財産分与で車はどうなる?ローンの扱いや必要な手続きを解説
結婚後に購入した車については、離婚するとき財産分与の対象となります。
また、結婚前に購入した車であっても、結婚後にローンを支払っている場合も、一定程度財産分与の対象となると考えられます。
財産分与では、結婚中に夫婦で築いた様々な財産が対象となります。
その中でも、結婚中に購入した車について、財産分与で揉めるケースは非常によく目にします。
車は、名義人を登録する必要があったり、購入時にローンを組むことがあったりと、不動産に近い財産的な性質を持っています。
そのため、財産分与をするにしても、登録名義をどうするかだったり、離婚後のローンの支払いをどうするかなどなど、考えるべきポイントも多岐に渡ります。
この記事では、自動車の財産分与に絞って、財産分与の注意点をどこよりも詳細に説明していきます。
目次
財産分与とは?
財産分与は、離婚時に夫婦が結婚生活で築いた財産を分け合う制度です。これは、夫婦の公平を保つための制度であり、民法第768条で規定されています。
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。(以下略)
引用:民法|電子政府の窓口
財産分与には、大きく3つの内容があります。
財産分与の内容 | 定義 | 適用例 |
---|---|---|
清算的財産分与 | 結婚生活で夫婦が「協力して」築いた財産を公平に配分するための財産分与。 | 共同で取得した財産や収入を均等に分ける場合。 |
扶養的財産分与 | 配偶者の経済的弱者に対して、離婚後も生活を維持するための財産分与。 | 収入格差が大きく、一方が経済的に不安定な場合。 |
慰謝料的財産分与 | 配偶者が離婚により受けた心理的苦痛や損害を補償するための財産分与。 | 配偶者の不貞行為や虐待が原因で離婚し、相手方に補償を求める場合。 |
このうち、一般に「財産分与」と言うと、清算的財産分与を指すことが多いです。
この記事では、(財産分与=清算的財産分与)を指して説明していきます。
財産分与では、原則として、特段の事情がない限り、2分の1ずつの割合で公平に分与することになります。
例外として、一方の収入が非常に多く、その理由が稼働する一方の特別な資格や能力による場合(野球選手、お医者さんなど)では、財産分与の割合を調整することもあります。
財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となるのは、結婚生活で夫婦が協力して築いた「夫婦共有財産」です。
夫婦の名義にかかわらず、以下のような財産が対象になります。
- 預貯金や現金
- 不動産(家など)
- 保険金
- 株式等の有価証券
- 自動車
- 退職金
- 借金
専業主婦など収入がない一方でも、家庭内での労働や育児などを通じて、家計に貢献していると評価されるため、収入が夫名義であっても夫婦共有財産として分与の対象となります。
特有財産とは?
特有財産とは、結婚生活とは無関係に一方が得た財産です。
たとえば、結婚前からの貯蓄や相続で得た財産が該当します。
特有財産は夫婦共有財産ではないため、離婚時に分与の対象にはなりません。
また、結婚生活中に特有財産で購入した財産も同様に分与対象外です。
ただし、特有財産を結婚前に夫婦間で共有財産とすることを合意した場合は、分与の対象となります。
この合意を「夫婦財産契約」といいます。
車は財産分与の対象となるの?
財産分与の対象となるケース
とある財産について、財産分与の対象となるかどうかは、「結婚生活で夫婦が協力して築いた財産」といえるかどうかで決まります。
夫婦は、結婚すると、お互いに協力して結婚生活を営む義務が生じます。
そのため、「結婚中に取得した財産」であれば、夫婦いずれの名義であろうと、基本的に「夫婦が協力して築いた財産」として、財産分与の対象となります。
このように、結婚中に夫婦の協力によって取得したけど、名義が夫婦の一方になっている財産のことを、「実質的共有財産」と言います。
自動車についても、結婚中に購入されたものであれば、夫婦のいずれの名義であったとしても、財産分与の対象となります。
財産分与の対象とならないケース
結婚前に購入した車は財産分与の対象?
