養育費の取り立てがより簡単に【改正民事執行法を弁護士が解説】
養育費の滞納と改正民事執行法
私は、養育費を月額5万円と定め、2年前に調停離婚しました。
しかし、2ヶ月前から養育費が未払いとなっています。
元夫が電話に出ないので、職場に電話をかけてみたのですが、既に退職したと言われてしまいました。
今はどの会社で働いているかも知らされていません。
裁判所を通じて、勤務先の情報の開示を受け、給与の差し押さえを行える可能性が高いです。
この点について、養育費に関する問題に詳しい弁護士が解説いたします。
民事執行法とは
民事執行法という法律をご存知でしょうか。
この法律は、判決や調停調書、公正証書等で決まった給付内容が任意で履行されないときに裁判所を通じて強制的に実現させるための手続きを定めたものです。
この法律が改正され、令和2年4月1日より、裁判所を通じた第三者からの情報取得手続きが利用できるようになりました。
これにより、養育費の未払いがあった場合に、差押えを行うことが容易になりましたので、改正民事執行法について、養育費の差押えという観点に絞って解説いたします。
改正前の問題点
養育費が、判決、調停調書、強制執行認諾文言付公正証書等で定まった場合、未払いがあると強制執行といって、例えば給与や預貯金の差押えが可能です。
しかし、養育費の支払い義務がある(多くの場合)元夫が養育費を滞納した場合、元夫の勤務先がどこにあるか、どこの預金口座に預金があるか等は、養育費を受け取る側(多くの場合は元妻)が調査する必要がありました。
そのため、例えば、元夫が転職してしまうと、差押えが困難という事態が頻発していました。
また、離婚後に開設された口座の情報については、元妻から知るよしもなく、差押えもできない状態でした。
改正後の内容
しかし、今般、民事執行法の改正により、4点ができるようになりました。
- ① 勤務先を特定したうえでその給与を差し押さえ
- ② 預貯金口座をつきとめて預金を差し押さえ
- ③ 所有不動産をつきとめて差し押さえ
- ④ その他の金融資産もつきとめて差し押さえ
より具体的に解説します。
①勤務先の特定
改正民事執行法により、勤務先の特定が可能になりました。
すなわち、裁判所を通じて、市区町村、年金事務所に照会することが可能になったのです。
市区町村には住民税の源泉徴収を行っている会社の情報がありますし、年金事務所も厚生年金の納付に関する情報があります。
したがって、元配偶者の勤務先を特定できる可能性が高まります。
② 預貯金の開示
改正民事執行法により、預貯金の情報開示を受けることが可能になりました。
すなわち、裁判所が、各金融機関に情報提供命令を出すと、本店から元夫の預貯金の有無、預けている支店名、預貯金の残高、預貯金の種類等の回答を受領できるようになりました。
裁判所を通じて本店に照会するだけで特定しうるというのは大きな変化です。
③不動産の情報収集
改正民事執行法により、裁判所が登記所に問い合わせれば、不動産情報についても開示が可能になりました。
④株式・投資信託等の開示
預貯金以外の金融資産として、代表的ものは、株式、社債、投資信託があげられます。
これらも、裁判所を通じて、証券保管振替機構に照会をすることで、開示を受けることが可能になりました。
※ただし、生命保険の解約返戻金については、情報提供を受けることができませんので、その点は残念なところです。
開示しない場合の罰則
従前は裁判所からの財産開示命令等を無視した場合、罰則は、「30万円以下の過料」と軽いものでした。
なお、過料というのは、刑事罰ではなく、前科もつきません。
これに対して、改正民事執行法では、財産開示命令等を無視した場合、「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」として刑事罰が科せられることになりました。
刑事罰ですから、当然前科になります。
そのため、養育費逃れを抑止する効果が期待できます。
このように、令和2年4月1日から施行された改正民事執行法により、従来は諦めていた養育費の差し押さえが格段に行いやすくなりました。
養育費の未払いで悩まれてる方は、養育費と強制執行の問題に詳しい当事務所の弁護士にご相談ください。
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