熟年離婚とは?原因、特徴やメリット・デメリットを弁護士が概説
熟年離婚とは、結婚してから長年月が経過した夫婦が離婚することを指します。
熟年離婚をすれば夫婦関係から生じる悩みから解放される一方、経済面や生活面で新たな悩みが生じる場合もあります。
離婚後に後悔しないためには、ポイントを押さえて周到な準備をしておく必要があります。
そこで、ここでは熟年離婚の原因、準備すべきこと、後悔しないためのポイントを中心に、熟年離婚のメリット・デメリットや手続きについても解説していきます。
目次
熟年離婚とは?
熟年離婚とは、結婚してから長年月が経過した夫婦が離婚することを指します。
結婚生活が長い(多くの場合20年以上)こと、お互いに年齢を重ねている(多くの場合50代よりも上)こと、子育てがひと段落していることなどが特徴といえます。
熟年離婚の原因
当事務所の50歳以上の離婚相談者の男女割合については、女性の方が多い結果となっています。
そして、50歳以上の女性の離婚相談者の離婚を決意した理由としては、多い順に「性格の不一致・精神的虐待・相手の不倫・生活費を渡さない・浪費」となっています。
このことから、妻が夫の行動や夫との生活に苦痛を感じることが離婚の原因になっているケースが多い傾向にあるといえそうです。
また、若い頃から離婚を考えていたけれども子どもが独立するまでは我慢していたり、子どもの独立・夫の退職などをきっかけに離婚を考え始めたりするため、熟年になってからの離婚になると考えられます。
熟年離婚の原因について、詳しくはこちらをご覧ください
女性側の熟年離婚の原因は?
女性側特有の熟年離婚の原因としては、以下のものがあげられます。
- 子供が自立したので夫と同居する経済的なメリットがない
- 夫が退職し、自宅に一緒にいるのが苦痛
男性側の熟年離婚の原因は?
男性側特有の熟年離婚の原因としては、以下のものがあげられます。
-
- 第2の人生をスタートさせたい
- 自宅に居場所が感じられない
熟年離婚の特徴
熟年離婚と通常の離婚との違い
熟年離婚は、通常の離婚(年代的には20代から40代までを想定)と比べて、以下のような違いがあると考えられます。
- 親権が問題となりにくい
- 財産分与が比較的高額化しやすい
- 年金分割が問題となりやすい
- 妻側からの離婚が多い
熟年離婚される夫には特徴がある?
熟年離婚される夫に特徴があるとは一概には言えません。
しかし、当事務所の「50代以上の離婚したい理由ランキング」によると、妻側の離婚したい理由としては、性格の不一致、精神的虐待、夫の不倫がトップ3となっています。
したがって、熟年離婚される夫の傾向としては、価値観の異なり、モラハラ傾向、浮気者などがあると考えられます。
熟年離婚される妻には特徴がある?
熟年離婚される妻に特徴があるとは一概には言えません。
しかし、当事務所の「50代以上の離婚したい理由ランキング」によると、夫側の離婚したい理由としては、性格の不一致、精神的虐待、夫の不倫、同居しないが上位にランクインしています。
したがって、熟年離婚される妻の傾向としては、価値観の異なり、モラハラ傾向、夫とのコミュニケーション不足などがあると考えられます。
熟年離婚したいときに準備すべきこと
熟年離婚では、「財産分与」と「年金分割」をしっかり行うことで離婚の際にある程度お金を確保できる可能性があるため、まずはこれらの準備を整えましょう。
また、離婚後の生活設計を立て、それに合わせて住む場所や仕事を探しておくことも必要です。
離婚前に別居を開始する場合は、離婚成立までの期間に生活費(「婚姻費用」といいます。)を請求できる場合があるので、その計算もしておくとよいでしょう。
財産分与
財産分与とは、結婚生活で築いた財産(共有財産)を離婚の際に分け合って清算するものです。
収入の多少や名義にかかわりなく、結婚生活において取得した財産であればお互いに同程度の貢献により築いたものとして、原則として2分の1ずつの割合で分け合うことになります。
財産分与は、まず共有財産を全てリストアップし、それぞれの評価額を算定し、評価額の総額(=財産分与の対象となる金額)を確認し、それを半分ずつになるように分け合うという手順で行います。
財産分与の準備として、まずは共有財産を漏れなくリストアップするようにしましょう。
また、上記の手順に従って試算し、財産分与によって大体どの程度の金額が確保できそうかを確認し、どのように分けたいかについても検討しておくとよいでしょう。
「どのように分けたいか」とは、たとえば、「自宅(持ち家)を取得したい」、「自宅は相手に譲ったり売却したりして構わないので金銭で取得したい」というようなことです。
財産分与について、詳しくはこちらをご覧ください。
年金分割
年金分割とは、離婚する際に、結婚期間中の厚生年金の保険料支払実績を多い方(多くの場合夫)から少ない方(多くの場合妻)に分割することです。
