婚姻費用がおかしい!?高すぎるときの5つの対処法
別居中の妻から婚姻費用を請求された場合、妻よりも収入が多いのであれば、基本的には妻に対して婚姻費用を支払わなければなりません。
しかし、妻が勝手に家を出て行った場合や、妻が自身の収入や実家暮らしによって不自由なく生活している場合など、「婚姻費用を支払うのはおかしい」と思うケースもあるでしょう。
また、生活費を渡すのは構わないとしても、「要求された金額が高すぎておかしい」と思うこともあるかと思います。
この点、妻が不倫をして出て行った場合など、婚姻費用を請求することはできないと考えられているケースはあります。
また、夫婦の収入に見合った金額以上の婚姻費用を負担する必要はありません。
そのため、婚姻費用が請求できないケースを知っておくことや、適正額を具体的な事情に即して正確に判断することは、婚姻費用を抑える上での重要なポイントとなります。
そこで、ここでは婚姻費用を請求できないケースなどを紹介した上で、婚姻費用を抑えたいときの対処法について解説していきます。
ぜひ参考になさってください。
婚姻費用とは?
婚姻費用とは、夫婦が結婚生活を営むために必要な全ての費用のことをいいます。
婚姻費用には、夫婦の衣食住の費用のほか、子どもを育てるための費用、教育費、医療費、交際費などが含まれます。
なぜ婚姻費用の支払い義務があるの?
婚姻費用については法律で、夫婦で分担するべきものとされています。
この分担義務は「生活保持義務」とされています。
生活保持義務とは、相手も自分と同じ水準の生活ができるようにする義務のことです。
民法が定める夫婦の扶助義務のうちの一つです。
民法
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
(婚姻費用の分担)
第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
引用元:民法 – e-Gov法令検索
夫婦が同居をしている間は、通常は夫婦の財布は一つであり、その財布からお互いにお金を出し入れして共同生活をしています。
そのため、婚姻費用の請求や支払いが問題になることは基本的にはありません。
他方で、夫婦が別居をした場合、夫婦の財布は別々になります。
そして、収入差や、夫婦のどちらが子どもと一緒に暮らしているかなどにより、それぞれの財布に出入りするお金の内容にも差が生じることになります。
しかし、夫婦である以上は、生活保持義務として、相手も自分と同じ水準の生活ができるよう生活費を分担しなければなりません。
そこで、通常は、収入が多い方が収入の少ない方に対して婚姻費用を支払うことになります。
このように、婚姻費用の支払義務は、法律上の夫婦であるがゆえに生じるものといえます。
婚姻費用の請求がおかしいと感じるケース
妻が不貞行為を行っているケース
妻が不貞行為(不倫)をして家を出て行ったような場合、別居状態になったからといって、不倫をした妻が婚姻費用を請求してくるのはおかしいと感じるのではないでしょうか。
このようなケースについては、多くの裁判例でも、婚姻費用の請求はおかしいと考えられています。
すなわち、一方の配偶者に有責性(夫婦関係の破綻や別居の責任があること)が認められる場合、婚姻費用は減額又は支払免除される傾向にあります。
夫婦の同居義務や扶助義務に違反した妻が、夫に対しては夫婦の義務としての婚姻費用の支払いを求めるのは正義に反するという考え方によるものです。
妻が一方的に別居したケース
不貞行為のような事情はないものの、妻が一方的に家を出て行ったような場合も、婚姻費用を請求されるのはおかしいと感じる方が多いと思います。
さしたる理由もないのに別居をすることは、夫婦の同居義務に違反することになりますので、このような妻が夫に対して婚姻費用を請求することは正義に反するようにも思えます。
もっとも、多くの裁判例では、不貞行為などの有責性が明らかでないケースでは、婚姻費用の減額や支払免除は認められない傾向にあります。
妻が一方的に家を出て行ったという事実だけで、別居の責任が専ら又は主として妻にあるとは言い難いとされることが多いです。
また、妻が家を出て行く前から夫婦関係が冷め切っていたような場合は、別居には正当な理由があるとされる可能性があります。
したがって、妻が一方的に別居したというだけでは、婚姻費用の支払いを免れることは難しいと考えられます。
