セックスレスの離婚慰謝料とは?相場や請求方法を解説
セックスレスの離婚慰謝料とは、いわゆるセックスレスが原因で離婚した場合に、夫婦の一方が他方に対して請求する慰謝料のことをいいます。
セックスレスが離婚の原因となることは珍しいことではありません。
また、セックスレスが原因で離婚した際、相手に離婚慰謝料を請求することができるケースもあります。
もっとも、セックスレスの背景事情や夫婦関係に与える影響は様々です。
そのため、セックスレスの離婚慰謝料が認められるかどうかはケース・バイ・ケースとなります。
そこで、この記事では、セックスレスの離婚慰謝料に関して、請求できるケース、慰謝料の相場、請求方法などについて解説していきます。
目次
セックスレスの離婚慰謝料とは?
セックスレスの離婚慰謝料とは、夫婦間の性交渉がないことが原因で離婚に至った場合に、夫婦の一方が他方に対して請求する慰謝料のことをいいます。
いわゆるセックスレスとは、夫婦の間で性交渉や性的な接触が一定期間ないことをいいます。
離婚慰謝料とは、離婚によって生じた精神的な苦痛を埋め合わせて回復させるため、夫婦の一方が他方に対して請求するお金のことをいいます。
セックスレスで離婚できる?
まずは、そもそもセックスレスで離婚できるかどうかについて、解説していきます。
離婚ができる条件
日本では、夫婦間で離婚の合意をするか、裁判所に離婚を認めてもらうことによって離婚することができます。
合意によって離婚する場合
合意による場合は、離婚の理由が何であろうと離婚することができます。
そのため、セックスレスを理由に離婚することができます。
また、少なくとも離婚の可否という点においては、セックスレスの原因や期間などの詳しい事情も問われることはありません。
裁判で離婚をする場合
一方、裁判で離婚をする場合は、「離婚原因」が認められなければ、離婚をすることはできません。
「離婚原因」とは、離婚が認められる場合として法律で定められている条件のことです(民法770条1項)。
引用:民法|e−GOV法令検索
セックスレスで離婚を求める場合、離婚原因のうち、「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」に該当する可能性があります。
「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」とは、夫婦関係が破綻し、修復不可能な状態になった場合を指します。
したがって、セックスレスによって夫婦関係が破綻し、修復不可能な状態になったといえる場合であれば、裁判で離婚できる可能性があります。
裁判で離婚する場合のポイント
単にセックスレスだったというだけでは、離婚原因は認められにくいです。
セックスレスの背景事情や夫婦関係に及ぼす影響は様々であり、セックスレスと夫婦関係の破綻は必ずしもイコールではないからです。
そのため、セックスレスの経緯、原因、期間、対処の有無、夫婦の生活実態などの事情も離婚の可否を左右する重要な要素となります。
例えば、お互いに性生活を重視しておらず、性交渉がなくても夫婦としての共同生活が十分に成り立っていた場合は、セックスレスであったとしても、離婚原因は認められないでしょう。
一方、夫婦の一方が理由なく性交渉を拒否し続け、それによって他方が不安や不信感を募らせ、夫婦関係が成り立たなくなってしまったような場合は、離婚原因が認められる可能性があります。
セックスレスの離婚率
裁判所のデータによれば、2023年度に申し立てられた離婚調停(総数|夫:15,192件、妻:41,652件)のうち、申立ての動機として「性的不調和」が挙げられた件数は、夫:1,592件、妻:2,642件だったとのことです。
そうすると、性的不調和が離婚の理由となっているケースの割合は、夫:約10%、妻:約6%、全体としては約7%となります。
参考:司法統計|2023年
もっとも、上記のデータには協議や裁判で離婚するケースは含まれていません。
また、「性的不調和」にはセックスレス以外にも性生活が異常な場合なども含まれます。
そのため、上記は必ずしも「セックスレスを理由に離婚する割合」を正確に反映するものとはいえませんが、一つの参考にはなるでしょう。
セックスレスで離婚慰謝料を請求できる?