分割される側は、年金分割によって自分が受け取る年金額が増える場合があります。
年金分割によって受け取る年金額がどのくらい増えるのかは、納めた保険料などにより人それぞれに異なります。
そのため、具体的には年金事務所で年金分割のシミュレーションをしてもらい、確認するようにしましょう。
年金分割について、詳しくはこちらをご覧ください。
離婚後の生活の計画を立てる
財産分与の準備や年金分割のシミュレーションをすると、離婚した場合の経済状況について大体の見当をつけることができます。
これを踏まえて、離婚後に住む場所をどうするか、仕事をどうするかなどについて、計画を立てるようにしましょう。
別居する場合は婚姻費用を計算する
離婚前に別居を開始した場合、離婚を前提とした別居であっても、離婚成立までの期間は生活費を夫婦で分担しなければなりません。
この生活費を「婚姻費用」といい、収入の多い側(多くの場合夫)が収入の少ない側(多くの場合妻)に支払うことになります。
別居期間は離婚のための準備期間になると予想されますので、この期間にもらえる金額(又は支払う金額)は予め計算しておくとよいでしょう。
婚姻費用の計算は、家庭裁判所で参照されている「婚姻費用算定表」に基づいてされるのが一般的です。
【婚姻費用算定表はこちら ⇒婚姻費用算定表(PDFファイル)】
当事務所では、婚姻費用の目安を素早く確認したいという方のために、オンラインで、かつ、無料で自動計算できるサービスをご提供しています。
熟年離婚のメリットとデメリット
熟年離婚には以下のようなメリットとデメリットがあります。
立場 | メリット | デメリット |
---|---|---|
女性 |
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|
男性 |
|
|
※一般的な傾向であり、状況によって異なります。
熟年離婚の女性のメリットとデメリット
メリット
夫が自宅にいることでストレスや不安を感じている方は、離婚することでこのような悩みが無くなります。
マンネリ化したこれまでの生活から心機一転し、新しい人生のスタートを切ることができます。
デメリット
これまで生活費の大部分を夫の収入に頼っている場合、定期的な収入が大幅に減少することが予想されます。
もっとも離婚することで、夫から財産分与や慰謝料を受け取ることができる可能性があるため離婚に強い弁護士に相談すると良いでしょう。
夫とわかれて生活を始める場合、生活費が必要となるため多くの方は就職することとなります。
就職後の賃金が十分ではない場合、居住費、食費等のコストを抑える必要があります。
夫の収入や資産に頼らず、自分の収入等を前提に老後のことを考える必要があります。
熟年離婚の男性のメリットとデメリット
メリット
夫婦の関係が冷え切っている場合は離婚した方が気持ちが楽になるでしょう。
他の異性と交際することができるようになります。
デメリット
会社などに離婚したことがわかり、気まずい思いをする方もいらっしゃいます。
これまで妻に家事を任せていた男性は離婚後自分で家事をしなけれならなくなります。
他に家族が同居していない場合、独りの生活となってしまいます。
熟年離婚の流れと手続き
離婚する手段としては、「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」があります。
まずは当事者同士で話し合い、合意によって離婚する「協議離婚」を試みます。
当事者同士での話し合いでは合意できなかった場合、裁判所に話し合いの仲介をしてもらい、裁判所で合意することによって成立する「調停離婚」の手続きに進みます。
それでも合意ができなければ、「裁判離婚」に進み、裁判官に判断してもらうという流れになります。
裁判所を利用した手続きになると多くの時間を要するので、できる限り「協議離婚」を目指すべきです。
しかし、当事者同士では冷静に話し合えない場合も多いので、弁護士に代理交渉をお願いすることをおすすめします。
代理交渉とは、弁護士が相手と直接交渉し、協議離婚を目指すものです。
裁判所を利用しないので早期解決を図ることができ、専門家のサポートを得ることで適切な解決につながります。
ご自身で直接相手とやり取りしないで済むので肉体的・精神的な負担も軽減することもできます。
熟年離婚で後悔しないための4つのポイント
熟年離婚をしたものの、離婚後の生活が経済的または精神的に苦しいものだと、離婚したことを後悔してしまうかもしれません。
このような後悔をしないために押さえておくべきポイントは次の4つです。
- ① 財産分与の妥当な額について専門家に相談する
- ② 年金分割の結果を検討する
- ③ 離婚後の生活設計をする
- ④ 心身の健康に気を付ける
なお、一般的に考えられる後悔の理由と上記のポイントを対応させると次のようになります。
