医師・医者の離婚の財産分与はどうなる?弁護士が解説

  
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

医師の場合も、離婚時に財産分与が必要となります。

医師の場合、高額所得者が多いため結婚している期間に形成する資産も多くなる傾向です。

このページでは、医師のケースにおいて、どのような財産が財産分与の対象となるか、財産分与の割合はどうなるか、注意点、ポイントについて、医師の財産分与に強い弁護士がわかりやすく解説していきます。

医師の財産分与でお困りの方は参考になさってください。

財産分与とは

財産分与とは、離婚する際に、夫婦が結婚生活の中で協力して築き上げた財産を公平に分配することをいいます。

基本的には、離婚する前に取り決めることになります。

離婚後でも請求することは可能ですが、期間制限(原則として2年間)がありますので注意が必要です。

財産分与でもっとも大切なことは、対象となる財産を洗い出すということです。

財産分与について、詳しくはこちらのページで解説しています。

 

 

医師・医者に特有の財産の調査、評価方法

まず、医師の場合、保有する財産の範囲が広く、かつ、高額化するため、財産分与の対象となる財産を正確に確定し、かつ、適切に評価する必要があります。

通常、財産分与では、以下のような財産が対象と考えられます。

 

財産分与の対象となる財産

医師の場合、一般世帯以上に資産を有していることが多いため、まずは上記の財産を正確に把握することが重要となってきます。

特に、医師の場合、②動産(家財道具等)、⑤有価証券(出資)、⑦退職金(将来受け取るもの)について、注意が必要ですので、ここではこの点に絞ってご説明します。

動産(家財道具等)

動産は、通常は時価評価額は乏しく、財産分与について、あまり問題となりません。一般世帯では、問題となったとしても、夫婦のどちらが希望の家財道具(例えば、テレビ、タンスなど)を手に入れるか、というレベルです。しかし、医師の場合、夫婦の一方が、高価な時計、宝石等の貴金属を保有している場合が見られます。

したがって、これらを忘れることなく、対象財産に含めることが必要です。

そして、これらを適切に時価算定しなければなりません。

 

有価証券(株式等)〜医療法人は出資持分に注意〜

有価証券については、当事者が保有する株式等が対象となってきます。

また、医師の場合、ゴルフを趣味とされている方が多くいらっしゃいますが、ゴルフ会員権等も対象となるので注意が必要です。

さらに、医師の場合、自らが経営する医療法人への出資持分があれば、その出資持分も財産分与の対象となることがあるため注意が必要です。

 

医療法人の出資持分とは?

医療法人とは、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設することを目的として、医療法の規定に基づき設立される法人です。

医療法人の中には、出資持分のある医療法人とそうでない医療法人があります。

出資持分のある医療法人は、その定款に出資持分に関する定め(通常は、①社員の退社に伴う出資持分の払戻し、及び、②医療法人の解散に伴う残余財産の分配に関する定め)を設けています。

例えば、夫が医療法人の理事長で、妻を理事としている医療法人の場合、夫だけではなく、妻も名目上、出資しているケースが多くあります。

夫が理事長ではなくても、例えば夫の父親が理事長である等の場合、夫名義で出資している場合が多く見られます。
医療法人への出資は、当該医療法人が不動産(医院)等の高額資産を保有していることが多いため、1口あたりの評価額が高額になることもあります。

また、医師は出資口数が多いことがほとんどであるため、出資だけでも莫大な財産となります。

したがって、医師の出資については、財産分与の対象となるかどうかについて、必ずご検討ください。

 

医療法人の出資持分の調査・評価方法とは?

①医療法人の出資持分の調査方法

調査方法としては、まず、相手方に対して、財産分与の基準時(通常は別居時)における出資持分の有無と内容についての開示を求めることが考えられます。

相手方の出資持分が100パーセントの場合、特に証明資料は不要と思われます。

しかし、相手方が一部しか保有していないと主張する場合、その真偽についての調査が問題となります

すなわち、同族会社の場合は、決算報告書添付の「同族会社等の判定に関する明細書」を証明資料として活用する方法がありますが、医療法人では同明細書が作成されていないため、証明調査の入手が問題となります。

医療法人名で出資についての証明書を発行してもらう方法が考えられますが、相手方が当該法人を経営している場合、虚偽の書面を作文する可能性が排除できず、当該書面の信用性に疑義が生じることが想定されます。