妻が実家で不自由なく生活しているケース
妻が実家で生活している場合、妻は家賃など(住居関係費)を負担しておらず、ともすれば水道光熱費や食費なども負担していない可能性もあるでしょう。
それにもかかわらず、夫が妻に婚姻費用を渡さなければいけないのは、おかしいと感じるのではないでしょうか。
このようなケースでは、妻が実際に住居関係費を負担していないのであれば、それを踏まえて婚姻費用の金額を調整することもあります。
他方、その他の生活費の部分については、妻が独自に実家から援助してもらっているものと捉え、夫婦間における生活費の分担義務には基本的には影響しないと考えることが多いです。
したがって、妻が実家で不自由なく生活しているケースでも、基本的には婚姻費用の支払いを免れることはできません。
妻も働いているケース
妻も働いており、十分な収入がある場合は、妻自身の収入で生活できるのですから、夫が妻に婚姻費用を支払う必要はないようにも思えます。
しかし、婚姻費用の分担義務は、生活保持義務と考えられてるため、夫は妻に対して自分と同じ水準の生活ができるようにしなければなりません。
そのため、妻が妻自身の収入だけで生活を維持できるからといって、夫が妻に婚姻費用を支払わなくてもよくなるということはありません。
妻が自活できるか否かにかかわらず、夫の方が収入が多いのであれば、夫は妻に対して婚姻費用を支払う必要があります。
ただし、婚姻費用は、通常は夫婦の収入に応じて分担されますから、妻の収入が高くなればそれだけ婚姻費用の金額は低くなります。
このように、妻も働いていることは、金額面では考慮されることになります。
妻に離婚する気がないケース
妻が離婚する気もないのに婚姻費用を請求してくるのはおかしいと感じる方も多いと思います。
離婚が成立するまでの一時的なものとして支払うのならまだしも、離婚を前提としていないにもかかわらず毎月支払い続けなければならないというのは、納得いかないのではないでしょうか。
しかし、婚姻費用の分担義務は、婚姻という法律関係から生じるものです。
そのため、離婚を前提としているか否かにかかわらず、夫婦である以上、基本的には支払義務を免れることはできません。
したがって、このようなケースでは、できるだけ早く離婚を成立させることがポイントとなります。
もっとも、妻に離婚する気がない場合、簡単に離婚することはできませんので、離婚の条件面で譲歩を提案するなどの戦略が必要になることが多いです。
妻が子どもに会わせてくれないケース
別居している妻が子どもと会わせてくれない場合も、婚姻費用を請求されるのはおかしいと感じるのではないでしょうか。
自分(妻)は婚姻費用を要求しておきながら、夫の要求には応じないというのは身勝手であるという感覚だと思います。
しかし、面会交流(離れて暮らす親が子どもと会うなどして交流すること)と婚姻費用は別々の問題であり、交換条件にできるものでもありません。
そのため、面会交流が実現されないという理由だけでは、婚姻費用の支払いを拒むことはできません。
婚姻費用の支払いを拒否し続けた場合は、妻が面会交流に応じるか否かにかかわらず、最終的には裁判所の手続き(審判)によって婚姻費用の支払命令が出される可能性もあります。
そのため、婚姻費用と面会交流は別々の問題として、それぞれに対処する必要があります。
婚姻費用を請求できないケース
先にも述べたように、妻に有責性がある場合、妻は婚姻費用を請求できない又は大幅に減額される可能性があります。
妻が不倫をして、不倫相手と暮らすために家を出て行った場合などが典型です。
もっとも、このように、有責性を理由に婚姻費用の減額や免除が認められるのは、有責性が明らかな事案に限られる傾向にあります。
例えば、妻が不倫したことを認めていたり、不倫の決定的な証拠がある場合などです。
それ以外の場合は、簡単には有責性は認められない傾向にあります。
また、妻が子どもと一緒に暮らしている場合は、仮に妻の有責性が明らかなケースであっても、子どもの生活費の部分(養育費相当分)については減額や免除は認められません。
子どもには何らの責任もないからです。
婚姻費用を抑えたいときの5つの対処法
①妻の不貞行為の証拠を確保する
先に述べたように、妻が不倫をして出て行ったケースなど、妻の有責性が明らかなときは婚姻費用が減免される可能性があります。
