性的DV(性的暴力)とは?具体例や対処法を弁護士が解説
性的DVとは、性的なことに関して行われるDVのことです。
DVとは、配偶者などの親密な関係にある人から振るわれる暴力のことをいいます。
具体的には、性行為を強要したり、避妊に協力しないといった行為が該当します。
夫婦や恋人という関係性であっても、相手の意に反して性的なことをしたり、させたりすることが許されないのは当然です。
しかし、性的DVは、DVの中でも特に表出化しにくいという問題があります。
被害者が「夫婦だから仕方ない」などと思い込み、被害を自覚することができなかったり、恥ずかしさや後ろめたさなどから外に助けを求めることができず、被害を受忍し続けてしまうケースは少なくありません。
そのようにして対処が遅れると、被害は深刻なものになってしまいます。
性的DVとはどのようなものかを知り、早めに対処することが重要です。
ここでは、性的DVについて、意味や具体例、問題点、対処法などについて解説していきます。
ぜひ参考になさってください。
性的DVとは?
性的DVとは、配偶者などの親密な関係にある人から振るわれる性的暴力のことをいいます。
性的暴力とは、性的なことに関連して相手に危害や苦痛を与える行為を指します。
意に反して性的な行為をされることや、させられることは、たとえ乱暴なやり方でなくても性的暴力に当たります。
性的DVと性的暴力との違い
「DV」とは、ドメスティックバイオレンス(domestic violence)の略であり、一般的に、配偶者や恋人などの親密な関係にある人から振るわれる暴力のことをいいます。
「性的暴力」という場合は、加害者・被害者の関係性は限定されません。
一方、「性的DV」という場合は、加害者・被害者が親密な関係性にある場合に限定されます。
「性的暴力」のうち、配偶者や恋人など親密な関係にある人から受けるものが「性的DV」ということになります。
性的DVと性的虐待との違い
「性的DV」と「性的虐待」はほとんど同じ意味です。
「虐待」とは、弱い立場の者に対して酷い扱いをすることをいいます。
DVも力関係の不均衡を利用し、相手を傷つけたり精神的に追い詰めたりするものであり、虐待と同じです。
もっとも、「虐待」という言葉は、加害者が配偶者や恋人の場合に限らず、大人と子ども、先生と生徒、上司と部下など、上下関係がある場合に広く用いられることもあります。
また、特に18歳未満の子どもに対する暴力は「児童虐待」といいますが、児童虐待を「虐待」、夫婦や恋人間での暴力を「DV」と表現して区別している場合もあります。
性的DVの具体例
性的DVの典型例は次のようなものです。
なお、性的DVは、男性から女性に対して行われることが多いですが、女性から男性、親から子ども、あるいは同性のカップルの間でも行われることがあります。
夫から妻への性的暴力
- 嫌がっているのに性行為を強要する
- 避妊に協力しない
- 子どもができないことを一方的に責める
- 中絶を強要する
- 見たくないポルノなどを無理やり見せる
彼氏から彼女への性的暴力
- 嫌がっているのに性行為を強要する
- 避妊に協力しない
- 性的な写真や動画をSNS等で送ることを強要する
- 友達の前で相手の身体的特徴や性的嗜好を指摘する
親から子どもへの性的虐待
- 性行為をさせる
- 性行為を見せる
- 自慰行為の手伝いをさせる
- ポルノの被写体にする
- ポルノなどを見せる
性的DVの発生状況
結婚したことのある人(2、591人)を対象に行われた内閣府の調査によると、配偶者からの暴力の被害経験が「あった」と回答した人は全体の22.5%、「性的強要」があったと回答した人は全体の5.2%という結果になったとのことです。
男女別で見ると、被害経験があったと回答した人は女性は25.9%、男性は18.4%であり、「性的強要」があったと回答した人は女性全体のうち8.6%、男性全体のうち1.3%とのことです。
DV全体の被害者は女性の方が多いですが、特に性的DVの被害者は女性の方が多いことがわかります。
引用:内閣府男女共同参画局|男女間における暴力に関する調査」(令和2年度調査)
性的DVに該当する?チェックリスト
次のような行為は性的DVに当たります。
もっとも、先ほども述べたように、意に反して性的な行為をされることや、させられることは、どのような形であっても暴力です。
そのため、以下が性的DVの全てではありませんが、参考までにチェックしてみてください。
性的DVの問題点
被害を自覚することが難しい
意に反して性的なことをされる・させられるというのは、どのような形であっても性的暴力に当たります。
しかし、被害者が「結婚(又は交際)しているのだから、性的な行為を受け入れるのはやむを得ない」などと思いこんでしまい、相手の行為がDVに当たると自覚することができないケースは多いです。
また、「相手の機嫌が悪くなるのが嫌で断れない」というような場合、被害者が「断れない自分が悪い」と自分を責めてしまうこともあります。
