手をつないだだけで不倫の慰謝料は発生するのですか?

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  

慰謝料について質問です。

私には、自分にすごくよくしていただいている男性がいます。

とても素敵な男性で、食事をしたりするなかで手をつないで歩いたこともありました。

ただ、その方は奥さんがいましたので、肉体関係をもつことはありませんでした。そこは超えてはならない一線ということはわかっていました。

ところが、その男性の奥さんから慰謝料を請求されました。これには応じなければならないのでしょうか。

弁護士の回答

手をつないだだけでは慰謝料を支払う必要はありません。

ただし、場合によっては注意が必要です。

配偶者がいることを知りながら、その人と肉体関係を持ってしまえば、不貞行為になりますので、慰謝料を支払うべき立場になってしまいます。

弁護士が以下で詳しく解説いたします。

肉体関係がなければいい、という単純な話ではない

浮気配偶者が他にいることを知りながら、その人と肉体関係を持ってしまえば、「不貞行為」という評価を受けることになりますので、慰謝料を支払うべき立場になってしまいます。

これはそれほど難しい話ではないと思います。

では、なぜ肉体関係を持つと、慰謝料を払わなければならないか、です。

これは、配偶者以外の第三者と関係を持つことによって、婚姻共同生活を破たんさせるからに他なりません。

言い換えると、結婚した以上は、婚姻共同生活の平和が維持されるべきですので、これが故意または過失によって破壊されたのであれば、それによって与えられた苦痛は慰謝されるべき、と考えられるということです。

上記の考え方によれば、必ずしも肉体関係がなかったとしても、婚姻関係の平和を損なうような悪質な行為が行われることによって婚姻関係が破たんしてしまった場合は、やはり慰謝料を払わなければならなくなります。

ただし、世間一般で考えられている「不倫」「不貞」、すなわち肉体関係ではありませんので、慰謝料の額自体は低額になりやすいものといえます。


 

「手をつなぐ」という行為について

「不貞行為」と評価できるかどうかという問題は、肉体関係があったかどうかという問題です。

「手をつないでいた」という事実だけでは、親密な関係であることはうかがえるものの、肉体関係まであったと直ちにいうことはできません。そのため、その他の事情から、総合的に判断する必要があります。

東京地裁平成17年11月15日判決では、「手をつないでいた」という事実の他に、以下のような事実を認定して、不貞を認めました。

判例 「手をつないでいた」以外の事実を認定し、不貞を認めた裁判例

X:夫 Y:浮気相手(主張「肉体関係はなかった」) A:妻

■認定された事実

  • Aは、○月5日から同月29日ころまで、Y方で宿泊した。
  • Y方は、1間であり、寝具類も1組しかなかった。
  • 同月9日から同月14日まで興信所が素行調査をしたところ、AとYが同宿し、その周辺を行きかう際に仲良く体を密着させて手をつないでいた。

■裁判所の判断

「狭い一室に男女が数日間にわたり同宿し、戸外に出た際には体を密着させて手をつないで歩いていたこと等からして、YとAとの間には肉体関係があったと認めるのが相当」

【東京地裁平成17年11月15日判決】

上記裁判例では、二人が同宿していたことが証拠上明らかであったものと思われます。そのため、Yには慰謝料支払義務があるものとされました。

なお、この事件において、実は、AはYではないもう一人の男性(仮に「Z」とします。)と一緒になろうとしていました。

裁判では、AZ間の肉体関係は認められませんでしたが、Xに追及される状況に反してZは「Aと結婚したいから、離婚してください」とXに懇願したり、「Aと長男(XとAとの間に生まれた子ども)を幸せにする。一緒になりたい。」などと言ったりしていました。

その結果、Zの行為は、肉体関係は認められないとはいえ、Xの婚姻生活を破壊したものとして違法と評価されました(慰謝料が認められたということです)。

以上に対し、東京地裁平成20年10月2日判決は、不貞の事実を否定しました。

判例 不貞の事実を否定し、慰謝料も認めなかった裁判例

X:妻 A:夫 Y:女性(主張「肉体関係はなかった」)

■認定された事実

  • Yはパブを経営していた。
  • Aは、あるときから月に3、4回パブに来店するようになったところ、調理師をしていたため、Yが料理を依頼するようになり、Aはパブに頻繁に来店するようになった。
  • AのかばんのなかからYの名刺や「愛してる」等と書かれた手紙が出てきた。Aがほとんど自宅に帰らなくなったのはこの頃からであった。
  • Xの妹が、スーパーの前で待っている女性をAが自動車で迎えに来るのを目撃した。
  • Xの知人1が、Aが女性と一緒に歩いているのを目撃した。
  • Xの知人2が、Aが後ろに女性を乗せて自転車に乗っているのを目撃した。
    このとき、その女性はAの腰に手を回しており、二人は自転車を降りた後、一緒にスーパーに入っていった。
  • 約4か月後、XとAが離婚し、その後、AはY方に住民票上の住所を移転した。

■裁判所の判断

「Xは、関係者の目撃状況をいうが、仮に、関係者が目撃したAと一緒にいた女性がすべてYであり、Xの主張するようにAがその女性と手をつないでいたとしても、そのことから当然に不貞関係の存在が推認されるものではない。」

【東京地裁平成20年10月2日判決】

上記の事実関係からすると、AとYに本当は肉体関係があったのではないかという印象は受けますが、印象だけでは裁判所は不貞を認めません。

証拠から認められる事実からは、やはり肉体関係があったとは認められませんでした。

なお、「愛してる」の手紙だけでは肉体関係は推認できないと判断しています。

また、Aが、Xとの離婚直後にYの自宅に住民票を移動させた行為については、「XがYとAの不貞関係を疑っている状況で、XとAの離婚後間もない時期にあえてその裏付けとなるような行動に出るとはにわかに考え難い」として、不貞関係があったことの裏付けにはならないと判断しました。

この評価は若干無理やりな印象を受けます。ただ、かといって住民票の移動という事実だけで不貞行為があったと評価することも難しいところです。

裁判官としては、他に不貞を裏付ける証拠が何もなかったため、不貞を認めない結論をとるために、若干無理な判決文を書かざるを得なかったのかもしれません。

 

 

男女関係で注意すべき事項

先ほども述べたとおり、「不貞」「不倫」は肉体関係のことを示しているといっていいと思います。

ただし、慰謝料支払義務が認められるかどうか、というのは必ずしも肉体関係だけではありません。

平和な婚姻生活を破壊するような行為をしてしまえば、当然責任が伴います。

このことをしっかりと念頭に置いておかなければなりません。

慰謝料については以下もご参照ください。

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