もっとも、有責性を理由に婚姻費用が減免されるためには、妻が不倫したことを認めているような場合を除き、夫側が妻が不倫したことを裏付ける必要があります。
そのためには、妻の不貞行為の証拠を確保する必要があります。
不貞行為の証拠としては、調査会社(興信所・探偵等)の報告書、不倫相手と妻とのLINE等のやり取りの画面(写真やスクリーンショット)などがあります。
具体的にどのような証拠をどのように集めればよいかは、事案により異なりますので、詳しくは専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。
②婚姻費用の適正額を調べる
妻よりも収入が多ければ、妻の有責性が明らかな場合を除き、婚姻費用の支払義務を免れることは通常できません。
とはいえ、適正額以上の金額を支払う必要はありません。
そのため、妻から婚姻費用を請求された場合は、必ずご自身で適正額はいくらかを調べるようにしましょう。
いったん金額について合意をしてしまうと、後から覆すことは基本的にはできませんので、合意する前にきちんと確認することが大切です。
適正額とは?
適正額とは、いわば裁判で決める場合に認められ得る金額です。
そのため、適正額は、裁判所が用いている婚姻費用の算定方式に則って計算した金額がベースとなります。
そして、この算定方式に基づいた計算結果については、夫婦双方の年収と子どもの人数・年齢を当てはめるだけで簡単に大体の金額がわかる「婚姻費用算定表」という早見表があります。
したがって、この算定表を参照すれば大体の適正額を把握することができます。
また、当事務所では、より簡単に婚姻費用の目安を確認できるよう、オンラインで、かつ、無料で自動算定できるサービスを提供しています。
婚姻費用の計算シミュレーターはこちらからご利用ください。
ただし、算定表やシミュレーターによる算出結果はあくまでも参考程度にとどめていただき、詳しくは専門の弁護士に相談されることを強くおすすめいたします。
算定表等を利用する前提としては、夫婦双方の年収がわかっている必要がありますが、年収を正確に把握するのが難しい事案も多いです。
また、算定表はあくまでも標準的な生活費のみが考慮されたものであるため、特別な事情がある場合、それを踏まえて金額を調整する必要があります。
例えば、子どもに高額な教育費や医療費がかかるなど、特別な事情がある場合は、その分を考慮して加算される可能性があります。
他方、夫が妻の居住する自宅の住宅ローンの支払いをしている場合は、その分を考慮して差し引く必要があります。
このように、適正額の判断は、専門知識がないと難しい面がありますので、金額を決める前に弁護士に相談されることをおすすめいたします。
③支払いが難しい理由を具体的に説明する
妻が不倫したなどの事情がない限りは、婚姻費用は支払わなければなりません。
支払いを拒否し続けていると、最終的には「審判」という裁判所の手続きで支払命令が下される可能性があります。
それも無視した場合は、「強制執行」をされる可能性があります。
強制執行とは、取り決めや命令の内容を強制的に実現するための手続きのことです。
婚姻費用の場合は、給料などの財産を差し押さえられ、そこから強制的に回収されることになります。
したがって、支払いを逃れることは基本的にできないと考えるべきです。
とはいえ、婚姻費用を払ってしまうと自らの生活が成り立たなくなるなど、支払えない事情がある場合もあります。
そのような場合は、妻に減額や免除に応じてもらえるように交渉するようにしましょう。
妻としても、強制執行するにも手間や時間がかかりますので、多少の減額をしても安定的に支払ってもらった方が良いと考え、減額に応じてくれる可能性もあります。
もっとも、「払いたくない」というだけでは相手は納得しませんので、家計収支表を作成して見せるなど、支払いが難しい事情があることを具体的に示す必要があるでしょう。
家計表のダウンロードはこちらからご利用ください。
④早く離婚を成立させる
婚姻費用の支払義務は、婚姻という法律関係から生じるものです。
そのため、離婚をして婚姻関係がなくなれば、それに伴い婚姻費用の支払義務もなくなります。
したがって、早く離婚を成立させれば、それだけ支払う婚姻費用の総額も少なくなります。