このような場合も、相手の行為がDVという重大な人権侵害であると認識することは難しくなります。
相談しにくい
性的DVは、DVの中でも最も他人に相談しにくいものです。
そのため、被害が潜在化し、対処が遅れ、事態が深刻なものになってしまうこともあります。
しかし一方で、誰にでもよいから相談をすればよいという問題でもありません。
DVについて理解のない人に相談すると、「それはDVではない」「あなたにも落ち度がある」などと言われ、かえって傷が深くなることもあります。
特に、性的DVの問題については、その実態が世間一般に広く認知されているとは言い難い状況です。
殴る・蹴るといった身体的DVは問題視されても、性行為を強要するといった性的DVについては、「夫婦なんだから我慢するべき」などと言われて軽視されてしまうこともあります。
被害が深刻化しやすい
上記のように、被害者が被害を自覚できなかったり、相談することができなかったりするために、性的DVへの対処は遅れることが多いです。
そうすると、被害者は長期に渡り被害を受け続け、被害がどんどん深刻化していくことになります。
特に精神面の打撃は計り知れません。
自尊心や自己価値観が奪われ、最悪の場合、命にかかわることにもなりかねません。
たとえ被害から抜け出せたとしても、性的DVによる心の傷は深く、簡単に治るものではありません。
加害者から離れて被害を受けなくなった後も、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状などに苦しみ、日常生活に支障が出る場合もあります
立証が難しい
性的DVを理由に離婚や慰謝料を請求する場合は、DVの事実を証拠によって裏付ける(立証する)必要があります。
しかし、性的DVを立証することは簡単ではありません。
性的暴力を受ける中で、その行為の録音・録画など客観的な証拠を押さえることは通常困難です。
また、仮にそのような証拠を押さえたとしても、それだけではDVを立証することが難しい場合もあります。
性的DVは、態様によっては、被害者と加害者の関係性や、その行為に至る経緯・状況等を含めた全体像を見なければ、DVかどうか判断がつかない場合もあります。
例えば、妻が「夫が怖くて性行為の要求を断れずに受け入れた」という場合、その場面だけを切り取って見れば、合意の上で行われた場合との見分けはつかないかもしれません。
その場合、妻の意に反してされたことを証明するには、日頃から夫が妻を言葉や態度によって支配していたとか、身体的な暴力を振るったことがあるというような、他の事情も明らかにする必要があります。
しかし、これらの事情についても証拠をそろえて立証することは難しい場合が多いです。
性的DVへの対処法
加害者と物理的な距離を置く
DV事案では、被害を受けている状態から抜け出し、安全を確保することが最重要となります。
具体的には、加害者と別居をし、物理的な距離を置くことを検討するべきです。
性的DVの場合は特に、被害者の方が「別居するほどのことではない」「私さえ我慢すればよい」と考えてしまうことも多いと思われます。
加害者が怖い、子どもが心配、別居後の生活が不安といった理由から、別居に踏み切れないこともあります。
しかし、被害にさらされ続ける状態が続くと、事態はどんどん深刻化してしまいます。
なかなか身動きとれないという場合でも、早めに支援機関や専門家に相談をするようにしてください。
相談によってご自身の状況や解決手段がわかれば、解決に向けて具体的に考えることができるようになるでしょう。
別居のポイント
具体的にどのように別居するべきかは、DVの程度や被害状況により異なりますので、事前にDV問題に詳しい弁護士に相談されることを強くおすすめいたします。
危険性が高い場合は、配偶者暴力支援センターに一時保護を求めたり、保護命令を申し立てることを検討する必要があります。
加害者に別居先を知られないようにする必要もあります。
警察に相談し、加害者が行方不明届を出しても受理しないよう要請したり、役所に支援措置を申し出て、住民票等の閲覧制限などをしてもらうようにしましょう。
DV問題に詳しい弁護士であれば、安全な避難先、避難方法、加害者からの追跡防止策などについて、具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
また、別居のサポートを弁護士に依頼した場合は、別居と同時に加害者に弁護士から通知を送り、今後被害者と直接接触しないように申し入れることができます。
その後は弁護士が窓口となり、被害者の方が直接加害者とやり取りする必要はなくなるため、負担を大幅に軽減することができます。
さらに、別居後は生活費(婚姻費用)を請求することができます。
この婚姻費用についても、弁護士に請求してもらうようにするとよいでしょう。
離婚を検討する
夫婦関係を清算したい場合は離婚を検討することになります。
離婚の方法
離婚する方法としては、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚の3つがあります。