結婚前に購入した財産は、「結婚生活で夫婦が協力して築いた財産」にはあたりませんので、原則として、購入した者の特有財産となります。
しかし、自動車の代金の支払いでは、「一括払い」ではなく、「ローン払い」の方法も広く利用されています。
「一括払い」ではなく、「ローン払い」で購入した場合、「購入したのは結婚前だけど、結婚中にもローンを支払っていた。」ということが起こり得ます。
この場合、結婚後の給与等からローンの支払いをしていた場合には、結婚期間中に支払ったローン金額に相当する分については、原則として財産分与の対象となります。
具体例で考えてみましょう。
Aさんは、結婚するまでに100万円のローンの支払いをして、残りの200万円は結婚中に完済しました。
Aさんは、離婚する時に車を査定に出したところ、車の価値(時価)は150万円まで落ちていました。
この場合、購入代金300万円のうち、結婚前に支払った100万円(購入代金の3分の1)のローンについては、結婚前の財産から支払っていることになりますので、夫婦の協力はありません。
そのため、車の時価の3分の1(50万円)については、財産分与の対象ではない特有財産になります。
一方で、結婚後に完済した200万円については、結婚後も一方の特有財産から支払われていたなどの特別の事情がない限り、夫婦の共有財産から支払われたことになります。
したがって、車の時価の3分の2(100万円)については、財産分与の対象となる共有財産に当たることになります。
★財産分与では、財産の価値は購入代金ではなく、離婚時点の時価で考えることになります。
財産というのは、経年劣化や使用状況によって、価値が随時変化していくものです。
また、購入代金には、物それ自体の価値の他にも人件費や輸送費などの付加価値が含まれています。
そのため、購入時の価格をもとに代償金を決めると、夫婦の一方に不公平な財産分与になってしまいます。
財産分与の時点では、購入時の価格ではなく、離婚時点の時価をもとに価値を評価するようにしましょう。
自動車の他にも、財産価値の評価が重要なものとしては、不動産、株式、外貨預金などが挙げられます。
特に、不動産や外車については、購入時の価格よりも、離婚時の価格の方が高くなっている場合も少なくありません。
査定を取る手間はかかりますが、後腐れのない公平な財産分与をする上で、きちんと査定を取ってから財産分与の協議を始めるようにしましょう。
別居後に取得した車はどうなる?
別居後に取得した財産は、「結婚生活で夫婦が協力して築いた財産」には当たりません。
そのため、別居後に購入した自動車は、その人の特有財産にあたり、原則として財産分与の対象にはなりません。
もっとも、別居後に関係が修復して、夫婦生活を再開したなどの事情があれば、一時的な別居中に購入した財産は、なお夫婦が協力して築いたと評価できますので、財産分与の対象となり得ます。
親が買ってくれた車はどうなる?
親が子供のために購入した車については、夫婦の共有財産から購入したものではありませんので、買ってもらった側の特有財産となるのが原則です。
ですが、目的によっては、特有財産ではなく財産分与の対象となる場合があります。
親が車を購入した目的が、夫婦の一方にプレゼントしたものであれば、「結婚生活で夫婦が協力して築いた財産」とは言えないため、特有財産となります。
一方で、夫婦の結婚生活のために購入されたものであれば、名義が夫婦のどちらであったとしても、財産分与の対象となる余地があります。
カーリースの車はどうなる?
カーリースでは、車の所有権はリース会社にあります。
夫婦が支払っているのはリース料金であり、車自体の所有権を取得しているわけではありませんので、リース会社から買い取るなどの特別な事情がない限りは、財産分与の対象とはなりません。
一方で、離婚後に夫婦のどちらかが今後も車を使用したい場合には、使用したい側がリース契約を継続し、リース料金の負担も引き受けるという形が考えられます。
ただし、リース契約の名義変更が必要になるため、リース会社の承認が必要です。
リース会社が契約の引き継ぎを認めない場合もあるため、引き継ぎが難しい場合には車をリース会社に返却して、夫婦間で返却時の残債の清算を検討することもあります。
財産分与における車の評価方法とは?