平成19年の法改正以前は、出資持分のある医療法人を設立する際、「医療法人設立認可申請書」に「出資申込書」を添付して都道府県に提出することが求められていました。

この出資申込書には出資持分が明記されているので、その写しを証明資料として開示してもらう方法が考えられます。

この際、相手方から当該文書の写しを保管していないと回答されることも予想されます。

この場合、当該文書は、行政(都道府県又は保健所)に保存されている可能性があるので、各自治体の情報公開制度を利用して開示請求するよう相手方に促しみてもよいでしょう。

 

②第三者の出資持分について

夫婦以外の第三者の出資持分については、原則として財産分与の対象とはなりません

しかし、裁判例の中には、第三者の出資持分でも財産分与の対象となることを認めたものもあります。

判例病院経営者の財産分与についての裁判例(大阪高判平26.3.13)

【当事者】

被控訴人:妻
控訴人:夫(医療法人経営、年収:約3600万円)
子供:長男、二男

【事案の概要】

    1. ① 本件は、控訴人の配偶者である被控訴人が、控訴人に対し、控訴人の言動等や一方的な別居により婚姻関係が破綻したと主張して、民法770条1項5号に基づく離婚及び財産分与等の支払いを求める本訴を提起したのに対し、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人は家事を十分せず、控訴人が開設した診療所の経営に協力しなかったと主張して、民法770条1項5号に基づく離婚等の支払を求める反訴を提起した事案である。
    2. ② 原審は、離婚を認容し、財産分与として、1億4227万2942円等の支払を命じた。原審は、財産分与に関し、3000口の出資のうち2900口が夫、50口が妻、50口が夫の母の名義とされている医療法人につき、3000口の出資持分全てを財産分与の基礎財産として考慮し、当該医療法人の純資産価額全額をその評価額とした。そして、寄与割合については夫6割、妻4割と評価し、夫に対し、財産分与金の支払を命じた。
    3. ③ 財産分与の支払い等を不服とする控訴人が控訴し、控訴人は、夫の母名義の出資持分は財産分与の対象にならない、当該医療法人からの退社又は当該医療法人の解散により出資の払戻し又は残余財産の分配が現実化するまでに高額な医療機器に係るリース契約の締結などの不確定的なリスクが存在するから、現時点で出資持分の評価をすることは不可能、純資産価額の算定に当たって将来発生する退職金債務や税金を控除すべき、財産分与金の即時支払を命ずるのなら、想定される退社時あるいは解散時までの中間利息を控除すべき、財産分与金の支払期は退社時又は解散時とすべきなどと主張した。

本判決は、財産分与について、
「控訴人は、被控訴人に対し、1億1640万6281円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と判断しました。

【大阪高判平26.3.13】

この裁判例は、法人化する前から夫が診療所を経営しており、当該診療所と医療法人との間で、実質的な管理、運営の実態に変化がなかったこと等を考慮して、夫の母親名義の出資持分も財産分与の対象としました。

判旨からは明らかではないですが、おそらく、夫の母親の出資持分は単なる名義貸しであり、実際に母親からの出資はなかったものと思われます。

このような夫婦の実質的共有財産を法人名義の資産とした可能性があるケースでは、形式上第三者名義であっても財産分与の対象となる可能性を検討すべきでしょう。

 

③出資持分の評価方法について

企業価値を定量的に算定する方法としては、1つの決定的な正解があるわけではなく、さまざまな手法があります。

上記裁判例において、夫側は収益還元法によって評価すべきであると主張していたようですが、本判決は純資産価額の70パーセント相当額をもって評価額と判断しました。

出資持分の評価にあたっては、相続税額算定のための評価方法をもとに評価する方法も考えられます。

しかし、財産分与は、相続時という一定の時点における資産価値を評価する相続税の課税の局面とは異なります。

本判決は、財産分与の後に出資持分を保有し続けることが想定される事案において、様々な不確定要素を考慮した上で、純資産価額から一定割合を減じて評価した点で、柔軟な対応を行ったものと捉えられます。

弁護士決して医療法人の出資持分が問題となるすべての事案の指標となるものではありませんが、同種事案に対応する上で有益な視点を提供するものといえるでしょう。

出資持分を評価するためには、基本的には財務諸表(決算書)が必要となります

そのため、評価の前提として、医療法人の財務諸表を確認することが必要となります。

しかし、相手方が医療法人を経営している場合、任意に開示に応じてくれないケースもあります。

このようなケースでも、筆者の経験上、協議段階であれば相手方弁護士を通じて、調停や訴訟の段階であれば裁判所等を通じて相手方に説得を試みることで、任意に開示に応じてくれることも多いです。

