夫が内緒で財産を処分。保全するには?
財産分与を確保するために
離婚においては、夫婦で築いた財産を分ける「財産分与」という手続きを行います。
ただし、財産分与は法律上当然に行われるのではなく、財産分与を希望する方が積極的に請求をしていく必要があります。
また、多くの場合、離婚時に財産分与の話合いを行いますが、離婚時に話合いができず離婚後に請求をする場合には離婚後2年以内に行わなければなりません。
協議や裁判等により財産分与の方法が決まれば、それに基づいて財産の移動をします。
具体的には、自宅不動産の名義を変更したり金銭を支払ったりすることになります。
しかしながら、財産分与の方法が決まる前や財産の移動が終了するまでの間に、財産を請求される側が少しでも相手にわたす財産を減らそう財産を処分してしまうおそれがあります。
例えば、内緒で自宅不動産を処分したり、預貯金を使い込んだりすることが考えられます。
このように、相手方が財産を処分するおそれがある場合には、財産分与を確保するための保全処分の手続きを利用するとよいでしょう。
保全処分とは
保全処分とは、裁判所が暫定的に義務者の財産を差し押えたり一定の行為を命じたりする措置をいいます。
このような暫定的な措置が必要になるのは、裁判手続には相応の時間がかかり、その間に相手方による権利実現の妨害を防ぐ必要があるからです。
すなわち、私人間において紛争が生じた場合、通常であれば訴訟を行い、勝訴判決を得た上で強制執行をするといった方法をとることで自らの権利を強制的に実現することが可能です。
しかしながら、訴訟や強制執行の手続きを経ている間に相手方が目的となる財産を隠したり費消したりして将来の権利行使を妨害することが考えられます。
そこで、一定の要件を満たす場合に保全処分を認めることで、権利を獲得した際の権利実現を確実なものとするのです。
ただし、この保全手続は、本来は個人が自由に処分できる財産の処分を一定期間制限するという非常に強い効力をもつものなので、「保全の必要性」があるか否かが、きわめて厳しく判断されます。
また、申し立てた側は、その財産の額に応じて、一定の担保金を裁判所におさめなければなりません。
この担保金は、保全命令の効力が失われたときに返してもらえますが、財産の額が高額であれば担保金額もかなり高額となることもあります。
保全処分の種類
保全処分は、大きく分けて仮差押えと仮処分があります。
仮差押え
仮押さえとは、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生じるおそれがあるときに、裁判所が義務者の財産を暫定的に差し押さえることにより、義務者がその財産を処分等することを禁止する手続きをいいます(民事保全法第20条1項)。
例えば、財産分与として相手方から金銭を支払ってもらうことを確保したい場合に、相手方の預金債権や不動産の仮差押えを行うことが考えられます。
この場合、裁判所から仮差押決定がでれば、銀行が相手方に預金を弁済することが禁止され、また相手方が不動産を第三者に譲渡することができなくなります。
仮処分
仮処分とは、係争中の特定物について、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに、裁判所がその係争物の現状を維持するために必要な暫定的措置を行う手続きをいいます(民事保全法第23条1項)。
例えば、財産分与として不動産そのものを獲得したい場合、財産分与が確定するまでの間に所有者である夫によって自宅不動産が売却されたり、自宅不動産に担保が設定されたりすることがないよう処分禁止の仮処分という保全手続きを利用することができます。
引用元:民事保全法|e-Gov法令検索
3つの保全手続
財産分与を確保するために利用できる保全処分の手続きは、
①人事訴訟法上の保全処分
②家事審判手続きにおける審判前の保全処分
③調停前の仮の措置
の3つがありますが、③調停前の仮の措置はほとんど利用されていません。
そのため、主に利用されているのは、①②となりますが、離婚と同時(離婚前)に財産分与を請求する場合は①人事訴訟法上の保全処分を、離婚後に財産分与の請求をする場合は②家事審判手続きにおける審判前の保全処分を利用します。
これは、財産分与を請求する本案の手続きが離婚前の場合は人事訴訟手続きで、離婚後は審判手続きによるためです。
その他保全手続きが必要なケース
財産分与を確保するための保全処分について説明をしましたが、離婚問題においてはその他にも保全手続きが必要になることがあります。
例えば、相手方に早急に婚姻費用を支払ってもらう必要がある場合、婚姻費用の分担の審判を申し立てると同時に婚姻費用の分担の保全処分(婚姻費用の仮払いの仮処分)を申し立てることがあります。
また、子の引渡し請求や監護者指定請求においては、保全手続きをして少しでも早く子の監護状況を変えなければならないこともあります。
とはいえ、保全処分には厳格な要件もありますので、実際に保全手続きまで利用するか否かは個別具体的な事情にあわせて慎重に判断する必要がございます。
そのため、早急な対応が必要と考えられる問題がある場合には、すぐに専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
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