財産分与と登記|必要書類、手続きの方法や注意点を解説
財産分与として不動産をもらった場合は、不動産の所有者(持ち主)を変える登記をする必要があります。
登記をしないと、第三者に対して自分が不動産の所有者であることを主張することができず、不動産を失うリスクや取引上の不都合が生じてしまいます。
ここでは、財産分与と登記について、登記が必要なケース、登記のメリット・デメリット、登記手続の必要書類や流れ・注意点などについて解説していきます。
目次
財産分与とは?
財産分与とは、離婚に伴い夫婦の財産を分け合うことをいいます。
財産分与には、夫婦が共同生活を送るために取得した財産の清算(清算的財産分与)、離婚後の生活保障(扶養的財産分与)、離婚に伴う慰謝料(慰謝料的財産分与)の3つの性質があるとされています。
中心となるのは清算的財産分与であり、状況に応じて扶養的・慰謝料的な要素も考慮されるものとされています。
財産分与の対象となる財産には、自宅(土地・家屋)などの不動産も含まれます。
財産分与の対象や割合などについて、詳しくはこちらのページをご覧ください。
財産分与で登記が必要なケースとは
財産分与で「不動産を渡す・もらう」という動きがあり、不動産の実際の所有者(持ち主)と、登記に所有者として載っている人が異なる結果となった場合は、財産分与を原因とする所有権移転登記をする必要があります。
財産分与で「不動産を渡す・もらう」場合とは、次のようなケースです。
例えば、分与の対象となる財産として、夫名義の預貯金(1000万円)と、夫名義の(夫が単独所有者として登記されている)自宅不動産(評価額1000万円)があったとします。
このケースで、財産分与として夫が預貯金1000万円を取得し、妻が自宅不動産を取得する場合は、自宅不動産について、夫名義から妻名義に変更するための所有権移転登記が必要になります。
反対に、対象財産に不動産がある場合でも、当該不動産についてはその名義人が取得し、お金で清算をする場合には、所有権の移転登記は必要ありません。
例えば、上記の例で、妻が預貯金1000万円を取得し、夫が自宅不動産を取得することとした場合は、所有権移転登記をする必要はありません。
例えば、財産分与の対象となる財産として、夫名義の預貯金(1000万円)と、夫と妻の共有名義の自宅不動産(評価額1000万円)があったとします。
このケースで、財産分与として夫が預貯金1000万円を取得し、妻が自宅不動産を取得する場合は、自宅不動産について、夫婦の共有名義から妻の単独名義に変更するための所有権移転登記が必要になります。
上記に挙げた具体例は、いずれも清算的財産分与を想定したものでしたが、扶養的財産分与や慰謝料的財産分与として不動産を渡す・もらう場合も所有権移転登記は必要となります。
また、財産分与の決め方には、離婚と一緒に決める場合は協議・調停(離婚調停)・裁判(離婚訴訟)、離婚後に財産分与だけを決める場合は協議・調停(財産分与請求調停)・審判があります。
いずれの決め方をした場合であっても、財産分与として「不動産を渡す・もらう」という動きがあったのであれば、所有権移転登記が必要になります。
財産分与で登記を行うメリットとデメリット
登記を行うメリット | 登記を行わないデメリット |
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財産分与で登記を行うメリット
第三者に自分が所有者であることを主張できる
財産分与で不動産をもらっても、登記(所有権移転登記)を行わないと、第三者に対しては自分に所有権が帰属する(自分が持ち主である)ことを主張することができません。
ここにいう「第三者」とは、財産分与の当事者(夫婦又は元夫婦)以外の人(不動産を渡す・もらうの関係にない人)のことを指します。
登記は、不動産の所有権が誰に帰属するのか(持ち主が誰か)などの情報を公示するためのものです。
所有権というのは、目に見えるものではありません。
そのため、不動産の所有者などの情報を登記簿に記載して公開することによって、誰でも不動産の権利関係等を確認できるようにしているのです。
そして、登記簿に所有者として記載してある人を所有者と扱うものとすることで、取引の安全が図られています。
なお、財産分与として不動産を渡す・もらうという内容の合意が成立する、又は裁判所の命令(審判・判決)が出されれば、当事者の間では不動産の所有権は有効に移転します。
不動産を渡した側は持ち主ではなくなり、もらった側が持ち主になるということです。
しかし、この所有権移転について登記を備えないうちは、所有権の移転はいわば不完全なものであり、登記を備えることによって、はじめて完全なものになるというのが通説的な考え方です。
したがって、登記を行うことで、不動産をもらった側は完全な所有権を得ることができ、第三者にも自分に所有権が帰属することを主張することができるようになります。