- ① 協議離婚とは、当事者同士が話し合って離婚することや離婚条件について取り決め、離婚届を提出することによって離婚する方法です。
- ② 調停離婚とは、「調停」という裁判所の手続きの中で、裁判所(調停委員会)を仲介に話し合いをし、合意によって離婚を成立させる方法です。
- ③ 裁判離婚とは、裁判所に判断(離婚判決)をもらうことにより離婚する方法です。
協議離婚と調停離婚は、相手の合意がなければすることができません。
相手の合意が得られない場合、離婚するには、離婚裁判を提起し、裁判所に離婚判決をもらう必要があります。
離婚判決を出してもらうためには、法律で定められている離婚できる条件(「離婚原因」といいます。)が認められる必要があります。
性的DVで離婚できるか
それでは、性的DVを理由に裁判で離婚判決をもらうことはできるでしょうか。
性的DVが離婚原因に該当するかどうかが問題となります。
法律では、離婚原因は次のように定められています。
引用:民法|電子政府の窓口
- 相手方に不貞行為があったとき
- 相手方から悪意で遺棄されたとき
- 相手方の生死が3年以上明らかでないとき
- 相手方が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
このうちの、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」とは、夫婦関係が破綻して修復不可能な状態になっていることをいいます。
性的DVで夫婦関係が破綻したと認められた場合は、これに該当するとして離婚が認められる可能性があります。
ただし、夫婦関係が破綻しているかどうかは、DVの態様や被害の状況、別居の有無や期間など、様々な事情が考慮されたうえで、客観的に判断されます。
そのため、DVがあれば直ちに離婚が認められるというわけではありません。
そして、あくまでも事案によりますが、身体的暴力のない事案では、DVを理由に夫婦関係が破綻しているとして離婚を認めてもらうことは、難しい傾向にあります。
また、裁判では、DVの事実があったことを認定してもらうためには、DVを裏付ける証拠が必要になります。
しかし、この証拠を確保することも簡単ではありません。
このように、性的DVを理由に裁判で離婚することは難しい傾向にあります。
離婚に向けて進める場合は、このようなことを踏まえて慎重に対処していく必要があります。
離婚のポイント
被害を受ける中で証拠を押さえることが難しい場合もありますが、身の安全を確保しつつ、できる範囲で集めることがポイントとなります。
DVの証拠としては次のようなものがあります。
暴力行為を受けている状況を記録したもの
DVを受けた直後の傷の写真、加害者が壊した物品や家の壁などの写真
DVによるケガやメンタル不調に関するもの
加害者から送られてきた暴言、DVについて友人や家族に相談した内容など
日常的に生活の様子を記録したもの(ただし、単独では客観的な証拠と比べ証拠としての価値は劣ります)
具体的にどのような証拠を、どのように集めるべきかは、事案によって異なります。
そのため、詳しくは専門の弁護士の助言をもらうようにしてください。
弁護士を間に入れる
被害者の方が加害者と冷静に対等な立場で離婚に向けて話し合うことは通常困難です。
また、加害者と直接接触することは、安全の面からもおすすめすることはできません。
そのため、離婚の話し合いをする際には、加害者との直接接触は避け、弁護士に代理人として対応してもらうようにすることを強くおすすめいたします。
DV加害者は、DVを認めず、離婚に応じない意向を示す場合も多いですが、弁護士が間に入ることにより、離婚に向けて冷静に話し合いを進められるようになる場合もあります。
それにより、裁判所の手続きを利用することなく、早期に解決が図れることもあります。
また、離婚の際には、親権、養育費、財産分与、慰謝料などの条件についても取り決める必要があります。
弁護士が交渉することにより、これらについても適切に取り決めることができます。
話し合い(交渉)で解決できない場合は、調停を申し立てる必要がありますが、その場合も、弁護士のサポートを受ける必要性は高いでしょう。
裁判所を利用する際には、裁判所への提出書類などから避難先の手掛かりとなる情報が漏れないよう注意を払ったり、裁判所で加害者と遭遇しないよう気を付けたりする必要があります。
DV問題に詳しい弁護士であれば、このような安全確・秘密保持に関してもきめ細やかなサポートを受けることが可能です。
保護命令の申立てを検討する
保護命令とは、被害者の申出により、裁判所が加害者に対し、被害者に接近してはならないことなどを命じるものです。
身体的暴力や生命・身体に対する脅迫がある場合、保護命令の申立てを検討する必要があります。
保護命令の申立ての可否の判断や、具体的な手続きをするには専門知識が必要になりますので、DV問題に詳しい弁護士の助言を受けるようにしてください。
なお、保護命令は、夫婦又は元夫婦(離婚前から暴力を受けている場合)の他、生活の本拠を共にする(元)交際相手も対象にすることができます。
