別居期間が長期の場合も年金分割は0.5になる?弁護士解説
私は、妻と未だ離婚が成立していませんが、もう10年以上も別居しています。
それなのに、年金分割においては、離婚までの払込記録を0.5の割合にせざるを得ないのでしょうか?
別居期間が長期でも、特別の事情がない場合は年金分割は0.5になる可能性が高いと考えられます。
このページでは、別居期間が長期の場合の年金分割の問題点について弁護士が解説いたします。
年金分割とは
年金分割とは、離婚する際、夫婦が加入していた厚生年金の保険料給付実績のうち、報酬比例部分(基礎年金部分は対象外とされています)について、多い方(多くは夫)から少ない方(多くは妻)へ分割する制度です。
年金分割の分割割合とは
年金分割において、裁判所が、按分割合を決めるにあたっては、「当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して」(厚生年金保険法78条の2・2項)これを定めることになります。
2 前項の規定による標準報酬の改定又は決定の請求(以下「標準報酬改定請求」という。)について、同項第一号の当事者の合意のための協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者の一方の申立てにより、家庭裁判所は、当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して、請求すべき按あん分割合を定めることができる。
しかしながら、現実的には、保険料納付に対する当事者の寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみるのを原則と考えるべきであるというのが実務の一般的な考え方です。
その理由は、厚生年金が、夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的意義を有しており、婚姻期間中の保険料納付は、互いの協力により、それぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有するものと評価できるためです。
松山家裁平成19年5月31日の審判例
実際に、松山家裁の平成19年5月31日の審判例においても、同様の判断で、請求すべき按分割合を0.5と定めました。
参考判例
「対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は,特別の事情がない限り,互いに同等と見るのを原則と考えるべきであるところ,本件においては,相手方から書面照会に対する回答書の提出もなく,かかる特別の事情があると認めることはできないから,申立人と相手方との間の別紙1記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を,0.5と定めるのが相当である。」
【平成19年 5月31日・松山家裁】
0.5未満で定めるべき特別の事情とは?
では、0.5未満で定めるべき特別の事情には何があたるのでしょうか?
主張として、よくあるのは、
① 2号改定者( 分割を受け取る方 = 事例では妻 )が有責配偶者( 例えば浮気をしていた )
② 1号改定者( 分割を渡す方 = 事例では質問者たる夫 )が高額の所得を得たのは、その特殊な技能によるところが大きい
③ 別居期間が長期にわたる
等が挙げられます。
しかしながら、これらの事情は、直ちに「特別の事情」にあたるとは考え難いと言われています。
まず、①については、仮に逆に1号改定者の方が、有責配偶者だった場合でも、0.5を超えて定めることはできないこととのバランスということがあげられます。
また、②については、標準報酬月額や標準賞与額には上限があるため、高額所得者であっても、支払保険料が無限に高額になるわけではないということがあげられます。
③については、札幌高裁平成19年6月26日決定が参考になります。
この決定は、別居期間が7年あったという事案で、保険料納付に対する特別の寄与とは関連性がないから、別居期間をもって特別の事情と判断することはできない旨を判断しています。
参考判例
「…婚姻期間中の保険料納付や掛金の払い込みに対する寄与の程度は、特段の事情がない限り、夫婦同等とみ、年金分割についての請求割合を0.5と定めるのが相当である…」と述べた上で、本件について、「…抗告人が主張するような事情は、保険料納付や掛金の払い込みに対する特別の寄与とは関連性がないから、上記の特段の事情に当たると解することはできない。」
【平成19年 6月26日・札幌高裁】
まとめ
以上のとおり、別居期間が長期にわたる場合の年金分割の問題点について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
年金分割は、特別の事情がない場合は0.5になる可能性が高いと考えられます。
また、年金分割という制度の性質上、「特別の事情」が認められる( = 0.5未満となる)ことは、審判においてはほとんど皆無に近いと思われます。
質問者の方のように、納得がいかないという気持ちはお察ししますが、年金分割における実務の運用はシビアです。
もっとも、年金分割は当事者の方にとってとても重要な問題です。
具体的な状況によっては、解決方法が見つかるかもしれないため、離婚問題に詳しい専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
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