財産分与と相続との関係|違いや注意点を弁護士が解説
財産分与は、離婚の際に夫婦の財産を分け合うものです。
相続は、亡くなった方の財産(遺産)を引き継ぐものであり、相続人間で遺産を分け合うことを遺産分割といいます。
財産分与と遺産分割は、いずれも財産を分け合うものですが、対象となる財産や問題となる場面は全く異なります。
また、相続で得た財産は財産分与の対象となるのかなど、財産分与と相続の関係が問題になることもあります。
そこで、ここでは、財産分与と相続の関係について、違いや注意点などを解説していきます。
財産分与と遺産分割は違う
財産分与とは?
財産分与とは、離婚に伴い夫婦の財産を分け合うことをいいます。
財産分与には、次の3つの性質があるとされています。
清算的財産分与 | 夫婦が共同生活を送るために取得した財産の清算 |
扶養的財産分与 | 離婚後の生活保障 |
慰謝料的財産分与 | 離婚に伴う慰謝料 |
中心となるのは清算的財産分与であり、状況に応じて扶養的・慰謝料的要素も考慮されるものとされています。
清算的財産分与は、夫婦が共同生活を送るために取得した財産は名義や原資にかかわらず実質的には夫婦の共有財産であるとして、これを離婚に伴い分け合い清算するものです。
この記事で「財産分与」という場合は、基本的にはこの清算的財産分与を指すものとします。
遺産分割とは?
遺産分割とは、被相続人(亡くなった方のことです。)の遺産を相続人の間で分ける手続きのことです。
遺産とは、被相続人が残した財産のことです。
財産分与と遺産分割との違い
財産分与と遺産分割は、財産を分け合うものである点は同じですが、分け合う対象や登場人物、問題となる場面は次のように異なります。
財産分与 | 遺産分割 | |
---|---|---|
対象 (何を分け合うか) |
夫婦が婚姻中に協力して取得した財産 | 遺産 |
登場人物 (誰と分け合うか) |
夫又は妻 | 他の相続人 |
問題となる場面 (いつ行うか) |
離婚したとき | 相続が開始した時から |
対象(何を分け合うか)
財産分与の対象となる財産は、「夫婦が婚姻中に協力して取得した財産」です。
夫婦は協力して生活を送るものとされていますから、夫婦が婚姻中に取得した財産は、夫婦の一方の名義になっている場合であっても、原則として財産分与の対象となります。
ただし、夫婦の一方が贈与や相続などによって取得した財産は、夫婦の協力によって取得したものではないため、婚姻中に取得したものであっても財産分与の対象にはなりません。
一方、遺産分割の対象は「遺産」です。
遺産とは、お亡くなりになられた方が残した財産のことをいいます。
お亡くなりになられた方が有していた一切の権利義務が含まれます。
ただし、一身専属権などは除かれます。
一身専属権とは、その亡くなった方でなければ、成立しない、又は、認められるべきでないような権利・義務のことをいいます。
例えば、雇用契約における従業員の地位、などがあります。
登場人物(誰と分け合うか)
財産分与は、夫婦の財産を分け合うというものですから、分け合う相手は夫又は妻となります。
(財産分与の効力が生じるのは離婚後ですから、厳密には「元夫」又は「元妻」となります。)
一方、遺産分割は他の相続人(共同相続人)と遺産を分け合います。
相続人とは、亡くなった方の遺産を引き継ぐ(相続する)人のことをいいます。
相続人の範囲は法律で定められており、亡くなった方の家族関係などによって決まります。
例えば、亡くなった方に配偶者(夫又は妻)と子どもがいる場合は、配偶者と子どもが相続人となり、配偶者や子どもはおらず両親がいるという場合は、両親が相続人となります。
ただし、相続人となる人が相続を辞退したり、亡くなった方よりも先に亡くなっていたりする場合は、別の人が相続人となることがあります。
したがって、最終的に誰が相続人になるかは、その時々の状況によっても異なります。
なお、相続人が1人しかいない場合は、その1人が亡くなった方の財産の全てを相続します。
そのため、相続人が1人の場合は遺産分割はありません。
問題となる場面(いつ行うか)
財産分与は、夫婦が婚姻中に築いた財産を婚姻の解消に当たって清算するものですから、夫婦が離婚をするときに行います。
