経済的DVとは?生活費が足りない場合の対処法を解説
経済的DVとは、お金による支配や、お金の自由を奪うことなどにより、配偶者等に苦痛を与えて追い詰めることをいいます。
「必要な生活費を渡さない」という形で表れるケースが多いですが、お金に関する暴言・嫌がらせや過度な浪費なども経済的DVに当たります。
経済的DVは、殴る・蹴るといった身体的暴力があるケースなどと比べて軽視されがちですが、被害を受け続けると精神的に追い詰められ最悪の場合は命にかかわりかねない、深刻な問題です。
ここでは、経済的DVについて、該当するケースや対処法、注意点等について解説していきます。
経済的DVとは?
経済的DVとは、お金による支配や、お金の自由を奪うことなどにより、配偶者等に苦痛を与えて追い詰めることをいいます。
経済的DVと経済的暴力や経済的虐待との違い
経済的DVと「経済的暴力」や「経済的虐待」は同じ意味です。
DVとは、ドメスティック・バイオレンス(Domestic violence)の略称で、家庭内暴力のことをいいます。
典型的には夫婦間(事実婚も含む)の暴力を指しますが、恋人など親密な関係にある人の間における暴力も一般にDVと呼ばれます。
経済的DVは、家庭内又は親密な関係性の中で起こる経済的暴力です。
また、「虐待」とは、弱い立場にある者に対して酷い扱いをすることをいいます。
DVは暴力によって相手を支配し、さらにその力関係の不均衡を利用して相手を追い詰めていくものであり、虐待に当たります。
経済的DVは、相手の経済的な自由を奪うことなどによって相手を支配し、相手を追い詰めていくものであり、経済的虐待と同義です。
経済的DVの具体例とは?チェックリスト
配偶者が適正額の生活費を渡さない場合などは、経済的DVを受けている可能性があります。
ここでは生活費の適正額や、どのような行為が経済的DVに当たり得るかについて解説していきます。
生活費の適正額とは?
夫婦の生活費の分担(支払い)に関しては、夫婦間で自由に決めることができます。
しかし、合意ができずに法的に請求する場合、どのくらいの金額を請求できるか(適正額はいくらか)については、「婚姻費用」の相当額がいくらであるかが問題となります。
婚姻費用とは
「婚姻費用」とは、簡単に言うと夫婦の生活費のことであり、衣食住の費用、子どもを育てるための費用、医療費、交際費など、夫婦が結婚生活を営むために必要なすべての費用のことをいいます。
法律上、夫婦は、その収入等に応じて婚姻費用を分担するべきものとされています。
(婚姻費用の分担)
第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
引用元:民法|電子政府の窓口
この婚姻費用の分担義務は、「生活保持義務」とされています。
生活保持義務とは、相手も自分と同じ水準の生活ができるようにする義務のことであり、法律が定める夫婦の扶助義務のうちの一つです。
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
引用元:民法|電子政府の窓口
したがって、一方が専業主婦(夫)などで収入がない場合や、夫婦間の収入差が大きい場合であっても、夫婦である以上は、双方が同じ水準で暮らせるようにしなければなりません。
そして通常は、収入の多い方が収入の少ない方に対して婚姻費用を支払うことになります。
適正額の婚姻費用が支払われない場合は、収入の少ない方が収入の多い方に対して婚姻費用の支払いを法的に請求することができます。
婚姻費用の請求は、一般的には夫婦が別居した際にはじめて問題となります。
夫婦が同居している間は、通常は家計を一にしている(財布を一つにしている)からです。
もっとも、同居していても、夫婦の一方が自分の収入を独占して家庭(夫婦の財布)に入れないような場合、生活保持義務としての婚姻費用の分担義務が果たされていない状態といえます。
このような場合は、同居中であっても婚姻費用を請求することができます。
婚姻費用の適正額とは
婚姻費用の金額は、家庭裁判所で金額を決める際に用いられている「婚姻費用算定表」という早見表を参照して算出した金額を目安にするのが一般的です。
また、当事務所では、婚姻費用の目安を素早く確認したいという方のために、オンラインで、かつ、無料で自動計算できるサービスをご提供しています。
自動計算ツールは以下のページをご覧ください。
ただし、算定表等ではあくまでも標準的な生活費しか考慮されていないため、特別の事情(子どもの私立学校の学費がかかるなど)がある場合は、それらを別途考慮して金額を決める必要があります。
そのため、具体的な金額については、離婚専門の弁護士に相談されることを強くおすすめいたします。
共働きでも経済的DVに該当する?