財産分与で登記を行わないデメリット
財産分与で登記を行わないデメリットは、登記を行うメリットの裏返しとなりますが、「第三者に所有権を主張することができない」ということです。
それにより、次のようなリスクや不都合が生じます。
第三者が先に登記を備えたら所有権を失う結果となる
例えば、夫名義の不動産を財産分与で妻がもらったとします。
そして、妻への所有権移転登記をしないうちに、夫が第三者に対してこの不動産を売却してしまったとします。
この場合、妻は、登記がないため、第三者に自分が不動産の所有者であることを主張することはできません。
そして、仮に、この第三者が妻よりも先に登記を備えてしまった場合は、妻はもはや自分への所有権移転登記を行うこともできなくなります。
その結果、妻は不動産の所有権を取得できない(失う)ことになります。
不動産に関する取引ができない
財産分与で不動産をもらっても、登記をしないと、その不動産を自分のものとして売却したり、借金のための担保に入れたりすることは、基本的にはできません。
登記によって権利関係を公示することで取引の安全が図られているため、不動産に関する取引の際には必ず登記が確認されます。
そのとき、自分が所有者として登記されていなければ、取引上、自分を所有者として扱ってもらうことができないのが通常です。
渡した側が固定資産税の納税義務者と扱われる
不動産には固定資産税という税金がかかります。
この固定資産税の支払義務を負うのは「不動産の所有者」ですが、「不動産の所有者」は、原則として登記に所有者として載っている人とされています。
そのため、財産分与で不動産をもらっても、登記をしないと、不動産を渡した側が依然として納税義務者と扱われます。
このとき、もらった側が渡した側の名義で支払いをすれば問題はありません。
しかし、納税通知書等は全て渡した側宛に送られますから、もらった側と渡した側の連携が取れなかったりすると、誰も固定資産税を支払わない状態になる可能性もあります。
固定資産税を支払わないままでいると、最悪の場合は固定資産税の対象不動産を差し押さえられ、競売にかけられてしまうというリスクがあります。
以上は不動産をもらった側のリスクですが、不動産を渡した側にとっても、自分宛てに納税通知書や督促が送られてくることは煩わしいものです。
そのため、不動産をもらう側・渡す側双方にとってのデメリットといえるでしょう。
登記を行うデメリットとしては、
- 登録免許税や司法書士の報酬などの費用がかかる
- 手続きには相手の協力が必要(共同申請が原則)
などが挙げられます。
もっとも、登記を行わないデメリットの大きさに鑑みれば、上記のようなデメリットがあったとしても、基本的には全てのケースで登記は行うべきです。
財産分与による登記の手続き
登記のために必要となる書類
登記の手続きには、次のような書類が必要です。
【 もらう側 】
【 渡す側 】
以下、重要な書類について簡単に解説していきます。
不動産の所在地や申請人の氏名、登記の目的(所有権移転)などの情報(これらを「申請情報」といいます。)を記載した書面です。
書式は法務局のホームページからダウンロードすることもできます。
参考:法務局ホームページ
登記原因とは、登記を必要とさせる法律行為や事実のことをいいます。
財産分与で不動産を渡す・もらう場合の登記原因は「財産分与」です。
したがって、財産分与の内容(日付、当事者、対象物件など)を記載した書類が必要となります。
協議離婚の場合は離婚協議書(財産分与の内容がわかるもの)、裁判所の手続き(調停、裁判)で離婚をした場合は調停調書や判決書がこれに該当します。
離婚をした後に財産分与の取り決めをしたという場合は、財産分与協議書や財産分与の調停調書又は審判書がこれに該当します。
なお、協議離婚の場合で、離婚届を出す前に財産分与の合意が成立した場合は、離婚の記載のある戸籍謄本を添付する必要があります。
財産分与の効力が生じるのは離婚成立後であるところ、効力発生日(届出日となります)を明確にする必要があるためです。
不動産を渡す側が当該不動産を取得したときの登記識別情報通知書や登記済権利証です。
万一なくしてしまった場合は、登記官による事前通知や司法書士・弁護士による本人確認情報の提供などによる本人確認が必要になります。
登記のために必要となる費用
財産分与の登記には、登録免許税、司法書士・弁護士費用、その他実費が必要になります。
登録免許税
財産分与の登記をする際には、登録免許税という税金を納付する必要があります。
税額は、固定資産税評価額の2パーセントです。
具体例 夫が妻に対して、土地1筆(評価額2000万円)、建物1棟(評価額1000万円)の財産分与を行った場合
→登録免除税:3000万円× 2%= 60万円
司法書士費用・弁護士費用
登記手続を司法書士や弁護士に依頼する場合は、司法書士費用や弁護士費用がかかります。
これらは事務所や依頼内容によって異なりますので、詳しくは各事務所にご確認ください。