離婚をしないと行うことはできませんが、離婚と一緒に財産分与を請求し、財産分与の取り決めをしてから離婚を成立させることは可能です。
ただ、この場合でも、財産分与の効力が生じるのは離婚成立後となります。
一方、遺産分割は、遺産を共同相続人で分け合うものですから、相続が開始した時から行うことができます。
相続開始の時とは、被相続人(財産を残してお亡くなりになった方)がお亡くなりになった時点です。
財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻中に協力して取得した財産です。
夫婦は協力して生活するものであるため、婚姻中に取得した財産は、夫婦の一方の名義で取得したものであっても、一方の収入を原資に取得したものであっても、実質的には夫婦の共有財産ということができます。
この夫婦の実質的な共有財産が財産分与の対象となります。
例えば、預貯金、家などの不動産、保険金(解約すると解約返戻金が発生するもの)、株式等の有価証券、自動車、退職金などです。
住宅ローンなど、夫婦の財産形成や生活のための負債も夫婦のマイナスの財産と扱われます。
ただし、マイナスの財産はそれ自体独立して財産分与の対象になることはなく、プラスの財産から差し引くなどの形で財産分与において考慮されることになります。
また、財産分与の対象となる財産は、「基準時」に存在する財産に限られます。
「基準時」とは、財産分与の対象となる財産を確定させる時点のことで、原則として「別居時」となります。
別居した時点で夫婦の協力関係が終了するのが通常だからです。
別居をせずに離婚をしたという場合は、「離婚時」が基準時となります。
基準時以降に取得した財産は、離婚前に取得したものであっても、財産分与の対象には原則なりません。
財産分与の対象とならない財産
夫婦の一方が名実ともに独自に持っている財産を「特有財産」(とくゆうざいさん)といいます。
特有財産は、財産分与の対象とはなりません。
特有財産には、次のようなものが該当します。
- ① 夫婦の一方が婚姻前に取得した財産(独身時代の預貯金など)
- ② 夫婦の一方が贈与や相続などによって取得した財産(遺産など)
- ③ 夫婦の合意によって特有財産とした財産(仕事道具や服飾品等の専用財産など)
①と②は、夫婦の協力によって取得したものではないため、財産分与の対象にはなりません。
相続した遺産は財産分与の対象ではない
夫婦の一方が相続によって得た財産(遺産)は、特有財産に該当し、財産分与の対象にはならないのが原則です。
ただし、例外的に財産分与の対象となる場合もあります。
例外的に対象となる場合がある?
次のような場合は、夫婦の一方が相続した遺産であっても財産分与の対象となることがあります。
夫婦の一方が相続した遺産であっても、夫婦の協力によって維持された場合(他方の協力なしには維持できなかったような場合)は、財産分与の対象になることがあります。
例えば、夫が相続した不動産を、妻が自分の独身時代の貯金から修理代を出すなどして維持管理をしていたような場合、その不動産の全部又は一部が財産分与の対象となる可能性があります。
なお、単に不動産を維持管理していたというだけでは財産分与の対象とすることは認められず、具体的な寄与・貢献が必要とされる傾向にあります。
夫婦の一方が相続した遺産を夫婦が協力して運用し、利益を得た場合は、その利益の部分が財産分与の対象となることがあります。
例えば、夫が相続した株式を、妻が運用(売り買い)して収入を得たような場合、その収入部分については財産分与の対象となる可能性があります。
遺産が夫婦の財産と混同して見分けがつかなくなってしまった場合は、夫婦の財産と扱われて財産分与の対象となります。
例えば、夫が500万円の現預金を相続し、そのお金を夫婦の生活費のための口座(当時残高500万円)に入金したとします。
入金時点では、残高1000万円のうち、500万円が特有財産で、500万円が夫婦の財産であることは明らかです。
しかし、その後、同口座から生活費が引き出されたり、夫婦双方の給料が入金されたりするのを繰り返し、基準時までの間に、残高が500万円を下回わることもあれば、1000万円を上回ることもあったという場合はどうでしょうか。