セックスレスで離婚慰謝料を請求できるかどうかは、ケース・バイ・ケースです。
離婚慰謝料は、相手が離婚の原因を作った場合に請求することができます。
そのため、相手が理由もなく一方的に性交渉を拒否し続けた場合や、その他にも夫婦関係の破綻につながる要因が相手側にある場合に請求することができます。
離婚慰謝料が認められやすいケース
セックスレスなのに配偶者が浮気をしたケース
相手が浮気(不貞行為)をしていた場合は、浮気を理由に離婚慰謝料の請求をすることができます。
特に、性交渉を拒否していた側(セックスレスの原因となっていた側)が浮気をしていた場合であれば、離婚慰謝料は認められやすいでしょう。
そうでない場合(性交渉を拒否された側が浮気をしていた場合)でも、浮気の時点ですでに夫婦関係が破綻していたようなケースでない限りは、基本的には離婚慰謝料は認められます。
セックスレスであったことや、配偶者に性交渉を拒否されたことは、浮気を正当化する理由には基本的にはなりません。
性交渉の拒否に加えて暴力やモラハラなどもあるケース
相手が性交渉を理由なく拒んだばかりでなく、(性交渉拒否に伴い、又はそれとは別に)暴力やモラハラも行っていたような場合は、離婚慰謝料は認められやすいでしょう。
妻が結婚後ずっと性交渉を拒否し続け、さらに暴言や暴力等なども繰り返したとして夫が慰謝料請求した事案です。
妻による性交渉拒否や暴言・暴力等によって夫婦関係が破綻したことが認定されたうえで慰謝料(150万円)が認められました。
性交渉をしない側に夫婦関係を破綻させる要因があるケース
相手が理由なく性交渉を拒否し続けただけでなく、その理由についての説明やフォローもなく、不安を解消する努力などもなかったケースでは、離婚慰謝料が認められる可能性があります。
夫が性交渉を拒否したことなどが原因で離婚に至ったものとして、妻が夫に対して慰謝料を請求した事案です。
性交渉はおろかキスやハグなどの接触も一切なく、妻が相当な不安を感じており、それを夫に伝えていたにもかかわらず、夫は特段態度を変えることもなく、身体的接触や言葉を交わすなど精神的な結合を深めるような行動もとりませんでした。
裁判所は、性交渉がなかったことのみならず、上記のような夫側の事情によって夫婦関係が破綻したものと認定して、慰謝料(50万円)を認めました。
過去の裁判例では、性交渉の拒否だけでなく、
- 性交渉をしない理由についての説明やフォローがない
- 相手の不安を解消しようとしない
- 性交渉以外の手段で精神的なつながりを深めようともしない
などの事情も考慮したうえで、慰謝料を認めているものが多い傾向にあります。
したがって、セックスレスの離婚慰謝料を請求する際には、性交渉拒否だけでなく、その他にも夫婦関係の破綻につながるような事情が相手側にあるかどうかも重要なポイントとなると考えられます。
離婚慰謝料が認められにくいケース
性交渉をしないことについてお互いが納得していたケース
性交渉をしないことについてお互いが納得していた場合は、慰謝料は認められにくいでしょう。
例えば、次のような場合です。
- 老齢などの理由で性交渉をしない約束をしていた場合
- (明確な約束はないけれども)生活リズムの相違、多忙、疲労などにより、お互いに性交渉に消極的になっていた場合
自分から積極的に誘うことはなかったケース
性交渉をしないことについて納得していたわけではなくても、自分から積極的に誘うこともなかった場合は、慰謝料は認められにくいでしょう。
夫婦は対等な存在ですから、どちらから求めるべきといった決まり(常識)も、特に現代では無いといってよいと思います。
そのため、「性交渉を求めなかったこと」については、責任を問うのは難しいと考えられます。
病気などで性交渉ができなかったケース
性機能の障害や、精神的・肉体的な不調が原因で性交渉ができなかったケースでは、性交渉ができない側に責任を問うことはできないため、離婚慰謝料は原則として認められません。
離婚慰謝料が法的には認められない場合でも、「解決金」としてお金を受け渡すことにより解決を図るケースはあります。
解決金とは、離婚の問題を早期かつ円満に解決する目的で、当事者の合意に基づいて支払われるお金のことをいいます。
したがって、合意(協議又は調停)によって離婚をする場合は、離婚慰謝料の請求が難しい状況であっても、相手方が応じるのであれば、解決金としてお金を支払ってもらうことは可能です。
セックスレスの離婚慰謝料の相場
セックスレスの離婚慰謝料の相場は、50万円〜200万円程度です。
離婚慰謝料の金額は、離婚によって受けた精神的な苦痛をお金に換算するといくらになるか、という観点から決められます。
その際には、事案ごとに、結婚期間、離婚の原因となった相手の行為の悪質性、被害の程度、子供の有無、離婚後の生活状況などの事情が総合的に考慮されます。
そのため、事案によって離婚慰謝料の金額は異なりますが、おおよその相場としては上記の金額となります。
セックスレスで離婚慰謝料が増額されるケース
セックスレスの離婚慰謝料が増額されやすいのは、次のようなケースです。
- 性交渉がなかった期間が長いケース
- 結婚後一度も性交渉がなかったケース
- 性交渉の拒否に伴い暴言などもあったケース
- セックスレスによる夫婦関係の不和などが原因で心身の健康を害したケース
また、セックスレスのみならず、相手方による浮気(不貞行為)や暴力・モラハラなども離婚の原因となっているケースでは離婚慰謝料は高額となりやすいです。
セックスレスの離婚慰謝料に必要な証拠
離婚慰謝料を請求する際には、セックスレスの原因や経緯(相手が性交渉を拒否し続けていたことなど)、相手の対応や態度、夫婦の生活実態などがわかる証拠が必要となります。
