親権についての引き渡し命令を拒否したらどうなる?

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親権についての裁判所の引き渡し命令を拒否したら、制裁金を課されるリスクがあります

また、今後、面会交流をさせてもらえなくなる可能性もあります

このページをご覧になられている方は、お子さんと一緒に生活されており、裁判所からの引渡命令に対して、どのように対処すべきか悩まれていらっしゃるかと思います。

ここでは、離婚事件に注力する弁護士が裁判所の引渡命令を拒否するリスクについて、解説しています。

お子さんがいらっしゃる方はぜひ参考になさってください。

子の引き渡しの審判は親権の前哨戦

日本では、未成年の子どもがいる場合、離婚の際に親権者を定めなければ、離婚が成立しません。

そのため、時に、親権は離婚時の一大争点となり、親同士が壮絶な争いを繰り広げることになります。

そして、親権問題に決着をつけるための方法として、法は「監護者指定・子どもの引渡しの審判」というものを用意しています。

これは、家庭裁判所の裁判官が、父と母どちらが監護者(誤解をおそれずにいうなら、この場面では親権者と同義ととらえても良いと思います)にふさわしいかを判断する手続です。

視点としては、種々ありますが、私の実務感覚では、

  • 従前の監護実績からどちらが主たる監護者であったか
  • どちらかが監護者となった方が子どもの福祉(「幸せ」と読み替えても良いでしょう)にかなうか

を裁判所は重視して判断しているように思います。

仮に、子どもが父親に連れ去られてしまったものの、監護者指定の審判で母親が監護者に指定されたとすると、母親は父親に対し、子どもの引渡しを求めることができます。

 

 

子の引き渡し命令を拒否したらどうなる?

強制執行される可能性が高い

裁判所が子の引き渡しを命じているのに、父親がそれを拒んだ場合には、強制執行をされる可能性が高いです。

私も経験があるのですが、父親と子どもが住む自宅に執行官が赴き、子どもを説得して連れていくという形になります。

この強制執行の場面で、執行官が子どもを説得したものの子どもが激しく泣くなどして抵抗すると、執行が不能となります。

 

制裁金を課される可能性がある

直接強制が難しい場合、母親は次の手段として、間接強制というものを申立てることが可能です。

これは、父親に任意の引渡しを促すための制裁金を裁判所を通じて課すというものです。

例えば、父親に対し引渡しまで1日1万円の支払いを命じる、などです。

 

面会交流を拒否される

母親が子供を監護するようになると、父親は母親に面会交流をさせてくれるように申し入れることとなります。

ところが、父親が子の引き渡しに応じなかった経緯があると、母親から面会交流を拒否される可能性が高いです。

面会交流は基本的に実施しなければならず、父親には面会交流を求める権利があります。

しかし、父親が裁判所の命令を無視したような経緯があると、面会交流を拒むことについての正当な理由があると判断される可能性が高くなります

したがって、子の引き渡し命令には、基本的にしたがうようにすべきでしょう。

 

 

子の引き渡し命令を拒否できるケースとは?

それでは、父親はどんな場合にも、子の引き渡し命令にしたがわなければならないのでしょうか。

ここで、子の引き渡し命令の拒否を認めた最高裁判例をご紹介します。

事案の概要

父と母の子ども(当時9歳)の奪い合いの争いが起き、母親が勝利し、負けた父側が裁判所から子どもの引渡しの命令を受けた。

しかし、子どもは、母親に引き渡されることを全身全霊で拒んだ。

その程度は極めて強く、呼吸困難に陥る程であった。

そこで、母親は、父親に子どもの引渡しを実現させるために、間接強制(イメージ的には制裁金のようなもの)の申立てを行った。

その間接強制の申立てに対し、地方裁判所、高等裁判所は、母親の申立てを認め、父親に対し引渡しまで1日1万円の支払いを命じた。

それを不服として、父親は、最高裁判所に不服申立てを行った。

最高裁の判断

これに対し、最高裁は、子どもが母親との同居を強く拒絶していることから「子どもに有害な影響を及ぼさずに引き渡すのは困難だ」と指摘した上で、子どもに有害な影響がある場合は、父親に制裁金を課して引き渡しを強制することはできないとする判断を示しました。

最高裁は、本件では子どもに有害な影響を及ぼさずに引き渡すのは困難であるところ、子どもに有害な影響がある場合は、父親に間接強制することはできないとする判断を示しました。

本件の最高裁の判断は、子どもが激しく拒んでいれば、例え、監護者に指定されたとしても引渡しを受けることができないという点で、「監護者指定・子の引渡しの審判」という制度を骨抜きにするという批判があります。

最高裁も、その点は考えているようで、通常は子どもの意思にかかわらず、引き渡しを実現するべきだとしています。

したがって、あくまで例外的な判断と言えるでしょう。

 

 

 

まとめ

以上、裁判所の子の引き渡しの命令を拒否した場合について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

親権についての裁判所の引き渡し命令を拒否したら、制裁金を課されるリスクがあります。

また、今後、面会交流をさせてもらえなくなる可能性もあるため、よほどの事情がない限り、したがうべきです。

よほどの事情に該当するか否かについては専門的な判断が必要となるため、離婚に強い弁護士にご相談なさるとよいでしょう。

この記事が親権で悩む方のお役に立てれば幸いです。

 

 

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