別居しても離婚しないメリット・デメリットとは?弁護士が解説
別居しても離婚しないメリット・デメリットには、次のようなものがあります。
メリット | デメリット |
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夫婦の別居は離婚を前提としたものである場合が多いです。
しかし、別居しても離婚はしないという選択肢もあります。
また、離婚を考えて別居したものの、具体的な進展がないまま時間が経過し、結果的に別居して離婚しない状態になってしまっているというケースもあります。
別居をしても離婚しなければ、離婚による不利益を回避できるとともに、夫婦(婚姻)という法律関係から生じる権利を維持することができます。
一方、別居をして夫婦の実態が失われているのに、法律上の夫婦関係だけが残っているという状態は、自然な状態ではないため、不都合(デメリット)が生じる場合もあります。
この記事では、このような、夫婦が別居しても離婚しない場合のメリット・デメリットについて、詳しく解説していきます。
ずっと別居して離婚しないメリットとデメリット
メリット | デメリット |
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※一般的な傾向であり、状況によって異なります。
別居しても離婚しないメリット
①夫婦関係を修復できる可能性がある
別居をしても離婚しなければ、相手との関係が完全に断絶することはありませんから、夫婦としてやり直すチャンスはまだ残っているといってよいでしょう。
一方、離婚した場合は、法律上の関係性さえもなくなりますから、離婚後にもう一度同じ相手とやり直すのは非常に難しくなります。
また、距離が近すぎることや、共同生活によるストレスやわずらわしさが原因で夫婦関係がうまくいっていなかったというケースでは、別居をすることで、むしろ関係が良くなる可能性もあります。
このような場合は、その後もあえて別居を続けることによって、円満な関係を維持するという方法をとることも考えられます。
②世間体を保つことができる
別居しても離婚をしなければ、少なくとも形式上は夫婦関係を維持することができ、「離婚した」という事実が生じることも避けることができます。
離婚したら世間体が悪くなると心配されている方にとっては、このようにして世間体を保つことができるのはメリットといえるでしょう。
③婚姻費用をもらうことができる(もらう立場にある場合のメリット)
夫婦は、その収入等に応じて婚姻費用を分担するべきと法律で定められています(民法760条)。
引用:民法|e-Gov法令検索
婚姻費用とは、夫婦や子どもの生活のために必要なお金(生活費)のことです。
別居をしても、離婚をせずに法律上の夫婦関係を維持している限りは、この婚姻費用の分担義務がなくなることはありません。
そのため、通常は、収入の多い方が収入の少ない方に対し、婚姻費用を支払う義務を負うことになります。
したがって、相手よりも自分の方が収入が少ない場合は、基本的には、離婚成立まで(又は同居再開まで)の間、婚姻費用をもらい続けることができます。
④配偶者の財産を相続することができる
一方の配偶者は、他方の配偶者が亡くなったときに相続人(遺産を相続することができる人)となります。
別居をして夫婦関係が形骸化していても、離婚をしていない限りは、法律上の配偶者の地位がなくなることはありません。
そのため、離婚しなければ、もしも相手が先に亡くなったならば、相手の財産(遺産)を相続によって受け継ぐことができます。
もっとも、相続の対象には、借金などのマイナスの財産も含まれます。
また、他にも相続人がいる場合は、遺産の分け方などを巡る争いに巻き込まれる可能性もあります。
このようなことから、相手方配偶者の財産状況や他の相続人の存否によっては、自分の利益につながらず、むしろ負担になってしまう可能性もあります。
したがって、常にメリットになるわけではないことには注意しておく必要があるでしょう。
⑤子どもへの影響を軽減できる可能性がある
両親の離婚は、子どもの心情や生活に少なからず影響を及ぼします。
例えば、喪失感、無力感、不安などを抱いて精神的に不安定になったり、家庭の経済状況の変化によって塾や習い事をやめざるを得なくなったり、進学を諦めたりするようになる可能性もあります。
別居をしても離婚をしなければ、少なくとも上記のような事態は回避することはできる可能性があります。
もっとも、両親がずっと別居して離婚しないことで、かえって子どもが「自分のために両親が我慢しているのではないか」などと思い悩むようになる場合もあります。