共働きの場合、相手が生活費を渡してくれなくても、生活に困窮することはないケースもあります。
生活費の分担は夫婦の協議によって自由に決めることができるため、お互い納得した上で合意し、敢あえて自分の生活費は自分で稼ぐという形態をとっているのであれば、問題はありません。
しかし、そのような合意もなく、収入に応じた分担がされず、夫婦の一方にのみに経済的な負担が押し付けられ不公平な状態になっている場合は、経済的DVに該当する可能性があります。
例えば、夫が妻に生活費を一切渡さずに自分の収入を自分の趣味等のためだけに使い、妻が生活費(住居費、食費、子どもにかかる費用など)を妻自身の収入で全て賄うことを強いられているような場合です。
このような場合、夫が妻を経済的に搾取しているとして、経済的DVに該当する可能性があります。
経済的DVのチェックシート
次のような場合は、相手の行為が経済的DVに該当する可能性があります。
ただし、ある行為が経済的DVに当たるかどうかは、夫婦双方の経済状況その他の事情によって異なります。
そのため、以下の各行為に該当すれば直ちに経済的DVと認定されるわけではありませんが、参考までにチェックしてみてください。
経済的DVの対処法
生活費の増額を求める
相手から必要な生活費をもらえない場合は、生活費の増額を求めて協議又は調停(裁判所での話し合いをする手続き)を行う必要があります。
もっとも、加害者との力関係の不均衡などから、話し合いにより適正額を任意に支払ってもらうようにすることは難しいケースが多いです。
また、請求に当たっては、速やかに増額請求すること(婚姻費用は請求した時点からしかもらえないのが原則とされています)や、適正額を押さえることがポイントとなります。
そのため、離婚問題に強い弁護士に相談し、増額請求・交渉を行ってもらうようにすることをおすすめいたします。
当事務所の解決事例:Rさんのケース
Rさんは長年夫からの経済的締め付けに苦しみ、夫から逃れる形で別居した後も夫が生活費を月20万円から10万円に減額されてしまうなどして日々の生活にも支障が出ている状況でした。
Rさんから依頼を受けた弁護士は、婚姻費用の増額を請求し、最終的に夫が婚姻費用として月23万円支払うとの内容で解決することができました。
離婚を検討
相手がDVをやめず、関係改善が難しい場合は、最終的には離婚を検討することになるでしょう。
離婚を検討する場合、まずは別居して相手と距離を置いたうえで、婚姻費用を請求し、身の安全と経済的安定を確保することがポイントとなります。
そうすることで、その後は安心して離婚の手続きを進めていくことができるようになります。
まずは別居前に離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめいたします。
離婚問題に強い弁護士に相談・依頼することで、別居から婚姻費用の請求、離婚の手続きまで全般的なサポートを受けることができます。
当事務所の解決事例:Sさんのケース
Sさんは、夫のモラハラに耐えかね別居しましたが、夫が生活費を全く渡さなくなったことなどから、当事務所に夫との離婚を依頼されました。
弁護士は、夫に対して離婚の申し入れをするとともに、婚姻費用を内容証明郵便で請求し、交渉の末、月20万円の婚姻費用を支払うとの合意が成立しました。
その後、引き続き弁護士が離婚条件(親権、養育費、面会交流、財産分与)について交渉を行い、それから半年後に双方合意のうえ離婚を成立させることができました。
経済的DVの注意点
経済的DVを理由とした離婚は難しい
離婚は夫婦間の合意によってすることができますが、合意ができない場合は裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。
裁判所に離婚を認めてもらうためには、法律で定められた「離婚原因」(離婚が認められる条件)が必要です。
この点、経済的DVは、離婚原因のうち、「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)又は「婚姻を継続し難い重大な事由」(同項5号)に当たる可能性があります。
引用:民法|電子政府の窓口
「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく夫婦の同居・協力・扶助義務に違反することをいい、生活費を払わないことは状況次第ではこれに該当する可能性があります。
「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、客観的に夫婦関係が破綻して回復の見込みのない状態をいい、経済的DVにより結婚生活が成り立たなくなったような場合はこれに該当する可能性があります。
ただし、経済的DVは、身体的な暴力があるような事案に比べると、実態がつかみにくく、経済的DVを直接証明する証拠を押さえることも簡単ではありません。
そのため、事案によりますが、経済的DVのみを理由に裁判で離婚を認めてもらうことは難しい傾向にあります。