基準時の時点では、特有財産と夫婦の財産は渾然一体となり、特有財産がどの部分かを特定するのは困難でしょう。
このように、特有財産と夫婦の財産の見分けがつかなくなった場合は、特有財産としての性質が失われ、全体が夫婦の財産であると扱われることになります。
相続があった場合の財産分与の注意点
遺産であることの証明が必要となる
ここまで説明したように、夫婦の一方が相続によって取得した財産は、特有財産として財産分与の対象にはならないのが原則です。
ただし、特有財産であるかどうかは、特有財産だと主張する側が証明する必要があるとされています。
したがって、財産分与の際、自己名義の財産に遺産がある場合は、それが遺産であること(=特有財産であること)を裏付ける証拠が必要となります。
遺産分割協議書は大切に保存しておく
他の相続人と遺産分割協議をした場合は、遺産分割協議書が作成されるのが通常です。
遺産分割協議書は、財産分与の際、ある財産が遺産であること(=特有財産であること)を裏付ける証拠となるため、大切に保存しておくようにしましょう。
調停や審判など、裁判所の手続きで遺産分割をした場合は、裁判所が作成する調停調書や審判書という書類が証拠となります。
不動産は登記簿謄本などを準備する
不動産を相続した場合は、相続を原因とする所有権移転登記がされているはずです。
そのため、登記簿謄本などによって、その不動産を相続によって取得したこと(=特有財産であること)を証明することができます。
現預金を相続した場合は夫婦の財産とは分けておく
現預金を相続した場合は、夫婦のお金とは別々に管理しておくようにしましょう。
独身時代にしか使っていなかった口座や新たに開設した口座などに入金し、夫婦の財産と明確な区別がつくようにしておくことがポイントです。
自分の給与口座や生活費のための口座に入金してしまうと、夫婦の財産と渾然一体となって見分けがつかなくなる恐れがあります。
そうすると、遺産を入金した口座の基準時における残高がそのまま財産分与の対象と扱われる可能性もあるので注意しましょう。
預貯金は取引履歴を取り寄せる
相続したお金が給与口座や生活費のための口座に入金されている場合でも、まずは取引履歴を取り寄せ、入出金状況を精査するようにしましょう。
遺産の部分を区別することができれば、その部分は特有財産であると主張することが可能です。
また、明確に区別ができなくても、一部を特有財産と扱うことについて相手と合意ができるケースもあります。
財産分与に強い弁護士に相談する
相続で得た財産があり、財産分与の対象になるかどうかわからないという場合は、財産分与に強い弁護士に相談されることをお勧めします。
相続で得た財産は、特有財産として、原則として財産分与の対象にはなりません。
しかし、特有財産であることは、特有財産であると主張する側が立証する必要があります。
立証に必要な証拠やその収集方法は事案により異なりますので、弁護士に具体的なアドバイスをもらうとよいでしょう。
また、相手名義の特有財産であっても、具体的な状況によっては例外的に財産分与の対象とするべき場合もあります。
ある財産が財産分与の対象となるか否かは、財産分与でもらえる財産・渡す財産の内容に大きな影響を及ぼしますので、離婚専門の弁護士に相談し、慎重に検討するようにしましょう。
まとめ
以上、財産分与と相続の関係について解説しましたが、いかがだったでしょうか。
財産分与は、離婚の際に夫婦の財産を分け合うものです。
相続は、亡くなった方の遺産を引き継ぐものであり、遺産分割は、遺産を相続人の間で分け合うものです。
相続で取得した財産(遺産)は、財産分与の対象にはならないのが原則です。
財産分与の対象を正確に把握することは、財産分与で財産をもらう側にとっても、渡す側にとっても重要なポイントとなります。
お困りの場合は離婚専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
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