なお、医療法人の場合、履歴事項全部証明書を取り寄せることで、資産の総額を把握することが可能です。

これは、貸借対照表でいうところの純資産に相当するものです。

したがって、万一、相手方が財務諸表を頑なに開示しない場合は、履歴事項全部証明書をもとに、出資持分を評価するという手法も考えられます。

 

退職金

医療法人を経営している場合、理事長は、あくまで役員であり、従業員ではないことから、退職金がないと誤解されている方もいらっしゃいます。

しかし、医療法人の多くは、将来、理事が退任するときに退職金を支給するために医療法人を契約者、理事を被保険者として保険(長期平準定期保険や逓増定期保険等)を掛けていることが多く見られます

医療法人がこのような形で保険を掛けているのは、節税目的が大きな理由です。

すなわち、多くの医療法人は経営状況がよいことから、役員報酬として支給するよりも、保険とすれば、その保険料の2分の1から4分の1程度を損金として処理できます。

そして、理事にとっても、現時点で役員報酬として受け取るよりも、将来、退任するときに退職金として受け取ったほうが税制上有利になります。

したがって、医療法人では、理事に退職金が支給される可能性が高いのです。

しかも、理事の退職金の額は、かなり高額になります。

そのため、退職金も財産分与の対象とすることを忘れないようにしなければなりません

上記のような財産について、その存在を調査したり、評価するには、高度な専門的知識が必要となります。

したがって、離婚問題を専門とし、かつ、財産分与を得意とする弁護士にご相談されることをおすすめします。

その他、財産分与の対象財産の調査方法や評価方法についてはこちらからどうぞ。

 

 

医師・医者の場合も財産分与の割合は2分の1か?

共働き夫婦の場合に限らず、妻が専業主婦の場合であっても、財産分与の割合は原則として2分の1です。

実務上、これを2分の1ルールといいます。

では、一方配偶者が医者で、個人の特殊な能力や努力によって高額の資産形成がなされたような場合にも、相手の要求に応じ、財産の半分を渡さなければならないのでしょうか?

答えは否です。

そもそも、財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して形成・維持してきた共同財産を、離婚を機に精算・分配するものです(精算的財産分与)。

したがって、共同財産に対する夫婦の寄与の程度、婚姻中の協力及び扶助の状況、職業、収入その他一切の事情を考慮して定めるべきです。

実際の事例においても、2分の1ルールを適用しなかった事例があります。

 

医者の離婚問題事例

判例 2分の1ルールを適用しなかった事例

夫が医療法人の理事長として医療施設を経営し、多額の資産(総額約1億円の財産)を有する事案。


「夫が多額の資産を有するに至ったのは、妻の協力もさることながら、夫の医師ないし病院経営者としての手腕・能力によるところが大きい」と認定し、2分の1を基準とせず、妻に2000万円の支払を命じた。

【福岡高裁昭44.12.24】

もっとも、2分の1ルールが適用されるか否かは、個別具体的な事情によりますので、くわしくは離婚専門の弁護士にご相談ください。

 

 

医師・医者の財産分与の方法のポイント

一方が医師の場合、他方の名義で医療法人に出資しているケースが多く見られます。

例えば、夫が父の経営する医療法人の理事で、40パーセントを出資し、妻が10パーセントを出資しているようなケースです。

このような場合、妻の出資をどうするか、財産分与で取り決めておかないと大変なことになります。

すなわち、出資について、取り決めをせずに、協議離婚を成立させた場合、妻は10パーセントの持分を保有したままであり、後々医療法人に対して、出資の払い戻しを請求できることになります。

夫としては、離婚したから妻は社員ではないと考えることが多々あります。

しかし、離婚と医療法人に対する関係は、まったく別なのです。

妻にしても、医療法人の経営など望んではいないでしょう。

そこで、このような場合は、出資を財産分与の対象として、離婚協議の中で、妻が夫に適切な時価で買い取ってもらうなどを取り決めておくべきです。

 

 

まとめ

以上、医師の離婚問題について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。

医師の場合、保有資産や所得が高額であることから、財産分与等の問題が複雑化する傾向にあります。

そのため、離婚問題の中でも、特に難易度が高く、適切な解決のためには専門知識が必要となります。

当事務所の離婚事件チームは、医師の離婚事案について、専門知識とノウハウを共有しております。

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