経済的DVを受けている場合は、お金に関係のない部分でもモラハラ(言葉や態度による精神的な暴力)を受けているケースも多いですが、これらも「婚姻を継続し難い重大な事由」の一事情となるため、これらに関する証拠を押さえておくことも重要です。
そのような事情がない場合や、証拠を押さえることが難しい場合でも、別居が長期間に及んでいる場合は、それ自体が夫婦関係の破綻の一事情として考慮されます。
そのため、経済的DVのみを理由に離婚を認めてもらうことが難しい場合でも、その他の事情次第では離婚が認められる可能性はあります。
経済的DVでの慰謝料請求は難しい
経済的DVによって離婚する場合は、DVにより受けた精神的な苦痛を償うためのお金として慰謝料を請求することができます。
ただし、DVの程度や態様、被害の状況は様々であり、全ての場合で慰謝料が認められるとは限りません。
そして、経済的DVはその実態や被害の状況がわかりにくく、立証も難しいことから、慰謝料を認めてもらうことが難しい傾向にあります。
もっとも、あくまでも状況次第ですので、具体的な見通しについては専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。
経済的DVの証拠集めが重要
裁判所に経済的DVの事実を認めてもらうためには、それを裏付ける証拠が必要です。
経済的DVの証拠としては、次のようなものがあります。
- 預金通帳(生活費の入金がないことや、浪費の実態がわかるものなど)
- 家計簿(日常的・継続的に作成しているもので、家計の様子がわかるもの)
- お金に関する暴言の録音
- お金に関する暴言等を書き留めた日記など(その都度詳細に書き留めたもの)
経済的DVはどこに相談すればいい?
配偶者暴力相談支援センター
配偶者からの暴力被害に関する支援を行っている公的機関です。
都道府県が設置する婦人相談所の他、女性センター、福祉事務所などの公的施設が支援センターの機能を果たしている自治体もあります。
就職や住居の確保など、自立のための援助も行っています。
DV相談ナビダイヤル・DV相談 + (プラス)
全国共通の電話番号・#8008に電話をかけると、最寄りの配偶者暴力相談支援センターに自動転送され、相談等をすることができます。
また、DV相談 + では、電話・メール(24時間)の他、チャットでも相談等をすることができます。
参考:内閣府|DV相談 +
DVに強い弁護士
別居や婚姻費用の請求、そして離婚を検討する場合は、DV問題に強い弁護士にご相談ください。
DV問題に強い弁護士であれば、別居から婚姻費用の請求、離婚まで幅広くサポートすることができます。
また、先に述べたように、経済的DVを理由とする離婚や慰謝料請求は難しいケースも多いですが、弁護士が間に入って交渉をすることにより、早期に適切な条件で離婚を成立させることができる場合もあります。
経済的DVについてのQ&A
経済的DVの損害賠償はいくらですか?
経済的DVの損害賠償は、DVによって離婚に至ったことによる精神的苦痛を償うための離婚慰謝料として請求するのが一般的です。
離婚慰謝料が認められる場合の金額は、DVの内容、結婚期間、加害者の資産状態など様々な事情が考慮されたうえで判断されます。
そのため、事案により幅がありますが、相場としては50万円〜300万円程度です。
ただし、経済的DVの場合、実態が分かりにくいことや証拠を押さえることが難しいことなどから、慰謝料を認めてもらうのが難しいケースもあります。
具体的な見通しについては、DV問題に詳しい弁護士に相談されるようにしてください。
経済的DVへの仕返しはどうすればいい?
お金による支配から抜け出し、経済的な自由を取り戻すことが「仕返し」となるのではないでしょうか。
まずは相手と別居して物理的な距離を置き、婚姻費用を請求することができる場合はきちんと請求をすることが大切です。
その上で、離婚に向けて進めていく場合は、養育費や財産分与、慰謝料など、特にお金に関わる離婚条件についてきちんと取り決めるようにしましょう。
別居や婚姻費用の請求、離婚を進めるに当たっては、専門知識や交渉技術が不可欠です。
まずはDV問題に詳しい弁護士に相談し、具体的な助言を受けることをおすすめいたします。
まとめ
以上、経済的DVについて、該当するケースや対処法、注意点等について解説しましたが、いかがだったでしょうか。
経済的DVの被害を受けている、あるいは、被害を受けているかもしれないという場合は、事態が深刻化する前に早めに対処する必要があります。
適切な対処法は、DVの程度や被害者の方の置かれた環境により異なりますので、まずはDV問題に強い弁護士に相談し具体的な助言を受けることをおすすめいたします。
当事務所には、DV問題に注力する弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、DV事案を強力にサポートしています。
LINEなどによるオンライン相談にも対応していますので、DVについてお困りの方はお気軽にご相談ください。
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