また、両親がずっと対立・紛争状態にあることが、子どもにとって大きなストレスになっている可能性もあります。
そのため、「子どものためには離婚しない方が良い」と決めつけることなく、何が子どもにとって一番良いかという視点で考えることが重要です。
離婚をしても、面会交流(子どもと離れて暮らす親が子どもと会うなどして交流すること)を充実させたり、学費についてきちんと取り決めをすることなどによって、子どもへのダメージを最小限に抑えることができる場合もあります。
別居しても離婚しないデメリット
①接触を完全に断つことはできない
別居をすれば、相手との共同生活によるストレスからは逃れることができます。
しかし、離婚をしない限りは法律上の夫婦関係は維持されるため、相手との接触を完全に断つことは難しいでしょう。
②婚姻費用を支払う必要がある(払う立場にある場合のデメリット)
相手よりも収入が多い場合は、相手からの請求に応じて、婚姻費用を支払う必要があります。
婚姻費用は、基本的には、請求時から離婚成立(又は同居再開)までの間、毎月支払い続けなければならないものです。
夫婦関係が破綻しているにもかかわらず、婚姻費用を毎月支払い続けなければならないというのは、経済的にも精神的にも負担が大きいものです。
③再婚することができない
別居中に配偶者以外の人と懇意になり、その人と結婚(再婚)をしたいと思うようになる場合もあるかもしれません。
しかし、離婚が成立していない限り再婚することはできません。
重婚(重ねて婚姻すること)は法律で禁止されているため、たとえ現在の夫婦関係が破綻しているとしても、別の人との結婚はできません。
そのため、ずっと別居して離婚しないでいることによって、再婚をして新たな生活をスタートさせるチャンスを失ってしまう場合もあるでしょう。
④配偶者以外の人との交際にはリスクが伴う
離婚していないと再婚ができないのは上記のとおりですが、別居中に配偶者以外の人と交際をすること自体は事実上は可能です。
しかし、離婚が成立していない以上は、配偶者以外の人と交際することにもリスクが伴います。
特に、配偶者以外の人と性的関係を持つ(いわゆる「不倫」)と、「不貞行為」と評価されて不利な立場に陥る可能性があります。
「不貞行為」は、離婚原因(離婚が認められる法律上の条件)の1つとして定められています(民法770条1項1号)。
引用:民法|e-Gov法令検索
裁判実務では、離婚原因を自ら作った側の配偶者(「有責配偶者」といいます。)からの離婚請求は、原則として認められないとされています。
(例外的に、別居期間が相当長期に及ぶことなどの厳しい条件を満たす場合にのみ認められると考えられています。)
そのため、不倫をすると有責配偶者とみなされ、離婚を求めても、相手が離婚に応じない限りは離婚が難しい状況になる可能性があります。
また、不貞行為を理由に慰謝料を請求されるリスクもあります。
交際相手も慰謝料請求を受ける場合がありますから、交際相手に迷惑をかけたり、交際相手との関係が悪くなるきっかけとなってしまう可能性もあるでしょう。
不倫をした時点で、既に夫婦関係が破綻していた場合は、不倫によって夫婦関係が破綻したわけではないため、上記のような不貞行為の責任は負わないと考えられています。
そのため、「別居後であれば、不倫は許される」と認識されている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、夫婦関係が破綻していたといえるかどうかは、別居期間、別居の経緯、別居後の修復に向けた努力の有無など、諸事情が考慮されたうえで客観的に判断されることになります。
「別居」イコール「夫婦関係の破綻」ではないため、別居していても夫婦関係の破綻が認められず、別居後の不倫について責任を問われる可能性はあります。
仮に、別居期間が長期間に及んでいるなどの事情から、裁判上、破綻が認められると判断される場合であっても、他の人との交際は、相手(現在の配偶者)の気分を害し、離婚協議を停滞させる要因になり得ます。
⑤ひとり親のための支援を受けることができない
離婚をしてシングルマザー又はシングルファザーになった場合には、各自治体が実施しているひとり親支援制度などを利用することができます。
支援内容等は自治体により異なりますが、児童扶養手当の給付、母子父子寡婦福祉資金の貸付、就業支援、医療費や住宅費の一部助成などがあります。
離婚前であっても、別居していれば利用可能な制度も一部ありますが、利用には離婚調停中であること等の証明が必要になることがほとんどです。
そのため、ずっと別居しており、特に離婚に向けた協議等もされていない場合は、上記のような支援を受けることはできません。