後悔の理由 | ポイント | |
---|---|---|
経済的に苦しい | 財産分与で妥当な金額を得ることができなかった | ①財産分与の妥当な額について専門家に相談する |
年金分割を請求しなかった | ②年金分割の結果を検討する | |
財産分与や年金分割を行っても充分なお金を確保できなかった | ③離婚後の生活設計をする
|
|
精神的に苦しい | 孤独、不安など | ④心身の健康に気を付ける
|
それぞれのポイントについて解説していきます。
①財産分与の妥当な額について専門家に相談する
熟年離婚では、財産分与を適切に行うことが最も重要なポイントともいえます。
熟年離婚の場合は結婚期間が長いため、財産分与で得られる金額が多額になる傾向にあり、離婚後の当面の生活費や老後資金をある程度確保できる可能性があります。
財産分与の妥当な額については、離婚問題を専門的に扱う弁護士に相談されるとよいでしょう。
熟年離婚の場合、共有財産が現預金だけのケースは稀であり、持ち家、生命保険、株式、退職金、個人年金など、たくさんあることが多いです。
財産分与の妥当な額を見通すには、それぞれの財産について、評価額の算定、基準時、分け方、対象となる範囲などを検討する必要がありますが、これは専門家でなければ難しいものです。
妥当な額を知る重要性
熟年離婚の場合、感情的な対立や老後の生活への不安から、譲り合うことが難しいことが多いです。
分与をする側(多くの場合夫)は過小な金額を提示し、分与を受ける側(多くの場合妻)は過大な金額を要求するということも珍しくはありません。
財産分与の妥当な額について見当がついていないと、不利な条件と気づかないまま不利な条件で合意してしまうことになりかねません。
一度合意してしまうと、後で覆すことは非常に難しいため、妥当な額を専門家に相談した上で慎重に対応していくことが重要です。
専門家に相談する重要性
弁護士に相談することにより、妥当な額についての助言を受けられるばかりでなく、財産分与全体について法的観点から適切な解決を図ることができます。
離婚問題に精通した弁護士であれば、財産分与で損をしないばかりでなく、離婚後の生活設計に合った解決策についても提案してくれるでしょう。
また、相手が財産を渡したくないために相手名義の財産を隠匿してしまう恐れがある場合は、それを防止する措置(「保全処分」といいます。)について弁護士のサポートを得ることも可能です。
熟年離婚は一般的に離婚成立までに時間がかかる傾向にありますが、財産分与に時間がかかることが主な要因になっていると考えられます。
弁護士のサポートを受けることにより、財産分与の早期解決につながり、離婚全体も早期に解決できる場合があります。
まず、熟年夫婦の共有財産は多額かつ複雑になっており、全容の把握や評価額の算定自体に時間がかかりますが、弁護士のサポートを受けることにより効率的にこれらを進めていくことができるでしょう。
また、熟年離婚では、当事者同士で冷静かつ公平に話し合うことが難しく、解決までに時間がかかることも多いですが、弁護士に代理交渉をお願いすることによって早期解決を図ることができます。
②年金分割の結果を検討する
年金分割の重要性
年金分割は、離婚の際に結婚期間中の厚生年金の保険料支払実績を分割する制度です。
熟年離婚の場合は結婚期間が長いため、分割対象である保険料支払実績が高額になっている傾向にあります。
また、熟年夫婦は、「夫が会社員・公務員(厚生年金に加入している)で妻が専業主婦」というケースや、共働きでも妻の方が収入が少ないケースが多いです。
そのため、熟年離婚で年金分割をすると、妻がもらう年金額が増える場合が多いといえます。
将来にもらえる年金がどのくらい増えるのかは、老後の生活に深く関わりますので、専業主婦や収入が少ない方にとっては、年金分割は重要な制度といえます。
年金分割について、詳しくはこちらをご覧ください。
年金分割の結果を検討する
年金分割により将来もらえる年金がいくらになるかは、保険料支払実績等により異なるため、年金事務所でシミュレーションをしてもらい確認するようにしましょう。
年金分割の結果が分かれば、老後の生活の見通しも立てやすくなります。
年金分割の注意点
年金分割の対象となるのは、厚生年金(旧共済年金も含む)の保険料納付実績に限られます。
国民年金(基礎年金)は対象とならないため、相手が自営業者などで厚生年金に加入していない場合は年金分割制度を利用することができません。
そして、夫が厚生年金に加入したことがなくても、妻が厚生年金に加入している(又は加入していた)という場合は、妻の厚生年金の保険料納付実績を夫に分割することになるので注意が必要です。
年金分割は必要な書類を揃えたうえ、年金事務所で請求手続きをする必要があります。
離婚した日の翌日から2年が経つと請求できなくなってしまいますので、忘れずに手続きを行うことが重要です。