- 性交渉を誘ったが拒否されたことがわかる録音、日記・メモなど
- セックスレスについて相手と話し合いをした際の会話の録音・録画など
- 相手とのLINE等でのやり取り(スクリーンショットなど)
(夫婦の生活状況や、性交渉に関するメッセージのやり取りの内容がわかるもの) - 診断書
(セックスレスに起因するストレスなどにより心身の健康を害したことを示すもの)
必要な証拠や収集方法は具体的な事情によって異なりますので、詳しくは離婚問題に強い弁護士にご相談ください。
セックスレスで離婚慰謝料を請求する方法
請求手続きの種類と流れ
離婚慰謝料は、離婚と一緒に請求することも、離婚後に請求することもできます。
ですが、離婚と一緒に、離婚の手続きの中で請求するのが一般的です。
離婚の手続きには、主に次の3つがあります。
- ① 協議(話し合い)
夫婦間の話し合いによって離婚や離婚条件を合意し、離婚届を提出して離婚する - ② 離婚調停
家庭裁判所で話し合いを行い、離婚や離婚条件を合意して離婚する - ③ 離婚裁判
裁判所に判断(判決)をもらって離婚する
一般的な流れとしては、まずは①協議による解決を試み、協議で解決できなかった場合は②離婚調停を申し立て、それでも解決できなかった場合は③離婚裁判を起こすことになります。
①協議を経ずに②離婚調停を申し立てることも可能です。
しかし、調停は裁判所のペースで進められるため、解決までに多くの時間を費やすことになるケースが多いです。
そのため、まずは、裁判所を利用しない①協議から始めることをおすすめします。
なお、③離婚裁判は、②離婚調停を経た後でなければ、原則として提起できない決まりとなっています。
離婚慰謝料の請求方法
協議、調停、裁判のいずれの手続きにおいても、離婚慰謝料は離婚条件の一つとして、離婚と一緒に請求することになります。
そして、支払うか・支払わないか、支払う場合はいくら支払うか、どのように支払うかなどについて、合意又は裁判で取り決めることになります。
セックスレスで離婚慰謝料を請求された側の対処法
離婚に強い弁護士に相談する
セックスレスの離婚慰謝料の支払いの要否(裁判になった場合の見通し)や、それを踏まえた対処法の判断は、専門家でなければ難しいと思われます。
そのため、まずは離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
また、弁護士による代理交渉(弁護士を代理人として相手と交渉すること)の活用もおすすめします。
弁護士が間に入ることで話し合いがスムーズに進み、早期解決できるケースは多いです。
また、相手が過大な金額を要求している場合は、弁護士が交渉をすることで大幅に減額できる可能性もあります。
セックスレスと離婚慰謝料のポイント
離婚に強い弁護士に相談する
セックスレスの離婚慰謝料が認められるかどうかはケース・バイ・ケースであり、専門家でなければ、見通しを立てることは難しいと思われます。
妥当な請求金額や請求方法についても、具体的な事情を踏まえて検討する必要があります。
そのため、まずは離婚問題に強い弁護士に相談し、具体的なアドバイスをもらうことをおすすめします。
なるべく協議で解決する
ここまで解説したように、セックスレスの離婚慰謝料が認められるかどうかは、個別具体的な事情次第となります。
そして、実際のところ、裁判では請求が難しいケースも少なくはありません。
また、セックスレスは非常にデリケートかつセンシティブな問題ですから、裁判にかかる精神的負担も大きいものと思われます。
そこで、なるべく協議による解決を目指すことをおすすめします。
弁護士による代理交渉を活用する
セックスレスの問題が絡む事案では、感情的なもつれなどから、どうしても紛争が拡大・長期化してしまいがちになります。
そのため、弁護士を間に入れ、代理交渉による解決を図ることをおすすめします。
法律の専門家であり交渉にも慣れている弁護士が間に入ることで、話し合いがスムーズに進められるようになるケースは多いです。
相手と直接やり取りをしなくて済むため、離婚の手続きにかかる精神的な負担も軽減することができます。
また、慰謝料以外の問題(財産分与や養育費など)や、離婚協議書の作成についても全般的なサポートを受けることができます。
そのため、離婚問題の全体についての早期解決もしやすくなります。
セックスレスと離婚慰謝料のよくあるQ&A
セックスレスで離婚するとき養育費を請求できる?

養育費は、子供の生活のためのお金です。
離婚後に子供と離れて暮らす親は、子供が経済的・社会的に独立して生活することができるようになるまで養育費を支払う義務を負います。
この義務は子供の親であることから生じるものであり、離婚の理由は関係ありません。
したがって、離婚後に子供と一緒に暮らす場合は、離婚の際、相手に対して養育費の支払いを請求することができます。
離婚慰謝料はいつまで請求できる?

引用:民法|e−GOV法令検索
まとめ
以上、セックスレスの離婚慰謝料を請求できるケース、金額の相場、請求方法などについて解説しました。
セックスレスの離婚慰謝料が認められるかどうかはケース・バイ・ケースです。
セックスレスの背景事情や夫婦関係に与えた影響などは様々ですから、対処法も具体的な事案に合わせて検討する必要があります。
そのため、セックスレスと離婚の問題にお悩みの場合は、まずは離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
当事務所には、離婚問題に精通した弁護士のみで構成された専門チームがあり、離婚問題に悩む方々を強力にサポートしています。
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