その他の実費
登記申請の際に必要な住民票、戸籍謄本、印鑑証明書などの必要書類を取り寄せる際の手数料等の実費もかかります。
登記の手続きの流れ
先にご紹介したような必要書類を準備し、登記申請書を作成します。
書類がそろったら、当該不動産のある区域を管轄する法務局に提出をして申請を行います。
申請が受け付けられたら、登記官が申請内容の審査を行います。
不備がある場合は補正を求められます。
問題がなければ、登記官が登記簿に所有権移転の情報を記載します。
登記が完了すると、登記識別情報通知書が発行されます。
財産分与による登記の注意点
住宅ローンが残っている不動産を分与した場合の注意点
登記には銀行等の承諾が必要
住宅ローンが残っている不動産の所有権移転登記は難しい場合が多いです。
住宅ローンの約款上、不動産の所有権の移転には銀行等の承諾が必要とされていることがほとんどです。
そして、銀行等が所有権移転に承諾をしてくれることは、実際のところ、ほとんどありません。
住宅ローンは、債務者(借主)が住宅を所有し居住することを前提に、住宅を担保にお金を貸し付けるというものですから、住宅の所有者の変更は基本的には認められません。
登記手続自体ができないということではありませんが、銀行等の承諾なく所有権移転登記をすると、約款違反となるため避けた方がよいでしょう。
また、住宅ローンの名義人(債務者)の変更も通常は認められません。
住宅ローンは債務者の収入、年齢、職業などを審査したうえで組まれるものですから、債務者の変更は基本的に認められません。
具体例 夫の単独名義で住宅ローンを組み、夫の単独名義で購入した自宅不動産を、財産分与によって妻が取得する場合
→この場合、銀行(ローンの債権者)の承諾が得られない限り、妻への名義変更(所有権移転登記)はできません。
取りうる手段
上記の具体例の状況の場合、他の金融機関で妻名義のローンを組み直し(借り換え)、夫名義のローンを一括返済をすることができれば、すぐに所有権移転登記をすることも可能です。
しかし、妻に安定した収入がない場合は、妻名義でローンを組み直すことは難しいでしょう。
妻名義でローンを組み直すことができない場合は、夫名義でローンの返済を続け、ローンの完済後に所有権移転登記をするとの約束をして財産分与を行うという方法がとられることもあります。
しかし、この方法は、ローン完済前においては、不動産の名義人は対外的には(登記上は)夫であり、ローンの名義人(債務者)も銀行との関係ではあくまでも夫のままとなります。
そのため、ローン完済前に、夫が第三者に不動産を売却してしまうリスクや、夫が破産してローンの担保となっている自宅不動産が競売にかけられてしまうといったリスクは残ります。
住宅ローンが残っている場合は弁護士に相談する
住宅ローンが残っている不動産の分与については、上記のように所有権移転登記が難しいということも踏まえた上で、分与方法等について慎重に検討する必要があります。
どのような対処法が適切であるかは、他の財産の状況、残ローンの金額、住居確保の必要性などによって異なります。
そのため、詳しくは離婚専門の弁護士にご相談されることをおすすめします。
住所変更をする場合の注意点(渡す側の注意点)
住所の変更登記をすると現住所が公開される
登記には、不動産の所有者(現在の所有者=不動産を渡す側)の住所が記載されています。
財産分与を原因とする所有権移転登記をする際には、この登記に記載されている住所と、不動産を渡す側の現在の住所が一致している必要があります。
そのため、不動産を渡す側が引っ越し等をして現住所が変わっている場合は、事前に登記に記載されている住所を変更する手続き(住所の変更登記)をする必要があります。
しかし、住所の変更登記をすると、現住所が登記簿に記載されて一般に公開されることになります。
そこで、現住所を一般に公開されたくない場合は、注意する必要があります。
現住所を知られたくない場合の対処法
DVやストーカー被害等を受ける恐れがあり、現住所を秘匿する必要がある場合は、現住所に代わって公示用住所を記載する措置(「代替措置」と呼ばれています。)の利用が考えられます(不動産登記法119条6項)。
「公示用住所」とは、被害者等と連絡を取ることのできる者(委任を受けた弁護士、被害者支援団体、法務局など)の住所等のことです。
措置要件を満たす場合は、登記官が登記事項証明書等の対象者(被害者)の住所が載っている書面を作成する際、被害者の現住所に換えて公示用住所を記載する措置を講じてくれます。
これにより、現住所が一般に公開されることを防ぐことができます。
参考:法務省ホームページ|登記事項証明書等における代替措置について(不動産登記関係)
協議離婚の場合の注意点
協議離婚の場合は、不動産を渡した側・もらった側が共同して登記を申請する必要があります。