なお、年金分割は制度や手続きが複雑でわかりにくく、制度や手続きについての理解不足から損をしてしまう場合もあるので、少しでも不安がある場合は離婚問題に強い弁護士に相談するようにしましょう。
③離婚後の生活設計をする
財産分与の準備や年金分割のシミュレーションをすることにより、離婚の際にどのくらいのお金を確保できるのかについて、大体の見当をつけることができます。
それを踏まえて離婚後の生活設計をするようにしましょう。
具体的には、離婚後の予測家計表をつけてお金の収支を確認し、生活を成り立たせるにはどうすればよいか検討するとよいでしょう。
予測家計表のダウンロードはこちら。
仕事を見つける
特に専業主婦(夫)の方の場合、離婚後は年金を受給できるようになるまでは無収入になります。
働ける場合(特に60歳未満)は、自分の生活設計に合った仕事を見つけておくとよいでしょう。
現在パート収入がある方も、可能であればより安定した収入が得られる仕事を見つけておくと安心です。
年齢的な問題などで思うように仕事が見つからない場合は、キャリアカウンセラーに相談してみるとよいでしょう。
生活保護を検討する
就業や財産分与・年金分割などを考慮しても生活が成り立たない場合は、生活保護を受けることができる可能性があります。
生活保護を受けるためには一定の条件を満たしている必要があるので、専門家に相談されるとよいでしょう。
扶養的財産分与の請求
財産分与には、「夫婦の財産の清算」という性質以外にも、離婚後に一方の配偶者が困窮しないようにするという扶養的な性質のものもあると考えられています。
これを「扶養的財産分与」といいます。
離婚をすれば扶養義務はなくなるため、扶養的財産分与はあくまでも例外的に調整されるものです。
裁判で認められるケースは多くありませんが、病気や高齢で働けない事情があり、財産を半分ずつ分けるだけではさしたる金額にならないような場合は、請求を考えることになるでしょう。
また、裁判で認められるかはさておき、扶養的な要素を考慮して共有財産を半分よりも多く取得できるよう相手と交渉することなども考えられますが、具体的状況に応じた対応が必要になるので、専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
別居して様子をみる
離婚後の生活が成り立ちそうにない場合は、別居して準備が整うまで離婚を待つというのも一つの選択肢となります。
ひとまず別居を始めれば、相手との生活に起因する悩みからは解放されることになります。
また、別居期間中は婚姻費用を請求することができるので(相手よりも収入が少ない場合)、生活の基盤を確保しながら仕事を見つけたり、貯金をしたりと、離婚後の準備を進めることができます。
ただし、別居する際には注意しなければならない点もあります。
たとえば、財産分与における共有財産の洗い出しは、別居すると難しくなるため、別居前に行っておく必要があるでしょう。
また、婚姻費用を請求をしても、相手が速やかに支払ってくれるとは限りませんので、当面の生活費を持たずに出てしまうことにはリスクがあります。
そのため、別居をお考えの場合は、事前に離婚問題に詳しい弁護士に相談し、別居の準備を整える必要があるでしょう。
④心身の健康に気を付ける
熟年離婚して夫婦関係に起因する悩みから解放されたとしても、一人暮らしで孤独になったり、生活習慣が乱れたりして健康を害してしまうと、離婚後の生活を楽しむことができません。
離婚前に、離婚後にやりたい趣味や生きがいを見つけておいたり、社会との接点を持っておいたり、生活習慣を計画しておいたりするとよいでしょう。
まとめ
以上、熟年離婚の原因、準備すべきこと、後悔しないためのポイントを中心に、熟年離婚のメリット・デメリットや手続きについても解説しましたが、いかがだったでしょうか。
熟年離婚では、財産分与・年金分割について適切な解決をすることや、離婚後の生活を想定して周到に準備しておくことが大切です。
熟年離婚を決意されている方も、するべきか迷っている方も、お早めに専門の弁護士に相談することをおすすめします。
離婚問題に精通した弁護士であれば、離婚した場合の見通しを踏まえて準備についても具体的な助言をしてくれるでしょう。
当事務所は、離婚事件を専門に扱うチームがあり、熟年離婚を強力にサポートしています。
LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており、全国対応が可能です。
熟年離婚の問題については、当事務所の離婚事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、熟年離婚をお考えの方にとってお役に立てれば幸いです。
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