めても、さしたる理由も見当たらないのに拒絶される場合や、こちらが不安や悩みを抱えていることを打ち明けても配慮が示されないという場合は、要注意といえるでしょう。

相手が円満な夫婦関係を維持する意思を喪失している可能性もゼロではありません。

そのため、相手から離婚を切り出される可能性があるとの見方もできると考えられます。

なお、相手が性交渉を拒んでいる理由がこちらにある場合は、理由次第では相手から離婚や慰謝料を請求される恐れもあります。

例えば、暴力的に性行為を強要する、避妊に協力しない、相手が嫌悪しているのに自身の性癖を押しつける行為などが原因で性交渉を拒まれている場合です。

その場合、セックスレスとその結果としての夫婦関係の破綻の原因がこちらにあるとして離婚や慰謝料を求められる可能性もありますし、性行為を強要した等の行為自体がDVに該当するとして、離婚や慰謝料を求められる可能性もあるでしょう。

 

 

セックスレスの対処法

コミュニケーションをとる

セックスレスは表に出しづらい悩みですが、1人で悩みを抱えたままにしていると結婚生活への不安や相手への不信感が募り、不倫や離婚などに発展しかねない深刻な問題ともいえます。

そして、そのような問題に発展する場合は、性交渉をしないこと自体が直接の原因となっているというよりも、コミュニケーション不足やすれ違いが原因となっていることが多いと思われます。

そのため、セックスレスの問題を放置せずに夫婦間でコミュニケーションをとり、悩んでいることや原因について共有するのがよいと思われます。

相手が拒否する理由などについて理解ができれば、セックスレスが解消に向かっていく場合もありますし、性交渉以外の方法で精神的なつながりを深めるきっかけとなり、不倫や夫婦関係の悪化を防止することができる場合もあるでしょう。

また、相手からセックスレスに悩んでいることを打ち明けられた場合は、相手を思いやり誠実に向き合うことが大切といえるでしょう。

 

専門家へ相談する

器質的又は精神的な原因により性交渉ができないという場合は、専門医などに相談するというのも考えられます。

障害が取り除かれることでセックスレスが解消される場合もありますし、治療に向けて努力すること自体がセックスレスから生じうるリスクを回避することに繋がり得るともいえるでしょう。

 

不倫が疑われる場合は弁護士へ相談

セックスレスに不倫が関係している場合や、不倫が疑われる場合は、専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。

不倫が疑われるものの、すぐには慰謝料や離婚等の法律問題について具体的に考えることができないという場合でも、専門の弁護士に相談し、法律的な観点から状況を整理してもらうことにより、今後どのように対処したらよいか見通しがつくようになるでしょう。

不倫を疑った段階でやみくもに相手を問い詰めてしまうと、事態が悪化したり、相手に不倫の証拠を隠滅されたりする恐れもありますので、お一人で悩まずに相談されるようにしてください。

 

 

まとめ

以上、セックスレスと夫婦問題に関して、リスクや対処法について解説しましたが、いかがだったでしょうか。

セックスレスに関する悩みは他人に打ち明けづらく、一人で抱え込んでしまいがちです。

しかし、放置しておくと不倫や離婚にも繋がりかねない深刻な問題ともいえますので、軽視せずに対処することが大切といえるでしょう。

セックスレスに関連して不倫が疑われる場合や、離婚の問題が生じた場合は弁護士に相談されることをおすすめいたします。

もっとも、非常にプライベートな問題といえますので、離婚問題に精通した、信頼できる弁護士を選ぶことも大切です。

当事務所では、離婚問題を専門に扱うチームがあり、不倫や離婚の問題について強力にサポートしています。

LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。

不倫や離婚の問題については、当事務所の離婚事件チームまで、お気軽にご相談ください。

この記事が、セックスレスの問題にお悩みの方にとってお役に立てれば幸いです。

 

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