財産分与における車の評価額は、売却金額から自動車の残ローンを差し引いた金額となります。
自動車ローンの残額が、車の査定額(売却代金)を下回っている状態のことを「アンダーローン」と言います。
この場合、査定額(売却代金)からローン残額を差し引いた金額が、車の財産的価値となります。
例えば、車の査定額(売却代金)が200万円、ローン残額が120万円の車の財産的価値は、80万円(200万円 - 120万円)となります。
アンダーローンは、次に説明するオーバーローンと比べると、財産分与の方法は単純です。
売却後に残った現金を夫婦で分けたり、財産価値と同じ代償金を払うことで夫婦の一方が自動車を取得するなどの選択肢があります。
上記の具体例で説明すると、次のように清算します。
- 【売却する場合】
売却して得た200万円から残ローンの120万円を完済し、残った80万円を夫婦でそれぞれ半分ずつ取得します。 - 【夫婦の一方が取得する場合】
取得する側が残ローンを引き受けて、代償金として他方に80万円を支払うことで、自動車を取得します。
一方で、車のローン残額が、査定額(売却代金)を上回っている状態のことを「オーバーローン」と言います。
例えば、時価が100万円の車に対して、200万円のローンが残っているようなケースです。
その他にはめぼしい財産はないものとします。
このようなケースでは、自動車の査定額(売却代金)よりも、ローン(借金)の方が多いことになりますので、そもそも財産分与の対象となるプラスの財産が存在しないこととなります。
また、ローンなどのマイナスの財産は分けることができませんので、残ローンの支払いは離婚後もローンの名義人が負うことになります。
なお、その他にプラスの財産(預貯金等)があれば、残ローンを控除して計算することになります。
頭金を特有財産で支払っている場合
車の購入代金の一部を特有財産から支払っている場合には、特別な考慮が必要です。
離婚時の評価額をそのまま共有財産として財産分与を行うと、特有財産を支出した側にとって、不公平な財産分与になってしまうからです。
次のような事例をもとに検討しましょう。
事例 離婚する夫婦であるAさんとBさんは、結婚後に自動車を300万円で購入しました。このうち、頭金の100万円はAさんが結婚前の貯金から支払い、残り200万円は結婚後の夫婦の貯金から支払いました。
離婚前に車を査定に出したところ、300万円の査定結果が出ました。
このケースで、Aさんは車の代金のうち100万円をAさんの特有財産から支出していますので、車の価値のうち100万円はAさんの特有財産となります。
そして、300万円からAさんの特有財産である100万円を引いた、200万円が財産分与の対象となる共有財産となるのです。
今回は、購入時の価値と、離婚時の価値が変わっていないという想定で説明しました。
しかし、実際のケースでは、購入時の価格から離婚時には、年数の増加や事故や経年劣化などから、車の価値が大きく下がっている場合が多くあります。
その場合には、特有財産部分の価値というのも同じように下がることになるため、価格の下げ率を考慮して金額を計算する必要が出てきます。
このうち、頭金の100万円はAさんが結婚前の貯金から支払い、残り200万円は結婚後の夫婦の貯金から支払いました。離婚前に車を査定に出したところ、150万円の査定結果が出ました。
このケースで、Aさんは車の代金のうち100万円をAさんの特有財産から支出していますので、車の価値のうち100万円はAさんの特有財産となるように思えます。
しかし、車の価値自体が、元々の300万円から150万円に下がっています。
300万円→150万円 = 2分の1に価値が減少しています。
そうだとすると、Aさんの特有財産である100万円部分についても、同じように価値が減少していることになります。
100万円の2分の1 = 50万円
そのため、150万円の査定額のうち、50万円を差し引いた100万円が夫婦の共有財産となります。
財産分与で車を分ける手続き
車の共有財産としての価値が定まったところで、具体的な財産分与はどのように行われるのか説明します。
車の財産分与の具体的な場面としては、次の3パターンが考えられます。
車を売却して、売却益があれば、これを分与します。
売却時にローンが残っている場合には、ローン残額や売却手数料を差し引いた金額が売却益になります。
オーバーローンであれば、売却益は発生していないことになりますので、売却時に受け取った金銭があっても、それは財産分与の対象とはなりません。
受け取った売却代金は、ローン名義人が全額取得し、足りない残ローンはそのままローン名義人が支払い続けることになります。
車の名義人が車を取得する場合には、財産分与における車の評価方法とは?で説明したように、財産分与の対象となる車の評価額を算定します。
車の名義人は、本来売却したら得ることができた財産分与の金額を代償金として相手方に支払うことで、車を取得することができます。
このとき、残ローンがあれば、ローン名義人が支払いを継続します。
車の登録名義人と、車の取得車が同じではない場合には、車を取得する際に、車の登録名義を変更する必要があります。
また、ローン名義人が取得者ではない場合には、ローンの名義変更をするかどうかも検討が必要です。
専業主婦(夫)で安定した給与を受け取っていなかった場合には、ローンの名義変更ができないことがあるため、車の取得に当たっては、夫婦の離婚後の経済面も考慮した上で、どちらが取得するのか決めなければなりません。
名義変更が難しい場合には、ローン残額相当の代償金を支払う方法もあります。
例えば、夫名義のローンが100万円残っているとしたら、妻が夫にその分を代償金として支払い、実質的に車の引き継ぎを完了させるという方法です。
ただし、代償金がローン返済に必ず使われる保証はなく、夫がローン支払いを止めた場合には、財産分与で取得した車が差し押さえられてしまうリスクもありますので注意が必要です。
財産分与と車についてのQ&A
車の査定はどこに頼めばいいの?