申請は、離婚後(離婚届提出後)でなければできませんが、必要書類の収集やスケジュール調整など、手続きに必要な準備はできる限り離婚前に済ませておいた方がよいでしょう。
離婚が成立してしまうと、特に不動産を渡した側が協力的でなくなることもあります。
不動産を渡した側には登記手続に対するモチベーションは特にないためです。
しかし、離婚前であれば、「登記申請の準備をしないと離婚できない」という状況を作ることができるため、不動産を渡した側も協力的になり、離婚後の登記申請もスムーズに進みやすくなります。
調停離婚の場合の注意点
調停(裁判所で話し合いをする手続)で財産分与に関する合意が成立した場合は、裁判所が合意内容をまとめた書面である「調停調書」を作成します。
財産分与の定めが記載された調停調書があれば、これを登記原因情報として、登記権利者(不動産をもらう側)が単独で手続きをすることも可能です。
ただし、単独申請ができるような書き方になっている必要があります。
具体的には、「相手方は、申立人に対し、財産分与として、別紙物件目録記載の不動産を分与することとし、本日付け財産分与を原因とする所有権移転登記手続をする。」といったような記載が必要です。
登記手続をする旨の記載がないと単独申請はできませんので、調停成立の前には必ず条項をチェックするようにしましょう。
調停対応を弁護士に依頼している場合は、弁護士がチェックをしてくれますが、弁護士に依頼していない場合でも、成立前に一度弁護士に相談し、条項案を見てもらうことをお勧めします。
なお、審判や裁判で財産分与を決める場合は、裁判所が登記義務者(不動産を渡す側)に対して「財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ」という形で命令を出すことになります。
このような審判書や判決書があれば、不動産をもらった側が単独で登記手続をすることができます。
税金に注意
登記に関する注意点ではありませんが、財産分与で不動産を渡す・もらう場合、譲渡所得税や不動産取得税といった税金がかかることがあります。
思わぬところで税金がかかってしまったという事態を防ぐためにも、財産分与で不動産を渡す・もらう場合は、事前に税務に強い離婚専門の弁護士に相談をされることをおすすめします。
財産分与の登記は誰に依頼した方が良い?
財産分与の登記に関しては、離婚専門の弁護士に相談されることをお勧めします。
弁護士であれば、登記以外の様々な法的問題点についても助言をすることができます。
そのため、一度弁護士に相談し、財産分与について全体的なアドバイスを受けることをお勧めします。
離婚専門の弁護士は、司法書士と連携して財産分与の登記までワンストップで対応していることも多いです。
なお、弁護士は登記業務も行うことができ、弁護士が登記の申請代理を引き受けてくれるケースもあります。
そのため、財産分与の取り決めから登記までスムーズに進めることができます。
財産分与と登記についてのQ&A
財産分与の登記はいつまでにできますか?
いつまでに登記をしなければいけないという期限はありませんが、離婚後(財産分与の効力発生後)には速やかに行うべきでしょう。
なお、財産分与の請求自体は、離婚後2年以内でなければできませんので注意しましょう。
財産分与の登記に戸籍謄本は必要ですか?
協議離婚の場合は、離婚の記載のある戸籍謄本が必要です。
協議離婚の場合は、通常、離婚成立前(離婚届を出す前)に財産分与についての合意が成立することになりますが、財産分与の効力が生じるのは離婚成立後となります。
そのため、財産分与の効力発生日(離婚の届出日となります)を明確にするため、登記申請の際に離婚の記載のある戸籍謄本を提出する必要があります。
財産分与の登記の原因は?
「財産分与」です。登記の原因とは、登記を必要ならしめる法律行為や事実のことをいいます。
所有権移転の登記原因としては、「売買」「贈与」「相続」などがありますが、「財産分与」もその一つです。
財産分与で不動産を渡した・もらったという場合は、まさに「財産分与」が登記原因となります。
まとめ
以上、財産分与と登記について解説しましたがいかがだったでしょうか。
財産分与で不動産をもらった場合は、速やかに所有権移転登記をするようにしましょう。
もっとも、不動産に住宅ローンが残っている場合など、注意が必要な事案もあります。
また、登記をスムーズに行うためには、事前準備をしっかりしておくこともポイントとなります。
財産分与と登記でお困りの場合は、まずは離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
当事務所には、離婚問題を専門的に扱う弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、財産分与にお困りの方を強力にサポートしています。
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