他方で、生活の本拠を共にしていない(同棲していない)交際相手に対しては、保護命令制度を利用することはできません。
このような場合は、状況に応じて警察に相談し、ストーカー規制法に基づく警告措置などをとることが考えられます。
また、保護命令は、今後加害者からの接近等を防止するためのものであり、現に起こっているDVに緊急に対処するものではありません。
緊急事態の場合は、ためらわずに110番通報するようにしてください。
性的DVの相談窓口
配偶者暴力相談支援センター
配偶者暴力相談支援センターは、被害者保護のための中心的な役割を担っている公的な機関です。
被害に関する相談対応や相談機関の紹介をはじめ、カウンセリング、一時保護、自立支援、保護命令制度やシェルター利用についての情報提供・助言・関係機関への連絡調整などの支援を行っています。
DV相談ナビ・DV相談+(プラス)
全国共通の電話番号・#8008に電話をかけると、最寄りの配偶者暴力相談支援センターに自動転送され、相談をしたり支援につないでもらったりすることができます。
DV相談+では、電話・メール(24時間)の他、チャットでも相談等をすることができます。
引用:内閣府|DV相談+
DVに強い弁護士
相談窓口で迷われたら、DV問題に強い弁護士にご相談されることをおすすめします。
ご自身の状況を整理してもらうとともに、法律的にどのような解決手段があるかなどについて、助言をもらうことができます。
弁護士に依頼した場合は、別居、保護命令の申立て、婚姻費用の請求、離婚に向けての代理交渉、調停や訴訟対応まで、幅広くサポートしてもらうことができます。
依頼者の代理人として加害者と直接交渉をしたり、全面的に裁判対応をしたりすることができる専門家は、弁護士のみです。
弁護士が間に入ることで、安全を確保しながら進めることができますので、DV事案においては弁護士のサポートを受けるメリットは特に大きいものと考えられます。
性的DVについてのQ&A
性的DVで離婚できますか?
離婚できます。
相手が離婚に合意する場合は、理由の如何を問わず離婚することができます。
一方、相手の合意が得られない場合、離婚するには裁判で離婚を認めてもらう必要があります。
この点、性的DVは、離婚が認められる条件(離婚原因)のうち、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
したがって、性的DVを理由に、裁判で離婚が認められる可能性はあります。
ただし、「婚姻を継続し難い重大な事由」については、DVの内容や被害の状況、別居期間などの事情が考慮されたうえで、客観的に判断されます。
そのため、性的DVがあれば直ちに離婚が認められるというわけではありません。
また、裁判所にDVの事実を認定してもらうためには、DVの証拠が必要になります。
証拠がなく、加害者もDVを否定している場合は、DVを理由に離婚を認めてもらうことは非常に難しくなります。
もっとも、性的DVを理由に離婚を認めてもらうことが難しくても、裁判外での交渉を続けることで協議離婚ができる場合や、別居期間が長いことなどが離婚原因として考慮され裁判離婚ができる場合もあります。
「性的DVだから離婚はできない」と思い込まず、なるべく早く離婚問題に詳しい弁護士にご相談されることが大切です。
性的なモラハラとは?
性的な嫌がらせのことです。
「モラハラ」とは、「モラル・ハラスメント」の略称で、精神的な暴力のことをいいます。
精神的な暴力とは、言葉や態度によって相手を傷つけたり、嫌がらせをする行為を指します。
「性的なモラハラ」という場合は、精神的な暴力のうち、性的なものに関連するものをいいます。
例えば、次のような行為が「性的なモラハラ」に該当します。
- 自分が望む性交渉ができないと不機嫌になる
- 相手の性交渉、性的嗜好や身体的特徴などをバカにする
- 相手の性的嗜好や身体的特徴を他人に暴露する
- 相手が嫌がっているのに卑猥なことを言い聞かせる
まとめ
以上、性的DVについて、意味や具体例、問題点、対処法などについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
配偶者などの親密な関係性にある人から、意に反して性的なことをされる・させられるというのは、態様にかかわらず性的DVに当たります。
被害を受けているかもしれないと少しでも思う場合は、早めに対処することが重要です。
まずは、DV問題に強い弁護士に相談されることをおすすめいたします。
当事務所には、DV問題に注力する弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、DV問題にお困りの方を強力にサポートしています。
LINEなどによるオンライン相談も実施しており、全国対応が可能です。
お困りの方はお気軽にご相談ください。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?