もっとも、妻としては、離婚をすれば婚姻費用がもらえなくなることから、早期の離婚に応じるメリットはないと考えていることもあります。
そのため、早期に離婚を成立させるためには、離婚条件(養育費、財産分与、慰謝料など)の面で多少の譲歩が必要になる場合もあります。
最適な方策等は具体的な状況により異なりますので、詳しくは離婚専門の弁護士に相談されるようにしてください。
⑤離婚に強い弁護士に相談する
婚姻費用の請求を受けたときは、離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめいたします。
婚姻費用が減免される可能性や支払額についての見通しを立ててもらうことで、不安を解消しつつ、具体的な対処法がわかるようになります。
また、弁護士に代理人として妻と交渉してもらうことにより、適正額ないしはそれ以下の支払いに抑えることができる可能性もあります。
さらに、離婚問題に強い弁護士であれば、離婚に向けて全面的にサポートをすることができます。
弁護士が代理人として相手と交渉することにより、早期に離婚を成立させることができる可能性が高くなりますので、婚姻費用の支払い総額を抑えることにもつながります。
婚姻費用についてQ&A
婚姻費用を踏み倒すとどうなる?
最終的には強制的に回収される可能性があるため、支払いを逃れることは基本的にはできません。
裁判所の手続き(調停又は審判)や、公正証書(強制執行認諾文言付きのもの)による取り決めがある場合、取り決めどおりの支払いがされなければ、相手方は直ちに(改めて裁判などをする必要なく)強制執行することができます。
相手方が強制執行を申立てた場合は、給料などの財産を差し押さえられ、そこから強制的に婚姻費用を回収されることになります。
差し押さえられる範囲は、これまでの未払分のみでなく、将来支払うべき分についても及びます。
したがって、裁判所の手続きや公正証書による取り決めがある場合、差し押さえるべき財産が無いなどの事情がない限り、支払いを逃れることはできません。
婚姻費用についての取り決めがない場合や、口頭や念書等によって約束をしただけという場合は、支払いをしなくても、直ちに強制執行されることはありません。
しかし、相手方が婚姻費用の調停を申し立てた場合は、相手方の有責性が認められて支払免除されるなどの事情がない限りは、調停又は審判による取り決めがされることになります。
そうすると、上記の場合と同様、取り決めどおりの支払いをしないと最終的には強制執行されることになりますので、基本的には支払を逃れることはできません。
婚姻費用の支払いを拒否できますか?
基本的には拒否することはできません。
婚姻費用の分担義務は法律上の義務ですので、基本的には支払いを拒否することはできません。
ただし、相手が有責配偶者の場合や、相手が適正額以上の金額を要求している場合など、支払いを全部又は一部拒否するべきケースもあります。
そのようなケースでも、きちんと反論をした上で、合意や裁判所の判断によって決着をつける必要があります。
支払いを拒否できる事情があるとしても、反論もせずに請求を無視し続けていると、相手方の言い分が通って最終的に強制執行される可能性もあるので注意が必要です。
相手から請求を受けた場合は、無視をせずにきちんと対応することが重要になります。
まとめ
以上、婚姻費用を抑えたいときの対処法などについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
妻が不貞行為をしていた等の事情がある場合は、婚姻費用の免除や減額がされる可能性がありますので、不貞行為の証拠を押さえるようにしましょう。
そのような事情がない場合、婚姻費用の免除や減額は難しくなりますが、適正額を押さえることで、妻の要求金額よりも減額できる可能性があります。
また、婚姻費用の支払義務は離婚をすればなくなりますので、早期に離婚を成立させることも、婚姻費用の支払総額を抑える上では重要になります。
不貞行為の証拠集め、適正額の判断、早期の離婚などについては、いずれにも専門知識や交渉のノウハウが必要になります。
そのため、婚姻費用にお困りの場合は、まずは離婚専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。
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