当事者が納得するのであれば簡易査定でも問題はありませんが、評価額で揉めないように、相見積もりを取ったり、現地査定の方法を使うのがおすすめです。
査定の方法としては、主に次の3つが挙げられます。
- ① 持ち込み査定
- ② 出張査定
- ③ 一括査定
「持ち込み査定」は、買取業者の店舗に直接持ち込み、その場で査定をしてもらう方法となります。
実際に査定に立ち会って、車体の傷やエンジンなどの状態を見て査定額を出しますので、一括査定よりも信頼性のある査定が行われます。
また、査定金額に満足するのであれば、その場で即決して車を売ることもできます。
事前予約が必要な店舗もありますが、予約せずに店舗に持ち込んで査定を依頼しても、その場で対応してくれる買取業者がほとんどです。
そのため、持ち込み査定は、買取業者に車を持ち込めば、すぐに正確性の高い査定をしてくれるので、急いで査定書が必要な場合には最も簡便な方法になります。
「出張査定」は、家や職場など、指定した場所に買取業者の査定士に来てもらう方法です。
この方法は、自分で買取店に行く必要がないというメリットがあります。
また、持ち込み査定と同様、車の状態をみて査定額を決めますので、一括査定よりも信用性の高い査定結果が得られます。査定額に満足がいけば、そのままを引き取ってもらうことも可能です。
農村部など一部のエリアでは、出張査定を行っていない場合もありますので、ご注意ください。
基本的には、出張査定は無料で行っている業者がほとんどですが、念の為、無料か有料かは電話で事前に確認しておきましょう。
「一括査定」は、インターネット上で車種や年数を記載することで、複数の販売店からまとめて査定を行ってもらえるというものです。
この方法は、「持ち込み査定」や「出張査定」をしたいけど、配偶者が車を管理していて自分では査定に出すことができないという場合や、とりあえず車種としての価値を調べたいという方には向いています。
一度ネット上で査定を申し込むと、何社もの買取業者が査定を出してくれるので、相見積もりも簡単に取ることができます。
もっとも、一括査定では、直接車の状態をみた上で査定をする訳ではありませんので、「持ち込み査定」や「出張査定」ほどに正確な査定とは言えないでしょう。
また、一括査定した業者が、査定金額で買い取ることを保証したりもしませんので、高額な査定を出す業者が多い傾向にあります。
以上のように、それぞれの査定方法にメリット・デメリットがあります。
財産分与では、夫婦間で車の査定額が争点となっているのかを見極めて、より適した査定方法を選択しましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は、自動車を財産分与する方法について、様々なケースを想定して説明しました。
ここまで説明した通り、結婚後に購入した車は、原則として、財産分与の対象となります。
また、結婚前に購入した車であっても、結婚後にローンを支払っている場合も、財産分与の対象となることがあります。
自動車は、財産分与の対象財産としてはメジャーな財産ですが、ローンの残額や特有部分があるかといった特別な考慮が必要となる点で、分与方法が難しい財産でもあります。
何気なく査定書だけを見て、代償金の金額を決めてしまうと、双方にとって不測の事態が生じる可能性がありますので、少しでも不安がある時は、財産分与に詳しい専門家に相談に行かれるのをおすすめします。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?