⑥いずれは離婚が成立する可能性がある(離婚したくない場合のデメリット)
ずっと別居をしていると、自分が離婚を希望しない場合でも、相手が離婚を求めた場合には離婚が成立してしまう可能性が高くなります。
夫婦が別居して長期間が経過しているという事情は、夫婦関係が破綻して回復の見込みがないことを基礎づける事情となります。
夫婦関係が破綻して回復の見込みがない場合、離婚原因の「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)があるとして、裁判で離婚が認められる可能性があります。
引用:民法|e-Gov法令検索
そのため、ずっと別居していると、離婚したくなくても、裁判上は離婚できる状態に置かれてしまうことになります。
デメリットへの対処法
別居を継続すべきか検討する
別居して離婚をしないメリットとデメリットを踏まえ、別居を継続すべきか検討する必要があるでしょう。
- 相手と縁を切りたい
- 他の人と再婚や交際をしたい
- 夫婦関係が破綻しているにもかかわらず婚姻費用を支払い続けることに納得がいかない
このような場合は、基本的には離婚に向けて進めていくのが一番の解決方法であると考えられます。
一方、相手と夫婦としてやり直したいと思っている場合は、漫然と別居を続けていると、どんどん離婚しやすい状況になってしまう可能性があるので、注意する必要があります。
相手と話し合うなど、関係修復に向けた具体的な行動をすることを検討した方が良いでしょう。
また、ずっと別居して離婚しない理由が、「離婚後の生活が不安」「子どもへの影響が心配」という場合は、離婚したらどのように状況が変化するのかについて、一度専門の弁護士にご相談されることをおすすめします。
離婚したらどうなるかを理解することで、漠然とした不安を払しょくすることができ、自分や子どもにとって何が最善なのか、具体的に検討することができるようになっていきます。
弁護士に代理交渉を依頼する
離婚に向けて進めていく場合は、弁護士を代理人として、相手方と交渉する方法(これを「代理交渉」と呼んでいます。)をおすすめします。
ずっと別居をしていると、いざ離婚に向けて進めていこうと思っても、思うように話が進められない場合もあります。
相手が離婚に消極的である場合は、離婚を申し入れても、無視されたり、今は忙しいなどと言われて先延ばしにされたりすることもあるでしょう。
このような場合も、いきなり裁判所の手続き(調停・訴訟)を利用するのではなく、まずは弁護士に代理交渉をしてもらうとよいでしょう。
弁護士が間に入ることで、話が進展し、早期に、納得のいく解決ができるようになる場合もあります。
もっとも、適切な解決方法は事案により異なりますので、まずは、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。
別居と離婚に関するQ&A
別居中だと離婚できない?
このように、別居中で離婚話が進まない場合は、弁護士に間に入ってもらうことをおすすめします。
離婚が認められるために別居は何年必要ですか?
別居期間が大体3年〜5年くらいある場合は、離婚原因(「婚姻を継続し難い重大な事由」)があるとして、裁判でも離婚が認められる可能性が高くなります。
ただし、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかは、別居期間のみならず、同居期間との対比や別居の経緯、修復に向けた努力の有無、子どもの有無など諸事情が総合考慮されたうえで判断されます。
そのため、3年よりも短い別居期間でも離婚が認められる場合もありますし、反対に、5年以上別居していても離婚が認められない場合もあります。
なお、夫婦間で離婚の合意ができる場合や、その他の離婚原因(不貞行為や暴力など)が認められる場合は、別居期間にかかわらず(別居していなくても)離婚することはできます。
まとめ
以上、別居しても離婚しないメリット・デメリットについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
メリット・デメリットを踏まえ、別居を継続するかどうか検討すると良いでしょう。
離婚に向けて進めていく場合は、弁護士による代理交渉の方法をおすすめします。
もっとも、適切な解決方法は、事案により異なります。
別居や離婚に関してお困りの場合は、離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめいたします。
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